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白瀬さんちの開かない扉  作者: いもっち
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【27】揺らぎの先で出会ったひと

「じゃあね、あとはよろしく頼んだよ!」

「はいはい雪雄さん、もう行くよー!」

「わかったー!ここの晴ちゃんも唯くんも、二人とも頼もしかったよ!たまには『おしゃべり雪雄』世界のとうさんも思い出しておくれ!」

「ほらもう行かないと!マーカー起動するよ!!」

「あー!凪ちゃん、待って!今行くから!」


 居間から久しぶりに給湯器でお馴染みの「人形の夢と目覚め」が流れてきた。同時に、目の前の中空に扉が現れて、あっちのかあさんがその扉を開いた。


「じゃ、二人とも…これからも協力をよろしく。お互いに頑張ろう!」


 名残惜しそうに振り返りながらあっちのとうさんが扉をくぐり、そしてマーカーを扉から外して閉めた。

 途端に消えた扉のあとを眺めて、ため息をつく私と唯。


「「やっかましかったぁ………。」」


 同時に出たボヤキに顔を見合わせて力なく苦笑しながら、居間の両親を出迎えに降りる。


「晴ちゃん、唯くん、ただいまー…って、どうしたの?二人ともそんな疲れ切って…。」

「えーっと…今回のとうさん…すごくやかましかった…。」

「え?僕がやかましい?」

「あっちのとうさんね、マシンガンみたいにしゃべくり倒したんだよ…。」

「正直、同じ白瀬のおじさん認定したくなくなるくらいには、しゃべりまくってました…。」

「それは…何というか…別世界の僕がごめん…?」

「あだ名を『おしゃべり雪雄』にしたけど…既に『マシンガン雪雄』にしたいくらいにはずっとしゃべってた…。」


 ぐったりした私たちを見て申し訳なさそうな顔をするとうさんたち。でもこっちのとうさんたちが悪いわけでもあっちのとうさんが悪いわけでもない。単に相性の問題なんだと思う。


「多分、あっちの私たちは慣れてるんだね。おしゃべりだね、って言ったら『ここでも言われると思わなかったなぁ』って驚いてたもん。」

「あー、同じではないかもしれないけど、今回訪れた世界線で『今回は普通にしゃべるとうさんだ』って言われたから、また似たような僕は現れるかもね。その時は何のことだろうって思ったんだけど…。」

「しゃべくり倒す雪雄さんもちょっと見てみたいなぁ…。」

「凪ちゃん!いくら何でも別の世界線の僕と浮気は…」

「しないって!多分5分でうるさいってなるから安心しなよ。」

「それはそれで複雑だよ…!」


 五十絡みのおじさんが浮気を心配してしょげるというなかなか(見方によっては)面白いシチュエーションを傍に、今回の『おしゃべり雪雄』とうさんとの差分を思い返していた。

 見た目は全くと言っていい程に変わりはなかった。ただひたすらしゃべってウンチクを垂れ流してはしゃいで…?はしゃいでいた?


「今回のおしゃべりとうさん…はしゃいでたような気がする。何か良いことでもあったのかな?」

「確かに…口数が多いだけじゃなくて、妙に楽しそうというか機嫌は良さそうでした。」

「良いことか…僕たちも良いことがあったと言えばあったけど…。」

「あ、そうか。この流れで言えば私たちとあっちとはリンクしてるわけだもんね。良いことがあったんでしょ、向こうにも。」

「え、何かあったの?」


 思わず尋ねると、いたずらっぽい顔で笑いながらかあさんが言った。


「実はね、私たち以外で破断に巻き込まれて転移してきた人と連絡が取れそうなのよ。」

「例の事故の影響下で転移してきた人物と遭遇出来るなんてずいぶん久しぶりだからね。そりゃあはしゃぎもするだろうね。」

「そうだったんですね…。こちらのおじさんたちとの差分が大きい分、世界線としては遠い方なのかと思ってました。」

「そうだね、少なくとも「くん呼び」よりは分かりやすい違いだな。僕たちが訪れた世界も前回よりも違和感が強かったし。」

「あっちの世界ではファストファッションのトップが、しまむらだったのよねぇ…。」

「え…。」

「すれ違う人がみんなしまむら着てるとこうなるんだなぁ…って興味深かったね。」

「そんなに違う?」

「行ってみればわかるよ。」


 単に面白がっているだけのように見えて、とうさんたちはとうさんたちなりに分析しているんだ、と実感した。普段はあんななのに。

 そして、三十年前の事故で巻き込まれて飛ばされた人と…連絡?会った、ではなく?


「今回連絡が取れそうってことは、実際にお会いしたんじゃないの?」

「いや、会ったんだよ、飛んだ先でね。で、実は向こうも飛ばされた先だったわけだ。」

「なんて偶然…。」

「だから、僕たちが本来の世界線に戻ったらまた連絡するって話になったんだよ。」

「今回はたまたま市街地でお昼ご飯食べる必要があったからレストランに入ったんだけど、妙にソワソワしてる人がいたから声をかけてみたのよ。そしたら、『いつもの場所のはずなのに、また変な感じがする』って言うからピンときてね。」

「それって30年前からじゃないですか?って聞いたらビンゴだったわけだ。いやー、ラッキーだったね!」

「しかもね、その人かなり若いのよ。破断事故の時は5歳だったんですって。お母さんといたはずが、気が付いたら町中で一人ぼっちになってたそうよ。それで泣いて歩いてたら保護されて、養護施設に入ることになって。成人してからは就職して一人暮らししてるけどなかなか大変みたいね。」


 5歳で………!

 たった5歳なのに、いきなり知らない場所にいて、しかも一緒にいたはずの母親もいなくて、知らない人に囲まれて生活するしかないって…辛すぎる…!


「ただなぁ…話を聞いてると、どうも私たちの知る揺らぎポイントとは違う飛び方をしてる様なんだよ。それはその人の特性なのか、ポイントの問題なのか、他の要素が絡んでくるのか…。」

「だからね、一度自分の世界線でお会いして協力を申し込みたいってお願いしたら承諾してくれたんだー。いい人だよねぇ…!」


 とうさんも隣でうんうんと頷いている。

 そして、話の本題はこれからだった。


「その人と今度の日曜日に会う予定を入れたいんだよ。ただ、僕たちよりも若い人だから、もっと若い人もいた方が良いと思ってね。晴ちゃん、唯くん、付き合ってくれるかな?」

「用事が入ってるなら無理にとは言わないけど…。」

「その時は別の日になるだけでしょ?いいよ。次の日曜日なら予定はないから。」


 主にこの両親のせいで予定を入れ辛いんですけども。そして唯も頷いていた。


「二人ともありがとう…!じゃ、早速連絡するよ。」


 そう言ってとうさんはスマホを手にすると2階へと上がっていった。

 私たちにとっては初めて会う、違う世界出身の人だ。どんな人なんだろう?と想像は膨らむのであった。

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