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白瀬さんちの開かない扉  作者: いもっち
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【21】山奥の工房にて

「ここに来るのもひっさしぶりだなぁ…。」

「もう何年ぶりかな?僕と一緒に、コイツのメンテナンスに来たのが最後だもんね。」

「だとすると…2年前だね。晴ちゃんの受験の準備でバタバタし始めたから来られなかったんだもん。」


 帰国したその足でやって来たのは、とある山奥一歩手前の集落から更に歩いて1時間はかかる場所だった。古ぼけた外観の、一軒家に納屋が併設された何の変哲もない民家だが、玄関の脇にかすれた文字で『赤井金物工房』と書かれた表札がかかっている。

 しかし、鍵を開けて玄関をくぐると雰囲気はガラッと変わる。しつらえこそ古民家と同じ作りだが、壁にかかるのは絵画ではなく一面の工具、棚の上には年代を感じさせる金床があるかと思えばその脇には電動ドリルやスタッカー、引き出しには大小様々なネジだのボルトだの…表札通りのアレコレが出迎える。

 更に奥へと視線を向けると土間から納屋へと通じる引違い戸と小上がりの台所、左手に居間が見える。その居間の奥に地下へと通じる階段が存在している。


 その階段を降りた先、そこが2人が今いる場所だった。天井にも迫る大きさの筐体が5台、低い低周波にも近い駆動音を立てて稼働している。地上部分とほぼ同じ範囲に作られた地下室は、地上の趣を微塵も感じさせないメタリックとモノクロの質感に満たされていた。


「さーて、今の稼働状態のチェックからやるかぁ…雪雄さん、私は1号機から見てくから、5号機から遡ってチェックしてくれる?」

「わかった。異常が見つかったらその都度報連相だね?」

「そうだね。何せ2年ぶりだからあちこちゴミデータがたまってると思うよ〜。」

「よっしゃ、やろう」


 それぞれ持参した端末を担当する筐体…スーパーコンピューターへと接続して操作を始める。流れるように画面を走るデータの羅列を無言で見つめる2人。

 ふと凪が息を呑んだ。


「雪雄さん、ちょっとこれ見て。」

「ん、どした?」

「これまで集めた揺らぎポイントの座標なんだけど…。」

「…これは…僕たちがここにいるからって理由だけじゃ説明つかないか…?」

「誤差が大きすぎる…この国の面積から言っても不自然だわ。」

「他の要素も加えて改めて解析しよう。このデータだけじゃ結論を出すには何もかも足りなさすぎる。」

「そうだね。じゃ、この部分だけ抜き出してコピーして…よし、続けよっか。」


 普段の2人からはあまり想像できない真剣な表情で再び端末に向かう。しばしば言葉を交わし、また戻って、と作業を続け、気が付けばめまいがするほどの空腹に見舞われていた。


「雪雄さん…ちょっと…お腹空きすぎた…!」

「確かに…って、もうこんな時間?!」

「残りは3号機だけだし、ご飯食べよう…!」

「倒れる前に気が付いて良かった!」


 ダメな大きいお友達が大きい祭典の前にやりがちな失敗をやらかす、五十絡みの2人。あまりにも空き過ぎた空きっ腹を抱えてヨロヨロと階段を登ると、居間を通り抜けて小上がりのキッチンでお湯を沸かし始める。


「私は柚子胡椒ラーメンもーらい!」

「知ってた。僕は塩とんこつにするよ。」

「んー、次来る時はもっと持ってこようか?」

「というよりもストックしておいた方が良い。多分、データを集め始めたらちょくちょく来ないとパンクしかねないからね。」

「確かにそうね。…それはそうと、カップ麺だけで足りるかなぁ…もう10時間以上食べてないよね?」

「うーん…作業量としては半分以上は消化してるはずなんだけどなぁ…。」

「データの選別してたら結構時間食ったもんね…。」


 考え込む2人を他所に、やかんが甲高い音を立てて沸騰を知らせた。今どきは珍しい笛吹きケトルである。


「カップ麺開けるよー!」

「あちちちち…!」

「凪ちゃん大丈夫?!」

「こんくらい平気平気!」

「くぅ…この匂いがたまらん…!」


 やかましい2人は、仲良く土間に足を下ろして廊下に座ったまま深夜にカップ麺をすするのであった。

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