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白瀬さんちの開かない扉  作者: いもっち
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30/33

【30】お姉ちゃんってこんな感じ?

 赤い目のまま、それでも微かな笑顔で我が家の玄関に降り立った茜田さん。気のせいか、会った時よりも少し背筋が伸びて表情に自信が見え隠れするようになった。


「ありがとうございました、みっともないところ見せてしまって。でも、とても嬉しかった。私、頑張ってたんだって言ってもらえて、救われました。今まで誰もそんなこと言ってくれなかったから…。」

「みっともなくなんてない!ずっと、小さい時から頑張ってたのに、誰にもわかってもらえないなんてしんどいに決まってるじゃないですか。でもこうやって会うことが出来て本当に良かった。頑張って生きてきてくれて、ありがとうございます!」

「やだ…晴ちゃん…また涙が出ちゃうじゃない…!」

「晴ちゃん、泣かせるなら家の中に入ってからにしようか。」


 う。唯にツッコまれた。


「ごめんなさい、取りあえず家へどうぞ!」

「こちらこそごめんね、お邪魔します。」


 泣き笑いしながらうちに上がる茜田さん。


「あ!靴は持って上がってね!」

「え?」

「ちょっと2階でやることやって帰らないと…ルーチンこなさないともったいないし、少し急ごうか。」

「そうだね、この後の話も長くなるだろうからね。」


 かあさんが自分の靴も持って上がりながら声をかけた。とうさんもそれに続く。

 小首を傾げながら靴を持った茜田さんに、声をかけた。


「すみません、少し、父と母に付き合ってください。」

「あ、はい…?」

「この後、靴が必要になるので…。その時になったらわかりますから。」

「はい…???」


 2階に上がると、いつものルーチンを開始する。差分チェックと端末の情報入力と同期、そして雑談。


「今回はいつにもまして違和感なさすぎるなぁ。」

「そうだね…マジでペンギンのロゴ以外に違いがわかんないもん。」

「もう『マカロニペンギンシャツ』で良いんじゃない?」

「晴ちゃん…そんな投げやりな…。」


 そんなやり取りをぽかーんと眺めていた茜田さんに、かあさんが声をかけた。


「よっし、じゃ、行きましょうか。」

「え?行く??」

「マーカー起動するよ。」


 とうさんが座標マーカーを起動して、いつもの扉の裏側が現れる。

 呆気にとられる茜田さんの手を取って、かあさんが笑顔で言った。


「じゃ、こっちの晴ちゃん、唯くん、ありがとうね!また会えるかわからないけど、元気でね!」

「うん。かあさんたちもね。」


 そして、オロオロしている彼女にも。


「じゃ、茜田さんも。扉の向こう側でお待ちしてますね。向こうでは穂奈美さんってお呼びしてもいいですか?」

「扉の…向こう側???」

「はい。両親について行けばわかりますよ。」

「あ…あの…ありがとう…?」

「じゃ、また!」


 扉が開くのを確認して、手を振ったら居間へと急ぐ。今回は…どこのコンビニだ、この音。


「ただいまー!晴ちゃん!いやーびっくりしたよね!」

「え?え?」

「さ、改めて我が家へようこそ。」

「「おかえりなさい。」」


 ちょうどそのタイミングでインターホンが鳴った。


「あ、母さんだ。玄関開けてくるね。」


 黒部家に車を置きに行っていた呉羽おばさんが来てくれた。だけでなく。後ろには隼瀬おじさんもいた。


「父さん、仕事は?」

「今日は早上りだったからな。どうせなら面通ししておいた方が良いと思って来たんだ。」

「そうなんだ。お疲れさま。」

「おう。」


 そして、我が家の居間にいつもの六人と茜田さん。よくわからない事態の連続で余程面食らったのだろう、スペースキャットみたいな表情になっている。確かにここまで暴力的なほどの新情報と新展開だったもんね…うん。わかる。よぉーくわかるけど、そのうち慣れるから。頑張れ。

 テーブルには呉羽おばさんのクッキーとかあさんが淹れた紅茶。そういえば、お昼まだだったな。


「良かったら食べながらお話しましょ。急な出来事の連続で頭も疲れたでしょ?」


 勧めながら自分もちゃっかりクッキーをかじるかあさん。うん、わかるから、美味しいのはわかるからもうちょっと表情を何とかして。緩みすぎだよ!


