2項
素敵な思い出をありがとう小さな騎士さん。
もしも私がドラゴンに捕まったらきっと助けに来てね。
その言葉を最後にお姫様が湖に現れることは無くなりました。
もう一度お姫様に会いたい。
少年は旅立つことを決意しました。
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「騎士になるだって?
バカ言ってんじゃねぇぞ!!
お前はこの家で芋作って生きてくんだよ!」
「嫌だ!」
食卓でそう言った瞬間、拳骨が降ってきた。
ガシャンと食器や鍋をひっくり返しながら俺は床へ倒れ込んだ。
グワングワンと視界が揺れて耳鳴りがキーンとうるさい。
怒鳴る親父を母さんが泣きながら止めている。
あぁ、俺、今、親父に殴られたのか。
「この親不孝もんが!!」
「アンタ、やりすぎよ!!」
「うるせぇ!!!」
親不孝もの…
確かにその通りだと思う。
騎士になるのは簡単なことじゃない。
下手したらすぐに死ぬ。
離れた街で過ごして、もう二度と会えないかもしれない。
それに、この家には俺しかいない。
わかってる。
わかっていても引けない。引きたくない。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
「……ごめん。」
「…っわかったなら」
「勘当でいい。俺はもうこの家を出ていくよ。」
「ゼフ!!」
「今までお世話になりました。」
「〜っ…勝手にしろ!!」
親父はもうこちらを見ることはなかった。
最低限の荷物を包んで玄関で頭を下げる。
ここにはもう、戻らない気がしたから。
「…ゼフ、本当にいくの?」
「母さん、うん、もう決めたんだ。」
「…そう、男が一度決めたこと。
しっかりやり切って帰ってきなさい。
お父さんのことは私がなんとかしておくから。」
懐かしい温もりに包まれた。
知らなかったな…
母さん、もう同じくらいの身長だ。
お日様の匂いに鼻の奥がツンとした。
「母さん…」
「行ってらっしゃい。体に気をつけてね。」
街に行くまでの路銀は決して安くはない。
へそくりだというそれを無理に渡して母さんは瞳に涙を溜めながら見送ってくれた。
この人達の恥じない人間になりたい。
自慢の息子になりたいと思った。
「行ってきます。」
そうして俺は生まれ育った村を旅立った。
夜空の星が静かに瞬いていた。
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俺が住んでいるのは辺境の田舎。
街に行くまで3日はかかる。
相乗り馬車の乗り心地はお世辞にもいいとは言えないし、節約のために食事も最低限。
それでも、畑一辺倒だった景色が少しずつ栄えて行くのを見ているとなんとも言えない気持ちになった。
そして、ようやく街にたどり着いた。
馬車を降りた瞬間から何もかもが違う。
行き交う人々に目が回りそうになっていると誰かがぶつかってきて尻餅をついた。
「痛っ」
「うわっ汚ねぇガキに当たっちまった
俺臭ってねぇか?」
ギャハハと笑いながら通り過ぎていく二人組。
絶対にわざとぶつかってきたのにそれを謝るどころか俺を嘲笑っていた。
「あの、すみません…」
「チッ」
街行く人に声をかけても無視。
「ごめんください…」
「お前みたいなのに売るもんはねぇ!帰んな!」
お店に行っても門前払いだった。
…誰も、俺を見てない。助けてもくれない。
途方に暮れるしかなかった。
「…よっこいしょ……」
あっちでもない、こっちでもないと彷徨っていると目の前に大荷物を抱えたお婆さんがいた。
田舎ではそんな光景を見つけたら当たり前に助け合っていたから、つい癖で手を出してしまった。
荷物を持ち上げてからハッとした。
俺みたいなのに荷物を触られたって叫ばれたら、どうしよう…
泥棒だとか思われたら…
「あ…と…その…」
「運んでくれるのかい、ありがとうね」
にこりと笑う婆ちゃんの目があまりにも優しかったから少しだけ泣きそうになった。
やっと人の温かさに触れられた気がして。
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「よっと…婆ちゃんここでいい?」
「あぁ、ありがとうね」
「次から重い荷物持つ時は無理しちゃダメだよ」
「そうだねぇ…
ところでお前さん名前は?」
「俺?俺はゼフ」
「ゼフ、いい名前だ
…お前、農民の子だろう?
