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白瀬さんちの開かない扉  作者: いもっち
2/18

【2】頭痛が痛い

 頭が痛い。二重の意味で。


 しこたまぶつけたおでこに冷えピタを貼った私はこめかみを揉みながら両親にジト目を送った。


「あんだけ派手に出発しといて翌日戻ってくるとか何事よ…。」

「いやー、成田でパスポートとか忘れたのに気付いてさー。」

「ちょ、そしたらチケットの時間とか大丈夫なの?!」

「あー、今なら間に合うから問題ないよ。じゃ、とうさん、行こうか?」

「行くって、間に合うって…その扉の向こう、もしかして」

「うん、成田。」

「………。」

「じゃ、晴ちゃん。気を付けて、大学もバイトも頑張るんだよ。」

「はーい…いってらっしゃい…」


 もう、問いただす気力も反論する気力もなくなった私は半笑いで扉から出ていく両親を見送るのだった。


 と、再び扉が開いてかあさんがのぞき込んできた。


「この扉ね、向こうに着いたら直しに来るから!」


 言うだけ言ってニカッ!と笑うと再び扉が閉まった。


「直しにって…。うん、寝よう。」


 頭痛のあまり、私は思考を放棄した。うちの両親に限っていえば、考えるだけ無駄なのだ。そういえば……。



 あれは私が幼稚園に入るか入らないか、という幼少の頃。白瀬家の私たちと黒部家の御一行で海釣りキャンプに出かけたことがあった。今にして思えば、やたらとハイテンションなうちの両親が一ヶ月以上も前から何かしらを作ったり準備したりしていたようで怪しさ満点だったわけだが。ただ、当時の私は当然幼児であり、(色んな意味で)何も知らずに「とうさんもかあさんも楽しみなんだな」と一緒にワクワクして過ごしてしまった。


 そして当日、ドカドカ釣れまくる多種多様な「魚…のような何か」を見るごとに顔色を悪くしていく黒部のおじさんに疑問を抱き。(どうしたのか尋ねたが「船酔いしちゃったみたいだ、心配しないでね。」とはぐらかされた)

 私たち子供よりもはしゃいでいる両親(と約1名)の


「さすが私!この釣り竿と深層まで使えちゃう誘導機能付きの網があれば!」

「さっすが凪ちゃん!これ、凪ちゃんのお鍋があればとっても美味しい煮付けに出来そうね!」

「この潮の流れと潮位、風向き、地形からしたらもう少し…あと50メートル…ここだね。こことあそこのブイがある間、真ん中あたり。集魚マーカーと簡易の転移ポイントを作動させたからまた違う種類が取れるよ。」


といった言葉に少々の不安を覚え。


 宿に到着してからは正座させられた両親と、その前で仁王立ちしてるおじさんと、途中から共犯だと自覚した呉羽おばさんがそっと正座に加わりしょんぼりしてる姿が強烈な印象に残っている。


「良いですか凪さん。百歩、いや千歩譲って……この世界、地球であり得ないギアや道具はまだ誤魔化しようもあるかもしれない。けどね、存在しない生き物は放流しちゃ駄目だ。」

「あとでマーカーとポイントは回収しようかと…」

「あの時にマーカーも来てしまった生き物も回収しろって俺が言わなかったら忘れてそのままにしようとしたのはどこの誰ですか。」

「「はい、私です…」」

「道具にしたって、あれは何ですか?ここらの生き物根絶やしにする気か?生態系の事考えてるのか?」

「試作品が思ったより上手くいったからつい機能を追加しちゃって…」

「途中までは取りすぎないような機構も盛り込むつもりだったんだ…」

「その痕跡はどこにあるのかな?見せてくれるよな?見せられない?だろうねぇ、説明されてもそんな事ひとっことも言ってなかったよな。」

「「全くもって申し訳ありませんでした!!!」」


 詰めに詰め、理路整然と両親を(精神的に)ボコっていく黒部のおじさんの姿は、おっかないと同時に普通とは、という基準が大事なことを私に刻み込んでくれたのだった。 



 ふと目が覚めると既に午後も遅くなっていた。たまたま日曜日でバイトもなかったのは幸いだったが、さてこの後どうしよう?と考えていると「ピンポーン」とチャイムが鳴った。


インターホン越しに確認すると、


「僕だよ、母さんの作ったおやつ持ってきたから食べない?」


と、袋に入ったクッキーやらなんやらをぶら下げた唯が笑顔で立っていた。

 慌てて居間の扉を閉めてから玄関を開けた。何となくあの扉のことはまだ知られたくない気がして。


「おばさんのおやつ、ありがとう。」


と礼を言うが、唯が固まってこちらを凝視している。


「え、何…どうしたの?」

「おでこ」

「へ?」

「風邪引いたの?駄目じゃない、寝てなきゃ!病院は…今日は日曜か!えっと、何かお薬…」

「ストップ!風邪じゃないから!落ち着いて!」


 おでこ、と言われて冷えピタの存在を思い出した。半乾きになったそれを剥がしながら唯に説明する。


「さっき、ドアにぶつけただけだよ。念の為冷やしてただけだから…。」

「ぶつけただけって…見せて。あぁ、痛そう…!」


 近い。幼い頃から顔面偏差値が高い唯だが、しばしば距離感がバグっていてこんな風に顔を寄せてきたりする。心臓に悪い。こちらが乙女に悪いことしようとする輩な気分に思えてくるじゃないか。


「痛みはもう落ち着いたから唯も落ち着いて。」

「それなら良いけど…でも、あとが残ったらどうするの?ちょっと母さんに聞いてくるよ。」


と去ろうとする唯。


「おばさんに迷惑だから良いって!」

「良いから…あ、そうだ。バイトも何も予定ないなら、今晩はうちでご飯食べていきなよ。母さんたちも喜ぶからさ!」


 引き留めようとした手を逆に取られてグイグイと黒部家に連れて行かれそうになった私は、慌てて戸締まりをして黒部家にお邪魔することになったのであった。

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