69 え、まだ行かないの?
王都近くの洞窟に行く予定なんだけど⋯。
日本に来たいという人がいるので、まずはそちらを優先することになった。王様からの話で洞窟に行こうってのに、それを後回しにしてでも日本に来たいなんて言える人は限られているわけで。
つまりは王様本人だ。
「ユウジ!あのものが乗っているのはなんだ?!馬みたいな速さではないか?!」
「あれは、自転車といって⋯⋯まぁ、馬みたいに乗って移動する道具ですよ」
「道具なのか!だとすれば、余にも乗れるのか?!」
小さい子が自転車に乗る練習をしている姿が思い浮かんだ。それに和装の金髪おじさんの姿が重なっていく。
「⋯⋯練習すれば乗れると思いますよ。こちらでは十歳にもならない子でも乗れますから」
「なんとそうなのか?!では、手配してもらえぬか?!」
サシャさんも私も私もって顔して手を挙げている。
「手配するのは馬より簡単ですが⋯」
「む、何か問題があるのか?」
問題なんて言うほどではないかもしれないけど⋯。
「⋯いえ、こんな事を王様に言うのは恥ずかしいのですが、最近まで病気で仕事ができない期間があったんです。きちんとした自転車を用意するにはそれなりにお金がかかるんです」
つまり、買うから金をよこせということだ。
「あぁ、そうか。流石に王国の民でもないユウジに無償で献上せよとは言わぬ」
おお?!伝わってるね!なんかくれるんじゃね?!
「ただ、こちらと通貨は違うであろう?⋯⋯そうだな、金はこちらでも通用するのか?」
「金なら換金すれば大丈夫です」
「では金貨を何枚か用意させよう。それで足りるだろうか?」
「換金してみないと厳密には分かりませんが、おそらく足りると思います」
「よし、足りなかった時は申せ。もし余るようなら、サシャにでも」
「さす王!!ヒュー!!ナイッスー!!」
え、不敬じゃないのか⋯?大丈夫か?!
サシャさんも日本に移動できるからと王城のゲストルーム的なところに滞在しているらしい。それもあってか、王様ともなんだか気安く話している雰囲気だ。今の発言にも何もなかったし。連れてくる対価とでも思っているんだろうか。⋯⋯いや、そんなの気にしない人なのかもしれない。
「今さらですが、騎士団長じゃないにしても、護衛いなくて大丈夫なんです?」
そう。とはいえ王様なのだ。それなのに誰もそばにいない。
「滞在時間に限りがあるし、聖女もいて、複数の能力も使えるおぬしもいれば何も問題はあるまいて。⋯⋯余だって、多少の息抜きは必要であるしな」
「そうですか。それならいいんですけど⋯」
多分、問題なくはないだろうけど⋯。
「そういえば、結構位階あがってるんですね?」
そう。王様の滞在時間はサシャさんと変わりなかった。さすがに魔物退治はしていないだろうから、能力を使いまくっているうちに位階があがったんだろう。
「声が変えられると分かってからは、皆の反応が楽しくてのぅ」
初対面の時にびっくりした事を思い出した。おじさんなのに女の人の声とかやめてほしい。
「そういえば、ボイスチェンジャーって単語、あっちにはあるんですか?」
「いや、この能力以外で聞いた事がない言葉だ。だから最初はわからなかった」
「あ、そうなんですね。それ、日本っていうか、こっちで使われてる言葉なんですよね」
「そうなのか?!」
「はい。知ってる範囲だと交通整理もそうですし⋯」
「⋯授かったものの、よく分からないものはこちらの言葉かもしれないと」
「はい」
なんでそんな能力が授かるようになってるんだろう。意味がわからなければ、使いようもないのに。
「つまりは神様のせい!だと」
「ちょっとサシャさん?!⋯⋯なので聞いたら、これはこういうのですってわかるかもしれません」
「⋯よし、今度よく分からない能力をまとめさせるから見てくれないか」
「面白そうだしいいですよ」
いい能力があればぜひ!くらっときたい!使えるようにしたい!⋯でも、しょうもないのもありそうだよなぁ。
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後日、もらった金貨数枚を買取してもらったら、いい自転車を二台買ってもお金が余るくらいだった。なのでついでに、ヘルメットとプロテクターとジャージを買っておいた。見かけた人はそれらを着けてなかったから不思議そうに見てたけど、これで体を守るんだと説明したら理解してくれた。ジャージに関しては、運動しやすいのもあるけど、あの服装で乗るのはちょっとどうかと思ったから。
一式を買ったからには、乗れるように練習に付き合う事になって数日間つぶれてしまった。ちなみに王様はすぐ乗れるようになり、なかなか乗れないサシャさんにドヤ顔していた。
ってか、魔物の洞窟には行かなくていいんかい。⋯⋯⋯まぁ、ちょっとした、臨時収入はありがたかったけどね。




