見に覚えのない能力
「さて、ここで立ち話もなんだ。さぁ、みんな外界にも戻るぞ。異議はないな?」
「OK、リーダー。とっとと戻ろう。」
リーダーの問い掛けに他のメンバーも全員が合意する。そしてリーダーは僕にも話し掛けてきた。
「君は出口に向かいながらその転移魔法陣の話を聞かせてくれ。」
「判りました。」
僕はリーダーの問い掛けに即答する。僕がここに来るに至った経緯を隠す意味はない。というか、どちらかというと彼らの知恵を借りたいくらいなのだ。他のみんなもローザとロベルトを肴に続けていたお喋りを中止し、リーダーの号令により通常モードへと切り替わる。
次の行動が決まったパーティの動きは迅速だった。対魔物用の隊列を組んでどんどん歩きだす。先頭はロベルトが受け持ち、その後をリーダーが追随する。僕はリーダーの後ろを歩くように言われた。そして僕の後ろを女の子3人がついて来る。しんがりはレオンと呼ばれていた男だ。こいつはレイチェルと一緒にいた男である。役割から察するにロベルトとレオンは剣士なのだろう。リーダーと女の子たち3人は魔法使いのようだった。
「あのぉ、リーダーさん?」
僕は前を歩くリーダーに声を掛けた。多分リーダーというのは肩書きであって名前じゃないだろうけど、みんなも彼の事をリーダーとしか言ってなかったからな。と、言うか君たち僕に対して名乗ってないよね?そこんとこ、どうなの?
「えっ?ああっ、そう言えばまだ名乗っていなかったな。俺はジャック・イエーガー。君と同じ魔法使いだ。」
「あっ、はい、どうも。」
「先頭を行くのがロベルト・ニコラス。剣士だ。一番しんがりを務めているのも同じく剣士でレオン・ブリッツ。」
「はい。」
「女子は全員魔法使いだ。君の後ろがレイチェル・ガードナー。業火魔法でファントムを焼いた子だ。その後ろの口の悪いのがローザ・グリムス。」
「聞こえているわよ、リーダー。」
「ははっ、でその後ろがロゼッタ・ストローン。まっ、正式な挨拶はダンジョンを出てからにしよう。取り合えず、ダンジョン内での対魔物フォーメーションは俺たちが受け持つ。何かあったら君は隠れていてくれ。下手に動かれると巻き込んじゃうかも知れないからね。」
「あっ、はい。そうさせて貰います。」
僕はリーダー、もとい、ジャックへ了解の返事をする。確かにグループの連携した動きを知らない僕は、いざ機動戦闘になったら足手まといだろうしね。でも取り合えず簡単な紹介はして貰ったので良しとしよう。
「で、出口までってどのくらい掛かるんですか?」
「そうだなぁ、何も無ければ4時間くらいか。」
げっ、4時間!結構深いじゃんっ、ここ!いや、Aランクダンジョンと言う事を加味すれば、そうでもないのか?
「えーと、それって歩きっぱなしで?」
「ああ、そうだね。なんだ、何か不都合でもあるのか?」
「不都合というか、僕ってダンジョンに潜るのここで3回目なもんで・・。」
いや、ウエストキャナルは下の階層にすら潜っていないから回数に入れていいもんか迷うところだけどね。でもさすがに学校の実習で1回潜っただけとは言いずらいじゃん。
「3回目?おいおい、本当かよ!」
「はい、すいません・・。」
くそっ、サバを読んだのに驚かれてしまった・・。まっ、ここはAランクダンジョンだしな。虚勢を張っても仕方がないか。
「そうか・・、それはすまなかった。うんっ、大丈夫だよ。帰りのルートはそんなに危険じゃないから。脅かすつもりは無かったんだが配慮が足りなかったな。レイチェル、前に上がれ。彼を中心に置く。ローザはサポートしろ。」
「はい、リーダー。」
リーダーの言葉に後ろにいた女の子が配置を換えて来る。う~んっ、僕を思っての事なんだろうけど、ちょっと情けない状況になってしまった・・。
「ふふふっ、私はローザよ、よろしくね。」
「あっ、アルベール・ドレステンです。お手間をとらせます。」
僕のサポートを命じられた女の子が横に並んで挨拶してくる。僕もまた改めて名前を告げた。連れて行って貰う手前、一歩下から謙った挨拶を付け足す。
「気にしないで。ダンジョンルーキーにいきなりAランクはきついもんね。」
「はぁ、すいません。」
いや、きついどころじゃないよ。漂っている高濃度魔力にふらふらしそうだ。これがAランクダンジョンか・・。道理で毎年、タカを括った新人が行方不明になる訳だ。
「女に指図されるのは嫌かも知れないけど意地を張ったら駄目よ。Aランクダンジョンを甘く見たら死ぬから。」
「肝に銘じます。」
「ふふふっ、あなた素直ね。なんか昔のロベルトを見ているみたいだわ。」
