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10項



茨の道を騎士は進みます。


城に辿り着く頃にはすでにボロボロでした。

しかし、更に多くの者達が行手を阻みました。


恐怖に耐えながら、

騎士はそれでも立ち向かいました。


…この先に何が待つかも知らずに。


__________


すっかり慣れ親しんだ街を出る。

こうして旅立つのは、何も知らなかった少年の頃以来だ。


俺はこれまで、多くのことを学んできた。

社会の厳しさも、それ以外も。

ワーグナー領が王都の隣にあることは図書室で。

馬の乗り方や野営の仕方は騎士舎で。

生活の知恵は婆ちゃんやタバサさんから。


何も知らなかったあの頃とは違う。

ここまで歩んできた道が全て繋がってる。


道中、一つ一つの感謝を積み重ねて行った。


野営の途中、どこからともなく矢が飛んできて俺の顔のすぐ横の木に刺さった。

あと一歩でもずれていれば、俺の旅は終わっていたと思うと背筋が凍る。


…運が良かった。


…正直、舐めていたのかもしれない。

あんな奴でも貴族の端くれなんだって。


そこからはより気を引き締めて行動することになった。


一時も気が抜けない。


少しでも油断の色を出したらどこから刺客が襲ってくるかもわからない。


さすが国の軍事開発を担うワーグナー。

抱えている私兵の数が多い。

けれど、それを私怨で一個人に向けるなど許されていいことではないはず。


そんな理屈が通じる相手ならどんなに楽だったか。

次から次に襲いかかってくる刺客にはそんなものどこにもなかった。


このままでは、アリシア様の元へ辿り着くことすら叶わないかもしれない。


そんな極度の緊張でずっと頭が痛かった。


水たまりに映ったのはやつれた頬、酷い隈の小汚い男。


物語に出てくる勇者とはかけ離れた姿だった。

本当はかっこいい騎士の格好で登場したいのに、うまくは行かないものだ。


「止まれ。」

「っ…」


やっとの思いでワーグナー領の離宮の前に辿り着いた。

不思議と門は空いていたが、なるほど、塔の前にこれだけ人を集めたからかと納得する。


「ここまで来たことは褒めてやろう。

だがどうだ、お前はもうすでにボロボロ。

こっちには数十人の兵と武器がある。

お前に勝てるのか?」


…勝てるわけ、ないだろ。

そんなこと始めからわかってたよ。


まず初めに10を超える矢が飛んできた。

全て交わすなんて超人でも無理だ。

剣で振り払うも、中の一本が太ももに刺さって激痛が走る。


痛い、痛い。熱い。


けれど敵は待ってくれない。

すぐに次の矢が飛んできた。

一瞬反応が遅れて、それでも転がりながら交わそうとして、できなかった。


ろくに動けないまま腕にも刺さった。


「っっ…」

「ハッまるで虫けらだ。無様だなぁ!」


…笑いたきゃ、笑えよ。


地面に這いつくばる俺に追い打ちをかけるように屈強な男が棍棒を振り下ろした。


バキッと聞いたことがない音が俺の体から聞こえた。


一瞬意識が飛ぶほどの痛みの衝撃で地面に突き立てた指の爪が割れる。


…本当に俺は何してんだろうな。

こんな痛い思いして、死ぬってわかっててそれでもここにいる。


殴られて、蹴られて、切り付けられて

痛みが熱さに、熱さが寒さに変わっていく。


「俺を殴った罰だ!

ほらもっと嬲れ!次は左目も抉ってやれ!」


そう言って笑う貴族は、本当に同じ人間なのだろうか。

もう戦う気力のない人間を痛ぶるそれは悪魔の所業にすら思えるほど。

これまで言うことを聞いていた私兵達にも、どよめきが走った。


「…坊ちゃん、もういいでしょ」


一人が言った。


「流石にここまでやれば死にます。」


今の俺はどうなってる?

何もわからない、視界も半分見えない。

声だけはやけに鮮明に聞こえていた。


「コイツは私を殴ったんだぞ!

もっと痛ぶらなきゃ気が済まない!」


「…私はこれ以上できません」


「ッチ腑抜けが!!」


ゾロゾロと撤収していく音がする。

指一本動かせないと思ったら利き手の肩から下が無くなっているようだ。


死の音は確実に聞こえている。

でもそれと同時に俺の心臓はまだ脈打ってる。


どうやって立ち上がったかわからない。

一歩を踏み出すたびにもう楽になりたいと心が叫んだ。


一歩、一歩、一歩。


そうだ、これだけはやっておかないと。

胸元から火種と酒を取り出し火をつける。

熱いはずのそれは血をすっかり失って寒さしか感じない俺にはちょうどいい。


そして、辿り着いた。

ドアを開ける力なんて、ないから倒れ込んで開けた。


「ゼフ?」


「…貴女を閉じ込める檻を壊しに…きました」


「ゼフ!!」


アリシア様の顔を見たら満足してしまって力が抜けた。


暖かい何かに包まれている。

もう顔はよく見えないけど、ぽたりと雫が俺の頬に落ちた。


「…泣かないで」


「いや、いやよ、なんで、止まらない、血が…」


「…俺、勇者には…な…れませ…でした」


「そんなのどうでもいい!

どうしたら、あ、嗚呼…っ」


「…わらって」


「え?」


「じゆうに…」


「ゼフ?ゼフ!!!」



もう口が動かない。

本当に、本当に何もなくなった。


ただ、耳だけはまだ聞こえていた。


チュッと音が聞こえた。


彼女の嗚咽が聞こえた。



そして最後に



「もし、自由が許されるなら

私も一緒に連れて行って」











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