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46-4・一歩ずつ

 週に1回、智人トモに家にお見舞いに行く。お母さんの案内されて、ベッドで穏やかな表情で眠ったままになっているトモを見つめる。顔色が悪くなってないってことは、きっと、今も元気にしているんだろうな。


「ねぇ、トモ・・・早く帰ってきなよ。お母さん、待ってるよ。もちろん、僕も」


 トモのことは許していない。許せるわけがない。だから、トモが起きたら、思いっきり文句を言ってやりたい。


「智人、ずっと寝たままなんだけど、時々笑うのよ。

 楽しい夢でも見ているのかしらね?」


 トモのお母さんが教えてくれた。


「きっと、夢の中で大活躍してるんですね」


 あっちの世界で楽しくやってるっぽい。 


「君だけが特別扱いされてるなら、その気になれば帰ってこられるんでしょ?」


 陽ちゃん(吉見)に言われた。「異世界で生きることを選んだ智人トモの意思は尊重するべき」「善意の強制は迷惑になる。トモが僕に仕向けていた行為と変わらない」と。


「陽ちゃんの言う通りなんだよね。

 トモが、異世界で生き甲斐を感じてるなら、僕には『戻れ』とは言えない。

 ・・・でも、やっぱり、目を覚ましたトモに会いたいよ」


 今は週1回は来ているけど、受験勉強が忙しくなったら、来る頻度は減っちゃうのかな?進学して県外に行ったら、年に数回しか会えなくなるのかな?先のことは解らない。でも、いつまでも、このままじゃいられないことは解っている。


「早く起きないと、トモだけが置いて行かれちゃうよ」


 トモのことを忘れるつもりは無いけど、僕は「今」を過去にして、未来に進まなきゃならない。



 放課後に15~20分程度、「僕が真田さんに数学を教える」「真田さんから英語を教えてもらう」「勉強をしながら軽い雑談を楽しむ」、始まりはその程度だった。

 沼田さんと上杉さんが同席するようになり、長野さんも参加をして、その話を聞きつけた陽ちゃん(吉見)が「源君グッジョブ!」と言って加わり、いつの間にか、日曜日に市立図書館に集まる勉強会になっていた。


「うーん・・・男子2:女子4、ちょっとパワーバランスが悪いかな」

「陽ちゃんが加わる前は1対4だったから、僕はだいぶ気が楽になったけど」


 陽ちゃんが「女子のパワーに押されっぱなし」「男子を増やしたい」と言って俊くん(柴田)を呼んだ。そしたら、隣のクラスの綿本さんまで付いてきた。・・・しかも


「疲れたっ!ちょっと休憩してくる」

「俊一、もう少し真面目にやんなよ」

「部活で疲れてるんだから仕方無いだろ」

「昨日の部活で、まだ疲れてんの?

 あたしや尊人くんだって、部活してるよ」


 あんまり勉強が得意ではない俊くんは、直ぐに「休憩」と言ってどこかに行ってしまう。結果、男子2:女子5。策士・吉見陽輔の画策は、アッサリと崩壊・・・というか悪化して、「女子のパワーに押されっぱなし」のまま勉強会は続く。


「早璃ちゃんって前から源君のことを『尊人くん』って呼んでたっけ?」

「うん!だいぶ前から呼んでるよ」

「だいぶ前から呼ばれてるね」

「そっかぁ~・・・なんか違和感があったんだけど、私の気のせいだったね」


 唐突に沼田さんが「今更、何言ってんの?」って質問をしてきた。もしかして沼田さんって天然?


「この文法は『will have』があって未来完了だから・・・」

「ああ・・・そっか」


 真田さんから英語を教えてもらう。僕は、英語と化学が苦手。アルファベットを記憶する回路がぶっ壊れているのだろうか?「未来」なのに「完了」って言われてもワケが解らない。

 だけど、どの方向に進学するとしても、英語は必須。苦手だからってスルーはできないのだ。


「どう?わかった?」

「うん、ありがと」

「自信付いた?」

「さすがに、この文書が解っただけで自信にはならないよ」

「そっかぁ~。早く自信付けなきゃね」


 数学だけは僕が得意だけど、他の教科は真田さんが優れている。つまり、総合偏差値では真田さんが上。

 追い付きたい。「真田さんが志望する大学に、僕は全く届かない」は避けたい。


「いや・・・可能ならば秋までに追い越したい」


 真剣な表情の真田さんを見つめる。



「尊人くん、志望校は決めた?」

「第1志望は○○大の理工学部だよ。

 力石先生からは、今の調子で頑張れば届くって言われた」

「わぁ、すご~い!」

「真田さんはどうすんの?」

「○○大の理工学部はチョット厳しいかも」

「他の学部ならどう?」

「行きたいのは教育学部か外国語学部なんだけど、○○大にあるかな?