えっ、そうなの?まぁ、雰囲気だけだろうけどね。僕は、はっきり言ってロベルトみたいなハンサムじゃないし、背も低いしな。そう言えばこのパーティって姿かたちに関してはレベルが高いよな。女の子たちもそれぞれ個性的美人だし、男共もかっこいいやつらばかりだ。成程、類は友を呼ぶんだね。いいなぁ、僕ももう少し背が高くて器量が良かったら自然と友達を作れたのだろうか・・。
「ねぇ、あなたって本当に転移魔法陣でやってきたの?何の備えも無く千キロも跳ばされたらバラバラになっちゃうて聞いているんだけど?」
ローザは僕のガードに付いたついでに色々と話しかけてくる。でもそんな彼女をリーダー、もとい、ジャックが注意する。
「ローザ、注意が散漫だぞ。油断していると足元をすくわれるからな。」
「は~い、気をつけま~す。」
まぁ、これもこのパーティの中ではいつもの事なのだろう、ローザはジャックの注意に軽~く答える。
「えへっ、注意されちゃった。まぁ、あなたは何か疑問があったら遠慮しなくて良いからね。静かにしなきゃならない時はちゃんと言うから。」
「はい、判りました。」
うん、ローザはもしかしたらお喋り好きなのかも知れない。そんな彼女にとっては、いきなり現れた僕はいい玩具なのだろう。だけどここはAクラスダンジョンだ。油断は禁物である。そして、2時間ほど歩いた先でそれを実感できる出来事が僕らを襲った。
それは突然岩の陰から飛び出してきて、そのままの勢いで一番近くにいたローザへ襲い掛かった。僕は咄嗟に腰のロープへ魔力を添え、正体不明の襲撃者に槍のように突き放つ。魔法によって槍と化したロープはひゅんという音を発しながら襲撃者を貫く。しかもご丁寧に後端の方は、襲撃者の足に絡みつき、動きを止めていた。
「えっ、なんだ?今のって僕がやったのか?」
咄嗟だったとはいえ、僕にそこまで正確にロープを操れるスキルはない。確かに僕はロープを魔法で投げつけようとしたけど、僕の技量ではロープの槍化や後端を使った捕縛などの精密な操作など出来る訳がなかった。
「すまん、見落としていた。大丈夫か?」
先頭を歩いていたロベルトが申し訳なさそうにローザへ謝ってきた。
「え、ええ。彼が撃退してくれたから。掠ってもいないわ・・。」
口ではそう言うが、ローザはびっくりして座り込んでいる。
僕らは慎重にロープに絡まって動けなくなっている襲撃者に近付く。襲撃者はロープに刺し貫かれながらもまだ死んでいない。中々どうして大した生命力だ。ロープで捕縛されていなかったらそのままローザに飛び掛っていたかも知れない。
ローザを襲った襲撃者はナンキン・ジャンパーだった。姿かたちは南京虫によく似ている。ダンジョンではよく見かける虫が魔物化したものだ。でもサイズは虫というには大き過ぎる。ちょっとした中型犬くらいはあった。しかし、成りはでかいがナンキン・ジャンパーは滅多に攻撃してこないはずだ。大抵は向こうの方が先に気付いて隠れるし、そもそも攻撃の為の牙も毒も持っていない。ダンジョン内で息絶えた死体を食べる所謂ダンジョン内の掃除屋である。
「ナンキン・ジャンパーね。こんな臆病な魔物が襲い掛かってくるなんて、今回のダンジョンはどうなってるの?」
僕の後ろにいたロゼッタがロープに絡まって床でピクピクしている魔物を見て疑問を言う。その問い掛けを無視して最後尾にいたレオンがナンキン・ジャンパーに止めを刺しながら僕に問い掛けてきた。
「それよりすげーな、お前の魔法。操作系か?ロープを槍化するなんて結構大変なんじゃないか?」
そう、ロープを操作するだけならそれ程でもないが、先端を硬化させるのは難しい。強化魔法か、変質魔法を併用する必要がある。それにも増して魔法の並列作動は結構難しい。単独でなら発動させられても、幾つもの魔法を一辺に発動させるのは難しいのだ。それを今回僕は行なった。いや、そんな自覚も技量もないのだが。
「どうなんだろう?ロープを投げようとはしたけど、先端を槍化しようなんて考えてもいなかったような・・。」
「ほう、無意識か、すごいな。」
僕の言葉にジャックも驚いているようだ。そうだよな、魔法の並列作動って高等科の2年辺りで学ぶ技術だものな。魔法使いランクで言えば2級の中位くらいの技術だ。とてもじゃないが中卒の僕が扱える魔法ではない。そんな僕にレオンが問い掛けてくる。
「無意識って・・。おいおい、お前本当に1級なのか?」
「自分でもびっくりだ・・。どうしちゃったんだ、僕は・・。」
そう、今回の事に一番驚いているのは僕自身だろう。僕は手にしたロープを見つめて有り得ない出来事に唖然としてしまった。




