お困りのようですね、みなさん
「あのぉ、ちょっといいですか?」
「えっ?誰だ、君はっ!」
突然後ろから僕に声を掛けられたパーティのリーダーは、それでも結構まともな問い掛けをしてくる。うんっ、いきなり攻撃をされなくてよかったよ。
「あーっ、迷子の魔法使いです。よければお手伝いしましょうか?」
「魔法使いだとっ!」
あれ?驚くのはそこなの?どうやって結界内に入ったのかとかじゃなくて?
「中卒ですけどね。しかも新人です。」
「中卒!なんでそんなやつがここにいるんだっ!」
あらら、話が変な方向に進んでしまったな。まぁ、僕の説明もトンチンカンだったか・・。
「その件に関しては後ほど。因みにあの蜘蛛の魔物たちって幻影です。本体はあそこですよ。」
僕は天井に張り付いているファントム・ミラージュをリーダーへ指し示した。
そこには完璧な擬態を施したファントム・ミラージュがいた。はっきり言ってその擬態は素晴らしい。いると判っている僕でさえ視覚情報だけでは周りの岩と区別がつかない。でもリーダーは優秀だった。視覚強化に加え、温度変化や、表面強度知覚魔法まで駆使して、岩にしか見えないファントム・ミラージュを知覚した。
「あれはファントム?くっ、やはりやつだったか・・。レイチェルっ!あそこにファントムがいる!焼いてしまえっ!」
「えっ、ファントム?あれっ、そいつ誰です?どこから現れたの?」
レイチェルと呼ばれた少女はリーダーの言葉と、リーダーの側にいる僕を見た事に混乱したようだ。
「レイチェル!説明は後だっ!」
「はっ、はい!業火魔法!火力控えめ、範囲10!」
リーダーに急かされつつも、レイチェルは勢いに任せての全力攻撃などはしなかった。ちゃんと相手に合わせた威力でファントム・ミラージュを焼く。とは言っても、彼女にはファントム・ミラージュの位置が判らないのだろう、結構広い範囲を満遍なく焼き払った。
だが火力控えめといっても守備力の低いファントム・ミラージュには致命的な威力である。火から逃げようと2、3メーターはのたのたと動いたようだがそれまでだった。ぽとりと天井から剥がれ落ちて地面にその黒焦げの体を晒す。その瞬間、あんなにいた蜘蛛たちが忽然と消え去った。他のパーティの者たちは唖然として蜘蛛たちのいなくなった空間をキョロキョロと見渡している。
「おーっ、すげぇな。何だったんだ、あの蜘蛛の大群は?」
「くっ、私とあろう者がファントム風情の幻影に惑わされたとは・・。」
「あれがファントムの幻影ですかぁ。いや~、気付きませんでした。」
「本当に幻だったのかよ、斬った感触はあったぞ?」
「リーダーに言われたから焼きましたけど、本当にいたとはびっくりです。」
パーティのみんなはそれぞれが思った事を口にしている。そうだね、幻影ってそうゆうもんだからね。ファントム・ミラージュって攻撃に対する守備力とかがアレだから下に見られがちだけど、実はとっても厄介なやつだと授業でも教えられていたからなぁ。
そんな中、リーダーが僕に話しかけてくる。
「いや~、助かったよ。ところで君は誰だい?俺は結構強力な結界を張っていたはずだけど気付けなかった。」
うんっ、確かにそうだね。あんな強度の結界を破るのは、中学の実技担当の先生たちだって無理かも知れない。こいつ本当に凄いやつだな。もしかして2級の上位なのか?
