密室のハプニング
さて、魔剣総戦の打ち上げパーティーは当初ジャック、ユリウス双方がそれぞれのグループで催す予定だったのだが、何故か合同で行なう事になったらしい。そして、これはユリウス側からの提案だったそうだ。なんでもユリウス・ハーウェイのおじいさん、つまりこの国の内務大臣グラディウス・ハーウェイが手打ちをする時は遺恨を残さぬように徹底的にやれとユリウスに忠告したんだって。はははっ、さすがは老練な政治家だ。後始末の仕方が身に染みついているんだね。
そうゆう訳で、僕は今、メイファンに引っ張られてユリウスの屋敷へ馬車に揺られながら向かっている。いや、正確にはゲストハウスらしい。くっ、ブルジョアめっ!別邸まで持っているのかよっ!金持ってやがるな。やっぱりここは革命でも起こして搾取側を駆除しないと平等な世界は実現しないのかもしれない。
でも、今はそんな事などどうでもいい。と言うか今僕は非常に気まずい状況にあるのだ。それはなんとメイファンが馬車の中で着替えを始めたからであるっ!ちょ、ちょっとメイファンっ!なんでここで着替えるんですかっ!僕がいるんですよ!あなたには乙女の恥じらいってやつがないんですかっ!
だけど、僕の心の声を聞けないメイファンは構わず上着を脱ぎ捨て下着姿になる。僕は咄嗟に手で顔を隠したけど、指の隙間からぱっちり見ているのは青少年故の逆らいがたい衝動からだろうか?そして、そんな上辺だけのジェントルマンを演じている僕にメイファンは気にする素振りもなく、上着を脱いだ時に乱れた髪を手で直しながら指図をしてきた。
「ふぅっ、アルベール、その足元にあるトランクからドレスとハイヒールを出して頂戴。あっ、手は汚れていないわよね?」
僕はメイファンに言われて足元を見る。ははんっ、メイファンったら衣装に拘りがないとか言っていたけど、ちゃんと用意しているじゃんっ!ふむふむっ、さてどんな衣装なのかな?
「あっ、はい。うわっ、なんだこれ!もしかしてこれを着るんですか、メイファンさん。」
「うわ~っ、私も初めてみたけど、ユリウスの趣味丸出しね。あの子って女の子にお姫さま願望が在り過ぎるわ。」
僕が広げたドレスを見てメイファンはため息をついている。うんっ、そうだねぇ。こんなひらひらのドレス、普通の子なら引いちゃうよな。しかも色は真っ赤だぜ?メイファンに赤いドレスって怖過ぎる。返り血を浴びても目立たないな、なんて冗談を言ったら本当に実践されそうだよ。あっ、でも背中はぱっくり開いているんだ。ひゅ~、これはメイファンクラスの美人が着たらバックシャンでみんなが振り向くこと確実だね。
でも、そんなドレスをメイファンが着るのを手伝っていると、僕はひとつ気になる事を知った。それはメイファンの背中に大きな刀傷が斜めに走っていたのだ。
「メイファン・・さん。これは・・。」
「あっ、びっくりした?ちょっと昔、失敗しちゃった時のやつなの。いや~、あの時は本当に危なかったわ。でも私の師匠が駆けつけてくれて何とか助かったのよ。でも、師匠も同じような傷を負っちゃってね。私が無茶をしたばっかりに師匠にも傷を負わせてしまった・・。だから私にとってこの傷は戒めなのよ。この傷を見る度に身の丈に合わない相手とは戦わない事を心に誓うの。」
メイファンは僕の問い掛けに、あまり気にした様子もなく説明してくれる。う~んっ、剣士にとって傷って勲章みたいなもんなのかね。そう言えば、シスター・ミッシェルも傷自体はそんなに気にしていなかったな。ただそれを見た周りの人たちが驚くから隠していただけだ。
でも、もしかしてユリウスってこの事を知らないのか?本人は気にしていないみたいだけど、背中に傷のある女の人にこんなに背中の開いたドレスを着せるだなんて、ちょっとどうかと思うぞ?
