鍛錬を積んでリベンジだっ!
さて、ジャックグループとユリウスグループによる『魔法と剣術の総合戦闘模擬試合』も無事終わった翌日の日曜日。メイファン・カルティアにけちょんけちょんにされた僕は、こりゃいかんと自主練をする事にした。何と言ってもメイファン相手に負けるのは致し方ないとしても、さすがにあそこまで徹底的に潰されては僕の男としての面子が丸潰れだからね。だって、メイファンったら僕を玩具呼ばわりだよ?仮にも思春期真っ只中の男の子にあの扱いはないだろう?僕じゃなかったら絶対引き篭もってネットへメイファンへの罵倒を匿名で書き込んで憂さ晴らしをしているね。でもネットってなんだろう?
まぁ、そうゆう訳で僕は下宿先の賄いで軽い朝食を取った後、魔法鍛錬の基本である精神力を研ぎ澄ます為に部屋の中で瞑想にはいった。傍から見たらベッドで2度寝を決め込んでいるように見えるかもしれないが、さに非ず。これが僕流の精神鍛錬なのだよ。ビバっ、2度寝っ!休みの日はこれが出来るから最高だねっ!あっ、2度寝って言ってしまった・・。失敗、しっぱい。
でもまぁ、実際には寝ている訳ではない。確かに僕はベッドに横になって目を閉じているけど頭の中はフル回転しているんだ。魔剣総戦で見たメイファンの動きを思い出し、どこかに隙が無かったかを探る。それこそ僕が対峙した時は元より、レオンやジャックたちが相手をした時の事までつぶさにお浚いした。
なんせ、僕はこの手の記憶力には些か自信がある。集中して観察した場面などは相手の指先の動きまで鮮明に思い出せるのだ。ただ何故か座学の勉強には使えないんだよな。動きなどの視覚情報と文字や言葉の情報は違うのだろうか?先生が黒板に何か書いている情景は思い出せるんだけど、肝心な何を書いているかとか何を言っているかなんかは思い出せないんだもん。全く困った記憶力だよ。動きなんかは覚えているんだけどねぇ。あっ、何故か、先生のくだらないジョークなんかは覚えているんだよな。なんでだろう?
でも記憶力に関しては、具体的な事は判らないけど何百人かにひとりくらいはこうゆう事が自然と出来る人がいるらしい。すごい人は、まるで今、目の前で見ているかのように記憶を思い出せるそうだ。そう、僕と違ってちゃんと文字や言葉なども記憶しているらしい。んーっ、羨ましい・・。
でも、僕の記憶力だってそこまで凄くないが、それでも印象に残った場面などは結構鮮明に覚えている。そしてメイファンに関してはやっぱりあの動きだね。
メイファンのあの動きは今思い出しても異質だ。というか物理法則を無視していると思う。だって、ずっと見ていたのに気付いた時には目の前にいるんだぜ?おかしいだろう?向かってくるのが見えているのに何故か僕の頭はそれを無視するんだ。それどころかその記憶を消去している感じなんだよな。一体どんな方法を使っているんだろう。あの動きは幻覚魔法なんかとは根本的なところが違う気がする。剣士特有の『技』なのかなぁ。
僕は記憶の中のメイファンの動きを何度もリピートする。そしてある事に気付いた。あれれ?なんか段々と記憶が曖昧になっていくんだけど?最初にメイファンの動きを思い出した時はレオンのところから真っ直ぐ僕のところへ向かってきたはずなんだけど、再度思い出すと大きく回りこんで僕の後ろに立っていた気がしてきたよ?いや、待てっ!さっき思い出した時は、僕に向かって駆けて来てそのまま僕の脇を通り越して後ろに回っていたはずだ。あれぇ~、なんか記憶がめちゃくちゃなんだけど?なんだこれ。どうなっているんだ?
