45-4・願い
「おーちゃんの分っ!」
殴ろうとしたけど、僕を助けてくれた時の櫻花ちゃんの笑顔を思い出して拳が止まる。
おーちゃん、コイツが撲殺されることなんて望んでるのかな?僕がやってることって、「力を持った者が短絡的に行使する」と変わらないよね?おーちゃんだったら、もっとマシな願いを叶えるに決まっている。
途端に今の自分が愚かに思えてきた。
「もう・・・いいや」
拳が痛いけど、殴るのを止めたのは、それとは別の理由。
「今のお願いをキャンセルして、別のお願いにできますか?
ダメなら、このまま貴方を撲殺しますけど」
もちろん、ムチャクチャな脅しをしているって自覚はある。
〈承知した。特別に認めよう。
願いを提示したまえ。
リアルワールドの常識の範囲内の願いならば、何でも叶えよう。
知能、運動神経、金、容姿、権力、君は何を欲する?〉
撲殺は嫌らしく、光る人型は直ぐに特例を認めて喋る光に姿を変えた。
「おいおい、撲殺するって豪語してたくせに、数発殴って終わりって・・・
尊人のヘタレっぷり健在だな」
すかさず、武藤さんからのツッコミが入った。
「でも、野蛮なのは源君らしくないよ」
吉見くんは僕の判断を支持してくれる。
「うん、これくらいヘタレで穏やかな方が、ミナちゃんらしくて安心できるよ」
由井さんの言葉が悪口なのか褒め言葉なのかは、ちょっと解らない。
振り返って、生き残った仲間達を眺める。ドン引き中だったり、呆れ顔だったり、笑ってたり・・・色んな顔で僕を見つめてくれている。
「大金をゲットしたらおごれよ!」
「権力を得るなら、№5くらいの椅子を準備してくれ」
「イケメンになったら誘惑して良い?」
「今のうちにサインをもらっておこうか?」
それぞれが、僕が願いを叶えた先の未来を想像している。
つい逆上をしてしまったけど、僕の叶えたい願いは、既に決めてある。「何を叶えるか?」は反対されると困るから誰にも言ってないけど、「知能、運動神経、金、容姿、権力」ではないことは、真田さんには伝えてある。
「・・・真田さん」
願いを叶える前に、どうしても真田さんに伝えておきたいことがあった。
「尊人くん?」
真田さんに近付いて抱き締める。
「えっ?」
真田さんが寄り添ってきたり、抱き締めてもらったり、おんぶをしたことはあったけど、正面から抱き締めるのはこれが初めて。
「真田さん。僕、君が大好き」
真田さん、驚いてる。でも、最初の数秒だけ体を硬直させていたけど、直ぐに力を抜いて、僕の背中に手を廻してきた。
「えへへっ・・・嬉しい。あたしも、尊人くんが好き」
多分両想いってのは、以前から何となく想像していた。そして、約束が無いまま真田さんの特殊能力を貸してもらえたことでハッキリと確信した。
時には導となり、時には足元を照らして、真田さんはずっと僕の光だった。真田早璃がいなかったら、方向性を見失うか、とんでもない落とし穴に落ちるか、どう頑張っても、僕は最後までは戦い抜けなかっただろう。
感謝の言葉だけじゃ足りない。「大好き」以上に表現できる言葉を思い付かない。
「僕さ・・・現実世界に戻ったら、前よりももう少し頑張るね」
「尊人くんはいつも頑張ってるよ」
「もう一度、真田さんに好きになってもらえるように頑張るからさ・・・」
「今でも尊人くんのことを・・・」
「だから・・・好きなままでいても良いよね?」
「え?なにそれ?」
最高の勲章をもらえた。これでもう思い残すことは無い。真田さんから離れ、振り返って、願いを伝えるために喋る光を見つめる。
「モーソーワールドで体験した記憶を・・・独り占めさせてください」
50人の記憶から消す場合は、50個の願いが必要になってしまう。それでは却下をされてしまうから、「50の記憶を消す」ではなく「僕だけが独占する」って言葉を使った。
〈無欲だな。そんな些細な願いで良いのか?〉
「叶えてもらえるんですね?」
仲間達は驚いている。「勝ち組になれる願い」を独占しないんだから、驚いて当然だよね。
でもね、身の丈に合わない願いなんて要らない。僕は僕のままが良い。少し手を伸ばせば大切な仲間達に届く今の場所が良い。中身が伴わない力が破綻するのは、あの世界で学ばせてもらった。
「皆がちょっとずつ得をする代わりに、皆がちょっとずつ我慢をするお願いだよ」
「源君!君だけが辛い記憶を背負うつもりなの?」
心配しなくても、吉見くんが言うような重たい物を背負う器なんて僕には無い。
「僕が背負うのは、智人が別の世界で元気にしてるって記憶だけ」
これで、皆の記憶からモーソーワールドの出来事が消えて、皆が日常に戻れる。柴田くんや藤原くんの無念、目黒くんの裏切り、安藤さんの疑心暗鬼、全部無かったことにする。櫻花ちゃんや菅原さん達の心の傷も、全部消し去る。
僕は、心に傷を負ってしまった櫻花ちゃんを支えるつもりだった。でも、全部の記憶が無くなってしまえば、おーちゃんは、いつものおーちゃんでいられる。
「ちょっと待ってよ!
そんなお願いをしちゃったら、あたしの中にある『尊人くんとの思い出』が
全部消えちゃうじゃん!」
真田さんが僕の正面に廻り込んで、不満を爆発させて食い下がる。
「うん、ゴメンね真田さん」
全てを無かったことにすれば、櫻花ちゃんの心の傷も消せる。皆から重い記憶が消えれば、僕は、堂々と、本当に好きな人に気持ちを向けられる。
これは、僕にとって最高の願いだ。