「ふぅっ、やっぱり馬車の中で着替えるのは窮屈ね。どう、アルベール。どこかおかしなところはない?」
そう言うとメイファンはくるりと一回転する。とはいえ、狭い馬車の中だ。膨らんだドレスのスカートが僕の顔を撫で回します。う~んっ、なんかそうゆうプレイをしているみたいだよ。これって中学を卒業したばかりの僕が経験してもいい事なんでしょうか?はははっ、なんか大人の階段を一段登ってしまったかもしれない。
しかし、ここでまたまた困った事が発生する。そう、なんと僕のビックサムが起き出してしまったのだ。だって、メイファンったら僕の目も気にせず胸元とかを直すんだもの。あーっ、なんて言うの?チラリズム?下着を着けているのは判っているけど、それでも大胆に開いたドレスの胸元は若者には刺激が強過ぎます。くっ、なんか股間部分を隠すものはないかな。あっ、ドレスの入っていたトランクでいいや。
でもそんな不自然な行動は当然メイファンの目に止まる。そしてメイファンは何故僕がそんな事をしたのかを感づいたらしくからかって来た。
「あら、アルベール。そのトランクはもう必要ないから下に置いてもいいわよ。」
「あっ、はい。でも気にしないで下さい。僕はこうしているのが好きなんです。」
「ふ~ん、あっ、そうだ。ならこの脱いだ上着とかを仕舞って頂戴。あっ、待って。丁度いいからヒールを履かせて貰おうかしら。」
そう言うとメイファンは席に腰掛けたまま左足をどんとトランクの上に投げ出してきた。当然メイファンのスカートはめくれて太ももまであらわになる。くっ、生足攻撃かっ!ビックサム防御の為に膝の上に置いたトランクがまさかアダになるとは思わなかったぜっ!しかも馬車の中は狭いから、投げ出されたメイファンの左足は僕の腹に届いてしまう。それをいい事にメイファンは僕の腹廻りをぐりぐりと足先で弄くってきた。うわっ、止めて。くすぐったいよ、メイファン。くぅおのぉ、そっちがその気なら僕だって容赦しないぞ!
僕はくねくね動くメイファンの足先をがっちり掴むと、足の裏をマッサージしてやった。うんっ、ハイヒールを履くと血行が滞るらしいからね。履く前に丹念にマッサージするのは僕の中では常識だ。まぁ、今初めて思いついたんだけどさ。
「あはははっ、くすぐったいわアルベール。もっとゆっくりやって頂戴。」
うんっ、マッサージ自体は否定しないんだ・・、くっ、誘っているのか、この女はっ!
はい、そんな訳ないです。ただ単に僕がからかわれているだけです。でも、なんか男の子としてすげー羨ましがられるようなシチュエーションなので気にしない事にしました。
しかしなんだねぇ、メイファンって剣士だからもっと筋肉隆々だと思っていたけど、結構柔らかいんだな。こんなに柔らかい筋肉であんな瞬発力の必要な動きが出来るものなのか?全く女体の神秘ってやつは奥が深いね。
さて、メイファンのおみ足の触り心地を十分堪能した僕はヒールを履かせる為にメイファンの足をちょっと押し返す。でないと履かせられないからね。でもこの時を待っていましたとばかりにメイファンが膝を曲げたのよ。ここで対面した状態で投げ出された足を膝立ちさせるとどうなるかは想像してほしい。そう、なんと女性の神秘の花園がちらりちらりと目に入ってしまうのだっ!うんっ、がばっとではなくちらりと見え隠れするところがまた、青少年の探究心をくすぐるのであるっ!しかもメイファンってわざとやっているからね。くそぉーっ、健全な青少年のウブな心を弄るとは許せんな。