僕はベッドの上で目を開き天井を見る。まずい、なんか思い出せば思い出すほど混沌としてくる。なんか目を開けた途端、最初に思い出していた記憶まで消えてしまった感じだ。これってあれかな。夢見ていた事を起きた途端すっかり忘れてしまう、あの感覚に似ているかも知れない。むーっ、メイファンの動きがあまりにも異様な為に僕の頭が否定して記憶すら消し去ろうとしているのだろうか?参ったなぁ、これじゃ参考にならないよ。
僕はベッドから起き上がり汲んで置いた桶の水で顔を洗う。そしてすっきりした時には最早記憶していたメイファンの動きを忘れていた。いや、完全には忘れていないんだけど詳細なところはぼやけてしまって思い出そうとしても記憶の引き出しがどれだったか判らなくなっていた。
「ふぅーっ、参った。やっぱりメイファンの動きは何らかの術なのかもなぁ。だから術に掛かった僕が思い出そうとするとそれを拒絶するのかも知れない。げーっ、だとしたら対策なんか出来ないじゃんっ!」
まぁ、剣の達人級の人の動きを素人の僕がどうこう考えても対応策などは思い付かないのかも知れない。そもそも最初の動きの把握すらこれだものな。剣士たるロベルトやレオンが出来ない事を僕ができる訳ないか。
でもそんな僕でも出来る事はある。それは魔法の鍛錬だ。これなら僕にも幾ばくかの素質はある。だからメイファンの事は忘れてこっちを集中的に訓練するとしよう。
まぁ、鍛錬などと言っても僕は剣士でも勇者でもないんで、別に棒っ切れなんぞを振り回したりしない。地味に精神面の強化に勤しみます。魔法は魔力を操る事によって発動させるんだけど、それには強い精神力が必要だからだ。
そこで僕は、まず初歩的なところから1ミクテグラ茶貨を糸で吊るして両手で包み込む。そして動けぇ、動けぇと心の中で念じる。するとやがて硬貨は手も触れていないのに左右に動き出すのだ。これぞ、ウエストキャナル伝統の精神鍛錬術『サイコキネス』だっ!
はい、嘘です。そんなんで精神が鍛えられたら中学生はみんな達人になれます。そもそもなんで精神波で硬貨を揺らすのに手をかざす必要があるのさ。意味ないじゃん!単なる視覚効果じゃん!お尻を向けてぷぅ~ってやった方が絶対動くじゃんっ!最初にこのスタイルを考え出したやつは本当に中二病かも知れない。もしくはイカサマ師だな。観客の目線を手元に集中させて、足かなんかで風でも送っていたんだろう。
まっ、ふざけるのは止めよう。でも精神鍛錬をする事にしたのは本当だ。しかも飛びっきり危ないやつをである。はははっ、こう言うとどんな事をしたのか気になるでしょう?仕方ないな、教えてあげよう。それはある種の薬草のチカラを借りる事だ。その薬草の成分を抽出したものを体内に取り込むと精神と肉体が分離して心が開放されるんだ。そうして開放された精神は肉体の呪縛から解き放たれ高位なる神の領域に達することが出来る。そして神の教えを聞く事により魂は凄まじいチカラを手に入れる。ある種の人はそのチカラを持って現世に戻り、人々を神の元へと導いたりする。そんな人を一部の人々は教祖さまなんて言って崇めちゃうんだよね。
はい、またまたふざけました。こうゆう風に二度続けてボケを噛ます事を業界用語で『天丼』って言うらしいです。でも、なんで天丼って言うのかは定かではない。あっ、天丼自体は知っているよ?色々な食材を小麦粉などで包んで油で揚げた食材をご飯に乗せてワンプレートで提供する食べ物の事です。僕の故郷であるウエストキャナルでは割とポピュラーな食べ物だな。
食材としては海老がもて囃されているけど、僕が好きなのは色々な野菜を細切りにして揚げたやつだね。『かき揚げ』って言うんだけど、これがまた美味いんだ。玉ねぎの甘味がだし汁と相まってベリー・グッドなのよ。特にシスター・モニカが揚げたやつなんか絶品だぜ?孤児院で『かき揚げ丼』が夕飯に出た時なんか、僕も含めて子供たちは大喜びだったもんな。あっ、なんか思い出したら食べたくなっちゃったよ。イーストリバーでは同じ油で揚げるにしても、なんかイマイチ違うんだよね。
う~んっ、仕方ない。自分で作るか・・。あっ、でも油がないや。小麦粉もないからなぁ。そもそも、僕の部屋には台所がないや。それに材料を買う余分なお金もないし無理か。くっ、自炊って結構道具を揃える必要があったり食材もそれなりの値段がかかるんだよね。安いからって大量に買い込んでも食べ切れなくて余っちゃったりすると結局傷んで捨てる事になるからなぁ。一人暮らしって、なんやかやと色々とロスが出るんだよ。
だから僕は自分で作らず下宿の賄いご飯を食べているんだ。でも僕の唯一嫌いなピーマンが結構な確率でおかずとして出てくるんだよねぇ。下宿の賄いご飯は普通においしいんだけどあれだけが残念だ。いや、生で出てくる訳じゃないんで食べればそこそこおいしいんだけど、なんてゆうか刷り込みみたいなモノなのかなぁ。どうしても僕はピーマンが苦手なんだよね。
おっと、雑念が入ってしまった。ひとりでやる鍛錬って注意してくれる人がいないからだらけ易いんだよね。気をつけねば。
さて、一通り精神の鍛錬?が済んだら次は肉体の鍛錬だ。そう、健全な精神は健全な肉体があればこそらしいからね。そこでまずは柔軟体操である。う~ん、寝起きの体はあちこち硬くなっているなぁ。伸びや屈伸をする度に体の筋肉がめきめき音を立てて軋んでいる気がするよ。
まっ、僕は魔法使いなので基本的にそんなに真面目に柔軟体操なんかしない。取り合えず最低限、体が動けば事足りるからだ。うんっ、さっき言っていた事を180度否定しているね。まっ、それが人に厳しく、自分に甘くという駄目人間のサガなのさ。
でも、僕は魔法使いなので基本体術による戦闘は行なわない。でもほら、僕ってまだ中学を卒業したばかりだからさ、なんかてゆうか憧れちゃうんだよね。腕っ節だけで強敵をのしちゃうシチュエーションなんかにさ。ほら、映画なんかにもよくあるじゃん。マシンガンで相手を撃っちゃえば終わりなのにわざ銃を放り出して殴り合いで決着をつけようとする駄目だめなシナリオのやつ。本当に米国のアクション映画ってあれがテンプレだよな。うんっ、あの展開を見ているとこっちが恥ずかしくなってしまう。でも映画ってなんだろう?米国なんていう国、この世界にあったかな?
