46-1・取り戻した日常
意識喪失者は、早くて1日、遅くても3日で元気を取り戻し、それぞれが1日間の経過観察を経て退院をした。
ただし、智人だけは、ずっと眠ったまま。危険な状態ではないんだけど、目を覚ます気配も無いらしい。
僕等は3年生になった。春休み明けの初日、下駄箱で靴を履き替えていて、生徒玄関を通過した櫻花ちゃんと遭遇する。相変わらず、一分の隙も無いほどに可愛い。
「おはよう、尊人」
「おはよう。聞いたよ。春休みの弓道の大会、本調子じゃなかったんだってね」
「病み上がりだったからね。仕方ないよ。次は頑張るから、応援に来なよ」
「・・・暇だったらね」
「応援してくれないの?中学の時のバスケの大会、応援に行ってあげたのにさ」
「まぁ・・・それは色々と・・・」
緊張するけど、以前よりはおーちゃんと会話できるようになった。・・・まぁ、あくまでも会話できるようになっただけ。例えば今の話題で、「その試合、僕は出場してないよ」とか「スタメンの○×君の応援に来たんでしょ」とツッコミを入れるべきなのか、スルーで正解なのか、僕には解らない。
「じゃ、先に行くね」
同じ教室に行くんだから待つのが正解なのかもしれないけど、並んで歩くなんて恥ずかしくてできないので、1人、早足で教室に向かった。
隕石衝突による校舎のダメージは大したことが無いらしい・・・が、さすがに春休み中に復旧されるほど軽傷でもなく、しばらくは別棟の多目的室が僕等の教室代わりになる。
「あっ、おはよう」
「・・・・・・・・・・・・・」
隣のクラスの輪島さんと遭遇したので挨拶をする・・・が、怪訝そうに僕を見て、会釈だけを返された。
しまった。今の輪島さんにとって「僕は隣のクラスの知らない人」でした。あの世界で共同生活をしていた時のノリで挨拶をしてしまった。彼女が命を賭して僕と真田さんを庇ってくれた。凄く感謝してるし、申し訳なく思っている。でも、そのお礼や謝罪を言う機会は無いんだよね。
「ありゃりゃ?源くんって、もしかして輪島さんが好きなのぉ?」
甘えた感じのアニメ声が聞こえたので振り返ったら、直ぐ後ろに由井さんが立っていた。
「あっ!おはよう、由井さん」
戦友との再会が嬉しくて、笑顔で挨拶をする。
「んぉ?源くんって、もしかしてァタシが好きなのぉ?」
「はぁ?何で急に?」
「だって、源くんって女子に気軽に挨拶するタイプぢゃなかったぢゃん。
3年生になってプレーボーイデビューしたの?」
「・・・デビューしてない」
これはヤバい。「あの世界で当たり前にやってたこと」をしただけなのに違和感を指摘された。過去の僕って、そんなに無愛想だった?もう少しコミュ障にしとかなきゃマズいらしい。
教室に入って、窓から2列目で最後尾の自分の席へ。3年生になったので、席は名簿順になっている。
「あっ!尊人くん、おはよう!」
右隣の前側(長野さんの席)で友人たちと一緒にいた真田さんが寄って来た。席順リセットで、もう彼女とは隣同士ではない。
「ちゃんと宿題やった?」
「うん、まぁ、それなりに」
春休み中の補習が無くなった代わりに、僕等のクラスだけ、宿題が他のクラスの1.3倍ほど多かった。宿題多いのに、仕切り直しの補習は夏休みに計画されてるらしい。なんか、僕等だけ損してない?