「ふふふっ、手が震えてるわよ、アルベール。もしかしてあなたって童貞なの?」
ぐぎゃーっ!なんて事を言うんだメイファンっ!それは健全で且つ純情な青少年には一番聞いてはいけない質問だぞっ!いいじゃないか!別に童貞だからって人間の価値は変わらないんだっ!いや、どちらかと言えば神聖なんだぞ!かの竜神への生贄だって捧げるのはうら若き処女じゃないかっ!処女と童貞、このふたつは薄汚れた経験者なんかより万倍尊い存在なんだからなっ!・・、いや、処女はそうだけど、童貞は駄目かな?・・うんっ、駄目だな。
「ふぅ~ん、まぁ女の子と違って経験済みかどうかなんて男の子には単に精神的なものでしかないからね。情報に踊らされてはやまる事はないわ。別に他の同年代より早く童貞を卒業したからって偉い訳でもないし、ましてや強くなる訳でもないわ。所詮脱童貞なんて仲間内の小さい優越感よ。大人になったら何の価値もなかった事に気付くから気にしちゃ駄目よ。」
くそっ、メイファンめっ!言うに事欠いて何回童貞を連呼するんだよっ!あんたは本当に相手に容赦がないな。人にとっては取るに足らない事かも知れないけど、当事者にとってはすげー重い事だってあるんだからなっ!そこら辺、もっと気遣えよっ!泣いちゃうぞっ!
その後も僕はメイファンから言葉によるセクハラを受け続ける。でも本能によって僕のビックサムは目の前でチラチラしている秘密の花園に反応し続ける。くそぉー、こんな辱めを受けているのになんで僕の息子は喜んじゃっているの?お前は変態かっ!えっ、それが普通?あっ、そうなの?なら仕方ないか。
「さっ、着いたわ。ほら、いつまでも不貞腐れていないでシャンとしなさい。今回は内輪のパーティと言っても正式なものなのよ。うだうだしていると大臣に顔を覚えて貰おうと集まった人たちに侮られるわ。あなたは仮にもジャックグループの一員なのだから、その影響はジャック・イエーガーにも及ぶわよ。」
王都の中心を挟んで、学園から正反対の郊外にあるユリウス家のゲストハウスの門をくぐったところで、メイファンが童貞とからかわれ拗ねて黙り込んでいる僕に注意してくる。
くっ、誰のせいでこうなったと思っているんだよ!、後、内輪のパーティなら部外者を呼ぶなよ。これだからブルジョアは嫌いだ。どうせ、上級階級のしきたりを知らない僕を見て笑うつもりなんだろう?あーっ、腐っているよな、上流階級って。いや、一般庶民も根っこの部分は一緒かな。僕が孤児院出って判ると、結構上からの物言いになる人がいるからね。
それにしても広い敷地だぜっ!門をくぐってから結構経つのにまだお屋敷に着かないよ。なんなんだ?もしかして庭の中をぐるぐる廻ってわざと遠回りしているのか?はははっ、見栄っ張りだねぇ。
まっ、それは冗談として漸くユリウス家のゲストハウスが馬車の前方に見えてきた。おーっ、でかい屋敷だぜっ!何が嬉しくてあんなにでかい建物を建てたんだ?えっ、ゲストの宿泊施設があるの?あーっ、成程。つまり宿屋を兼ねているんだな。確かに内務大臣クラスが主催するパーティーならあれ位部屋数がないとお客を泊められないか。
「ほら、アルベール。いーしなさい。顔が強張っているわよ。」
そう言うとメイファンは僕のほっぺを両手で引っ張り無理やり口角を広げさせる。痛てっ、痛いよメイファン。あなたわざとやっているでしょう?
