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数分間しか、いれません!  作者: うちの生活。


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31 ダヌさん、いけませんよ

 突進を連続で使う事、数十回。魔力がきれることはなく、設定した目的地になんとかたどり着くことができた。それまでの景色と変わり、両サイドは岩の壁になっており、坂道を下ってきたわけでもないのに谷底にいるような感覚だ。少し先に視線を移すと何かが光っているように見える。地図にあった黄色い三重丸を示すあたりだ。


 ⋯なんだろう??


 近づいてみると、光ってはいるけど眩しいほどではなく、お店の看板程度の明るさだ。そしてその光は人が通れるサイズとなっており、なんだか違う空間への入り口を思わせる。


「入ってみるしかないよねぇ⋯」

「入らないなんて選択肢はありませんよっ!」


 ここまで来て、今さら戻るなんてできないんだから入ってみるしかない。ただ、何があるかわからないから、全員に防御力上昇をかけて、ミラさんに渡してた盾を返してもらい、ダヌさんと警戒しながら並んで入ってみた。


「⋯⋯⋯⋯⋯え?」


 目に入ってきた景色は、見たことがある、どころじゃなかった。


「え?え?⋯⋯俺ん家?」

「ユウジさんの家?!洞窟に住んでたの?!」

「んなわけあるかい」

「じゃあ、ここはニホン?!」

「それは⋯どうだろうね」


 とはいえ、見える範囲の家具家電は見覚えのあるものばかり。パッと見では自分の家と何が違うのかわからない。強いて言えば少し片付いてるように見えるくらい。普通に部屋の照明はつくし、キッチンの水も流れた。このぶんなら、おそらくトイレも風呂も使えるんじゃないだろうか。


 ⋯どこをどう見ても、俺ん家だよね。なにこれ。


 玄関から外に出てみると、さっきまでの両サイド岩の壁のとこで間違いない。マンションの廊下ではないし、玄関のドアはない。でも、入るとやっぱり自分の家だった。


「確かにユウジさんの家みたいですね。どうなってるんですかねぇ??」

「俺ん家だけど、俺ん家じゃない⋯⋯??」


 なんとなく、普段と同じように手洗いうがいを済ませ、座ってテレビの電源を入れてみた。テレビ番組は映らなかったけど、代わりに文字が表示された。


『ようこそ!安全地帯へ!』


「安全地帯⋯」


『一番最初に入った人の過ごしやすい場所を安全地帯として再現しております』


 ということは、ダヌさんと並んで入ったつもりだったけど、わずかに自分の方が先に入っていたという事だろう。安全地帯というのをどこまで信じていいのかわからないけど、自分の家で休憩できるって思えばいい事かもしれない。確か、ゲームとかの創作物でも、こういうとこは大丈夫だったはずだし。


「ここは、俺ん家と同じつくりで安全なところらしいよ。厳密には俺ん家じゃないね」

「ユウジさん家じゃないって事はニホンじゃないのかぁ⋯。って、なんでこんなとこがあるんでしょうね?」

「さぁ??」

「俺たちに攻略してほしいんじゃないのかっ?!」


 テレビに表示されてる文字が、駅などにあるディスプレイのように一定間隔で変わっていく。


『ここでは魔物が出ることはありません。ごゆっくりお過ごしください』

『進む場合はあちらです→→→』

『電気、ガス、水道は使えます。テレビ、ネットは使えません』

『ようこそ!安全地帯へ!』

『一番最初に入った人の過ごしやすい場所を⋯⋯』


 進む場合はあちらという方向にはベランダがある。確認の為に窓を開けてみると、ここに入った時と同じ入り口のようなものがある。


「進む場合はあそこだってさ」

「行っちゃいますか?!」

「⋯サシャ、私、休みたいよー」

「え、もう行くのか!?」


 慣れない事をして疲れている。それなのに先に進んでしまったら、次はいつ休めるかわからない。


「⋯⋯⋯⋯よし、風呂入ろう。入りたい」

「お風呂?!あるんですか?!」

「うちと一緒ならあるはずだけど」


 やはりいつもの場所に風呂があって、お湯も出た。


「はわわわわわっ?!私も入りたいですっ!」

「私もっ!私もっ!まだ進まないっ!」

「あー、じゃあ先に入っていいよー」

「いよぉーしっ!!ひゅーっ!」


 威勢のいい声をあげたサシャさんは、そんなに広くない風呂なのに、ミラさんと一緒に入ってはしゃいでいる。そんなに広くない家だから、ダヌさんと話をしていないと声が聞こえてくる。