おっと、なんかまた雑念が入ったな。真面目にやらねば。そんな訳で僕はまたまたメイファンの動きをシュミレートする。とは言っても記憶はもうあやふやだからメイファンの動きは殆ど僕の妄想だ。まずはメイファンがいつものように僕にイチャモンを付けてくる所から始めよう。場所はそうだな、初めてメイファンと会ったあの場所でいいか。
「アルベール・・。私、あなたとはやりたくないのよ。だってあなた、本当は強いんでしょう?私には判るわ。あなた、いつも手を抜いているんですもの。でも、どこかのスチャラカキャラみたいに「あっ、俺またなんかやっちゃいました?」なんて白々しい事を言って悦に入ることがないから私は好きよ。」
僕の妄想の中でメイファンは周りに人がいない事を確認すると、心の奥に隠していた思いを僕にぶつけて来る。だけど残念ながら僕はその思いに応えてあげられない。
「ふっ、メイファン。僕に惚れたら君が辛くなるだけだよ。僕はひとりの女性だけのモノになる事は出来ないんだ。だって、そんな事をしたら大勢の女の子たちが嘆き悲しむからね。」
「ああっ、アレックスっ!悔しいわ!あなたを独り占めに出来ないのなら、この世に生きていても意味はない。だから、あなたを殺して私も死ぬっ!あの世で一緒になりましょうっ!」
そう言うなりメイファンは短剣を手に僕に襲い掛かる。そうだね、人のモノになるくらいならいっそ自分の手でっていうやつだね。でも、如何に可愛いメイファンからのお願いでも一緒に死んでやる訳にはいかない。だって、そんな事をしたら大勢の女の子たちが嘆き悲しむからね。
まぁ、だから僕はそんなメイファンの繰り出す短剣をさらりと交わす。いつもはぎりぎりか、もしくはグサリとされちゃうところだけど、本気モードの僕にはメイファンの繰り出す短剣は、まるでちょうちょが止まっているくらいの剣速でしかない。
いや~、これっていつも本当に困っているんだよね。あんまり遅いから眠くなっちゃうんだもの。なんてゆうか、やっぱり僕ってみんなとは次元が違う男なのだよ。うんっ、能ある鷹は爪を隠すっていうけど、みんなのレベルに合わせるのって大変なんだぜ?上からの物言いで悪いんだけどさ。
「ああっ、悔しいっ!あなたが本気になったら私には刃を掠らせる事すら出来ないのね・・。」
僕を狙って繰り出した短剣をいつもと違ってさらりとかわされたメイファンは悔しそうに唇を噛み締めながら僕を睨んでくる。ふふふっ、そんな表情をしても駄目さ。でもその表情も可愛いよメイファン。うんっ、やっぱり妄想ってサイコーっ!
「はははっ、本気?今の僕が?困ったなぁ、別に本気で相手をしている訳ではないんだけど。まっ、確かに君くらいのレベルならこの程度の対応でも本気と思われちゃうのかもね。」
ふゅ~っ、言うねぇ。妄想の中の僕。まっ、妄想だからな。なんでもありが妄想なんだし。でも、調子に乗って現実でこんな台詞をメイファンに言ったら忽ち首ちょんぱされて、自分のケツの穴を舐めさせられるな。あいつ、絶対サドだよ。あんなのに四六時中護衛されているユリウスって本当に可哀想だね。
まっ、ユリウスの事なんかどうでもいいや。今はシュミレーションに集中しなくては。
「そう・・、そうよね。本当のあなた相手に手加減していたら勝つ事は出来ないわね。判ったわ、あなたには私の本気を見せてあげるっ!」
うわっ、なんだ?ちょ、ちょっとメイファンっ!今は僕の妄想の中なんだから素に戻るなよっ!大人しく僕を持ちあける踏み台キャラをやってくれよっ!もうっ、本当にメイファンは扱いづらいな!