 あっ!あった!この偏差値なら、もう少し頑張れば行けるかもっ!」

「来春には一緒に○○大に入学できるように、お互いに頑張ろう!」

「うんっ!」


 僕に付いてこい!この展開がベスト!・・・なんだけど、真田さんから「ジェンダーレス」とツッコミが入りそうだな。



 僕が後追いした方がイイのかな~~?


「みことく~ん?」


 でも、なんか格好悪いかな~~~??


「みことくんってばっ!」

「・・・ん?」

「あたしの顔になんか付いてる?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 至近距離で僕を覗き込んでいる真田さんと、バッチリと眼が合っている。


「なんか付いてるんじゃなくて、早璃に見取れてたんでしょ?」

「源君、勉強会の最中に発情するのはやめなよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 長野さん、陽ちゃん、沼田さん、上杉さん、綿本さんがドン引きした眼で僕を見ている。


「・・・申し訳ありません」


 見取れていました。発情はしていないけど、同じ大学に行って、近所に住んで頻繁に行き来をするような、疚しいスクールライフを妄想していました。


「疲れてボーっとしてた。チョット休憩してくるね」


 恥ずかしくなって退席をする。図書館の外に出て、自販機でお茶を買って、入り口前の木陰のベンチに腰を下ろす。お茶を2口飲んで一息つき、両手で頬を叩いた。


「シッカリしろ、僕!こんなんじゃ、いつになっても真田さんにコクれないぞ!」


 勉強してるのは僕だけではない。当たり前なんだけど、真田さんも頑張ってるんだから簡単に追い付けるわけが無い。


「あたしが何だって?」


 振り返ったら真田さんが立っていた。寄ってきて、僕の隣に座る。今の独り言、聞かれちゃったかな?


「『真田さんに追い付かなきゃ!』って気合い入れてたの」

「へへへっ!あたしは強敵だぞ~!追い付けるかな~?」


 簡単にトップクラスに立てる異世界を拒否して、頑張ってもなかなか上がれない現実世界を選んだのは僕自身。それなりの覚悟をして戻ってきたつもりだ。


「真田さんに追い付いて自信にするの。

 だからさ、僕が追い付くのを待ってて。もちろん手抜きは無しだよ」


 真田さんは僕を尊重してくれる。真田さんと一緒にいると、僕は無理をしない自然体のままで、でもちょっとだけ無理をする自分を楽しめる。


「うん、解った。超頑張って、尊人くんをブッチギリながら待つね」

「・・・ぶっちぎっちゃったら追い付けないよ~」


 結局、陽ちゃん以外で、誰に異世界の記憶が残っているのか、ハッキリとは解らないまま。

 でも、もうどうでも良い。異世界での実績や関係構築なんて拘らない。僕は真田さんに追い付いて、同じ土俵で夢を語れるようになったら気持ちを伝えるって決めている。


「さてっ!休憩終わりっ!勉強に戻ろっか!」


 真田さんが迎えに来たのに、いつまでも休憩に逃げるわけにはいかない。それに、真田さんのおかげで、ちゃんと気持ちの切り替えができた。ベンチから立ち上がって館内へと向かう。


「でもさ、尊人くん。自信付けてどうすんの?」

「それ、聞く?気付いてよ、鈍感」

「サッサと自信付けて言葉にしろよ、朴念仁」

「なんか言った、真田さん?」

「『頑張ってね』って言ったの」


 なかなか思い通りにはならない。承認欲求を得るための「頑張ったフリ」は見透かされる。だけど、ホントに頑張れば、ちゃんと見て評価してくれる人がいる。


 僕は、厳しいけど、深くて暖かいこの世界が好き。

 尊人と智人をメインにしたストーリーはこれで終了。

 本作の1年後になるストーリーを作成しています。しばらくは『妖幻ファイターゲンジⅠ』の続編となる『妖幻ファイターゲンジⅡ』を投稿して、その後に『モーソー転移・完結編』を投稿します。

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