『⋯⋯ちょっと⋯⋯⋯あ⋯』

『⋯ね⋯⋯やめ⋯⋯きゃ⋯』


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯なぁ、ユウジ」

「はい?」

「⋯⋯⋯なんか、いけないことをしてるような気がしないか?」

「い、いや、そんなことないでしょ。のぞいてるわけでもないし」

「⋯まぁ、そうだな。でも、なんかな?⋯⋯⋯⋯⋯よし、のぞきに行くか?」

「いやいやいやいや!!ダヌさん!ダメですよ!?なんにもよくねぇっ!」

「そうか?」

「そうでしょうよっ!」

「そうか⋯」


 また静かにしていると、シャワーの音とかも聞こえてきた。ダヌさんが変な事を言うもんだから、余計に気になってしまう。


「さ、さて!キッチンに何かないかなぁ?!」


 強制的に話題を変えるべくキッチンを探してみると、冷蔵庫にはレトルト食品や飲み物が、戸棚にはインスタント食品があった。どれも見覚えのあるものばかり。カップラーメンが食べたくなり、電気ポットに水を入れてお湯を沸かす。


 チラッとダヌさんに目をやると、聞き耳をたててそわそわしている。


 ⋯ダメだよ、ダヌさん。捕まるよ、マジで。⋯⋯⋯⋯⋯⋯わかるけどさ。


 こんなとこで、こんな事を考えるなんて思わなかった。魔物の洞窟なんて、かなり現実離れしたとこにいるのに、一気に現実に戻ってきたような気がしてくる。


 ⋯⋯⋯早く、風呂から出てきてくんないかなぁ。


 風呂場からは聖女二人の賑やかな声が聞こえてくる。まだまだ出てきそうにはない⋯。


 十数分後、やっとでてきた聖女二人は薄着だったから目のやり場に困った。なんとかドライヤーの使い方を教え、カップラーメンなら直ぐに食べれるだろうと作り方を教えて、その間に自分は無心で風呂に入る。ダヌさんも入りたそうにしてたけど彼は最後だ。


『⋯⋯サシャ⋯⋯っ!!⋯』

『ヒャア⋯⋯!⋯うま⋯⋯』

『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』


 風呂に入っていた声が聞こえるってことは、反対に部屋の声も聞こえるわけで⋯。聖女二人がまた騒いでいる声が聞こえてくるが、ダヌさんの声がしない。サシャさんの叫びに圧倒されているんだろうか。


「⋯うるさいな。⋯⋯⋯でも、悪くないかも?」


 こんなに自分の家が賑やかなのは初めてだ。職場の人を招く事なんてしないし、昔の友人とも疎遠になっている。そんなに社交的な性格でもないから、今さら新しく友人を、なんてのもなかなか難しい。⋯⋯そう考えると、死にかけたのも必要な事だったのかもしれない。それがあって、今があるんだから。友人とはちょっと違う、なんといっていいかわからない関係だけども。


 ⋯⋯⋯⋯⋯あ、自分の家じゃなかったな、ここ。⋯⋯⋯⋯なんか、恥ずかしい事を考えてしまった気がする。


『なんじ⋯⋯!⋯ひゅ⋯⋯』

『ヒーハ⋯?⋯おかわ⋯⋯』

『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』


「⋯うん、そろそろでようかな」


 風呂からでて部屋に戻ってみると、いくつものカップラーメンの残骸が転がっていた。冷蔵庫にあった飲み物も空の状態で複数本転がっている。


「あ、ユウジさん!ニホンの食べ物は美味しいですねぇ!!」

「ほんとほんと!美味しいねぇ!もっと食べたいね!ちょーだーいっ!!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 酒は飲んでないはずなのに酔っ払いのようなテンションだ。どうしてなんだろう?でも、ダヌさんだけは静かだ。こっちもどうしてなんだろうか。⋯⋯⋯あれ?なんか酒臭い??


「⋯あんなに⋯なるなんて思わなかったんだ⋯」


 そう小声で呟くダヌさんの手には見慣れない水筒のようなものがあった。自分の飲み物を持ってきてたんだろう。部屋をよく見ると、騒いでる二人の近くにも同じようなものが転がっている。


「⋯⋯ダヌさん、もしかしてそれお酒??」


 問いかけに対して、無言で頷いた。おそらく、酔っぱらった聖女二人の醜態?が想像以上だったとかそんなとこだろう。


「⋯⋯風呂、入りますか?」


 彼は再び無言で頷いたので、何があったかなんて聞かずに案内してあげた。⋯⋯何があったのか、すごく気になるけども。


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