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4項



騎士になる道は辛く厳しいものでした。


それでもお姫様を想うたび、不思議と力が湧いてきます。


そしてようやく手に入れた本物の剣。

少年は少しずつ青年へと成長していきました。


__________



洗濯物を干しながら稽古を見るようになってから自然と視界が広くなった。

意識をして過ごしてみると、案外ヒントはたくさん転がっていて、窓掃除の時やゴミ捨ての時なんかに遠目に騎士達の訓練を見られた。


闇雲に走ったあの時とは違う


見る、実践する、見る、修正する。


誰に教えてもらえるわけじゃない。

でも確実に一歩一歩騎士に近づけている実感がある。


その日もいつものように洗濯物を干すため、外に出ると木の影に練習用の剣が置いてあった。


…誰かの忘れ物だろうか


辺りを見回してもそれらしき影はない。


…触ってみたい

でも…

勝手に触ったら怒られるだろうか…

仕事をサボってると思われるかも…


ゴクリと生唾を飲んで、それでも俺は好奇心を抑えることができずに手に取ってしまった。


ズシッとしていて、想像以上に…


「…重い」


箒とは比べ物にならない。

実際に構えてみると重さに耐えられなくて手首がぐらついた。


一振りだけ…

そう思って構えて上から下へ振り下ろす。


スッ…

騎士のように風を切る音は出ない。


「…何やってんだ坊主サボりか?」

「ッッ!?す、すいません!」


いつからそこにいたのか所長は木の陰で俺のことをじっと見ていた。

やっぱりすぐに返すべきだった。

言い訳のしようもない。


慌てて頭を下げたらポンと所長の手が乗った。


「別に怒ってねぇよ。

で、どうだった、触ってみて」

「え…あ…重かった…です」

「…剣は飾りじゃねぇ

実際に人を切り捨てるためのものだ。」


言いながら俺から剣を受け取るとその場で一太刀下ろした。


ブォンッ

風圧がここまで届いた。

重い音は訓練している騎士とも質が違う。


続けてニ太刀、三太刀…


無駄のない動き

重い踏み込み

洗練された太刀筋


俺は瞬きすら忘れてその動きを見ていた。

本当に、凄すぎて、目が離せなかった。


…この人、ただの酔っ払いじゃなかったんだな…。


「…練習とはいえ剣を忘れるなんて騎士にあるまじき事態だからなぁ、厳罰もんだなこりゃ…

下手したら持ち主は名乗り出てこないかもなぁ?」


ニヤリ、所長は俺を見て笑う。


…俺もこの人みたいになれるだろうか。


これはチャンスなんじゃないか。


図々しいとか考えるよりも先に気がついたら前のめりになっていた。


「…!…っなら!」

「あ?」

「その剣俺が使ってもいい!?」

「………仕事はサボるなよ」

「ありがとうございます!!」


大人になってからあれが所長の優しさだったことに気付いたが、その頃は剣を手に取れるという嬉しさしか見えてなかった。




あの日から5年の月日が流れた。


休み時間に剣を振る。

仕事の終わりに体を鍛える。

成長期を迎えて、背も伸びた。

声も変わった、筋肉もついた。

時間はあっという間に過ぎていった。

何もかもが変わったのに


…騎士には、まだなれていない。


一太刀…

まだ風を切る音は軽い

「やっぱり所長のようには行かないな…」


いつものように仕事の合間に木陰で素振りをしていた時のこと…

建物の影からコソコソと話し声が聞こえてきた。


「めんどくせぇ訓練なんてやってられっかよ」


そう言って煙草を吸う騎士たち。


…褒められた行動とはいえなかった。


騎士はいざという時のため、肺を痛める可能性がある煙草を禁止されているのに…。

紫煙が空気に溶けて消えていった。


俺が参加したくてたまらない訓練

生まれのせいで叶わない騎士学校への入学

