【42】言葉にしたら伝わりすぎた
「ママさん、休憩入りまーす。」
「はい、いってらっしゃい。」
断りを入れて休憩室に入ると。
「あ、やっと来た。晴ちゃん、お疲れさま。」
何故か唯がテーブルで瑞穂兄ちゃんと話し込んでいた。何だ?この組み合わせ。
「唯、来てたの気づかなかったよ。今日はどうしたの?」
というか、3日振りなのにここで初めて顔を合わせるとか、お隣さんなのにどうしたことだ?
と、瑞穂兄ちゃんがレポート用紙をヒラヒラさせながら答えた。
「こないだのレポートの相談だとよ。あの結論から更に深掘りして持ってきたから、またツッコミ入れてた。」
「兄さん、ホント容赦ないよね。」
「ツッコミがいがあってオモロかったぞ。」
ニヤニヤしながら答える兄ちゃんに、唯も顔をしかめながら「これでまた書き直しだよ…」とボヤいている唯。そんな二人を尻目に、ママさんが用意してくれてた賄いのナポリタンとコーヒーに手を伸ばした。
「他の課題はもう目処がついたの?」
「うん。後はこれを仕上げれば終わりなんだけど…。兄さんに痛いツッコミもらっちゃったから書き直しだよ…。終わるかな、これ。」
「そんかし、レポートの質は爆上がりしそうだろ?」
「わかってるからなおさら悔しいんだってば!」
苦虫を噛み潰したような唯の表情にクツクツと笑いを噛み殺しながらちゃちゃを入れる兄ちゃん。相変わらず仲良しである。
と、思ったら。
「晴ちゃん。僕たちが仲良いって思ったでしょ。違うからね!」
「オレら、仲良くねえの?」
「仲良しになりたいんですか?僕と?」
「仲は悪くねえだろ。なら仲良しだ。」
「大雑把すぎません?!」
「仲良いじゃん…。」
思わずこぼれた言葉にわっはっは!と笑い出す兄ちゃんと顔に勘弁してくれとデカデカと書いたような顔の唯が好対照で思わず吹き出してしまった。
すると、お店側から穂奈美さんが覗き込んできた。
「あの、少し買い出しと両替に出てきます。表がママさんお一人になってしまうので…。」
「あ、そしたら私、その間出ときます!」
「ううん、晴ちゃんはちゃんとお昼食べて?お腹空いたらいけないもの。瑞穂さん、帰ってくるまでの間ですけどお願いできますか?」
「おう、まかしときな。気を付けて行ってきてくれ。」
「じゃ、お願いしますね。行ってきます。」
そう言うと、休憩室を通り抜けて外に出かけていった。
「はー、ホント穂奈美さんて気遣い上手で優しくて、兄ちゃんにはもったいないくらい素敵な人だよねぇ…。」
「もったいないって、さり気なくオレに対してディスってねえか?」
「ディスる必要性がないくらい穂奈美さんが素敵だって話だよ?」
「やっぱディスってんじゃねえか!」
苦笑する兄さんの脇で、唯がぽつりと呟いた。
「晴ちゃん、ホントに穂奈美さん大好きだよね。」
ため息をつきながら口をとがらせてそう宣う唯。
「…唯、それわかっててやってる?」
「え?何を?」
「可愛い。」
「へ?」
「だから可愛いからドキドキする!って言ってんの!」
穂奈美さんにパジャマパーティーの時に教えてもらった。気持ちは言葉にした方がより伝わるってこと。こないだの告白の反省もあって、実践してみたけど…。
「恥ずかしいいいいいいい!!!」
「それ僕もなんだけど!可愛いから!晴ちゃんそれ誰にも見せちゃダメ!」
「意味わかんないいいいい!唯が可愛すぎるのがいけないんだー!」
ダメだ。脳みそ沸騰しそう。『唯が可愛い』と『恥ずか死ねる』がぐるぐると脳内を暴走してる。
多分真っ赤になっているであろう顔を見られたくなくて、両手で覆って俯いてしまったが、ちらっと見えた唯の真っ赤な顔もあり得んくらいに可愛くて、またそれが脳内で勝手にリフレインされて…。
すっかり収集がつかなくなった私たちを前に、兄ちゃんが呟いた。
「え、ナニコレこのカオスどうしたら良いんだよ…。」
結局、私の休憩時間が終わるまでカオスは続き、私は表に出ながら隙を見てナポリタンを食べる羽目になり。
唯は顔のほてりが収まらないまま「閉店前にまた来る…。」と一旦帰宅し。
穂奈美さんは戻って早々に私たちの惨状を目にしてオロオロし、瑞穂兄ちゃんに宥められていた。
恋心も萌えも大事だけど、用量用法はきちんと守らないといけません、と身をもって知ったのであった。
「いや用量用法って。」
と瑞穂兄ちゃんの静かなツッコミがあったとかなかったとか。