「さっ、それでは降りましょう。今回のパーティーは慰労会という名目だけど、集まってくる人たちの中には色々な思惑が入り乱れているわ。つまり、ここは社交という戦場なの。ぼけっとしていると一気に持っていかれるから気をつけなさい。特にあなたはジャックチームの新入りなんだから最優先諜報対象になるはずだわ。だから、はずかしくない態度で堂々としているのよ。侮られたら負けですからね。」
馬車の扉を開ける前に、再度僕の身だしなみを確認しながらメイファンがまたまた怖い事を言ってくる。うわ~ん、なんで内輪のパーティーに出るだけでこんなにブレッシャーが掛かるんだよ。僕はもっと気のおけない仲間内だけのパーティーがいいよぉ。
だけどそんな僕の心の声を聞けないメイファンはまたまた難しい事を言ってくる。
「うんっ、まぁ身だしなみはこれでいいわ。では、アルベール・ドレスデン。先に馬車を降りて私をエスコートなさい。」
「えっ、そんな事までしなくちゃならないの?」
「言ったでしょう?ここは戦場だって。どこに好奇な目があるか判らないんだから気を抜いちゃ駄目。」
「う~っ、なんかお腹が痛くなってきたんだけど・・。今日は欠席しちゃ駄目かなぁ。」
「弱音を吐かないの。貴族や王国関係者だって所詮は同じ人間よ。斬られれば赤い血を撒き散らせて死んじゃうんだから卑屈になる必要は無いわ。」
うんっ、それは判っているんだけどさ。でも、メイファン。その例え方はどうかと思うんだけど・・。
「くそっ!やってやるさ!こう見えても中学の礼節の授業で僕は何度も貴族の役をやったんだ。この僕の身から溢れ出る高貴なオーラを浴びて思わず膝をついて頭を下げたくなっても知らないからなっ!」
「ふふふっ、その意気よ。それではナイト様、参りましょうか。」
僕の頓珍漢な意気込みにメイファンが笑って応える。そして、僕は外で待っている御者に合図を送り馬車の扉を開かせると外へと降りた。でも、そこでまたまたびっくりする。なんと屋敷の玄関の周りには幾人もの正装したお出迎えの人々が頭を下げて並んでいたよ。あらら、いきなりカウンターパンチを貰ってしまった。これは中学の授業でも習わなかったなぁ。これが大臣級の家系の常識なのだろうか?もしかして、ユリウスって家に帰る度、こんな出迎えを受けているの?それもなんだかなぁ。
「アルベール、ぼけっとしないの。さっ、手を差し伸べて頂戴。」
馬車の中からメイファンが僕に注意してくる。僕は慌てて、扉の前からよけて馬車の入り口で待つメイファンへ手を差し出した。その手をメイファンの白いシルクの手袋がそっと掴む。そしてしずしずとメイファンは馬車を降りた。えーっ、ちょっとメイファン。あなたもしかして場慣れしている?いつものあなたからは想像出来ないくらいエレガントなんですけど?
はい、僕の手に添えながら馬車を降り立ったメイファンは、どこのお嬢さまなんだよという程洗練された雰囲気をかもし出していた。フリル満点でちょっとお姫さま過ぎるのではないかと思われたドレスもメイファンの内からかもし出される美しさに圧倒され霞んでいるくらいだ。げーっ、女って本当に化けるよな。メイファンを知らない人が今のメイファンを見たら絶対どこかの貴族のお姫様と勘違いするよ。
まぁ、それはユリウス家の人たちも同じだったのだろう。案内するのも忘れてぼけっと突っ立っているよ。
「ロバート、なに突っ立っているの。とっとと案内しなさい。そんなんでは他家の者たちにユリウス家の躾を笑われるわよ。」
「えっ、あっ、はい。申し訳ありません。それではこちらへどうぞ。他の方々は既にお集まりです。」
メイファンに叱られたロバートという男は慌てて本来の仕事を思い出して僕たちを屋敷の中へ案内した。うんっ、でも判るよ、ロバート。多分ロバートはメイファンと顔見知りなんだろうけど、それはいつものメイファンだろうからね。あのメイファンがこなん格好で目の前に現れられたらびっくりもするよなぁ。うんっ、ロバート。君は悪くないよ。なんて言うか、それが至極当然の反応だよね。本当に女って化けるよな。




