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白瀬さんちの開かない扉  作者: いもっち
1/18

【1】晴ちゃん、見送る

突発的に思い付いた。突然帰ってこられるとびっくりするよね。

 うららかな春、四月半ば。大学に入学したばかりでてんてこ舞いの日々を送る私に、両親が突然爆弾を投下した。


 それは、土曜日の朝だった。

 朝食を食べながら、両親がニコニコしながら宣言した。


「晴ちゃんももう成人したし、大学にも入学できた。親としてのやるべきことは一段落したから、かあさんととうさん、ちょっと長めの旅に出てくるね!」


 ……え? 何言ってんのこの人たち。


「ちょ、ちょっと待って! 突然どうしたの!? 仕事は? 家の光熱費は!? 生活どうすんのよ!?」


 焦って問いただす私に、両親はどこまでも余裕の笑み。


「これでもかあさんたち、しっかり稼いできたのよ? 支払いは全部自動引き落としにしてあるし、突発的な出費があっても大丈夫な貯金もあるから。ホント、安心していいからね!」

「いや、でも」

「それにね、親がいないほうが子どもはのびのび育つって言うじゃない?」

「だからね」

「あ、とうさんの職場には長期休業の申請してあるから、失業はしてないからね?」

「そーいう話じゃなくてー!」


 聞く耳を持たずに話を進める両親。その視線の先に、私は見慣れない扉を見つけた。こんなのここにあったっけ?


「……かあさん。あれ、なに?」

「これ? これはね、私たちが帰ってくるとき専用のドアよ。」

「とうさん達が持ってるマーカーを使えば、空間が接続されてここに戻れる仕組みになってるんだ。ただし、こっちからは開かないよ。マーカーがないと双方向の移動はできないし、下手に開けようとすると、ランダムに空間が繋がっちゃうからね。まぁ、そもそも開けようったって開かないんだけど。」

「何てモノ作ってんのよ!? 特級呪物ですか!?」

「呪物だなんて失礼ね〜」

「ツッコむとこ、そこなの!?」


 結局、嵐のように両親は出発していった。

 その際、隣家にちゃっかり余計な置き土産をして。


「うちの晴ちゃん、こう見えても女の子の一人暮らしだから心配でね。唯くん、よろしく頼んだよ。呉羽さんたちも、ご迷惑かもしれませんがよろしくお願いします。」

「ちょっと!よろしくとか言って、唯も、おじさんたちだってご迷惑じゃない!」


 お隣の黒部家とは家族ぐるみの付き合いで、唯とはいわゆる幼馴染だ。なのに柔らかい笑顔の美青年は、しれっとこう言った。


「喜んで、任せてください!雪雄おじさん、凪おばさん。道中お気を付けて、楽しんできてくださいね!」


 いやいやいや、何を任されたつもりだお前は。


「唯までそんなこと言わないでよ……!」

「何かあったら、うちにいつでも来てね? 白瀬さんたちも気をつけて行ってらっしゃい。凪ちゃん、お土産、楽しみにしてるからね!」

「張り切って用意してくるよ!」

「だから張り切らないでってば!!」


 そして、両親は旅立った。


 翌日、残された私は居間のソファでぐったりしながら思わず呟いた。


「……なんなん、この展開……。」


 重厚な存在感を放つ“開かない扉”に、つい視線を向ける。


「ホントに開かないのかな……」


 恐る恐る取っ手をガチャガチャ動かしてみる。……うん、びくともしない。


「まぁ、そりゃそうだよね……。」


 そう思って手を離したその瞬間——。


 バンッ!


「いったぁあああああい!!」


 まさかの扉が開いて額を直撃。思わず押さえてうずくまると、そこには見知った二人の姿。


「晴ちゃん!? やだ〜そこにいたの!?」

「しまったな、近接センサーをつけておくべきだったか……」

「何してんのよ二人ともぉぉぉ!! 昨日出発したばっかでしょ!!てか何でこんなとこにいんの?!」


 涙目で怒鳴る私に、両親はしれっと言い放った。


「海外行くのに、パスポート忘れちゃって……」


 私はもう、言葉もなく頭を抱えるしかなかった——。


 今から考えたら、この出来事を起点として様々なトラブルや唯との関係性の変化が訪れることになったわけで…。でも、この時の私には知る由もなかったのだった。


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