悪霊促進協会
「でもぉ。悪霊に協会があるなんてしりませんでしたぁ」
「まあね。生きた人間には宣伝してないし」
宣伝しても入れる奴がいないからだろうが……。
「いままでいっぱい霊に合って来ましたけど、そんな協会に入ってるなんて人いませんでしたよ」
「あんた、結構霊感あるみたいだから無意識に強力な奴は避けてたんじゃない? 最初あたしもみえなかったでしょ?」
つまり、相手の霊力が福の霊力を上回っている場合、霊の方が姿を隠せば福には感知できないのだね。修行してないし。今までは福の能力がほとんどの霊を上回っていたのだろう。涼は福の出会った最初の自分より強い霊と言う事になる。
「じゃ、今日はなんで?」
「あたしが姿を見せようと思ったのと、あんたがここの場所に用でもあったからじゃないの?」
「あー」
雑誌の心霊スポット情報から目的地をここに選んでしまった為、避ける事が出来なかったと言う訳か。
「2009年度の統計だと全悪霊の93%が登録してる……って言っても未成仏の霊全体からすると3%くらいだから、遭遇するほうが稀だわね」
「数字とかとうけいとか出てくるとちょっと……」
バーカ。バーカ。
(うっさいな!)
「あの、悪霊促進協会ってどんなことしてるんですか?」
2杯目のお茶を飲み干した時、福が尋ねた。おかわりすんなよ。
「なに、興味あんの? 死んでから入る?」
「いえ、それは……」
「通常は素質のある霊を見つけてスカウト、登録、レクチャ、回収ね」
「回収って?」
回収とは登録料、レクチャ代金、会員継続料の報酬回収の事だそうだ。報酬は悪霊としてデビュー後〔デビュー?〕、10年間、確保した魂の14.23%を徴収する。利息制限法に基づいた適正な金利……いや、魂利なのだそうだ。
「たまり14.23%って……」
「まぁ、そこら辺は深く考えない。死ねば判るから」
判った時にはもう死んでいるが。
「簡単に言うと魂が発する恐怖のエネルギーを徴収するのね。怖がらせて怖がらせて、もう最高の恐怖の中で奪取した魂が報酬になるのよ」
「怖がらせて、エネルギーを……。あー。それであんなに怖かったんだ」
「へっへーェ~。ちょっとしたモンだったでしょ?」
涼は自慢げに巨乳を……ではなく胸をはった。
「ちょっとしたどころじゃなかったですよー。心臓が止まるかと思った」
あやうく第一話の途中で主人公死亡になる所だった。
「よかったでしょ~。顔全部、前髪で隠すのもいるけど、あたしはねぇ、こう真っ赤に紅つけてぇー。口だけ見せて時々ニッって笑うの。ねーそうすると……」
「わー、すごいすごいっ。こわーい」
「ヘッヘェェ」
「さすが教官ッス。勉強になりますッス」
松千代がつっこんだとたん、涼の表情が一変し、厳しくなった。横目で彼をにらみつける。
「それが、なに。あんたねぇ。もうやめたらぁ。才能ないよ。完璧に。この際だから言わして貰うけどさぁあ。あんたの場合スカウトじゃなく自分から協会に入会申し込んで来たから、こんな小娘一人相手にできないようだと五級悪霊にも認定されないわよ。悪霊やりたいって奴ぁあんただけじゃないしねぇ。あたしも忙しい身でさぁあ、付き合ってらんないのよね。回収不能な株に投資する馬鹿いないでしょ」
涼は立ち上がり、時々嘲笑を交えながら矢継ぎ早に松千代をこき下ろす。
「そ、そんな」
「だいたい、何よ、あの『ダブルバイセッ○スからのうらめしや』って」
「ダ、『ダブルバイセップス』ッス! いい間違えると大変な事になるッス」
それは大変だ。書き間違えないようにしよう。
「そこじゃないのよ! いまどき『うらめしや』なんてダサくなーい」
「だって、教官が自由にやってみろって言うから……」
「素養を見たかったのよ。あんたの。素質0! 皆無、壊滅、轟沈」
往々にして無能な上司は、こんな理由を付けて失敗の責任を部下に押し付ける。
「あうう。自分は……自分は、ビルダーとしても大成せず、経営者としても失敗し、その上悪霊にすらなれないなんて……」
「ちょっとぉ! 悪霊にすらってなによ! 悪霊なめんな!」
出来ればなめたくない。
「うっ。うううう」
松千代はさめざめと泣き出した。醜い。中年筋肉おやじ(しかも霊)の泣き顔など描写したくない。
「わがままな作者だなぁ」
っと言う福のつっこみはほっといて。
「でも、たった一回の失敗で駄目出しはひどくないですか。なんか、あわれってゆーか」
「んじゃ、自分に取り付かれてくれるッスか!?」
松千代の泣き顔が目の前に迫ってきた。だから醜いって!
「いやにきまってんじゃん。ぶわか」
「うぉ。うおおおおん。うおおおおん」
とうとう松千代は声を上げて泣き出した。しつこく醜い。涼はそっぽ向いてるし……
「しかたないなあ。じゃあ、代わりに、うざくてしょうがない奴がいるからぁ。そいつ連れてきてあげる」
人身御供かよ! こ……こいつ、主人公のくせにとんでもねー。