32 ドーンって
風呂に入って食事もした。一度落ち着いてしまった以上、先に進む気になんてならなかったから、しっかりと寝た。それはもうぐっすりと。そもそも酔っぱらいがでた時点で進むなんて選択肢はなくなっていたんだ。
というわけで、朝⋯⋯という表現はあってないかもしれないが、起きてから食事をし、出発する準備を整えていく。
「そろそろ準備できたかな?」
「え?!もう行っちゃうの?!」
「え??行かないの?」
「こんな快適空間を味わってしまうと⋯⋯戻れないっ!戻りたくないっ!」
「⋯⋯⋯はい、行きますよー」
渋るサシャさんは放っといてベランダに出てみると、寝る前と変わらずに出入り口らしきものはそこにあった。
『防御力上昇』
魔法がかかったのを確認して盾を構えて進んでみる。チラッとサシャさんを見ると、ちゃんとついてきているようだ。そのまま進んでみると、安全地帯に入る前と同様に両サイドが岩の壁という景色が広がっていた。地図を確認してみると、歩いて数分のところに広いスペースがあることがわかった。
「あっ!?」
「んん?」
安全地帯への出入り口がなくなってしまった。これでもう進むしかなくなった。
「ああ、お布団、シャワー、カップラーメン、ジュース⋯」
「日本でなら食べれるし、飲めるでしょ」
「そうですけどね?!もっとゆっくりしたいわけですよ!!」
「⋯⋯位階を上げてください」
「うっ⋯⋯」
「⋯⋯まぁ、カップラーメンならこっちでも食べれるでしょ。そのうち持ってきてあげるから」
「!!?ユウジさんっっ!!!」
そんなゆるい会話をしながらも地図に従い進んでいく。広いスペースが近くになるにつれ、視界の一部が黒くなってきた。あれは魔物だろうか?こちらに向かってくる様子はない。
「⋯あれ、魔物ですよねぇ?」
「やっぱりそうだよね」
「だとしたら、すごい数じゃないです?!」
「だよねぇ」
視界の一部どころか、大半が黒くなってきた。これ全部が魔物だとしたら全然シャレにならない。
「⋯⋯⋯これ、どんくらいいるの、かな⋯⋯?」
「⋯どうでしょうね⋯」
「おいおいおい!ずいぶんいるなぁっ!」
「かえりたーい⋯」
広いスペースらしきところに着いた⋯はず。地図上では着いたように見えるが、あまりにも魔物の数が多すぎて何も把握できない。いろんな形の、主には黒っぽいけどいろんな色の魔物がぎゅうぎゅうにつまっている。なんでかスペースからこっちに出てこない。繰り返しになるが、どれくらいの数なのかなんて検討もつかない。わかるのはこれをどうにかしないといけないという事だけだ。
「戻れないし、やるしかないんだろうけど」
「どうします??火をつければ全部に燃え広がるんじゃないんですか?」
「そんな単純ならいいけど⋯」
「っていうか、それ以外できないんじゃないです?」
そんな事は分かっている。なんかディスられているような気がする。いや、むしろディスってるのが正解かもしれない。こんな状況で鉄パイプを持ち出したら何を言われるかわかったもんじゃない。
「とりあえず様子見で⋯」
安全の為、スペース手前から魔法を放ってみる。
『炎』
数体の魔物が燃えていく。ちゃんと効いているようだ。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛」
「げキャっギギぎぎべぇ」
「あ゛ーーーー」
「⋯⋯⋯きもっ」
道中の魔物と違い、攻撃すると反応があって気持ち悪い。人型が嫌だとか思ってたけど、こんなにいるとそれどころじゃないし、どれがどれだかわからない。ただただ気持ち悪いだけだ。
不快な声なのか、音なのかを出していた魔物は燃え尽きた。その分のスペースが少し空いたはずなのに、すぐに他の魔物で埋まってしまった。
「これ⋯」
「どうしましょう?!」
「ダヌさん、こんな時はどうしたら?!」
「いや、俺もこんなの初めてだ!」
終わりがわからないまま、限りある魔力でどこまでやれるか。地道に数を減らしたとして、復活しない保証もないわけで⋯。なんか一気に減らせるような勢いが欲しい。
「⋯⋯⋯よし、サシャさん」
「な、なんです?」
「なんか勢いがある攻撃ってなんだろね?」
「そんなのわかりませんよ?!」
「火に限らず、なんかないかな?」
「いや、だからわかりませんよ!ニホンにはなんかないんですか?!」
「日本でこんな事にはならないからねぇ」
とはいえ、ゲームとかでなんかいいのあったかなぁ?再現できなきゃ意味ないけど。⋯⋯もしくはなんかの現象?火と水ってなんかなかった?⋯⋯⋯あ、粉とかあれば??
