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9項



幸せだった秘密の逢瀬は御伽話の"悪いドラゴン"に見つかってしまいました。


ドラゴンはお姫様を塔の中へ閉じ込めます。


騎士はお姫様を助けるため立ち上がりました。

たとえ、勝てないと分かっていても。


__________


建国祭の任務も終わり、街に戻ってきた。

土産話に浮かれるでもなく、俺はその日のうちに所長に呼び出されていた。


「…なんで呼び出されたか、わかるか?」

「…いえ」

「……会いに行ったろ。」


珍しい、真剣な表情だった。

そこから先は聞かずとも分かった。

あの日の夜、アリシア様に会いに行ったことでクレームが入ったんだと。


一介の騎士が許可もなく、貴族の部屋、まして異性の部屋に行ったとなれば大問題になるのは当たり前だった。


「お前がそういうことをしないというのは分かっているが、対面的にそうもいかない。

…わかるな?」

「はい。」


深いため息。

所長の目には深い失望の色が見えた。


…あの日のことを後悔はしていない。


でも、結果的に組織に迷惑をかけて、恩を仇で返すような真似をしてしまった。

申し訳ない気持ちと、それでも俺は間違ってないという気持ちで言い訳一つも出てこない。


「…お前の今後の処遇を決める前に、ワーグナー伯爵本人が直接お前と話をしたいそうだ。

明日、執務室に来るように。」


話は以上だと背中を向けられた。


もう目も合わせてもらえないのか。


それだけのことをした。

わかっているのに、なんで、間違えた俺が傷ついてるんだ。


「…しつれい、します」


少しずつ受け入れ始めてくれていた騎士たちの目が厳しい。

まるで最初の頃に戻ったみたいだった。


「ゼフ」

「っカイ…その、ごめ…」

「謝らなくていい。

お前は騎士としては間違えたけど、

きっと男としては、なにも間違えてはいないんだ。

みんなも分かってるけど、同じようにできないから羨んでるだけさ。」


…カイは、なんで俺を気遣える?

少なからず俺とツーマンセルだったカイにだって影響があったはずだ。

いっそ自己中だと責めてくれれば謝れたのに謝ることも許されない。


それがどれだけ苦しいことか。

今更気づいたってもう遅い。



そして翌日。


「一介の騎士ごときが、俺の妻の元に、それも夜に忍び込むとはどう言うことだ?」

「決して…」

「誰が発言を許した?」


グッと口を結ぶ。


「お前はアレと面識があったらしいな。

だからなんだ?アレはもう俺の所有物だ。」

「………。」


「何か言ってみろよ!!」


頭が悪そうなやつだと思った。

黙れと言ったり喋れと言ったり、ダンッと足で机を蹴り飛ばす姿はまるで子供の癇癪だ。


「…決してアリシア様との間にそう言ったことは行なっておりません。

確かに面識があるのは事実ですが、

会い行ったことも私の独断で行ったことです。」


「ハッどうだか。

アレはお前に何もするな、と最後まで泣き叫んでいたわ。

お前はアレのために騎士になったらしいが

結局何もできず守られて恥ずかしくないのか?」


俺のことはいい。

それよりも聞き捨てならないのは、コイツはまた、アリシア様を泣かせたのか?


「…アリシア様は…」

「気になるか?

アレはな、無反応でつまらん女だ。

泣くばかりで女貴族の勤めも果たさない。」


下品な笑いとその態度にはアリシア様が今まで受けてきただろう仕打ちが透けて見える。

彼女は見ず知らずの農民のため、領地のため、その身を捧げられる気高く美しい女性だ。


こんなふうに言われていい人じゃない。


口の中の血の味が少しだけ頭を冷静にした。

今は、何を言い返しても状況が悪化する。

だから、この怒りに耐えろ。


目の前の男に願うのは一つだけ。

頼むから口を閉ざしてくれ。


俺がお前を殺してしまわぬうちに。


「俺がいなきゃユグラシーへの融資の話だって無くなるっていうのに。

最後は従順に従うどころか噛み付く始末。

躾のなってない犬は食事も何もない離宮に閉じ込めてやったさ」


目の前が真っ赤になった。

気づけば俺は所長とカイに羽交締めされ、下品な男は目の前に鼻血を出しながらその場に倒れ込んでいた。


「落ち着けゼフ!」

「っ貴様!貴族の私に手をあげて無事に済むと思ってるのか!?」


権力を傘にして虚勢を張ることしかできない。

その姿が酷く情けなくて無様だと思った。


こんなやつに彼女は…


そう思うと、目の前の男を殺しても、殺しても、殺し足りない。


そんな俺の殺気に青ざめると

「絶対に後悔させてやる!」

そんな捨て台詞を残してワーグナー伯爵は執務室から逃げるように出て行った。



そして訪れた静寂。


「……この馬鹿野郎!」

「…すみません」

「はぁ…どうするんだよ、これから」


胸ポケットに入れてきたコレを、出さないでいられたらどんなによかっただろう。


呆れたように頭を掻く所長の元でもっと多くことを学びたかった。


心配そうなカイと、もっと美味い飯を食べに行きたかった。


でも、もうこれ以上この人達に迷惑はかけたくない。


「…騎士やめます。

辞表、書いてきました。」

「………本気、なのか?」


自分でも馬鹿野郎だと思う。


どうしてこんなことになってしまったんだろう。

俺はただ、アリシア様と並んであの日のような穏やかな時間をもう一度と過ごしたかっただけなのに。


農民から騎士へ、それだけでも十分だ。

それなのに、さらに上、貴族を目指すか?

一騎士として武功を上げるのか?


そんなに都合よく物語は進まない。

そんな時間もない。


俺は勇者のような特別な才能もない、多少強くなっただけの普通の人間なのだから。


「死ぬ気か?」

所長の静かな声。


『焦るな』

そう言われた時を彷彿とさせた。


死ぬのは、正直、怖い。怖いに決まってる。

でも一生掛けてもいいほど惚れた女が、俺を守って死にかけてるのに逃げ出すほど根性腐るつもりもない。

結局、男なんて単純で。


「惚れた女にかっこいいところ見せたいんで」


そう言った俺をみて所長も、カイも力が抜けたように笑った。

本当にごめん、こんな馬鹿野郎で。


「一つだけ、頼みがあります。

図々しいかもしれませんが…」


「…なんだ、最後だから聞いてやる。」


「俺の今までの給料を実家に届けてくれませんか?

お袋たち、字は読めないんで、手紙と一緒に送れないんですよ…」

「…分かった。」


「今まで、本当に、お世話になりました。」


もう思い残すことなんて何もない。

騎士、じゃなくなったけど

今、助けに行きます。








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