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白瀬さんちの開かない扉  作者: いもっち
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【39】待ちぼうけ

 まだ心臓がドキドキと脈打っている。

 あの時、晴ちゃんには気付かれてなかった自信はある。でも、瑞穂兄さんには薄々気付かれていたかもしれない。オトナだから気付かないふりしてくれてただけかもしれないけど。


 ホントはもっとちゃんとしたタイミングで、ちゃんと心の準備をした上で伝えるつもりだった。でも、あの瞬間、「付き合ってない」って断言されるのは耐えられなかった。


 「付き合ってない」のは紛うことなき事実なんだけど。


 でも、あそこで介入してしまったのは間違ってなかった。と、思う。思いたい。


「あぁ~!恥ずかしい!もっとこう、上手く出来なかったのかなぁ、僕!」


 自室でのた打ち回ってると「ただいま〜、唯、いるの〜?」と母さんが帰宅してきた。返事をして階下に降りると、何やら首を傾げている。


「ね、唯。今日は何時頃帰ってきたの?」

「え?…そうだなー…30分前くらいかな。」

「うちの近くに変な人、いなかった?」

「変な人?」

「スーツ姿なんだけど、あちこちキョロキョロしながら行ったり来たりしてて、他所のうちのお庭とか玄関とか覗き込んだりしてたのよ。しかも二人組で。」

「えー…僕が帰ってきた時はいなかったと思うよ。」

「やだわ、変質者かしら?凪ちゃんにも知らせておこうかしら…?」


 と、表から怒鳴り声が聞こえてきた。くぐもっていてよく聞き取れないが…あれ?返事してるのって…?


「凪おばさん、変質者とトラブってるかも!」

「え!うそ、やだ!」


 玄関前を見下ろせる二階の窓から見てみると、白瀬さんちの門の前でおばさんが二人組のスーツの男と睨み合っている。会話の内容は聞き取れないものの、二人組がどんどん険悪な態度になっていくのは見て取れた。


「大変、凪ちゃん…危ないわよね、あれ。」

「そうだよね、あれは危ないな。」

「「スーツの二人が。」」


 おばさん、笑顔なのに殺気がハンパない。


「警察に電話しなきゃ!」

「母さん、お願いね。僕はおばさんに声かけてくる。」


 スマホを耳に当てながら母さんが頷いたのを確認して、玄関から外に出た。


「おばさーん。母さんが用があるって言ってるんだけど、今…そちらのお二人とお話し中だった?」

「あー、そうね。お話し中というか揉め事中かな。」

「何だお前は!子供が邪魔してくるな!」

「あんたらが邪魔だっつってんのよこのクサレ(自主規制)が!こっちは知らないって言ってんでしょ!」

「そんなわけあるか!こちとらようやくここにいると突き止めたんだぞ!早くあの女を連れてこい!」


 怒鳴り声の応酬を繰り返すうちにパトカーのサイレンが響いてきた。二人組は眉をひそめて周りを伺いはじめる。


「奥さん、大丈夫?何だか不審者がいたって何人かから聞いたから警察に連絡しちゃったけど…。」

「ありがとう!これ、この人たちよ、不審者!初めて会うのに、誰だかを連れてこいだの匿ってるだろうだの、しまいには『しらばっくれて、痛い目みたいのか?!』なんて脅してきて…!」

「やだ、怖い!」

「失礼します、不審者との情報を受けまして…」

「「おまわりさん、コイツラです!」」

「なっ!不審者扱いするな!自分たちは人を探してるだけで…!」

「『迷惑料寄越せ』とか『痛い目みたいのか』とか脅されました!」

「さっきからこの辺をうろついてあちこちの家を覗き込んでました!怪しいですよね!」

「お二方と面識は?」

「「まるっきりありません!!」」

「てめえら!いい加減に…!」


 一人が上手いこと殴りかかろうとしてくれたのを、警官が取り押さえてくれた。


「詳しい話は署で聞かせてもらおうか。」

「クソっ!離せ!まだ何もしてないのに…!」

「暴行未遂ですよねー?」

「大人しくしろ!」


 と、もう一人が逃げ出した。が、途端に何かに躓いて派手に転んだ。そこを凪おばさんが素早く駆け寄って動きを封じ込める。


「ご協力ありがとうございます。」

「市民の務めですから!」

「それでは、今回の経緯を伺いたいんですが…。」

「はい。」


 二人組をパトカーに押し込んだ後、警官の一人が凪おばさんに聴取し始めた。聞かれるまま答えていくおばさんを尻目に、母さんに耳打ちした。


「こいつら、何なの?」

「私も良くわからないのよ。後で凪ちゃんにも聞かないと…。」

「まだバイトが終わるまで時間あるけど、晴ちゃんにも連絡しておかないと危ないよね。」

「そうね、スマホで一報入れといたら?」

「そうする。」


 少し離れてスマホを操作していると、母さんと僕にも声がかかった。僕たちは声がしてから玄関に出た後しか知らないので、おばさんの話に少し付け足す程度で終わった。


「ご協力ありがとうございました。状況にもよりますが、後日連絡を差し上げる可能性もありますので…。こちら所轄の警察署になります。今後、新たに何かありましたらこちらまで連絡してください。」

「こちらこそありがとうございました。あの、少し怖いのでパトロールの強化なんて…」

「そうですね、署にも報告を上げておきます。」

「良かった〜、よろしくお願いしますね!」


 パトカーが去ると、おばさんがスマホから電話していた。


「あ、すみません、白瀬です。ちょっと急ぎでうちの娘と話したいんですけど…。はい、はい…。…晴ちゃん?まだバイト終わらないよね?……ちょっとそのままお店で待っててくれない?悪いけど緊急事態なの。バックヤードにいてくれると助かる。」


 言うだけ言うと通話を切ってこちらに向かってきた。


「さっきはありがとう!警察呼んでくれてホントに助かっちゃった。ちょっと晴ちゃんと穂奈美さんに事の次第を説明しないとだし、帰りも危ないから雪雄さんと青い鳥まで行ってくるね!」

「わかった、気を付けてね!何かあったら私たちにも連絡ちょうだいね。」

「うん、じゃ、行ってくる!」


 そして慌ただしく家の中に入り、程なくして雪雄おじさんと二人で飛び出して行った。

 ふとスマホを確認してみると…既読が付いてない。まだバイトの最中だからかな?僕からもおじさんたちが向かったって連絡しておこうかな…。


 その後、晩ご飯を食べていても、風呂に入るように急かされても、自分の部屋でベッドに寝転がっていても…チェックする度に既読が付いていないことに焦りと不安が増していき…。それでも何かしらのゴタゴタには巻き込まれているんだろうから、と自分を宥めすかして「心配してる、大丈夫?」と送信し…。


 22時を過ぎた頃に、お隣さんが帰宅した気配がして、やっと見てもらえる?と期待したのも虚しく…そのまま、まんじりともせずに朝を迎えてようやく既読が付いた頃には、僕は


 すっかりふてくされていたのであった。


 僕の気も知らないで。

 確かに大変だったんだろうけど。

 僕の不安と心配とドキドキと期待を返して。

 このお返しは絶対に支払ってもらうから。


 覚悟しといてよね、晴ちゃん。


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