【36】世界と愛の多様性
二度あることは三度ある、とよく言われるが、実際のところは三度じゃ済まないじゃないか!とブチ切れたいお年頃。
何がって、夏休み期間に突入してからというもの、やかましい『マシンガンとうさん』が四度目のご登場だからだ。毎回同じマシンガンなのかというと、それがまた違うんだから困った。かあさんの好みの色が微妙に違ったり(緑系なのは変わらないのにミントグリーンだのモスグリーンだの)、とうさんのメガネのフレームがメタルだったりセルだったり、履いてる靴がスクエアトゥだったりラウンドトゥだったりと実にバリエーション豊かだ。
「いやそんなとこでバリエーションなんて求めてないから!」
頭をかきむしって「むきー!」と喚いている私を「はいはいよしよし」となだめながらも唯は笑っている。
「…何がおかしいのよ?」
「いや、晴ちゃんがこうなるのも珍しいなって。」
「他のとうさんたちだってもっと来ても良くない?よりによってマシンガンがその4まで来るなんてあり得ないよ!」
「もしかしたら、マシンガンが標準だったりして…?」
「やーめーてー!!」
そういうフラグを立てるの、ホントやめて欲しい。
「そこまで言わせるマシンガンな雪雄さん、余計に興味深いなぁ。今度動画撮っておいてよ。」
「それなら、ここにカメラ設置すれば良いんじゃないかな?そしたら、どうせ僕たちのことだから調子に乗って色々としゃべってくれそうだしね。」
「それなー!」
ちょっと色々待って欲しい。どこの世界に自分ちの居間に自分たちが映る想定でカメラ設置する奴がいんのよ?
いたわ、ここに。
「とうさんたちもさぁ、真面目に調査してるはずなのに毎度毎度どうしてそうゆるいのよ、色々と!」
「えー?ゆるいかなぁ、そんなに。」
「僕たちとしては至極真面目に取り組んでいるつもりなんだけどな?」
「父さんが言ってたのって、これかぁ…なるほど納得だね。」
「隼瀬くんが何て言ってたって?」
「これから白瀬さんちと付き合うなら『いきなりかましてくるギャグをどうにかする』覚悟がいるそうです。」
隼瀬おじさんのうちに対する認識がヒドイ。ヒドイのに微塵も間違ってないのが更に泣ける。
「隼瀬くん、うちのことそんな風に言ってたのかい?間違っちゃいないけど、やろうとしてやってるわけじゃないのはわかってほしいなぁ…。」
まるで親子みたいに同じようなこと考えてるの勘弁して。親子だけど。悲しくなるじゃない…。
そして翌日。かねてから夏休み中に行こうと約束していた美術館に唯と来ていた。夏休みとはいえ平日にしたせいか、思ったほどは人出もなくじっくりと鑑賞出来そうだった。
「うわぁ…この絵、圧巻の一言だね…こんなに大きいのに細かいところまで描き込みがえぐい…。」
「あぁ、ドラクロワの民衆を導く自由の女神だね。有名な絵だけど、これってフランスで起きた七月革命を元にしてて、暴力や混乱も全部ひっくるめて『民衆が自分の手で未来をつかみ取る瞬間』を描いてるんだそうだよ。」
「自分たちの手でつかむ自由…。」
「ドラクロワは『一部の誰かじゃなくて、社会全体の力で革命は起こるんだ』って言いたかったんだろうな。しかも、実際に自分は戦ってないのに理想に燃えてこの絵を描いたところがまたすごいよね。真ん中の女神は実在の人物がモデルじゃなくて、自由を理想の形とした架空の女神像だって。」
「え、モデルいないの?!なのにこの存在感…!周りの人物だって今にも動き出しそうな勢いだし…。」
改めて絵に目を向ける。筆の勢いと計算され尽くしたであろう構図。私は描けない人だけど、この絵の良さはわかると思う。
「この時代は綺羅星の如くに素晴らしい画家たちが互いに切磋琢磨していたから、自然と技量もあがっていったんだろうなぁ…。僕もそんな時代に生まれていたらどうなってたんだろうって思うことがあるよ。」
