46-3・切ない勇気
今日は土曜日。バスケ部は体育館で、弓道部は弓道場で、どちらも午前中に練習がある。校内にいる生徒は少ないので、待ち伏せて話をするチャンスだ。・・・と言えば聞こえは良いんだけど、「櫻花ちゃんと話さなきゃ」と「どうやって質問しよう?」に悩み、意識をし過ぎて挨拶すら満足にできなくなり、数日が経過して今に至る。
「よし!まだいる!」
駐輪場に自転車があることを確認してから校門前のベンチに座る。
ストーキングとか気持ち悪いとかゆーな!僕は僕で必死なんです!
でも、弓道部の人達と集団だったり、男子とツーショットだったらどうしよう?その時は「別の人を待ってるフリ」をしてスルーかな?様々なパターンを考え、特に理由も無くスマホを弄りながら、数秒おきに弓道場側をチラ見して待つ。
もう一度言う!ストーキングとか気持ち悪いとかゆーな!僕は僕で必死なんです!
「あれ、尊人?そんなところで何してんの?」
「ああ、ちょっとね」
おーちゃんは、弓道部の仲間達と一緒に歩いてきた。「声をかけられて気付きました」の演技をしたけど、実はだいぶ前から気付いていて、「集団だから、別の人を待ってるフリしてスルー」と決めてました。・・・だけど
「たまには一緒に帰ろっか?」
おーちゃんの方から寄って来てくれた。
「え?皆と一緒に帰らないの?」
「みんな、逆方向なの」
「・・・そっか。なら・・・うん」
内心はドッキドキなんだけど、素っ気ない演技をする。おーちゃんが仲間達と別れ、2人で自転車を走らせる。しばらく走っていたら、赤信号になったので自転車を止めて並んだ。ここまでの会話は、おーちゃんに一方的に話し掛けられて、僕は受け答えをしてるだけ。緊張しすぎて脳内が飽和気味で、「異世界の件」をどう切り出せばよいのか見当も付かない。
「ねぇ、尊人。時間ある?」
「・・・ん?」
「映画見に行こうよ」
「なんの映画?」
おーちゃんが提示をしたのは「野球とラブコメの漫画」を実写化した映画。僕等が小学校の時にアニメ化をされており、僕は「この主人公みたいな高校生活を送りたい」なんて憧れながら見ていた。まぁ、現実はそんなに甘くなくて、しかも、おーちゃんは「そのアニメのヒロインと互角なんじゃね」って女子になっちゃったけどね。
「うん、いいよ。その映画、僕も興味あった」
ライバルキャラが主人公より格好良くて、小学校時代のおーちゃんは「クラスの○○くんに似てる」なんて言ってたっけ?
実写版ではイケメン俳優が演じてるけど、「○○くん」には似ていないかな。
・
・
・
帰宅して着替えて、約束した時間に合流して映画館へ。おーちゃんと一緒に出かけるなんて、小学校の時にお母さんが同伴した時以来かな?
おーちゃん、ロンTと春っぽい色のロングキャミワンピースでコーデしてきた。露骨に解るような化粧はしてないけど、ちょっとだけ化粧してるかな?メッチャ可愛い。
これ、デート?周りの人達は、僕等をカップルと思ってるのかな?
僕の当たり障り無い格好については触れないでね。化粧なんてしないし、整髪料も付けず、髪を櫛で整えただけなんだけど、これで許してください。
映画は、まぁ、それなりに面白かった。厳密に言えば、ヒロインが可愛かったけど、おーちゃんの方が可愛い。主人公の俳優がダイコン。ライバル役の俳優の演技が大袈裟すぎる。アニメを欠かさずに見た「思い出補正」で、辛うじて楽しく見られました。
「主人公のイメージが違いすぎたね」
「ライバルもね」
「久しぶりにアニメを見たくなっちゃった」
「アニメの方が面白かったよね」
映画鑑賞の後は、併設された喫茶店で寸評会をする。おーちゃんの中では、イケメンなライバルキャラは「小学校時代の○○くん」のままなのかな?
