26 あ、ダンジョンですね
洞窟と聞いていた。そう聞いていたから、急いでホームセンターでヘルメットとライトを買ってきた。⋯⋯結果、今のところライトは必要なかったようだ。外と同じくらい、すごく明るい。
⋯⋯あーー、これはあれだな。うん。
ゲームやマンガなど創作物の知識しかないが、間違いなくここはダンジョンだと思う。
最初は洞窟という言葉のとおりに、ゴツゴツとした岩肌の壁だった。そこに魔物も出てきた。危なげもなく倒した後、そのまま進んでみると集落の廃虚みたいなとこにでた。空があるようにも見える。単に洞窟を抜けただけなような気もしてくる。
「⋯洞窟を抜けたわけじゃないんだよね?」
「そう言われると⋯ちょっとわかんないですね」
「なんだ?!もう終わりなのか?!」
ここでも魔物が出てきた。でもそれは洞窟の外でも同じ事。そうなるとここは洞窟の中なのかわからなくなってきた。
わからないと言えば、もう一つ。どう考えてももう二十分経っている。それなのに日本に戻らない。
え、もしかして時間延びた?⋯確認してみるか。
『状態』
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ユウジ・サトウ
職業 無職
位階 六
体力 中
魔力 中
能力 世界移動 十分間+十分間
学習
学習による効果 回復
解毒
防御力上昇
突進
炎
水
経験増
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知らない内に位階が六になっていたが、それ以外に変化はない。
「何か変わってますか?」
「位階は上がってるけど、他には変わってないよ」
「うーん、おかしいですね。時間はもう過ぎてると思うんですけど」
「やっぱりそうだよね⋯」
「おっと、気を抜くなよ!」
『炎』
ダヌさんの放った炎が、近づいてきた魔物を燃やしていく。
「ありがとうございます!」
「さすが!ダヌさん!」
「惚れるなよ?!」
「「それはありません」」
「お、おぉぅ⋯⋯そうか」
聖女二人は容赦なくぶった斬る。と、そこで、
ピロン♪
「え?!」
こちらは電波がないどころか世界が違う為、カメラや時計などの最低限の機能しかスマホは使えない。それなのに鳴るはずのない、メッセージが届いた通知音が鳴った。
⋯届いてたけど確認してなかったから、今のタイミングで通知だけ鳴ったとか?
そう思いスマホを見てみると、今の時間でメッセージが届いている。差出人は通知不可能となっていた。開いてみると、
『ダンジョン内は時間が止まっています』
「は??」
時間が止まってる??
「ユウジさん?」
「いや、ダンジョン内は時間が止まってるって書いてある⋯」
「ダンジョン??」
「多分、魔物の洞窟の事だと思う。でも、時間が止まってるって⋯」
「!!?!ヒィーハァーッ!!!それが!本当なら!魔物倒し放題じゃないですかっ!!ヒィーヤッホォーッ!!」
サシャさんがそうなるのはわからなくはないけど、ここでそのテンションはやめてほしい。魔物がよってくるじゃないか。って、早速来たわ。
『炎』
今度は自分で攻撃した。ダヌさんだけに任せておくわけにはいかない。魔力には限りがあるのだから。
倒せた、かな?
「倒し放題じゃないよ。時間が止まってるなら、体力と魔力が回復するかわかんないじゃん。それとも、回復できる道具でもあんの?」
「そんなのはありません!!」
「長くても二十分のつもりでいましたからね」
威勢よく言うサシャさんにミラさんが続ける。
⋯そうでしょうね。軽い気分で来てるよね。
まぁ、自分も数分間頑張れば戻れるしって思ってたからここに来た。それなのに時間が止まってるなんて思ってもいなかった。こんなにガチで攻略ができる状況だとは思わなかった。
あ、そういえば。
もう一度スマホを確認してみると、通知不可能のメッセージ以外に通知がきている。その通知をタップしてみると、マップデータを更新しましたとポップアップが表示された。
「⋯更新?どこのだよ?」
そのまま起動してみると、読み込みに多少の時間がかかったものの、現在地を示すマークと付近の地図が表示された。
あれ、これって⋯?いやいやいやいや!?
そんな馬鹿なと思いつつも、画面の表示と周りの景色を確認する。ここに来るまでの道を思い浮かべながら、地図を少し動かしてみる。
「へあっ?!!」
「どうしました?!ユウジさんにしては珍しい声がしましたが!?」
「⋯⋯⋯えーと⋯⋯この洞窟の地図が見れるようになった、かもしんない?」
「「「っ!!??」」」
三者三様とはこういう事なのか。奇声をだして叫ぶ人、その場でオロオロする人、変なものを見たような顔をする人。そんな人達を見ていたら少し落ち着いてきた。
サシャさんの奇声にまた呼ばれたのか、魔物が近づいてくるのが見えて皆も落ち着きを取り戻した。
「⋯あのさ、一旦帰ろうか」
「⋯そうですね。あ、ダヌさんお願いします」
「はいよ!」
『炎』
危なげもなく、魔物は燃えていく。もう見慣れた光景だ。
誰かが怪我をしたわけでもなく、魔力がなくなっているわけでもない。ただ、いろいろ情報を整理して準備をしてから来たい。強くそう思った。




