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術師の掟  作者: 桐 箪笥
術師の掟
8/12

08.術を統べろ


「はぁー座学だるい」

旅神党等は深いため息をついた。

掲示で班が発表されてからというものの

基本的に班ごとの行動が義務付けられた。

今日の座学も班ごとに席が配置され、

聴講することになっている。

「剛、今日って何やるんだっけ?」

「術師概論の続きか?ほら、術師迫害の歴史から反乱、研究所の沿革までザーっとやったろ?」

「そうだっけ?覚えてないや」

旅神のとぼけた表情に今度は南雲がため息をついた。

「お前今日はちゃんと起きておいた方がいいぞ。今日の教授はおっかねーらしい」

そんな2人のやりとりを泰山幸と真門士郎は黙って聞いていた。


講義室の横開きの扉がガラガラと開き、少し猫背の長髪の男が入ってきた。

針山訓示は術師右派と噂される

教授だった。メガネの奥から覗く細目は神経質そうに教室を見渡した。

静まった研究生たちを確認すると口を開いた。


「よろしい。お前たちは軍人だ。今のうちに、上下関係というというものをしっかり頭にいれておくことだ。作戦遂行のために、誰に指示を仰ぎ、自らがどう役割を果たせるか、考える」

研究生たちは講義室の空気が鉛色になっているような心地がした。

「軍では上の指示は絶対だ。そのため」

言いかけたまま針山は気怠げな気配を背負って黒板のわずかな汚れを掃除した。

研究生は緊張したまま次の言葉を待った。

「組織の中で誰についていくのか、は考えた方が良い」

そういうと、針山は教本を開くように指示を出した。


ページには"陰者の焼印"が著されていた。

隠者の焼印とは今から約100年前に起きた、

兵器軍人による術師迫害に関連するものである。


兵器軍人とは、術を使わず、兵器を用いて戦う兵士のことである。

兵器軍人はかつて術師の勢力拡大を恐れ、術を使うものを忌み"陰者"と呼んだ。

兵器軍人の正義は、奇天烈な術を使う隠者を排除するというものだった。


術を使えるものは、女も子供も関係なく強制収容された。収容前に、術を使えるものは焼印を押された。それが"陰者の焼印"である。

陰陽の印をすべて、陰に転じているそれは、隠者が森羅万象を冒涜しているということを表している。本来自然界に存在している火風水土の四元素を操る隠者は最早人間ではないという刻印を押したのだ。


そして彼らは収容施設の中で対術式兵器を開発するための人体実験を行った。国内各所の収容施設では力のある術師が暴動を起こし、兵器軍人と術師との血みどろの戦いとなった。


針山訓示は教本に沿って説明を進めていくと、突然首元にぶら下がっている濃紺のネクタイを緩め始めた。ネクタイを無造作に教台の上に置くと、シャツのボタンに手をかけ始めた。シャツを脱ぐと、背中を向けた。

そこには、教本にのっている"陰者の焼印"の実物があった。焼け爛れた跡が痛々しい。

研究生たちは取り憑かれたように針山の傷を見ていた。研究生たちの疑問はひとつである。

「なぜ今頃になって陰者の刻印が?」


今日においては術師と兵器軍人は同じ方向を向いているはずだった。帝国内戦の終止符を打ったのは、タンジストベルクの襲来である。タンジストベルクは最新の科学技術を駆使した武器と魔導士を携えて日の帝国に攻め入ってきた、西方の島国である。魔導師というのは日の帝国でいう、術師である。彼らもまた四元素を操る体質を持った戦闘集団である。


タンジストベルクは決して膨大な国土を有した強国ではなかった。そのため隣国からの脅威に晒されていたが、魔導師の武勇により侵略を免れていた。しかし、隣国の科学技術の進歩により対魔導兵器の精度があがり、タンジストベルグは窮地に立たされていた。

隣国はタンジストベルクの侵略を試みると共に、自国の繁栄のための利用方法を探っていた。


そのころ東方では星共和国が力をつけていた。東方の脅威に備えるためタンジストベルクの隣国は同盟を組み、タンジストベルクの自治権を認める代わりに東方へ戦いを仕向けるように図った。


同盟国はまず、タンジストベルクに日の帝国への侵略を焚きつけた。というのも、星共和国が日の帝国の術師を取り込み戦力の増強を測ることを恐れた為である。目には目を歯には歯をという諺があるように、同盟国もまた術師には魔導師をという戦略を図ったのだった。


それからというものの、日の帝国とタンジストベルクは互いに血を流してきた。

そのため日の帝国では兵器軍人と術師は協力関係を結び、タンジストベルクと戦ってきたのだ。


しかし、眼前では術師迫害の歴史が生身の人間に刻まれている光景が広がっている。

針山は再びシャツを羽織り、元の背広姿に戻った。「これは、私が14の年に兵器軍人右派に拐われた時に刻まれものだ」

針山は淡々と説明を続けた。


兵器軍人右派、噂には聞いていたが実在していたとは。研究生の大半がそのような感想を持った。泰山幸のように拐われそうになった経験のある者以外は。


「兵器軍人右派は今も確かに実在している。そして常に、お前らの背中を狙っている。これから3年間いや、今生そのことを頭に入れておけ。だれがお前たちを利用しようとしているか。よくよく考えろ。それはこの国の兵器軍人右派だけではない。きな臭い連中が国外で動き始めている」

だからと言いかけた時、針山が背負っていた気怠げな気配が一瞬消えた。

「強くなれ。術に喰われるな。術を統べろ」


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