「わ、わ!!さっくりしてるのにほろっと口の中で溶けちゃう…!」


 真ん丸な目玉で茜田さんが感動しているのを見て、私も手を伸ばす。


「呉羽おばさん渾身のホワイトチョコとカシューナッツのドロップクッキー…たまんない…!」

「女子にはすっごく評判いいのよねぇ。あ、甘いの苦手な人にはチーズソルトクラッカーもあるわよ?」

「俺はそっちが良いな。」

「はい、どうぞ。」

「僕はまずクッキーをいただくよ。…あー、疲れが吹っ飛ぶね!やはり糖分は偉大だ。」

「晴ちゃん、そっちのチーズ味ちょうだい?」

「はいはい、これね。」


 わいわいとテーブルを囲んで、一段落したところで自己紹介が始まった。


「まず、僕と凪ちゃんは先日お話した通り。車の中でも説明したけど、この世界の出身じゃない。今はここの世界がホームだけどね。」

「私は父と母の娘で、晴と言います。大学1年生です。」

「僕は黒部唯です。晴ちゃんと同じ大学1年生です。」

「黒部隼瀬と申します。こちらの唯の父親です。今後も何かと顔を合わせることになると思います。よろしくお願いします。」

「黒部呉羽と申します。先ほどご挨拶しましたけど、改めてよろしくお願いしますね。」


 一人ひとりの挨拶に、丁寧に会釈している…礼儀正しい方なんだなぁ…。


「私もよろしくお願いいたします。茜田穂奈美と申します。出身は…先ほどの街の、養護施設です。5歳の時に保護されまして、それから高校卒業するまでお世話になっていました。その後は事務職を中心に派遣で働いております。」

「住んでいるのも?」

「はい、賃貸のアパートで…。駅からは遠いですけど、安いので…。」


 と、とうさんが真面目な顔で切り出した。


「ものは相談なんだが、貴方の来歴からして都市部に住んだり勤めに出たりするのは正直お勧めしない。どうだろう、この辺りに引っ越して、職場も変えてみないかね?」

「えっ…あの、それっていったいどういう…?」

「駅前で、貴方のいうところのめまいがしたでしょ?転移と言っても実感がないと思うけど、あの感覚は世界を跨ぐもので、その度に違う世界線へと飛んでいたと考えられるの。いろんな場面で『前と違う』『おかしい』ってあったでしょ?恐らくそれが『違う世界線との差分』だったんじゃないかしら。」

「…あっ!そういうことなんですか…?」

「どんなに努力してきっちり仕上げても、そこに世界線の違いで時間や場所、シチュエーションに差分が現れたとしたら、貴方にも向こうにも責はないけれど、事実として結果が伴わないって評価になってしまうね?だからこそ、あそこで暮らすのは双方に良くないと判断したんだ。」

「そう…ですね…。正直、私も疲れてしまってて…戻りたい気持ちが湧いてこないんです…冷たいんでしょうね…。」


 寂しそうに自虐的な笑顔で答える彼女に、思わず手を取ってしまった。


「冷たくなんかないです。結果が伴わなかったとしても、穂奈美さんに寄り添ってくれる人がいたらそんな風に思うなんてなかったはずです。良いじゃないですか、こっちで暮らしましょうよ!」

「晴ちゃん………!」

「要するにさ、飛ばなきゃミスにはならないのよ。世界線が同じなら差分も出ないんだから。」

「そうだな、凪さんの言うとおりだ。ところで雪雄。茜田さんの住まいと職場に当てはあるか?」

「それなんだけど、青木ママに相談してみようと思うんだ。ちょうど息子さんが帰ってきて新しい事業を考えてるらしくてね。事務の手が欲しいそうなんだ。」

「そうか。となると、当面の住まいが必要だな。」

「隼瀬さん、公営住宅の空きがなかったかしら?先日、退去なさった方がいらしたでしょ?私が訪問してた…。」

「その手があったか…短期間ならアリだな。待ちはあるが、半年程度なら何とか出来るだろう。」


 どんどこ話が進んでいくのを、口も挟めずにスペースキャット再びな穂奈美さん。


「あの、どさくさ紛れに穂奈美さんって呼んでしまってごめんなさい。気を悪くされませんでしたか?」

「!…ううん、むしろそう呼んでくれて嬉しい。私も呼んじゃってから言うのもなんだけど、晴ちゃんって呼んで良い?」

「はい!嬉しいです!…へへ、なんだか、お姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいですね。」

「私も、妹が出来たみたいで嬉しいわ。黒部くんも…唯くん、って呼んでもいいかしら?」

「はい、かまいませんよ。僕も穂奈美さんって呼びますね。」


 柔らかい笑顔で頷く唯。穂奈美さん、見惚れないかな…とチラ見したけど。普通にきれいな笑顔だった。逆に私が見惚れたわ!


「そしたら、いきなり公営住宅に住むのも無理だし、数日はうちに泊まればいいね。」

「いえ!そんな訳には行きません!駅前にホテルがありましたから、そちらに泊まります。」

「でも、これから何かと入り用だから節約しといた方が良いわよ?」

「でも…!」

「穂奈美さん、良かったらパジャマパーティーしませんか?」

「え?」

「夢だったんですよね〜、パジャマで女子会!泊まってくれたら毎日出来るじゃないですか!」

「えー!私も混ざりたーい!」

「かあさん?!」

「私も〜!」

「母さんまで?!」


 引き止め策のつもりが、私以上にノリノリな大人二人の乱入でなし崩しに決定となるのであった…。ある意味すごいな、この二人…。

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