憧れと尊敬の眼差しで自由の女神に見惚れる唯。わずかに紅潮した頬に触れたい、と思ったその時。
「うわぁ…!これ、学校の教科書で見た気がします!すごい………!」
「唯がここにいたら解説してくれそうだけどなぁ…え?」
思わず見つめ合う四人。
「「「「何でここにいるの?!」」」」
驚きの邂逅からしばし、展示を見るうちに見事な温度差が生まれてしまった。
見る絵毎に感動してはしゃぐ穂奈美さんと、美術オタク全開で知ってる知識を披露しまくる唯、絵も素敵だけど解説する唯が尊くてうっとりしがちな私。しかし穂奈美さんのために美術館に来てみたが、そちらへの興味はさほどでもなかった瑞穂兄ちゃんは一歩後ろから付いて回る形になってしまっていた。
ふとそんな状態に気づいてしまい、どうしたもんかと考えていると。
「瑞穂さん、ごめんなさい!せっかく連れてきてくださったのに絵に夢中になっちゃって…!」
「いやー、これほど喜んでもらえるなら連れてきた甲斐があったよ。ちょうど解説係も捕まえられたしな!」
申し訳なさそうに謝る穂奈美さんに、豪快に笑って答えるのが兄ちゃんらしいな。まぁ、そんだけ穂奈美さんに夢中なんだろうけどさ。
「僕もついマニア心が疼いてウンチク垂れ流しちゃいました。すみません。」
「いえ!教科書や解説を読むだけじゃ知ることができなかった事まで教えていただいて感動しちゃいました…!」
「あんまり僕を褒めると瑞穂兄さんがヤキモチ妬きますよ?」
「おい唯、俺がそこまで心が狭いと思ってるのか?」
「違いました?」
「お前よりはオトナなんだよ、見くびるんじゃねえぞー。」
やっぱり豪快に笑って唯の頭をグシャグシャに撫で回す兄ちゃん。唯が「やーめーてーくださーい!」と逃げるのを見て、思わず穂奈美さんと顔を見合わせて笑ってしまった。
一通り見て回った後、美術館に併設されているカフェでお茶をすることになり、それぞれメニューとにらめっこしていると…。
「どうしてもこういう場所は紅茶とか選んじまうんだよなぁ…。コーヒー飲みたくても味の予想がついちまうからワクワクしねえんだよ。」
「意外…でもないですね。それほどママさんのコーヒーが特別ってことでしょうし、コーヒーの味を知っているからこそ、ですよね。」
「穂奈美ちゃん、わかってくれるのか…!オレはこんなナリだから、紅茶飲んでるだけで大騒ぎされたりすんだよ…。」
穂奈美さんの洞察力が神懸っている件について。
どうするの、これ以上瑞穂兄ちゃんを夢中にさせて…。と思ってたら唯も同じことを考えていたようで。
(この二人、これで何で付き合ってないとかなるの???)
(僕も良くわかんない…。)
(早くくっついちゃえばいいのにねー。)
(そうだね。)
「おいこら。そこ、聞こえてんぞー。」
呆れたような兄ちゃんのツッコミに視線を向けると穂奈美さんが真っ赤になっていた。やっべ。かっわ。
なのに、唯は何もなかったように「そろそろ注文しませんか?」なんてしれっと話を逸らそうとしている。唯、心臓強いな〜…。
結局、私と唯はアイスのカフェオレ、瑞穂兄ちゃんは宣言通りストレートの紅茶、穂奈美さんは敢えてのブレンドコーヒーを注文した。
「喫茶店に勤めていてコーヒーや紅茶の事を知らないのは良くないと思うんです。だから、まずは勉強しないと…。」
真面目だ…!しかも、最初は香りと味を確かめたいってブラックで飲んで顔をしかめるとか、可愛いと健気が過ぎんか…?!
気付くと穂奈美さんの隣で瑞穂兄ちゃんも悶絶してるのを、本人に気付かれないように必死だった。何この尊い二人。
「何か、色々浄化されそう…。」
「晴ちゃん、そろそろ戻ってきてー…。」
半分くらい諦めたような唯の表情を見て、ちょっとだけ反省する私だった。うん、ちょっとだけね。