「追加になった数学の宿題、習ってないよね?ちゃんとできた?」
「習ってないっていうか、習った部分の応用だからね」
「答え合わせさせてよ」
「まぁ・・・良いけど」
以前の僕は、「友達(上杉さん&沼田さん&長野さん)に見せてもらいなよ」と思っていたけど、今は「専属の数学教師」になれることが嬉しい。
机の上にカバンを置いて、宿題プリントを引っ張り出して真田さんに渡す。
「うわちゃぁ~~・・・・答え、全然違う。
てゆか、公式の時点で全然違う」
「見せて」
僕の解答が間違っている可能性も有る。プリントを見比べたら、僕のプリントには経緯の計算が5行もあるのに、真田さんのプリントでは2行しか無い。「僕の答えが正解かどうか」以前に、真田さんは問いへのアプローチを完全にミスっているのだ。
「丸写ししても自分のためにならないからさ、まずは授業の答え合わせで聞いて、
それでも納得できなかったら、放課後に勉強会しようよ」
「教えてくれんの?」
「真田さんが望むならね」
彼女からはもう一回好きになってもらいたい。だから、「少しでも親密になれるチャンス」は逃さない。
「早璃と勉強会?私も混ぜてよ」
「源くんってそんなに積極的だったっけ?」
「3年生になってデビューしたの?」
異常(?)を察知した上杉さん&沼田さん&長野さんが寄ってくる。
「・・・デビューしてない」
「源って、こんなに優しかったっけ?」
「知らなかったの?尊人くんは優しいよ」
「ぼ、僕・・・やさしくない・・・です」
なにこれ?なんで、僕は女子4人に囲まれてる?真田さんとのマンツーマンなら意識せずに会話できるけど、プレイボーイデビューはしていないので4対1はキツい。
「源ぉ!俺等にもプリント見せてくれよ」
遠藤くんと加藤くんがプリントの束を持って寄ってくる。彼等は真田さんみたく「苦戦したところだけ」ではなく、ほぼ白紙のプリントに僕の答えを丸写しする気が満々だ。
「宿題、やってないの?」
あの世界で経験値を積んで一定の自信を付けた今でも、威圧的に接してくる彼等のことは苦手だ。
「病み上がりで、宿題に集中できなくてさぁ~」
それは言い訳。病み上がりでも、やる人はちゃんとやっている。だけど、キッパリと言うことができない。
「英司(遠藤)、奏太(加藤)、
みっともねーから、やってこなかったなら往生際悪くすんな」
教室に入ってきた藤原くんが、遠藤くん達を睨み付けながら僕の隣を通過する。
「朝から盛ってんじゃねーよ、中坊共」
「あたしは高校生だっての!」
藤原くんが真田さんを中学生扱いして、真田さんが反発するのは見慣れた光景。でも今、「中坊共」って言った?僕も中坊扱い?
「英司、奏太、勢いだけで調子良くしてられんのは、あと1年しかねーんだぞ。
そのまんまじゃ、スクールカーストが無くなった途端にオメー等は源に負ける。
それが嫌なら、今のうちに、もう少し中身を磨いておけ」
「はぁ?俺等が、このヘタレに?」
「何言ってんの、史弥?」
藤原くんが席に座ったら、遠藤くんと加藤くんが「いかにも取り巻き」って雰囲気を出しながら寄って行った。藤原くんの席は、僕と同じ列の前から2番目。大きい背中のせいで黒板がちゃんと見えなくなりそうなので、早く席替えをしてほしい。
「オメー等、ダッセーな」
「宿題くらい自力でやれっての」
窓側の一番前の席に集まっていた武藤さんと安藤さんが、遠藤くん達を注意する。以前なら、安藤さんも遠藤くん達と一緒になって「宿題見せろ」をしてたけど今はその素振りは無い。
「睦姫と愛美はやったのかよ?」
「オメー等とは違うんだよ。昨日一緒にやったよ」
「まぁ・・・6割白紙だけどな」
武藤さんと安藤さん、以前は「上下関係がある」って感じで、安藤さんが少し卑屈に思えたけど、なんか、今は凄く仲良しに感じられる。春休み中になんかあった?
後日、安藤さんが退院した直後に、武藤さんの提案で「一発ずつ殴り合って親睦を深めた」って噂を聞いた。何それ、最近の女子は拳で語り合うの?野蛮すぎね?もちろん、ただの噂なので真相は解らないし、確かめる気も無いけどね。
ちなみに、近藤くんは宿題云々など「我関せず」と言わんばかりに、自分の席で机に伏して寝ている。
あの世界では、平家さんと北条くんはメッチャ仲が良かった。今は名簿順の都合で、平家さんの直ぐ後ろが北条くんなんだけど。一言も話していない。ゴメンね。あの世界での人間関係の構築は全部リセットしちゃったから「メッチャ仲良し」が無かったことになってしまったね。
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