その価値もわからず無駄に過ごしている彼らを見るのは正直複雑だった。


「あ?何見てんだよ見せもんじゃねぇぞ」

「…すいません」

「お前、農民が騎士ごっこしてるって噂の…

本当にいたのかよ!」

「マジかよ?通りでクセェわけだわ」


下品な笑い声を浴びながら、握る拳に力が入っていく。


お前らに何がわかる。

俺にない全部を持ってて

それを活かそうともしない奴に…。


「おー、こわっ」

「さっさと田舎に帰って芋でも作っとけよ」


夢に見た騎士は騎士道を貫き、弱者を守り、勇敢に正しくあるものだと信じていた。


現実はどうだ。

こんなクズだっている。


許せない…けど、今の俺に何ができる。


フッと拳の力を抜いた。


言いたい奴には言わせておけばいい。


「…坊主、殴らなくていいのか?」

「「っ所長!お疲れ様です!」」


先ほどまでの威勢はどこへやら

相手が所長なら、騎士道のかけらもない怠惰な様子を見られて焦るのか。


今更だろうけど。


「言われっぱなしで悔しくないのかよ?」

「…別に」


訓練を怠ると言うことは、生き残る可能性を潰すのと同じ。

いざという時、何もできずにいてもこいつらは文句ひとつ言えず死ぬ。


「坊主、お前今何してる?」

「何って?」

「自主練だよ」

「あぁ、それなら一連の型ができるようになったからそれをずっと反復練習してる。」

「…いいな、模擬戦やってみたくないか?」

「模擬戦?」

「馬鹿なコイツらとて騎士学校を卒業してここにいるんだ。

もし坊主がコイツらに勝つことができたら、空いた分、騎士訓練参加を認めてやる。」

「え?」

「お前らはコイツに勝てなければ今日で荷物をまとめてここを去ってもらおうか。

…悪くねぇ条件だろ?」


ニヤリと笑う所長が何を考えているのかわからなかった。

訓練に参加したことも打ち合ったこともない俺にいきなりそんなことできるのか?

まして相手は本気だ。


少し自分の中で考えてみる。


グーパーと手を握って開いて…


恐怖はない。ならいいか。

案外スッとスイッチが入ったような気がする。


「…決まりだな

じゃあ10分後に演習所に来い。」

「はい。」


何やら模擬戦相手である騎士達が何かを言っていたが俺の耳には何も入ってこなかった。

勝てば騎士への一歩、負ければ騎士から遠ざかる。

それだけのことだった。


「始めっ!!」


まずは基本の立ち姿勢、そして相手の動きに合わせて防御、攻撃、去なす。

騎士の型というものは理にかなった構造になっているものだ。

それはずっと客観視してきたからわかる。


でも、実際に相手が目の前にいて、鬼気迫る勢いの時、冷静になることがこんなに難しいとは思わなかった。

相手が教科書通りに動くとは限らない。

右からくるのか…それとも左からか

一瞬たりとも気を抜けなかった。


実際に剣と剣がぶつかり合った時、金属の振動で手が震えて痺れること。

足を踏ん張っても砂利の上では多少滑ること。

焦ると雑に上から剣を振り下ろそうと体が勝手に動くこと。

初めてをまた知った。


楽しい、とはちょっと違った。

…これは、きっと達成感だ。


「なんで…なんで農民なんかに…」


見学に来ていた人たちの驚きの顔。

気づけば相手は息を切らしていた。


俺も決して無傷などではないが、学ぶことに夢中になっていたせいか息切れはない。


所長が満足そうに俺を見ている。


…俺はいつのまにかこんなに強くなれていたんだな。

この5年間は何も、間違ってなかった。


「そこまで!坊主の勝ちだ。

明日から訓練への参加を認めよう。」

「あ…」


言葉にならなかった。


「なんだよもっと嬉しそうにしたらどうだ?」


実感が湧かない俺より所長の方がずっとずっと嬉しそうにしていた。







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