こんな街に来てなんのようだい?」
「俺、騎士になりたくて…」
「……そうか」
「でも騎士舎がどこかわからないんだよね…」
勢いだけでここまで来て、現実を見て、完全に無計画であることを思い知った。
騎士舎に着いたところでどうしたらいいのかも全くわからない。
でもここで引き下がるわけにもいかない。
頬を掻きながら誤魔化すように笑うしかない。
笑っていれば案外なんとかなるもんだ。
そんな俺を見て目を細めた婆ちゃんは、優しく道を教えてくれた。
字が読めないと言ったら地図も書いてくれた。
「ありがとう」
「頑張んな」
「うん」
肩に置かれた手はシワシワで小さい。
死んだ婆ちゃんの手もこんな感じだったな…
なんてすぐに弱気になりそうになるから、自分の頬を叩いて喝を入れた。
婆ちゃんに改めてお礼を言った後、俺はその場を後にして騎士舎へと向かった。
ただ、案の定というか
「…お前のようなガキが来るところじゃねえ」
「頼むよ!
俺は騎士になりたくてここまで来たんだ!
下働きでも掃除でも洗濯でもなんでもやる!
だから入れてください!」
往来の真ん中で頭を下げる俺に門番のおっさんは迷惑そうな顔を隠そうともしなかった。
しっしとあしらわれても俺はその場を動くつもりはなかった。
気づけば日は暮れ始め夜が近づいてきていた。
「おい坊主、もう帰れ
何をしても入れてやることはできねぇよ」
「いいえ、やめません。」
門番のおっさんも俺の誠意を哀れに思い始めたのか声が少し優しくなっていた。
諭されたって動く気はなかったけど。
喉は乾いたし腹も減った。長旅の疲れのせいで意識も朦朧としてる。
このまま、認めてもらえないのだろうか…。
俺のやってることは無駄かもしれない。
でも諦めたくなかった。
やっと目の前に夢の扉が見えたのに触りもしないで帰るなんて嫌だ。
どのくらいそうしていたんだろう。
夜も更けてきた頃、足音が俺の目の前で止まった。
顔はあげない。頭は下げたままだ。
「おい坊主、顔上げろ」
言われて初めて顔を上げた。
でも目の前にいたのは鎧を着た歴戦の騎士のような人ではなかった。
「所長!何やってんですか!」
…所長?
そこにいるのはただ顔を赤らめた酔っぱらいのおっさんにしか見えなかった。
「何しにきた。」
「…俺ゼフと言います。
騎士になりたくてここにきました。
下働きでも掃除でもなんでもやります。
俺をここに入れてください。」
「…騎士になるためにはまず騎士学校に行かなきゃならねぇ
お前はその学校に行ったのか?」
「…そんなお金は、ありません。」
「じゃあ無理だ。」
グッと唇を噛み締める。
お金の問題、身分の問題はどうにもならない。
じゃあそれで諦められることなのか?
そんな簡単に諦めていいものなのか?
「…やってみなくちゃわからない。
俺は騎士になって会いたい人がいるんです。」
「ほぉ?」
「お願いします。俺をここに入れてください。」
もう一度頭を下げる。
俺には何もない、頭を下げて願うことしか。
「…いいぜ、雑用としてなら入れてやる」
「…いいんですか?所長?」
「あぁ。ただし少しでも弱音を吐いたら田舎に帰れ。わかったな?」
「っはい!ありがとうございます!!!」
「…よかったな、坊主」
「門番さんも、ありがとうございました。
あと、ずっと前にいてすみません…。」
「…本当にな!!」
こうして俺は夢のスタート地点に立った。
これから大変なんて覚悟じゃきっと足りない。
血反吐を吐いても、他人の靴を舐めろと言われてもしがみついて騎士になる。
なんだってやってやる。
決意を新たにする俺を応援するように朝日が昇り始めていた。