「ないと思うけど、なんか粉とか持ってない?」
「そんなの持ってるわけないじゃないですか!?」
「小麦粉でいい?」
「え?!ミラさん?!あるの?」
「さっきキッチンに小麦粉あったから非常食になるかなって」
「なんと都合のいい展開⋯⋯⋯なんだこれ⋯」
「なんか作って食べるんですか?!現実逃避しますかっ!?」
「そんな事しないよ。爆発でも起こせないかなぁって」
「ば、爆発って、あの⋯⋯」
「え??ドーンってやつ」
「「ドーン⋯⋯」」
「うん。ドーンってやつ」
「そんな事できるんですか?!」
「た、多分だけど」
聞いた事はあるけど、実際の仕組みはよくわからない。そんな事をした事ないし、する必要もなかった。
『炎』
「え゛え゛え゛あ゛あ゛」
「ぎゃーーーー」
「に゛ゃ?に゛ゃ?」
どうやろうか考えている最中も、ダヌさんは地道に攻撃してくれている。ただ、やはりそんなに減ってないように見える。それに気持ち悪い。
あんだけいっぱいわさわさいるし、粉がいい感じにばらまけるかも?地面の砂とかもあわされば⋯⋯いけるかも?
「うまくいくかわかんないけどやってみるか。うまくいけば御の字ということで」
「オンノジ?」
「ありがたいって意味かな」
「へー」
「ダヌさん!」
「なんだ?!」
「これから粉をばらまきます!頃合いを見て、全体に火をつけるイメージで攻撃してみたいので、少し待機しててください!」
「なに、こなぁ?」
見たことがあるパッケージの小麦粉の中身を魔物に向かってばらまいた。一袋分だから大した量ではないが、絶えず動いている魔物のおかげで徐々に小麦粉が広がっていく。
「そろそろいいかな」
タイミングはさっぱりわからない。でも、小麦粉がキラキラ舞ってるようにも見える今じゃないかと思う。
「ダヌさん、そろそろやります!」
「よしっ!」
全体に炎をつけるようなイメージで⋯⋯。
「せーのっ!」
『『炎』』
うまくイメージできたのか、二人分の炎が見える範囲全体に広がっていった。
「どうだっ!?」
単に魔物が燃えているだけに見える。
「ダメかっ!?」
そう思った瞬間、眩しいほどの光とシュゴーッ!という音がした。
「うわわわっ!?」
「きゃっ?!」
「なんだなんだ?!」
「⋯⋯⋯いい匂い?」
一気に見える範囲の半分近くの魔物がいなくなった。燃えたというより、消し飛んだという言い方のほうが正しそうだ。
「あの、ユウジさん?」
「⋯⋯なにかな?」
「ドーンは?」
「⋯⋯あー、ちょっと違ったかもしんない」
「オンノジ?」
「⋯⋯それはそうかも」
一袋の小麦粉でこんなになるものだろうか?安全地帯の小麦粉だから?魔法の使える異世界だから?それとも日本でも起こる正常な反応なのか?⋯⋯いずれにせよ、こう思わずにいられない。
これ、ご都合主義ってやつなんじゃね?




