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白瀬さんちの開かない扉  作者: いもっち
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【22】帰還、そして嵐

 その朝、よく晴れた初夏の日差しを浴びて洗濯物を干そうとしていた私は、聞きたかったような聞きたくなかったような、複雑な思いでそのメロディを耳にした。


「チャーラーラーラー ラッチャッチャー、扉が開きます」


 「ゆうべはおたのしみでしたね」って言うのがお約束だと教えてくれたのは誰だったっけ…?


「ただいまー、うわ、こっちは結構暑いんだね!」

「ホントだ!どうしよう、今日行く予定のポイントってちょっと肌寒いよね、まだ?

あ、ただいま晴ちゃん!お洗濯ありがとう!」


 …朝からやかまし…うるさ…いや、賑やかな2人が居間の扉から帰宅した。何で朝からこんなテンション高いんだ、と呆れながら振り向くと…。


「ちょ、とうさんもかあさんも!何そのクマ!それに服もホコリだらけじゃない!」

「あー、ちょっと、2日ほど徹夜する羽目になっちゃったんだよ。でも急いで情報ハブステーション稼働させたいから、今日からよろしく頼むね。」

「せめて朝ご飯は食べようよ、雪雄さん。これからポイントに向かうのに体力持たないわよ?」

「でも、なるべく急がないと…。」

「ご飯炊いてあるし、昨日の残りでよければ味噌汁も冷蔵庫に入ってるよ…。」

「うわ、晴ちゃんマジ天使!」


 徹夜明けの手加減を忘れたかあさんのハグに、思わず腕をタップして「ギブ!ギブ!!」と叫んでいるとインターホンが鳴った。


「おはようございまーす。」

「おお、タイミング良いな、唯くん!」


 やはり徹夜明けのハイテンションで唯を出迎えに玄関に向かうとうさん。その様子に、心配そうに眉をひそめながら唯も居間へと上がって来た。


「2人揃ったし、ちょうどいいね。晴ちゃんにはさっきも言ったけど、今日から情報ハブステーションを稼働させたいんだ。詳しいことはこのマニュアルに書いてあるから、別世界の僕たちが来るまでに読み込んでおいてほしい。」

「え、今日からですか?!」


 目を見開いてツッコむ唯。わかる、わかるよ。


「ちょっと、工房のメンテナンスしてたら早く情報を集めて分析した方が良さそうなデータ見つけちゃったのよねー。」


と、温め直した味噌汁とご飯をテーブルに並べるかあさん。いただきます、と手を合わせて勢い良くかっ込む姿にどんだけ食べてなかったの…?と更に呆れていると。


「あ、別世界の僕たちが帰ったらで良いから、カップ麺とかレトルトとか、その手の食料を多めにストックしといてくれると助かるな。」

「今回、工房で予想以上に手間取っちゃったから、向こうの食料なくなっちゃったのよ。」

「かあさんたちが向こうに行くタイミングでネット通販すれば良いんじゃないの?そしたら、大量にいるなら配送料も無料になるじゃん。」

「あ、それ良いな!採用!」


 たったこれだけの会話のうちに食べ終わって食器を洗い始めている。どれだけ急いでんの…?


「それじゃ、行ってくるね。今回のポイントから逆算すると、午後には来るはずだよ。あちらの私たちにもよろしく言っておいてね。」

「行ってきまーす!」


 ………嵐のように帰ってきて、そして去っていく両親。いったい何だったんだ………。


「えっと、晴ちゃん?その、洗濯物、干そうか?」

「!!いや!無理!じゃない、ごめん、干してくるからお茶して待ってて!」


 勘弁してくれ!女子の洗濯物なんて男子に見られていいわけないじゃん!

 大慌てで2階のベランダに洗濯物を干して居間に戻ると、真剣な表情でマニュアルをめくっていた唯が振り向いた。


「晴ちゃん、これ、急いで読んだ方が良さそうだよ。まずはこっち。」


 見ると、マニュアルは2冊。手渡された薄い物とちょっとした図鑑くらいはありそうな分厚い物。あまりの物量にげんなりしていると、更に唯が問題をぶっ込んできた。


「これ、パソコンのスタートマニュアルと詳しい取扱説明書みたいな構成になってるんだよ。薄い方だけ読めば取り急ぎの応対は出来るけど、細かい運用とかトラブル対応はこっちの分厚い方を読まないといけなくなってるっぽい。」

「うぇぇえ〜………。」


 げんなりしながらも薄い方からページをめくる。


「…情報ハブステーション クイックスタートマニュアル…」

「おばさん…いやおじさんの方かな…このセンス…?」

「…どっちでもあり得るけど…この書式、多分、今使ってるパソコンのマニュアルの丸パクリ…。」

「「コンプラ違反」」


 思わずハモってしまい、お互いの顔を見合わせて吹き出してしまった。


「うん、ひとまず読み込もう!」

「そうだね。まずは玄関での出迎えの際には…?」

「あ、分厚い方にチェックシートあるって。唯、ちょっと見てくれる?」

「えーと…あ、これ………待って。何枚あるんだ?しかも裏表…?!」

「何々…?『チェックシートで転移の時間と座標の申告を確認』…え、現地時間と世界標準時を併記すんの?!…あとは?『訪問者とこちらとの差分を確認する』…んで…?え、何?ニックネームなんて付けるの?!」

「付け方のサンプルもあるね…『メガネ凪』とか『ヒゲ雪雄』とか…?おじさん達…ネーミングセンスが…。」

「てーか、差分の項目が恐ろしいことになってるよ…イタリアンレストランの間違い探しじゃないんだからさぁ…。」


 などとツッコミどころ満載なマニュアルを2人で読み込んでいるうちに、昼も大分過ぎていることに気づいた。


「わ、お腹空いたと思ったらこんな時間!」

「あ、母さんが何か作ってくれてるってスマホに連絡来てたから取ってこようか?」

「そういや、朝ご飯で貪り食われてたわ…ご飯と味噌汁…今日のお昼にするつもりだったのに…。」

「ちょっと行ってくるね。」


と、唯が立ち上がったタイミングで玄関のインターホンが「ピンポーン」と鳴ったのであった。


「………え。もう………?!」


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