02.噂
戦闘訓練は同室の組手と2人1組で行われる。
「なぜ手加減をする?」
いつもの如く真門が苛立ちの表情を浮かべる。
「知っているぞ私は。入所試験の時に、湖一面に分厚い氷を張ったそうじゃないか。だから私の組手に配置されたんだろう」
真門は研究生一の実力の持ち主であった。組手はおよそ同等の実力で反する術を持ったものが選ばれる。幸は入所してからというもの、なぜ自分が真門の組手になったのか不思議だった。というのも、幸は、対人場面となると途端に術の発出レベルが落ちるからである。
「人相手だとできないんだ」
「ならば、私を傀儡だと思え」
そう言い放った真門から青白い火の粉が飛んでくる。幸の防術ケープをかすっただけでチリチリと音をたてた。高温の青白い火の粉は威力もスピードも兼ね備えており、まともに当たれば、防術ケープを貫いてしまいそうだった。幸は氷の粒で対抗するが、火の粉の勢いは落ちない。「そんな霰のようなもの痛くも痒くもない。是式の術で私の組手が務まると思うな」真門が挑発しても、幸の劣勢は変わらない。
「なんであんなへなちょこが真門の組手なんだろう。俺の方が強いと思うけど」
風の術師の旅神党等は不服そうな顔を浮かべる。
「旅神の術は真門を焚きつけるだろうが、組手にはなれないだろうな」
旅神の組手である地の術師の南雲剛が嗜める。
「えー戦闘力が増すんだったらその方がいいんじゃないの?」
「術に喰われた時どうするんだ?」
「真門ほどの術師がそんなことあるの?」
「ああいうタイプが1番やばいんだよ。風雅なお坊ちゃん面してるけど、腹の中はなに考えてるかわかんねぇ。知ってるだろう?あの噂」
南雲が眉を潜めながら言った。
「噂ってガキの頃、家を焼き尽くしちまったっていう?」
「そうだ。どうやらその時アイツの母親も一緒に…」「えー。おっかねぇ。南雲、俺たちあいつらと班になる可能性もあるから気をつけねぇとな」
班は組手同士の、四人一組である。班はそれぞれ属性の異なる術師で構成される。そのため、旅神と南雲は真門たちと同じ班になる可能性があるのだ。
新研究生たちの間ではこんな噂が流れていた。
「母親殺しの真門士郎」そのため、真門は他の研究生から牽制されていた。




