【34】指輪は乙女の夢だから
「うーーーーん………」
「ねえ、やっぱりさぁ、隼瀬さんに相談した方が良いって…。」
「しかし、このくらいの判断も出来ないと思われるのも癪に障るというか腹立たしいというか…。」
「むしろ相談しない判断をした事が問題って言われるよ、きっと。」
「それはそうなんだが…。」
さっきからしかめっ面で顔を突き合わせて、両親があーでもないこーでもないと頭をひねっている。
何をそんなに悩んでいるのかと言えば…。
「扉とマーカーのセットが先の方が良いって!指輪はもう一方を誰が持つかが問題じゃん。」
「いやいや、いきなり扉だと大仰になっちゃうじゃないか。その点、指輪なら目立たないしいざという時の緊急避難として充分だろう?」
何の話かといえば、「穂奈美さんの帰還用アイテムをどうするか」問題だった。
いつもならとうさんが大仰な提案をして、かあさんがバッサリと切り捨ててそれなりの落としどころに持っていくのだが、今回は逆のようだ。
「かあさん、何で今回は扉セットにこだわってんの?指輪じゃダメなの?」
「そうだよ、僕たちだって理論と技術が追い付くまでは指輪のもつれで対応してたじゃないか。」
「指輪は乙女の夢だからよ!!」
………なんか力説された。
「指輪はね、女の子にとっては夢と希望が溢れる最強アイテムなのよ!自分の好きな人に素敵な言葉とともに渡されて愛の溢れる未来を思い描くまでがセットなの!」
「凪ちゃん、僕の指輪にそこまで思い描いてくれてたんだ…!」
「あの時はあの時よ。そりゃーときめかなかったわけじゃないけど、それより必然性の方が高かったもん。」
私ととうさん、同時にずっこけた。
あんだけ熱量もって力説してたのにどういうことよ?それはそれ、これはこれ、とか言いそうだけど。
そうこうしているうちに、穂奈美さんが帰ってくる頃合いになった。今日は店を閉める作業を教わるとかで、22時半頃には店を出ているはずだ。
「片付けと掃除はともかく、レジ締めに時間かかるんだよね〜。お釣りが合ってなかったりすると地獄だってママがボヤいてたよ。」
「確かに、経理やるとなるとそこは外せないもんね。」
「女性が一人で夜道を帰ってくるのも心配だなぁ…。」
「晴ちゃんが今更そこ気にするのも不思議だね。自分もそうだったじゃないか、僕たちがあれだけ心配したのに全く気にしてなかったよね。」
「私なんか襲われるわけないじゃん。穂奈美さんみたいな、か弱そうな女性が危ないんだってば。」
ふと、車が停車してドアが閉まる音がした。そして程なくインターホンが鳴った。
『ただいま戻りました。』
「おかえりなさーい!」
穂奈美さんが車で帰宅…誰かに送ってもらったんだろうか?
玄関まで出迎えると、車に乗り込む男性の頭が見えた。あれって、瑞穂兄ちゃん?
「瑞穂兄ちゃん、こんばんは!」
「おー、晴ちゃん!こんばんは、ちゃんと穂奈美さん送ってきたからな!これからも遅い日は送るから〜。」
「あの、ありがとうございました。明日もよろしくお願いします。」
「ああ、明日も会えるのを楽しみにしてる。じゃ、また!」
そう答えると車を発進させた。遠ざかる車を見送ると、家に入ろうとして…ん?
「穂奈美さん?虫に刺されちゃうよ?」
「あっ、そうね!ごめんなさい。中に入りましょ。」
ずいぶんお見送りが長かったな…くふふ。ちょっとだけほっぺたが赤いのも気のせいって事にしてあげよ。
居間に戻ると、いきなりとうさんから扉にするか指輪にするかという選択肢を突きつけられて穂奈美さんがオロオロしていた。
「つまり、扉とマーカーというのは一方通行だが確実にこの世界に、扉のある場所に戻ってこられるデバイス。量子もつれ状態の指輪はペアとなった指輪の持ち主の元に戻るのが目的だ。しかし、こちらは自分が確実なイメージを持って転移する必要がある。だがまぁ、都市部のようないつ転移するかわからないような場所に行くとするなら安心材料のひとつにはなるな。逆に、扉は設置するスペースが必要になるから大がかりっちゃ大がかりだ。」
「私は安全性の面からも扉とマーカーのセットをお勧めしたいな。」
良いのかな〜、隼瀬おじさんに相談しないでさ。
「あの…、まだちょっと色々と理解が追いついてなくて…。頭の整理をしたいので、保留にさせていただいて構いませんか?」
お、良いお返事。これならとうさんたちも追撃しにくいな。
「それと…黒部さんたちのご意見も伺ってみたいです。実際に運用するのが私のような素人というか、一般人でも大丈夫なのか、その辺りは黒部さんの方がお詳しいかと思いまして…。」
よっしゃ!穂奈美さんめっちゃ有能では?!穂奈美さんが相談したいならダメだとも言えないし、おじさんにやらかす前に報告、相談出来るし。その辺りをしっかりこの数日で把握してるとか、デキる女性って尊敬に値するわ…!
「ほらー、だから言ったじゃない、隼瀬さんたちに相談した方が良いってさー。」
「うーん、穂奈美さんがそう言うなら仕方ない…。今から電話して聞いてみよう。」
「えっ!今からって、今11時過ぎてますよね?!」
「いやー、多分起きてるから大丈夫だよ。」
「「「だいじょばない!」よ!」です!」
いくら隣の家で長い付き合いだからって非常識なことすんな!これだから学者バカは!
穂奈美さんとかあさんに必死に止められて、流石にこれは不味いと思い直したのかポチポチとスマホで連絡を入れている。おじさんの勤務を鑑みて、明日の夕方に集まれるかどうかを確認したいと送ったそうだが、割とすぐ返信が来て「やっぱり起きてたじゃないか…。」とぶーたれていた。
それはそれ、これはこれだよ、とうさん…。電話してたら「常識の叩き込みが甘かった」ってしばかれる未来しか見えないよ…。




