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智人-17・新たな世界へ

「現実から逃げるなっ!責任から逃げるな!この卑怯者がぁぁっっっっっ!!」


 そう言い残して、尊人ミコは消えた。千幸せんこう高校の連中は、皆、現実世界に帰った。


「ムカ付くっ!」


 部屋の中央、砕けた床の隙間に石突きをネジ込んで、「ここは制圧した」と主張するかのように奴等の旗が立ててある。凄く目障りだ・・・が、倒す気力も湧かない。


「くそっ!・・・尊人ミコのヤツ」


 顔面に思いっ切り頭突きをされた。直撃を喰らった鼻が痛すぎて涙が出る。


「・・・勝手なことばかり言いやがって」


 俺は武皇チートだ。徳川智人の名は捨てた。それなのに、ヤツはずっと「トモ」と呼んでいた。あの甘ちゃんは、俺を殺そうとせず、「一緒に死ぬ」と言って、共に帰ることを望み、最後まで甘い考えを通しやがった。


「アイツじゃ、この世界では生き抜けない。

 あんな説教臭いヤツ、リアルワールドに帰って清々した」


 俺はリアルワールドには帰れない。「傷付け、死に追いやったクラスメイトの恨み」が怖いからではない。俺を蔑ろにする世界なんて、戻る価値が無い。俺は、俺の価値を上げられるモーソーワールドで生きると決めたんだ。


「ミコのバカっ!」


 他の連中なんてどうでも良かった。だけど、尊人ミコだけには認めて欲しかった。尊人ミコだけがいれば良かった。一緒に、この世界で生きたかった。真田がミコを籠絡しなければ、藤原がミコを支配しなければ、アイツは穏やかなお人好しのままだったはずだ。


「俺達の理想郷を作れたんだぞ」


 涙が溢れてくる。悲しいからじゃない。ミコのバカに、思いっ切り鼻に頭突きされたせいだ。もう痛みは治まっているのに、涙が止まらない。


「どこで間違えちゃったんだよ?」


 城の外では、まだ戦闘が続いている。脱力気味に歩き、武皇として振る舞う為に玉座に座る。兵達に情けない顔は見せたくない。威厳を保つために涙を拭うが、直ぐにまた溢れてくる。



「武皇チート!」


 声がしたので眼を開けたら、正面に北勇者ブラークが立っていた。


「アンタか」

「ミコト達は?」

「あまりにもウザすぎたから、生きたままリアルワールドに帰ってもらった」

「そうか・・・勝ったのだな」

「勝たせてやったんだ」


 俺が座ったままで臨戦態勢にならないからだろうか?北勇者が向かってくる気配を感じられない。


「それで?オマエはどうする?敗北してもなお、その椅子にしがみつくか?」

「武皇の座など、もう、どうでもいい」


 俺の可能性を示せれば良かった。登り詰めた時点で価値は無い。贅沢なんて飽きているし、俺の才能が有れば、どこに行っても贅沢はできる。


「アンタ、秘境者だったのかよ?」

「楽山来武・・・それが、俺が捨てた名」

「ミコのヤツ、無関係なアンタの富醒を切り札にしやがった。アレは反則だ」

「それも、この世界の理。ミコトは与えられた力を存分に使って勝った。

 オマエが認める認めないに関係無く、勝ちは勝ちだ」


 北勇者は、踵を返して立ち去ろうとする。


「おいおい、武皇の眼前まで来て、交戦せずに撤退かよ?」

「オマエが、玉座にしがみつくなら討つつもりだった。

 ・・・が、その気は無さそうだからな」

「俺は、北都市ノスのゴククア公の仇だぞ」

「恨みはある。だが、ミコトに免じて見逃す。

 彼は、オマエを討たずに去ったのだろうからな」

「また・・・ミコかよ」


 尊人ミコは無意識だろうけど、キッチリと置き土産をしやがった。北勇者と交戦をして勝つ自信はあるが、「交戦せずに去る」と言いきった時点で、俺と互角に戦える者はいなくなったのだ。


「権力への興味が失せたなら、冒険者となって外地に行くことを勧める」

「なに?」

「勇名を欲するなら外地で稼げと言っている。

 オマエの富醒があれば、未開の地を幾らでも切り開けるだろうからな」


 未踏の世界に足を運び、民が知らないモンスターを平らげ、内地拡幅の礎を作るということか。内地の王は愚か者でも務まる。だが、新天地への到達は選ばれし者にしかできない。


「それも悪くないな。だが、大業を成すには、相応の相棒が欲しい。

 アンタはどうするんだ?

 いつまでも、地方の騎士団として燻り続けるつもりか?」

「北と西の同盟が成立した時点で去るつもりだったが、ミコトに引き留められた。

 だから、この国が新なる体制を構築するまでは見守る。

 だが、そこで俺の北都市ノスでの役割は終わる」

「ミコト・・・ミコト・・・ミコト・・・アンタはミコの信者かよ?」

「オマエほどのミコト信者ではない。だが、彼のことは気に入っている。

 だから、彼が尊重した者は、彼に変わって見守ろう」

「・・・ふんっ」

「組みたいのならば付いてこい。ほとぼりが冷めるまで匿ってやろう」


 北勇者が謁見の間から立ち去っていく。俺は、玉座から立ち上がって振り返り・・・少し名残惜しいけど、王冠を外して玉座に置いた。


「シリーガルとバクニーくらいには挨拶をするべきかな?

 まぁ・・・今更って感じだし、スルーでいいか」


 内心では「これからどうしよう?」と思っていた。俺を討ちに来たザコ共を片っ端から倒すのは簡単だが、キリが無い。兵を全滅させてしまったら、その後、どうやって国を治めれば良いのか解らない。国のトップなんて面倒臭い。気ままに旅をする方が俺に向いている。


「おいっ!サッサと行くなっ!俺を匿うんだろっ!」

「そう思うなら、のろくさとするな」

「それとあと、横柄な口調を何とかしろ!」

「そう思うなら、先ずはオマエが態度を改めるんだな」


 俺の富醒があり、頼れそうな相棒がいて、オンラインゲームのノーロピアンワールド・アクションで養った経験と知識があれば何とかなるだろう。


 まだ第1章が終わっただけ。最強の冒険者チートの真の伝説は、ここから始まるのだ! 

 一般論で考えれば尊人達の考えが正しい。だけど、一般論を受け入れられないタイプもいる。

 例え自分以下ばかりの向上心が必要無い世界だとしても、智人にとっては、現実に帰るより異世界の残って承認欲求を満たせる方が幸せだった。こればかりは個人の価値観なので、他者には強要できない。

 受け入れがたい選択だけど、環境の変化、力の獲得、全てが他人任せでは無く、自己責任で選ぶだけでも、まだマシだと思う。

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