72 おでまし!
「えええええ?!」
「おちるー??!」
「ヒーーキャアァァァッ!!」
「またかよぉっ!!?」
実際にはどれくらいの時間落ちていたのだろうか。数秒なのか、数十秒なのか。とりあえず脳裏によぎったのは、怖いのと痛いのは嫌だという事。
「うわわわわ?!」
「ひぃっっ?!」
そのままの勢いで床にたたきつけられるかと思っていたら、少し硬めのマットみたいのに着地した。
「地面が柔らかい?」
「なんだ?デコボコしてるな」
「助かったー⋯」
「⋯グルルルッ⋯」
「サシャさん?何か言った?」
「⋯⋯⋯⋯」
サシャさんは落下によるダメージで放心しているようだ。そうなると誰がこんな声を??
「⋯グルルルッ⋯」
「な、何の声かなぁ⋯?」
⋯なんとなく空気が張り詰めているように感じる。
「⋯⋯⋯⋯グルルルッ!」
「⋯え、ドラゴン?」
騎士の誰かがそう言うのが聞こえた。
「「「「「は?」」」」」
突然地面が揺れ動いた。⋯⋯いや、地面ではなかったようだ。
落ちた先は地面ではなく、とても大きなドラゴンの羽の部分に落ちたようだ。そのおかげで地面に激突するのは避けられたが、今度は違う意味で危険を感じている。
「こっちにはドラゴンなんているんだぁ⋯」
「すごいね、佐藤さん⋯」
「ちょっと二人とも?!それどころじゃないですよ?!⋯⋯わかるけど!!⋯ドラゴンッ!!⋯⋯ハァハァッ!!」
正気に戻ったサシャさんは恐怖を感じたようだが、遭遇できたことに対する興奮が上回っているようだ。
「ドラゴンを見れたのは嬉しいが⋯⋯喜んではいられない状況だな」
ボブカットさんが険しい顔をしている理由はすぐにわかった。ドラゴンが大きく口を開けてこっちを見ている。その口の中が徐々に明るさを増していく。
「あれってもしかして⋯」
「いや、もしかしなくても⋯」
「「ブレスってやつっ?!」」
各々が盾を構えたりと防御の構えをとる。サシャさんとミラさんは一緒に盾を構えている。かけないよりはマシかと防御力上昇もかけておく。あとは⋯
「近藤さん!風で守るイメージを!」
「わ、わかった!!」
『風』
『扇風機』
「⋯グガァッ!!」
ゴッ⋯ゴォォッッ!!!
勢いよく放たれたブレスに全員がつつまれ、地面に落とされた。
「⋯ぐっ⋯」
「キャーキャー!!」
「あっつっ!!」
自分達が放った風のおかげか、自分の羽もろとものブレスで弱めだったなのか、誰かが死んでしまうような状態にはならずに済んだ。それでも、それなりに火傷などのダメージは負っているし、地面に落とされた衝撃もくらっている。急いで回復しないといけない。
改めてドラゴンを確認してみると、今までに見たどの生き物よりも大きいのがわかった。三階か四階くらいの建物くらいの高さから見下ろされている。さらに飛んだりしようものなら⋯と思ったが、ここには天井があるからその心配はなさそうだ。とはいえ⋯⋯
「これ⋯どうすんの」
その一言に尽きる。今までの魔物とはサイズが違いすぎるし、おそらく攻撃力も防御力もケタ違いだろう。このドラゴンがここではどういう扱いなのかわからないけど、今までに苦労して倒してきた魔物とは比べものにならない。
「グルルルッ⋯」
ドラゴンがまた口を開けた。その口内がまた明るくなっていく。
「またですかっ?!」
「やばいって!!」
「全員、散開しろっ!!」
ボブカットさんの声に我に返り、あわててミラさんの盾にかくれて先ほどと同じように風の魔法を放った。その直後⋯
ゴッ⋯ゴォォッッ!!!