「結界の件に関しては僕もちょっと説明が出来ませんね。いや、思い当たる節はあるんだけど、話すと長くなりそうなのでまずは自己紹介をさせて下さい。」
パーティのみんなは相対していた蜘蛛たちがいなくなった事により、警戒の対象を僕に向けている。中には僕の事を別のミラージュが創りだした幻かもと思っている者もいるようだ。そんな中、仲間の警戒心に気付いたリーダーが僕に聞いてくる。
「あーっ、すまんがその前にちょっと確認させて貰っていいか?」
「そうですね、どうぞ。」
僕が了解するとリーダーは僕に向かって検査魔法を掛けてくる。これは人間に擬態した魔物を見分ける魔法だ。だから別に掛けられたって害はない。でも相手の了解を得てから掛けるのがマナーだ。性根のくさったやつらなんかは、ここぞとばかりに拘束魔法なんかを掛けてくる事があるからね。見ず知らずの人間はいきなり信じては駄目なのだよ。
リーダーの魔法は一瞬だった。呪文すら唱えなかったよ。あはははっ、やっぱりすごいな、こいつ。天才かも知れない。
「OK、彼は人間だよ。」
リーダーの言葉に、パーティのみんなは漸く僕に対する警戒を解く。
「さて、助けて貰ってなんだが、君がここにいる説明をして貰えるかい?」
「ええ、それでは自己紹介から始めましょう。僕の名はアルベール・ドレステン。ウエストキャナルで魔道具工房の下働きをしている魔法使いです。」
「ウエストキャナル?なんでまたそんな遠くのやつがここにいるんだ?」
僕の言葉にロベルトと呼ばれていた男が疑問を投げ掛けてきた。しかし、遠いのか・・。洞窟の雰囲気と彼らの服装から、ここは僕が入ったダンジョンではないような気はしていたが、結構遠くに転移させられたらしい。
転移魔法って馬鹿にならない魔力を消費する。しかもそれは跳ばす距離に比例するから、僕が踏んだ魔法陣は相当強力なやつだったのだろう。
「あー、その前にここってどこです?実は僕、転移魔法陣を踏んづけて跳ばされたらしくて、ここがどこだか判らないんですよ。」
僕の説明にみなが驚く。
「転移魔法陣だと?それってウエストキャナルからか?」
「はい、町の外れにあるCランクダンジョンです。」
「ちょっと、それって本当なの?ここってドクトレイブの森よ!ウエストキャナルからは千キロは離れているわっ!」
ロゼッタと呼ばれていた女の子が、僕がぶっ飛びかねない驚きの言葉を言う。げーっ!本当かよ。ドクトレイブの森って王都の隣にある、この国でも指折りの魔境じゃねぇかっ!どんだけ強力だったんだ、あの魔法陣っ!
「僕もびっくりですね。ドクトレイブの森って本当ですか?」
「ああ、本当だ。いやはや、話が凄過ぎてすぐには信じがたいな。」
僕の問い掛けにリーダーが応えてくれる。そうだね、千キロだもんな。僕だって信じられないよ。
「リーダー、こいつの話を信じるのか?どう考えても嘘っぽいんだけど。真偽魔法を掛けた方がいいんじゃないのか?」
げっ、真偽魔法だって?そんな高等魔法を使えるのか、このリーダーはっ!
「おいおい、助けて貰っておいてその言い草はよくないぞ。まぁ、確かに驚くべき事だけどね。」
「すいません、僕にも状況が飲み込めてないです。」
そらそうだ、千キロ超えの転移魔法なんて3級レベルの魔法威力だよ。よくもまぁ、五体満足で跳べたな僕。下手したらバラバラになっていてもおかしくなかったのに。
「まぁ、その事は置いておこう。君、魔法使いと言っていたけどランクはどれくらいなの?俺の結界をあっさり破ったのだから結構なランクだと思うけど。」
「あーっ、ランクは1級です。しかも今年魔法中学を卒業したばかりの新人。」
「へっ?新人?ああっ、そう言えばそんな事を言っていたな・・。もしかして強力なアイテムでも持っているのかい?」
「いえ、結界に関しては幻影の蜘蛛をあなたが招きいれたのとタイミングを合わせて進入しました。」
僕の言葉にリーダーは驚いたようだ。
