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雑文ラノベ「王立魔法学校高等部の優等生」  作者: ぽっち先生/監修俺
出会い編
5/52

幻影魔物ファントム・ミラージュ

広さが50メートルほどはありそうな洞窟の中で数人の若者たちが魔物相手に戦っている。魔物の数は多い。というか見渡す限り魔物だらけと言った方が早いかも知れない。そんな魔物たちによって若者たちはふたつのグループに寸断されていた。


「ロベルト!左だ!左から来るぞっ!」

「ちっ、ちょこちょこと素早いやつらだぜっ!」

ロベルトと呼ばれた男は、左から飛び掛ってくる大型の犬くらいはある蜘蛛のような魔物を気配だけでタイミングを計り剣で両断した。斬られた蜘蛛はドロっとした体液を撒き散らしながらロベルトの横を転がってゆく。しかし、相手は一匹だけではない。次から次へとロベルト目掛けて突進してくる。


「がーっ、一体どこから湧き出してくるんだ、こいつらはっ!」

向かって来る蜘蛛たちを時には斬り、時にはいなしながらロベルトは愚痴った。


「弱気を吐くなっ!とにかく押し返せっ!」

先ほどロベルトに声を掛けた男がロベルトを励ます。どうやらこの男がこのパーティのリーダーのようだ。


「こなくそっ!俺は虫は苦手なんだよっ!さっきから体中の毛が逆立ちまくりだぜっ!」

「ロベルトっ!あんた男の癖にだらしないわよ!」

リーダーと背中合わせに蜘蛛に対峙していた女の子がロベルトを見もせずに言葉だけで叱責する。それもそのはずで、彼女も自分の方へ向かって来る魔物に対して魔法で転がっている石を矢継ぎ早に投げつけ、魔物たちが近寄らないように対処していたのだ。


「ロゼッタ、ロベルトは敢えて身を晒して私たちから蜘蛛の注意を反らしてくれているのでしょう。ここはロベルトの意を汲み、私たちだけで脱出しましょう。ロベルト、あなたの事は忘れないわ。」

先ほどの女の子とは別の女の子が、やはり魔法で魔物に対処しながら、ちょっとアレな事を言ってくる。

「ローザ、てめぇ~っ!勝手に俺をおいて行くなっ!こなくそっ!蜘蛛のやろう、俺にばかり纏わり付くんじゃねぇ!どうせならロクデナシのローザを襲いやがれっ!」

ロベルトは次々と襲い掛かってくる蜘蛛をなぎ払いながらも、ローザと呼んだ少女への罵倒を忘れない。どうやらこの4人がひとつのグループのようだ。この4人とは別に男女ひとりづづのペアが少し離れた場所で、やはり魔物たちと遣り合っている。


その時だった。ロベルトたちとは少し離れた位置で蜘蛛と対峙していたペアから少女の声が響き渡る。

「みなさん、準備が整いました!伏せてください!なぎ払いますっ!」

「うわっ、待て!レイチェル、ちょっと待て!よしっ、いいぞ!」

ロベルトは目の前にいた蜘蛛たちの足をなぎ払って動けなくしてから後ろに飛びのき地に伏せる。他の者もタイミングを合わせてそれに倣った。


「業火魔法!火力ちょっと強め、範囲30!」

先ほど伏せろと言った少女がパーティの全員が伏せたのを確認してから廻りにいる蜘蛛に向かって火炎魔法をぶっ放した。火力は控えめと言っていたが、この閉じられた空間内で火を使うとは思い切ったものである。下手したら酸欠で自分たちまで気を失いかねない諸刃な対応だ。しかし、周りを魔物に取り囲まれた彼らにはそれしか方法がないのだろう。そして、それは見事に当たった。業火に見舞われた範囲にいた蜘蛛たちはみな足を上にして焼かれている。おかげでその臭気で吐き気をもよおしそうになるほどだ。


しかし、残念ながらその業火の範囲外にいた蜘蛛たちはぴんぴんしている。仲間の焼死体を見ながらもその戦意は全然落ちていないようだった。それでも相手に厄介な火を使うものがいると判った為か、先ほどのように力任せに突進するものはいなくなった。しかし焼かれた数と同等くらいの蜘蛛が洞窟の奥の方からぞろぞろと出てくる。これにはパーティの全員が落胆した。


「くそっ、一体どれくらい後詰がいるんだよっ!後、くせぇーぞ、こいつら!」

ロベルトは立ち上がりながら剣を構え直し愚痴を漏らす。


「当たり前だわ、おいしそうな匂いだったら逆に困るでしょう?」

ロゼッタと呼ばれていた少女がロベルトの愚痴を混ぜ返した。


「ああっ、大困りだぜ!どうするリーダー!指示をくれっ!」

「さて、どうしたものかな。どうやら俺たちは罠に嵌まったようだ。これは無傷では帰れないかも知れない。」

「怪我くらいで済むかしら?あっ、ロベルトを生贄にすれば私たちは逃げられるかも知れないわね。」

「ローザっ!お前、俺の扱いが酷すぎだ!生きて帰れたら襲うぞっ、ゴラぁ!」

非常に分の悪い状況だというのに何故か彼らの会話は軽い。いや、敢えて軽口を言い合う事によって気力が萎えるのを防いでいるのかも知れなかった。



僕は今、そんな魔物相手に苦戦しているパーティの戦いを少し離れた大岩の上から見学している。でも傍から見た限りではパーティは何と戦っているんだろうと思うはずだ。僕は偏光視力魔法によって彼らが戦っている相手が認識できるけど、普通の人では彼らがグループで何もいない空間でパントマイムをしているようにしか見えないはずだ。