「⋯っ!?さっきより強くない?!」
散開してたおかげか、こちらにブレスがくる事はなかったが、明らかに先ほどブレスより威力が強いように見える。地面が焼けたようで焦げ臭い。
「⋯こりゃあかん⋯⋯ぶっっ!?」
「キャッ⋯」
「げふっ?!」
ブレスが当たらなかった事に安堵していたのも束の間、重い衝撃を感じて壁まで飛ばされた。
「⋯⋯いってぇっ!!!これ、ぜってぇ折れてるって!!」
近藤さんが騒ぎ出す。それには激しく同意する。めちゃくちゃ痛い。盾、風、防御力上昇があってこれくらいで済んでいる。どれか一つでもなかったらと思うとゾッとする。
『回復』
ミラさんが流石に何も言わずとも回復をかけてくれ、痛みは徐々に落ち着いていった。周りを確認すると皆同じように壁まで飛ばされていたり、逃げていたりといった状況だ。騎士団といえ、こんな経験はないだろうから仕方ない。
「あれ?サシャさんはどこだ?」
「え、サシャ?」
「⋯⋯まさか?!」
いつも近くで騒いでいるサシャさんがいない。騎士の誰かと一緒にいればいいんだけど。
「それどころじゃないか⋯」
「⋯危なっ!!」
ドラゴンが絶えず尻尾を振り回して攻撃してくる。さっきの重い衝撃の原因はこれだろう。ブレスもある事を考えると倒すどころか、ダメージを与えることすらできない気がする。
「かといって、ここから逃げるにしても⋯」
避けるので精いっぱいで地図を見る暇なんかない。どうしたものか。
「⋯⋯ジさーん⋯⋯」
ビュッ⋯!!
すぐそばをドラゴンの尻尾が勢いよく通り過ぎていく。
「あ、サシャだ」
「ユウジさーんって!!」
「あ、いた⋯⋯って、あれまたブレスの準備してない?!」
ドラゴンは尻尾を振り回すのをやめ、口を開けている。口内がまた少しずつ明るくなっていくのが見える。気のせいかもしれないが、さっきよりもゆっくりに感じる。
「ユウジさん!!あっち!あっち!」
「何?なんかあったの?!」
サシャさんが示す方向にはダヌさんとマッシュさんがいた。こっちだと手を振っているように見える。それに気づいた騎士が彼らのもとに向かっているようだ。
「なんか通れそうなとこがあったんですよ!」
「逃げれそうってこと?!」
「た、多分!!」
「ここにこのままよりマシか⋯」
そうこうしてる間にも、ドラゴンの口元の明るさが増していく。さっきの二発よりもさらに威力が増していそうだ。
「あれを撃たれる前に行くよ!!」
「⋯絶対筋肉痛になるよぉ⋯」
「死ぬよりマシでしょ!!」
そう、死にたくないから彼らのもとに急ぐ。近付くにつれ、マッシュさんが皆を誘導する動きがどこかで見た事があるような気がしてきた。
「⋯⋯あ、交通整理?」
なんでこんな時にそんな能力を?⋯あ、丁度いいのかな?なんて考えていたら、後方が明るくなったのがわかった。
やばい、くるぞ。
「近藤さん!!」
『風』
『扇風機』
ゴッゴゴォッッ!!!
やはり、さっきの二発とは威力が違った。風の防壁がすぐに霧散した。
「これ、まずいんじゃ⋯?!」
「あー?!」
「キャーキャー!!」
位置的に後ろからブレスをくらう形となり、進行方向に勢いよく飛ばされた。こちらもある意味で丁度良いが、しっかりとダメージはくらっている。
ブレスはそれだけにとどまらず、通路付近の壁も破壊された。ただ、そのおかげでドラゴンの姿は見えなくなった。
「全員いるかっ?!」
ボブカットさんの声にひとまず、いつものメンバーの確認だけはする。騎士団の皆さんも大丈夫そうだ。⋯⋯マッシュさんの交通整理が有効だったんだろうか?
「もー!熱いです!痛いですよっ!!ユウジさん!お願いしますよ!」
「あー、はいはい⋯」
『水』
全員に頭の上から水をかけてやる。
『風』
ドライヤー代わりにする。
『『回復』』
サシャさんミラさんが回復して一息つく。
「⋯⋯ふぃー⋯」
「⋯生きてるね。俺、生きてるよ。佐藤さん」
「うん」
「ゆっくりしたいところだが、ドラゴンが追ってこないとも限らない。先に進みたいがいいか?」
「⋯そうですね。そうしましょう」
ドラゴンが通れるサイズではないけど、ないとは言い切れない。先を急ぐの賛成だ。だけど⋯
「帰って休みたい⋯」
心からそう思った。