「ねぇ、尊人」
浅い・・・と言うか、あらすじは全部知っているので、特に深読みが必要の無い感想が途切れたところで、おーちゃんが改まる。
「心ここにあらず・・・なんか、ずっとソワソワしてない?」
「・・・え?」
それは、おーちゃんが一緒にいて緊張してるから・・・と言いたいけど違う。映画の後半くらいには、この状況に慣れて、気持ちは落ち着いていた。せっかく、おーちゃんと一緒にいるのに、主人公にアプローチをする二番手ヒロインを、別の子に重ね合わせていた。
「尊人さ・・・好きな子いるでしょ?」
一瞬「どう答えるべき?」と迷っちゃったけど、嘘を答えたら、おーちゃんと該当の子の両方を裏切るような気がした。
「・・・うん。いる」
「そっか、やっぱりね。尊人、解りやすすぎるんだよね~」
おーちゃん、笑顔で「応援する」っていってくれた。でも、それって、「僕が誰を好きでも気にならない」って意味なのかな?
もし「おーちゃんが好き」って答えたら、どんな返答が帰ってきたんだろう?一ヶ月前の僕なら、そう答えただろうな。いや、恥ずかしくて自信も無くて、答えられなかったかな?
「そんなに解りやすいかな?」
「うん、解りやすいよ」
「誰が好きか解るの?」
「見てれば解るよ。あえて言わないけどさ」
なら、おーちゃんのことを好きだったのもバレてた?一途に好きだった頃は全然話す機会が無くて、別の子に意識が向いた途端にツーショットが果たされるなんて皮肉としか言い様が無い。
「尊人、最近変わったよね?」
「そう・・・かな?」
「うん、多分、隕石事件があってから。
逞しくなったっていうか、ちゃんと男の子っぽくなったっていうか・・・
こーゆー言い方は良くないんだろうけど、
徳川くんが意識不明になって、徳川くんと離れてからね」
智人と離れただけで、僕が変わったわけではない。でも、あの時期の僕の記憶に残ってる体験談が活きているんだろうな。
「吉見くんとか柴田くんとか津田くんを受け入れるようになって、
怖がらずに藤原くんや近藤くんと、話すようになって、
良い顔をするようになったって言うか・・・
『尊人の好きな子』が頻繁に尊人と一緒にいるのが理解できるんだよね。
徳川くんと一緒にいた時の穏やかすぎる尊人も嫌いじゃなかったけど、
今の、自信を付けた尊人も悪くないよ」
所々で智人の話題になるのに、おーちゃんは笑顔で話している。嫌な思い出が残ってるなら、もっと怖い顔になるはず。
「あのさ、トモのこと嫌いじゃないの?」
「急になに?」
「3年生になって、色んな人と話すようになって、
トモを敬遠してた人が結構いるのを知ったからさ。
『ずっとトモと一緒だから話し掛けにくかった』って言われちゃった。
ヒドクね?」
「好きも嫌いも、徳川くんと話したこと無いから、あんまり解んない」
「そっか」
その笑顔を見て確信した。おーちゃんは良い子だから「ちょっと嫌い」でも「嫌い」とは言わない。でも「あんなこと」があったのに、何とも思っていないわけがない。
おーちゃんには異世界の記憶が無い。やっと安心できた。吉見くんが言った「当たり障りのない世間話をしながら」は、こーゆーことかな?
その後、しばらく会話をしてから喫茶店を出て帰路に就く。僕の家は、おーちゃんの家の2つ先にある町内。おーちゃんとバイバイして、自宅に向かう。
「・・・あれ?」
急に寂しい気持ちになった。振り返ったら、僕を見送ってるおーちゃんが笑顔で手を振ってくれたんだけど、凄く遠くに感じた。
「ああ・・・そっか」
僕、好きな子がいて、それが「おーちゃんではない」って認めちゃった。小学校から続いた僕の初恋、気持ちを伝える機会が無いまま、終わっちゃったんだね。
・
・
・




