46-2・消去された記憶
数日が経過した。
智人がいない教室に、僕が仲良くできる人はいない。そう思って少し心配してたけど、隣の席の吉見くんが輪の中に呼んでくれた。いつも吉見くんと一緒の柴田くんも受け入れてくれた。彼等は、威張ったり率先して仕切ったりはしないけど、学年でトップクラスの秀才と、学年でトップクラスのスポーツマンの組合せ。要は「隠れ1軍」だ。僕がこんなエリートグループに所属しちゃって大丈夫なのだろうか?
「源君、僕に何かした?」
「ん?」
弁当を食べた後、柴田くんが隣のクラスの綿本さんに呼ばれて退席したタイミングで、吉見くんから質問をされる。
「何かってなに?」
靴を隠すとか、椅子に画業を敷くとか、その類いの「何か」だろうか?もちろん僕は、吉見くんに感謝はいっぱい有るけど恨みなんて無いし、もし恨みがあっても、そんなことをする度胸も無い。
「異世界の記憶・・・全部消したよね?」
「うん、僕以外の記憶は消したよ」
消したに決まってるじゃん。消えてなかったら、このクラス、めっちゃギスギスしてるよ。質問の意図が理解できないまま、吉見くんをガン見する。
・・・1秒・・・2秒・・・3秒・・・4秒・・・5秒経過
「えぇぇぇっっっっっっっっっっ!!!!!」
椅子に座ったまま仰け反って、後ろに倒れた。クラスメイト達が一斉に悲鳴とオーバーアクションに視線を向けたので、「ゴメン」と謝罪してから椅子に座り直す。
「なんで知ってんの?」
吉見くん、今、「異世界」と「記憶消去」を明言したよね?
「なんか知らないけど、シッカリと記憶が残ってる。
君の願いが叶わなかったのかと思って、
それとなく俊一や綿穂ちゃんに探りを入れたけど、2人とも完全に忘れてた。
生還したメンバーの記憶は残ってるのかと思って、
前の席の由井さんにも何となく探りを入れたけど、完全に忘れてるっぽい。
だからさ、君が僕の記憶を消さないような細工でもしたのかと思ってね」
「・・・・・・なんにも細工してません。
全員の記憶が消去されたと思ってました」
これは大事件だ。
「あ・・・あの・・・僕が真田さん抱き締めてコクったの・・・覚えてるの?」
「うん。もちろん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
全員の記憶を消すことを前提にしてたから、あんな行動を堂々とやっちまった。
「あの・・・源君?問題は君の破廉恥な行動ではないと思うんだけど」
「『破廉恥』は否定できないけど、恥ずかしくなるから『破廉恥』言わないで~」
「そこでパニクらないでよ。比較的どうでも良いところだからさ」
僕的には一世一代の行動だったのに、吉見くん的には「どうでも良い」んだ?ヒドクね?
「問題は、君が意図していないのに、僕に記憶が残ってることだよ。
生還したメンバー全員の記憶が残ってるなら話は早いんだけど、
そうじゃないから、僕の記憶が消去されていない法則が解らないこと。
僕と君以外は全員が忘れてるなら良いけどさ・・・
誰の記憶が残っていても不思議ではないと考えるべきだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
吉見くんに理路整然と説明されて、ようやくパニックが収まった。収まったけど脳内の混乱と動揺は続いている。
「真田さんは忘れてるっぽいけど・・・」
「他は?」
「輪島さんも忘れてるっぽい」
「他は?」
「解んないよ」
「沼田さんは覚えてるかな?」
「解んないよ」
吉見くん&柴田くん&真田さん以外とはロクに会話をしていないし、「記憶があるかも」なんて前提にしていないので、全く想像が付かない。
絶対に覚えていて欲しくないのは、真田さんと櫻花ちゃん。
ギューしてコクったことを真田さんが覚えていたら恥ずかしすぎて顔向けできなくなるけど、多分、真田さんの記憶は消去されている。
そうなると、残るはおーちゃんだ。
「どうやって確認すれば良いんだろ?」
唐突に「異世界で酷い目に合ったこと覚えてる?」なんて聞けるわけがない。「覚えている」と言われても困るし、話が通じなかったら「バカなのかな?」と思われそうだ。
「どうしよう?」
吉見くんは、当たり障りのない世間話をしながら、所々に「異世界の知識」を散りばめて、その単語に反応するかどうかを観察したらしい。
そんな高等テク、僕は無理です。どうやれば会話に違和感無く「異世界の知識」を散りばめられるか解らないし、それ以前に「当たり障りのない世間話」をできません。
「僕の席が織田さんの近くなら探れるんだけどね。
なんの接点も無いのに、いきなり話し掛けるのは難しいね」
吉見くんが一番知りたいのは「沼田さんの記憶」なんだけど、接点が無いので探れない。
「真田さんに記憶があれば、源君経由で探れるかと思ったけど無理っぽいね」
「ごめーん」
つい謝ったけど、「真田さんに記憶が無いこと」を僕が謝る理由は不明。
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