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1項

本作は重めの展開や切ない描写を含みます。

あらかじめ、ご了承ください。



昔々…

あるところに勇敢な騎士を目指す少年と

それはそれは可愛いお姫様がいました。


身分の違う2人はある日

美しい湖のほとりで出会いました。


少年は小さな大冒険の途中で

お姫様はお家から逃げ出した先で


__________



「行ってくるよ!母さん!」

「気をつけてね」

「はーい!」


俺は、農民の家に生まれた。

身分は生まれた時から決まっている。

王族、貴族、騎士、商家と、1番下。

贅沢はできないけど、この地域を収める領主様のおかげで飢えることもない。


だけど、それだけだった。


貴族の子が貴族になるように、

農民の子もまた農民になる。


周りの奴らに馬鹿にされながら、土に塗れて貧乏くさい芋だけを作って生きていく。

そんなのは絶対に嫌だ。


俺には、字なんて読めないくせに、誕生日に無理を言って買ってもらった本がある。

その本に出てくるドラゴンの首を討ち取った騎士の絵がかっこよくて、それが、夢になった。


朝早くに起きて、水を汲み、畑を耕す。

それさえ終わらせてしまえば自由に森を駆け回る時間がある。


ただ毎日、木の棒を振り回すだけ。

意味なんてないのかもしれない。

それでも楽しかった。


ある日、いつものように騎士ごっこをしながら森を散策していると美しい湖を見つけた。


「すげー!こんなところあったんだ…」


水面が太陽の光でキラキラ眩しい。

花の匂いと木々のざわめきが心地よくてこんな場所で昼寝をしたら最高に気持ちいいだろう。


死んだ爺ちゃんが言ってた天国はこんな感じなのかもしれない。


さっそく俺は靴を脱ぎ捨てズボンの裾を上げて湖に突っ込んだ。

水はどこまでも透き通っていた。


「魚いないかなー」

居たら母ちゃんにお土産を…

なんて夢中になって遊んでいたらどこからか誰かのすすり泣く声が聞こえた。


なんとなく、ほっとけなくて泣き声のする方へ向かって


…そして見つけた。


「あ!いた!」


小さな女の子だった。


「……あなたは…?」


ビクッと震えて、俺に気づいた女の子は顔を上げた。


…びっくりした。


俺の知る近所の女の子とは全然違ったから。


着ている服はピッカピカ

そばかすのない真っ白な肌

透き通る金糸のような髪の毛に

この湖のような淡く青い瞳


絵本の絵と同じだ!そう思った。


でもなんでこんなところで泣いてるんだろう?

お姫様っていうのは、お城で幸せに暮らしてるものだと思ってたけど。

首を傾げる俺を見てお姫様の目に涙が溜まっていく。


ヤ、ヤバい。

女の子は泣かすなって母さんが言ってた。

ど、どうすればいい?

近所の女達ならまだしもこんなお姫様と話したことなんてないし…。


「っ…ひっく」

「あ…わ…俺は、騎士!ゼフである!」

「へ?」

「姫のピンチを聞いて駆けつけた!

姫を泣かせる不届者は私が成敗してくれる!」


ボロボロの服着たクソガキが何言ってんだって思ったけど俺にはそれしか思いつかなくて…

手頃な木の棒を振り回してみたりもした。


そんな俺を見て一瞬ぽかんとしたお姫様は可愛い顔で笑った。


「…騎士はそんな木の棒じゃ戦わないわ」

「…そんなことないぞ?」

「なにそれ」

「聞かせてやろう俺の大冒険の話を!」


木の棒は剣で、蛇はドラゴン

落ちてきた野鳥の羽はフェニックスの羽

身振り手振りで話す俺を見てお姫様はコロコロと鈴のような声で笑っていた。


とても、可愛い笑顔だった。


どのくらいの時間そうしていただろう。

気がつくと日が傾き始め、お姫様が言った。


「楽しかったけど魔法が解ける時間みたい。

……もう、帰らなくちゃ」


どこか諦めたような声。

その視線の先には綺麗な服を着たおっさん。

いつの間にそこにいたのか、静かにこちらの様子を伺っている。


「…私ね結婚するのよ」


その言葉に頭が真っ白になった。

幼心にほんのりお姫様に寄せた憧れはあっさり砕け散った。

もとより身分が違いすぎるけれど。


「それが嫌で逃げてきたけど、覚悟は決まったわ。

ありがとう。小さな騎士様」

「………また会える?」

「………ええ…きっとね」


お姫様は綺麗に笑った。

同じ顔なのになんか…違う

全然、可愛くなかった。

…嘘つき、だと思った。




翌日俺はいつも以上に手伝いを早く終わらせ湖へ急いで向かった。

あの笑顔がどうしても脳裏に焼き付いて離れなくて。

まだ最後に一目くらい会えるかもしれない。

そんなわずかな希望を胸に走った。


でも、碧い湖は昨日と変わらず美しいのにお姫様はどこにもいなかった。


「……少年」

「え、あ…昨日の…おっさん」

「おっ!?…ゴホン

お嬢様からお前宛に手紙を預かっている。」

「…手紙?俺、字が読めないよ?」

「貸せ。」


  小さな騎士様へ

  昨日はありがとう楽しかったわ。

  私が困ったときは、きっと助けに来てね。

  約束よ。

  さよなら。          

                      』


「…それだけ?」

「あぁ。手紙は渡したからな。」

「おっさん待って!」

「…俺は、おっさんじゃない。」

「お姫様はどうして好きじゃない相手と結婚しなきゃいけないんだ?」

「はぁ?」


「まだ子供なのに」


「……この地を収める領主の娘だからだ。

お前みたいなのが飢えずに飯を食えるのは全て領主様のおかげってことだよ。」

「それとお姫様の結婚に何の関係があるんだよ」

「…あるんだよ。

今、領地に金がない。このままじゃ人が死ぬ。

だから資金援助をしてもらう担保としてお嬢様はその身一つで嫁ぐんだ。」


つまり、お姫様は、金で売られたってことか?

俺を食わせるために?

頭の中が恥ずかしさでいっぱいになった。

俺はそんなことも知らないで何をしてた?

馬鹿みたいに笑って、ただ楽しんでいただけじゃないか…


「勘違いするなよ。

お前みたいな身分もないガキにはどうすることもできなかったことだ。」

「っ…」

「でも、一つ言えるのは…」

「なに?」

「お前がいたからお嬢様は救われた。」

「…どういうこと?」

「見ず知らずの他人のために身を売れるか?

お嬢様は、お前と出会って、お前のような奴を飢えさせないために覚悟を決めた。

その点については感謝してるよ。

流石に、可哀想だったからな…。」


難しいことは何もわからない。

俺は頭が悪いから。

ただ、一つだけ聞きたかった。


「…帰ってくる?」

「………無理だろうな。」

「どうしたら会える?」

「王都に行けばあるいは、でもお前みたいな農民が行くのは…」

「そっか!」


なら何も変わらない。

予定が少し早まっただけ。

俺は騎士になる。

騎士になって

王都に行って

お姫様が困っていたら助ける。


俺がお姫様を嘘つきになんてさせない。

だって俺は勇敢な騎士になるんだから!







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