45-5・ALIVE
「いやだっ!あたしも忘れたくないっ!
尊人くんばっかり覚えてるなんてズルいっ!」
〈願いを叶えよう。さぁ、リアルワールドに帰るが良い。
次に眼を開けた時、モーソーワールドの記憶はキミだけの物になっている〉
喋る光が断言をした直後から、僕等全員の体が白い靄に包まれて、キラキラと輝く。脱落をした仲間達と同じ、異世界での仮の肉体が維持をできなくなったのだ。
「これでまた疎遠になっちゃうのは寂しいけど・・・仕方無いよね」
司、楠木くん、北条くん、長野さん、上杉さん、平家さん、菅原さん、前田さん、我田さん、若林さん、和田さん、龍造寺先生、次々と半透明化をして消えていく。由井さんは元気良く手を振りながら、武藤さんは格好良く敬礼みたいなポーズをしながら、吉見くんは笑顔でサムズアップをしながら消えた。
「いやだっ!いやだっ!いやだっ!」
肉体が消えた瞬間に記憶も消える。目の前で真田さんが消えることを拒んでいるんだけど、徐々に半透明になっていく。
「自分に自信が付いたらコクるからさ。
もう一回、真田さんに好きになってもらえるように頑張るからさ。
それで許してもらいたいな」
「尊人くんのバカァァッッ!!」
真田さんが勢い良く飛び込んできた。真田さんの顔が僕の顔に近付く。そこで、真田さんの姿も消えた。
「・・・・・・・・・え?」
もう真田さんの姿は無いんだけど、唇に真田さんの柔らかい感触があった様な気がする。
僕の全身が光りに包まれ・・・
眩い光の洪水が押し寄せて眼を開けてられなくなり・・・
〈キミの願いは叶えた
・・・が、ボクはキミに殴られたことを帳消しにするつもりは無い〉
最後の最後で、喋る光の意味深な言葉が聞こえたような気がした。
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次に眼を開けた時には、僕は、外窓に巨大隕石が突っ込んだ教室の、廊下側の壁に凭れ掛かっていた。教室内に充満している青い靄は、もう無い。
これで、モーソーワールドで起こったことは、僕の脳内だけに存在をする妄想になった。
「全部・・・終わったんだね」
相変わらず、真田さんが僕の上に覆い被さっている。真田さんの温もりを感じる。あの世界では、真田さんと密着して体温を感じることが何度もあった。でも、あれは僕の妄想にしてしまった。
ホントはしばらく抱き締めていたい。真田さんの唇に触れて、僅かに僕の唇に残った感触の正体を確かめたかった。
でも、それではただの変態になってしまうので、捲れ上がってるスカートを元に戻してから真田さんの名を呼ぶ。
「真田さん・・・起きて」
「・・・んんっ」
意識を取り戻した真田さんと目が合う。
「わぁぁっっっ!!尊人くんっっ!!!」
真田さんが飛び起きて僕から離れる。三度ほどリターンを使って真田さんと一緒に現実世界に戻ったけど、真田さんからその記憶は消えて「今が初めて」になってるんだから、当然こうなるよね。
「なんで尊人くんと抱き合ってるの?」
「隕石が突っ込んできて、僕と真田さんは一緒に吹っ飛ばされたからね」
「隕石?そう言えばそうだったっ!
わっ!わっ!なにこれっっ!!?」
周りの状況に気付いた真田さんが言葉を失う。
倒れているクラスメイト、半壊した教室、壁にメリ込んだ隕石。僕だけには見覚えのある光景だ。
少し心配だったけど、真田さんには「この光景が初見」と伝わり、「記憶消去」が成立したことを確信して安堵をする。
「さて、どうしよう?」
「この状況でよく生きてたよな」
「こりゃひどいね。補習、どうなっちゃうんだろ?」
「補習どころじゃねーだろ」
吉見くん、武藤さん、由井さん、司・・・生き残ったメンバーが意識を取り戻して立ち上がり、教室の惨状を眺める。
隣のクラスでも声と音が聞こえた。多分、我田さん達が意識を取り戻したのだろう。
瓦礫の隙間を通って、龍造寺先生が様子を見に来た。奇跡的に無傷で動ける生徒は、僕を含めて16人。龍造寺先生が中心になって、倒れているクラスメイト達の安否確認をしていたら、他の先生達が集まってきた。「崩壊した教室に生徒を残すのは危険」と判断され、僕等16人と、校内にいた「あの世界」とは無関係の生徒達は、グラウンドに追い出される。
やがて、何台もの救急車が来て、「先生2人」と、櫻花ちゃんや藤原くんを含めた「意識を喪失させたままの生徒32人」が病院に搬送された。
僕だけは知っている。瀕死状態になっている2人の先生と31人の生徒は無事。何日後になるかは解らないけど、目を覚ます。決して目を覚まさないのは1人。穏やかな仮死状態の徳川智人だけが、眠ったまま起きない。
「ありゃ?源くん泣いてるの?
奇跡的に、だーれも死んでないんだから、泣かなくてもイイぢゃん!」
事情を知らない由井さんが寄って来て、泣いてる僕の顔を覗き込む。あの世界にいた時なら、ウジウジしている僕に声をかけるのは、真田さんか吉見くんだった。でも、疎遠になってしまった現状では、2人が寄って来ることは無い。
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言うまでも無く、春休み中の補習は全て中止になった。
意識を喪失させた先生2人&生徒32人は幾つかの病院に分けられて入院をする。
生還者の僕等17人も医者に連れて行かれて、念の為に検査を受けたけど、心身共に異常無し。その日のうちに帰宅をした。
そして、この出来事は「48人の生徒と3人の先生が巻き込まれた事件」ではなく、「予測できなかった隕石が千幸高校の校舎に衝突して生徒1人が意識不明になった痛ましい事故」として処理をされる。
尊人の願いは、一見すると無欲で皆のためなんだけど、モーソーワールドでの経験は自分だけの物、初恋への恩と罪悪感はチャラ、新しく好きな子ができたので猛進します・・・なので、実はそこそこのエゴを通している。




