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白瀬さんちの開かない扉  作者: いもっち
13/19

【13】知ることと、知らずにいること

 蒲野氏の研究室から帰宅して、我が家の居間でぐったりとする私たち。


「あ~〜、疲れた………。」

「凪ちゃん、珍しくずっとよそ行きモードだったもんねぇ。僕は新鮮で嬉しかったけども。」

「慣れないことはするもんじゃないね。いつか噛むんじゃないかってヒヤヒヤしたよ…。」

「端から見たら堂々たるもんだったけどな。凪さんもこんな物言い出来たんだね、って。」

「やらないと世の中渡っていけないからね。」


 ちゃんと社会人みたいな事言ってる。


「なのにやらかしちゃうのがわっかんないなぁ…。」

「呉羽ちゃんヒドイ…!」


 何かコントみたいになってるかあさんたちをほっといて、私はずっと気になってた事をとうさんに聞いてみることにした。


「ちょっと聞きたかったんだけどさ、蒲野氏の研究の話の中でワームホールが作れないって言ってたよね。」

「そうだね。」

「じゃ、アレ何?」


 例の扉を指して、目を眇める。


「アレ、ワームホールを固定して、とか言ってたよね?どういう事?」

「晴ちゃんはちゃんと聞いててくれたんだなぁ!とうさん嬉しいよ…!」

「感動するふりして誤魔化そうとすんのやめてもろて。」

「誤魔化すつもりはないんだけど、これと通勤用のゲートに関する理論はあと三十年は表に出すつもりはないんだ。」

「作っといてからそんなん言っても説得力ゼロなのわかってる?」

「今のこの世界での知識と技術じゃ、これを見られても原理はおろか素材も半分以上解析出来ないと思うよ。」

「そんなオーパーツなの?!」


 あ。黒部家の3人も口をあんぐりさせてる。

 改めて扉をまじまじと見るけど、どう見ても普通の(ちょっと豪華めだけど)木で出来た、真鍮のノブが付いた扉だ。鍵穴は見つからないけど。そもそもこちらからは開かないんだっけ。


「見える部分にはちゃんとこちらの木材と金属を使ってるよ。本体はその内部だね。飾り部分はこないだ見たように今は近接センサーとお知らせ機能のスピーカー、量子もつれを維持する素子として地球の地表にはほぼ存在しない結晶を使ってる。」

「ほぼ存在しない結晶ってどういう事?」

「それぞれの原子や分子が結晶化するには特定の環境条件が揃うことが必要な場合があるだろう?」

「あー、宝石とか有名よね。」

「で、ダイヤモンドのように条件が変わることで違う結晶構造を取る物質もいくつかある。これはそのうちのひとつでね、この世界線ではまずマントルから上昇してこないんだ。」

「別の世界だとあるんだ…。」

「話の通じない原住民が採掘させてくれなくて苦労したよ…。」

「あ!あの泥だらけだった変な民族衣装の時の?!」

「あの時は緊急避難的に帰ってきちゃったけど、本来はちゃんと真っ当に出入りしてるんだよ?じゃないとパスポートがおかしなことになるじゃない。」


 そこは気にするんだ…。


「まぁ、今はちゃんとブラジルは出国してきたから多分大丈夫。」

「ブラジル『は』?」

「パスポート上はメキシコにいるね。」

「メキシコにはどうやって戻るつもり?」

「この扉で。」

「ブラジルにいるのと何が変わるのかわかんない…。」

「滞在予定が超過しないように調整してるんだよね。」

「さいですか…。」


 ふと、頭を抱えていた隼瀬おじさんが据わった目でとうさんとかあさんをロックオンした。


「で、だ。雪雄、そのオーパーツそのものの扉がここになきゃいけない理由を聞かせてもらえないかね?」

「え?旅行途中で帰宅する必要があるかもしれないからだよ。実際問題、そうなっただろう?それによその土地に私物のこんなデカいもの置いておくわけにもいかんし。」

「パスポート忘れと原住民からの避難とポン酢の購入と?こないだのアマゾン帰りはどんな理由なんだい?」


 あ、両親の目が泳いでる。改めて並べるとしょーもない理由ばっかだな。


「は、晴ちゃんを1人で暮らさせるのも心配だし…」

「扉のせいで変なの湧いてなかったか?」

「「その節は大変申し訳なく」」


 隼瀬おじさんは盛大にため息をついてずいっと身を乗り出した。


「そろそろ本当の、本来の理由を話しやがれ。」


 ピシッ、と両親が固まった。

 本当の、本来の理由?そんなものがあると?この気分次第でやりたい放題な両親に??


「隼瀬くん。近いうちに有給取れる?」

「何だ、藪から棒に。」

「大人の事情ってやつだよ。」


 隼瀬おじさんは何やら気付いたように鼻を鳴らすとニヤリと笑って頷いた。


「なるほどな。腹を括ったってんなら吝かでもない。明日にでも早速付き合ってやる。」

「それって私も行くべきかしら?」

「そこは呉羽ちゃんの気持ちで決めてくれて良いよ。私も雪雄さんも、呉羽ちゃんと隼瀬くんのおかげでここまで来られた、って感謝してるし信頼もしてるから。」

「それなら私も聞かせてもらうわね。」


置いてけぼりの私と唯は、顔を見合わせてため息をついた。どっちの親も、全く…。


「父さんも母さんも、僕たちに聞かせたくないなら今のみたいに匂わせもやめた方が良いんじゃない?」

「今は聞かない方が良い理由をちゃんと教えてもらえるなら、私たちだってこれ以上は…」

「あぁ、すまない!気を遣わせてしまったね。」

「ごめんね〜、雪雄さん、まだ晴ちゃんたちを巻き込む度胸がないのよ。」

「凪ちゃんだってそうでしょ?」

「否定はしないけど、知りたいなら知らせても大丈夫だと思う程度には信頼してるよ、だって私たちの子だもん。」

「凪ちゃんばっかりいいとこ取りしてズルくない?!」

「度胸ないのはホントでしょうが。」


 苦笑しながらとうさんのツッコミをいなすかあさん。うん、通常運転だわ。


「わかった。これ以上は首を突っ込まない。でも知らせても良いって、その時にはちゃんと教えてよ。」

「待たせてすまないね。でもいずれはちゃんと話すから、それまで待っててほしいんだ。」


 幾分ホッとした表情でとうさんが頭を下げて、本日はお開きとなったのだった。


 夕飯?もちろん、食べてないことにいち早く気づいたかあさんが、呉羽おばさんに平身低頭頼み込んで作っていただくことになった。筑前煮とひじきの炒り煮、豆腐と小松菜のお味噌汁、大変に沁み入りました。ごちそうさまでした。

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