【44】未来を磨く覚悟はあるか?
もうすぐ夏休みも終わる、そんな時期に、何故か夫婦で喫茶青い鳥にやってきてだべっているうちの親。
「とうさんもかあさんも、暇なの?」
「暇なわけじゃないんだが、私は資料作りが一段落したから息抜きにね。」
「私も、近々サーバーのメンテナンスに行ってくるつもりだから前倒しで色々と準備してたんだよ?」
「飽きたんだ?」
「そうとも言う。」
相変わらずマイペースなうちの親だが、流石にコーヒー三杯目ともなると何か別の意図を感じなくもない。
ジト目で見ながらもカップを洗っていると、瑞穂兄ちゃんがバックヤードから表に出てきた。とうさんたちを目にとめると、片手で挨拶しながら同じテーブルについた。
「おはようございます。ってもそろそろ昼ですけど。」
「もう、こんにちはで良いでしょ。」
気軽に挨拶しながらも、ちょっと表情の固い兄ちゃんが小さめの声で尋ねた。
「凪さん、あのマーカーの石、アイスジェイドって言うらしいっすね。珍しいもんなんですか?」
「え、何?いきなりどうしたの。あれはヒスイ輝石だよ、普通の。ちょっと色は薄いけどね。まぁジェイドには違いないか。本来はジェダイトって言ってほしいけど。」
「あれは輝石の結晶構造が実に理想的な配置でねぇ。マーカーの量子もつれ状態の維持に最適だったんだよ。探すのに苦労したなぁ…ね、凪ちゃん。」
「そうそう。国内の鉱山は軒並み閉山しちゃってるし、最大級の鉱脈は国の天然記念物だから勝手に採掘したら捕まっちゃうし、仕方ないから東南アジアまで行ったんだよね。」
…採掘???
「あのちっちゃい鉱山さ、一週間働いたら好きな原石を1kgも持ち帰っていいって太っ腹な良い山だったよね!」
「おかげで良いヒスイ輝石を原石で持ち帰れたんだから感謝しかないよ。」
鉱山?!
てかそれって石を見る目がなかったら給料なくなるやつじゃん…!うちの親、ギャンブラーだな…!
「あれ、買うとしたらいくらくらいになるんですか?」
「知らなーい。買ってないし売る予定もないし。」
「市場価値は私たちにはわからないからねえ…。私たちが求める品質と、ジェムとしての品質は似て非なるものだから。」
「そうっすよね…どうやってあのレベルの石を手に入れるかな…。」
「あの原石、まだあるけど。」
「え。」
真剣に考え込む兄ちゃんをいつものカオスに容赦なく叩き込むうちの親。知ってた。
「あと3組くらいは作れるかなー?扉とマーカーセット。結晶の配置と大きさによるけど、ぜいたく言わなければあともう1組くらいは取れるよね。」
「瑞穂くんも扉が欲しいのかい?」
「「それ多分絶対違う。」」
思わずかあさんとハモってしまった。
そして、こういう話題は逃さず楽しみまくるかあさんがニヤリとしながらぶっ刺した。
「婚約指輪に使いたいんでしょー。量子もつれさせといてさ。」
「なっ!何故それを…!」
…兄ちゃん、演技が演技になってない。わかっててノリノリなのバレてますけど。とうさん以外には。
「おおお…!いよいよなのかい?!」
「違いますよ、石から準備するってぇとだいぶ時間がかかるじゃないっすか。なので素材だけでも手に入れとこうかと。」
「ほほーう!」
かあさん、新しいおもちゃを手に入れたみたいな顔、やめよ?
「時に瑞穂くん。石、分けてあげるし良いことも教える代わりに、うちのサーバーのメンテナンス手伝ってくんない?」
「サーバーのメンテナンスっすか?良いですけど、お代金は頂きますよ。」
「あのマーカーのヒスイ輝石、誰が加工したと思う?」
「え?加工…?」
「原石からカットして研磨してマーカーの土台と組み合わせて…の加工。」
「…もしかして。」
多分、かあさん史上最大のドヤ顔だったと思う。
「私!この私が作ったに決まってるでしょ!」
得意気にふんすふんすと鼻を鳴らして胸を張って続けた。
「どうよ、この凪さんにいっちょ任せてその分お安く…」
「あのー………」
そこに声をかけたのはいつの間にか来ていた穂奈美さんで。
「ほっ、穂奈美ちゃん?!」
「おはよーってか、こんにちはだね、もう。」
「こんにちは、どうしたんだい?」
「あの、大事な話の途中ですみません…。」
実に申し訳なさそうに頭を下げている。
「大した話じゃないから大丈夫よー。」
「あの、通販事業についてわからないところがあったものですから…でもまた後ほどでかまいません。」
「いや、それなら奥で話を聞くよ。」
「いえ、きっと白瀬さんたちが関わるなら大切な話のはずでしょうから…気が利かずにごめんなさい。後でお時間が空いたら教えてくださいね。」
「ちょ、穂奈美ちゃん!違うって…!」
背を向けてバックヤードに向かう穂奈美さんを追いかけるべきか悩む兄ちゃん。
「行ってきなさいよ、今の、きっとこじらせたら不味いから。」
「でも、今の段階で指輪の話なんてしたらドン引きされるの必死じゃないすか…!」
「指輪なんて言わなきゃ良いのよ。うちの工房のサーバーメンテとマーカーの素材の話してたって言えば嘘でもなんでもないんだから。」
「あ…、すんません。その方向でちょっと話してきます。」
「いってらっしゃーい」
どこか慌てたようにバックヤードに駆け込む瑞穂兄ちゃんを見ながらニヤつくかあさんたち。
「これで恩売っておけば、サーバーメンテはお安く受け負ってくれるわよね…!」
「そう上手くいくかなぁ…?」
「ヒスイ輝石、あの感じだと相当高くふっかけてもイケそうじゃない?」
「それはそれで悪徳商法みたいじゃないか…。」
「「でも相場がわかんない。」のよね。」
お手上げ、とでもいうようにかあさんは肩をすくめ、とうさんは苦笑い。
「下手な小細工なんてしなくても、あれならメンテナンスは受けてくれそうじゃないか?」
「確かにねー。うちの工房で研磨させてあげれば欲しいものもゲットできるし、一石三鳥じゃない。」
「三鳥?」
「こっちはメンテナンスしてもらえる、あっちはヒスイもらえる、それに穂奈美ちゃんとのあれこれを聞き出せる!」
「それ、楽しいのかあさんだけじゃん。」
「あらバレた。」
バレたもなんも、隠すつもりもなかったじゃん…。その顔、「瑞穂くんしごいたろ」ってデカデカと書いてあるもん…。
「じゃー、あとは日程調整だけねー。」
「8月中には済ませたいところだね。」
「あと1週間しかないけど?!」
「31日までは8月だよね?」
二人に何言ってんの?みたいな顔で見られて、危うく一瞬自分が間違っているのか?と思いそうになったが…。
「こういうのはお互いのスケジュールが合うかどうかもっと早い段階で確認しろと何度も言ったはずだがな?」
帰宅後、早々に隼瀬おじさんからこんこんと説教を食らう両親を見て、自分が間違っていなかったことを確認できたのであった。