そう、彼らが相手にしている魔物は、ファントム・ミラージュ。幻影を操る魔物である。つまり彼らが戦っているのはファントム・ミラージュが見せている幻だ。でも幻と言ってもちゃんと斬られたり燃えたりするように振舞うので彼らにはそれが幻だと気づけないのだろう。そして、その幻を創りだしている本体はパーティから少し距離を取った、丁度僕と反対側の天井に張り付いていた。


「これはこれは・・、また随分と厄介なやつとやっているな。」

僕はパーティが相手をしている魔物の正体を知って眉をひそめる。ファントム・ミラージュ自体はそれ程強い魔物ではない。大きさは大人の人間と変わらないくらいだし、毒も持っていない。ぷよぷよとした体は剣で斬り付ければ簡単に真っ二つに出来る。ゲーム的な言い方をすれば、物理攻撃力も守備力もレベル1か2程度の魔物だ。


但し、それは先に発見できればの事である。ファントム・ミラージュは擬態の名人である。擬態している時のファントム・ミラージュを視覚で認識できるやつは、まずいないだろう。それ程やつの擬態は完璧と言われている。僕だってやつが業火を避ける為に動いたからやつがそこにいると気付けたのだ。やつが動かなかったらとてもじゃないが判らなかっただろう。


そして厄介なのはやつが見せる幻影だ。そう、やつは直接戦わない。獲物となる相手に幻影を見せ戦わせるのだ。


幻影を見せられた方はそれが幻影と気付かず戦い続ける。そして疲れ果てたところをぱっくんちょとされるのだ。または今回のように多数の獲物がいる場合は幻影を調整して仲間同士を戦わせたりするらしい。


僕の目の前で戦っているパーティは、それでも幻影に対して耐性があるのかそこまでの幻は見せられていないようだが、体力がなくなれば注意力が落ちファントム・ミラージュの幻影に魅せられて、いずれは仲間同士で同士討ちを始めるはずだ。


でも、相手にしているパーティの中でひとりだけ飛び抜けて優秀なやつがいて、ファントム・ミラージュはパーティに大して決定的な一打を討てずにいた。それが先ほどからパーティをまとめいてるリーダーだ。彼は一見何もしていないように見えるが、実のところやたらと強力な結界でパーティ全体を包んで守っていた。


幻の魔物たちが結界を破って襲い掛かってくるにしても、ちゃんと数と方向を調整している。どうやらこのグループでは剣士なのはロベルトだけらしいので、彼の方へ彼が捌ききれるだけの魔物を誘導しているようだ。そして、もう一方のグループへ向かった魔物たちも同様に剣士らしい男の方へ魔物たちは誘導されている。それ以外の魔物は悉く彼の結界に弾かれていた。


彼の思惑は、まず剣士たちに魔物の数を減らさせて、レイチェルと呼ばれていた少女の業火魔法で焼き尽くす作戦だったのだろう。だが、残念ながら幻をいくら焼き払っても本体には傷ひとつ負わせる事は出来ない。魔力はげるだろうけど、ダンジョン内は魔力が充満している。ファントム・ミラージュにとって、あれくらいの魔力損失はすぐさま補充できるはずだ。つまり、彼らは相手がファントム・ミラージュだと言う事に気付かない限り勝ち目はないと思われる。


「う~んっ、助太刀するべきだろうか?」

僕は状況を見極めつつも行動を起こすのを躊躇っている。だって、僕って部外者だからね。そもそも、僕がここにいるのって、ダンジョン内で魔法陣を踏んだ為だし。


そう、僕を包み込んで消した魔法陣は転移魔法だったらしい。あの魔法陣の光に包まれた後、僕はこの大岩の上に放り出された。そして状況を確認する間もなく、僕の目の前でパーティと魔物の戦闘が始まったのだ。


ファントム・ミラージュはパーティへ幻を見せるのに集中しているのか、僕の存在に気付いていない。でも残念ながら僕もこの距離からあいつを攻撃できる装備を持っていなかった。となると、選択肢は2つである。


まずひとつは無視するだ。多分、戦況がどうなろうとこの大岩の上にいる限り僕に被害は及ばないはずだ。だから戦いが終わってから行動を開始する。


もしもファントム・ミラージュが勝ったなら、やつがパーティのみんなを捕食している間に、そーっと近付いてずぶりとすればいい。そこにいると判っていれば如何に擬態の名手といえど騙される事はない。ファントム・ミラージュの戦闘力自体は大した事がないので僕にだって狩れるはずである。気付かれて幻影を見せられたとしても、僕はそれが幻影だと判っているから意味はない。幻なんか無視して本体をればいいだけだ。


パーティ側が勝った場合は、如何にも今来たばかりを装って、仲間に入れて貰う。そして状況を話して一緒に外へ連れて行って貰おう。実状を知っている人から見たらとんでもない行為かも知れないが、僕が生き残る為にはベストな案だろう。


もうひとつはパーティへ助太刀する事だ。パーティが苦戦しているのは相手が幻だという事を知らないからだ。ならばその事を伝えれば形勢は逆転する。本体の場所を教えれば、先ほどの業火魔法でファントム・ミラージュは丸焦げに出来るはずである。


でもこれはリスクを伴う。なんせ戦闘中のパーティに近付くのだ。気が立っているやつらの前にのほほんと現れたりしたらいきなり斬られるかも知れない。良かれと思ってやったら巻き添えを喰らうなんてあんまりである。


でもまぁ、どちらを選ぶかは僕の中ではもう決まっていた。うんっ、人間たるもの目の前で人がみすみす魔物に喰われるのを見過ごせる訳がない。そうして僕はよっこらせと大岩から飛び降りて、細心の注意を払いながらパーティへ近付いた。

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