「タイミングを合わせた?まさかっ!そんな事が出来るのか?」
「ええ、結界を弱めたのが見えましたから。」
「見えたって・・、君、本当に1級なのか?」
「はい、これでも魔法使いですから自分が言っている事の不自然さは理解しています。どう考えたっておかしいですよね。でも理由は判らないんですけど本当です。もしかしたら転移したのが原因かも知れません。」
「転移に伴うボーナススキルか・・、確かにありえるな。」
リーダーは僕の説明に考え込んでいる。確かに強力な魔法を浴びるとその影響で何かしらかのスキルを得る事はある。と言うか、本来持っていいながら眠っていた才能が開花する事があるらしいのだ。でもなぁ、僕に限ってはそんなもんは持ち合わせていないと思うんだけど・・。
「で、申し訳ないんですけど外に連れて行って貰えませんか?ここってどうみてもAランクダンジョンですよね?どのくらいの階層なのかも判りませんけど、僕ひとりでは到底出れないと思うんです。」
「あっ、ああ、そうだな。OK、今回のミッションはここまでとしよう。俺たちも予想外の襲撃を受けたからな。このまま先に進むのはちょっと危ない。」
僕のお願いにリーダーはあっさり合意してくれた。彼らの目的が何だったのかは知らないけど、あれだけ苦戦をしていたのだから、彼らも一旦引いてやり直すのが普通だろう。遮二無二前へ進むだけが探査ではない。このリーダーはそこいら辺のバランスもちゃんと判っているらしいね。
「ねぇ、リーダー。今回のファントムの襲撃って絶対ユリウスが一枚噛んでいると思うんだけどなぁ。」
リーダーの決断を受けて、ローザと呼ばれていた女の子が何やら意味深な事をリーダーに問い掛けてきた。しかもその問いに別の者たちも追随してくる。
「あーっ、ローザもそう思いました?」
「あっ、俺もそれは感じていたよ。絶対あいつは怪しい!」
「ロベルト・・、絶対今思いついたでしょう?あなたが物事を考えるなんて有り得ないもの。」
「何だよっ!俺だって考えるぞっ!」
「脳筋の頭で考えたって、答えは出ないでしょうに。」
「くっ、やっぱりお前らは犯すっ!」
「ふんっ、口ばっかりでそんな度胸もない癖に。」
「があーっ!ローザ、てめぇーっ!」
うん、みんなの話を脇で聞いているとそれぞれの立ち位置が判るね。ロベルトはどうやら女の子たちの弄られキャラらしい。後、ユリウスってやつはどうやら嫌われ者なんだな。
「ほら、ロベルト。ご褒美のパンツよ~。」
「わっ、見せるんじゃない!はしたないぞ、ローザ!」
「ねっ、ロベルトは口だけなんだから。純情過ぎてからかいがいがないわ。」
「うぐっ、むむむ・・。」
う~んっ、すごいな。完全に遊ばれているよ、ロベルトは。でもちょっと羨ましいぞ。
「はははっ、ローザ、それくらいにしておけよ。お前って本当に天邪鬼だな。そんなんじゃ、ロベルトには届かないぞ。」
「なっ、何の事よっ!わっ、私は別にロベルトなんか何とも思ってないんだから!」
おっと、なんだ。ふたりはそうゆう関係なのか。しかし、蜘蛛との戦闘から解放された故の気の緩みなんだろうけど、みんなお喋りに夢中だね。出来れば僕も混ざりたいけど、キッカケもないからなぁ。
「いやはや、朴念仁と想いベタなやつらは面倒だな。まっ、ここはロベルトが悪いとしておこう。」
「えっ、なに?何で俺が悪いの?どう考えてもローザが悪いだろう?」
「あーっ、無自覚もここまでくると悪意を感じるわねぇ。ローザも大変だ。」
「だっ、だから私は何とも思ってないからっ!変に勘ぐらないでよっ!」
「ローザ、そのくらいにしておきなさい。反論すればするほど、どツボに嵌まるわよ。」
「くーっ!ロベルトっ!勘違いしないでよね!あなたはただの使いっ走りなんだからっ!」
うん、話の内容からどうやらローザはロベルトに好意を抱いているらしい。そして当のロベルトは鈍感キャラなんだな。いいねぇ、青春してるじゃんっ!