だけど僕の妄想の中なのに、何故かメイファンは暴走し始める。なんか短剣が光り始めたんですけど?えっ、何しているのメイファン?マジですか?もしかして奥義とか出てきちゃうんですか?ぎゃーっ!やめてくれぇーっ!ごめんっ、僕が悪かったっ!謝るから落ち着いてくれぇ~っ!
でも、僕の妄想の中だというのにメイファンは僕の命令を聞こうとはしなかった。何やら恐ろしい台詞を呟いているよ。
「まだ・・、まだよ。もっと高めなきゃ駄目。この程度では勝てない・・。もっと・・、そう、もっと弾けて、私の闘魂っ!」
メイファンは言葉通り、剣技に関しては素人の僕が見ても判るくらい集中している。するとどうだろう、短剣だけでなくメイファンの体まで光に包まれ始めた。あれ?もしかしてメイファン、覚醒しちゃったの?第3形態発動ですか?
ぎゃーっ!ギブっ!ギブアップだよ、メイファンっ!そんな凄そうなやつは、幾ら妄想の中とは言えトラウマになるからやめてくれぇ~っ!
だけど、僕の心の叫びを聞く事のできないメイファンは、最後の締めの台詞を呟きやがった。
「剣士奥義・・、ギャラクティカ・ダークサイド・サドンデスっ!」
ぎゃーっ、なんなんだ『ギャラクティカ・ダークサイド・サドンデス』ってぇー!僕のかっこいい技命名レベルってこんなもんなのぉーっ!もろ中学生レベルだよぉーっ!かーっ、はずかしぃーっ!
だが名前は駄目だめなメイファンの奥義だったが、威力は本物だった。なんと、剣の奥義なのに何故かレーザー光線が僕を襲って来たよ!うわっ、ぎりぎり避けたけど、なんか後ろの方で爆発してるよっ!うわっ、また撃ってきた!ちょっと待った、メイファンっ!それってもう剣技じゃないよね?SFか、またはトンデモ科学の部類だよね?あんたはどこぞの異世界から来た宇宙戦士かっ!
だが、僕の心の突込みを聞けないメイファンは、僕目掛けてバカスカ光線を放ってくる。それを僕は紙一重でなんとかかわし続けた。うおっ、確か光線って光の速度だよね?それを避けきれちゃうって、やっぱり僕の妄想の中では僕って最強なんじゃね?くーっ、やっぱり妄想って最高だね!よーしっ、ならば僕が『俺Tuee』なところも見せちゃうぞっ!
「くそっ、このままじゃ埒があかないっ!悪いけど反撃させて貰うぞっ、メイファンっ!」
そう言うと僕は魔法で空間に大きなプリズムを作り出す。あっ、プリズムって知っている?学校の理科の時間に習ったでしょ?そう、あのガラスで出来た三角形の棒状のやつだよ。あれは光を屈折させるから僕とメイファンの間に置いておけば、僕を狙ったメイファンのレーザー光線は全部あさっての方向に飛んで行きます。はははっ、これぞ、科学と魔法知識の勝利だっ!高度に発展した科学は魔法と見分けがつかないんだよっ!うんっ、確か、そんな事を誰かが言っていたな。誰だっけ?
だが、僕がトンデモ科学知識を披露して悦に入っていると、メイファンはこれまた剣士特有の力押しで対応してきた。
「甘いわ、アルベールっ!この世はチカラこそが至高の存在っ!全てはチカラによって解決されるのよっ!」
メイファンはそう宣言するとレーザー光線の出力をこれでもかという程上げてきた。しかも1本だったレーザー光線の数が7本に増えています。あっ、なんかそれぞれ色が違うね。あはははっ、まるで自然光を分光したみたいだよ。うんっ、これって理科の授業でやったな。って・・、あらら、僕が魔法で作り出した特大プリズムがメイファンのレーザー光線出力に耐え切れなくなって振動し始めたんですけど?うわっ、熱まで持ち始めたよっ!えーっ、本当にチカラ押しだなっ、メイファンっ!
そして、とうとう僕の作り出した特大プリズムはその膨大な入力エネルギーに耐え切れず崩壊した。
どか~んっ!ぱり~んっ!びゅんっ!
ガラス特有の破壊音を伴ってプリズムが砕け散り、僕との間に障害物がなくなった事により七色の重収束レーザー光線の束が僕の廻りを掠めてゆく。ぐわっ、あちっ!熱いって!ちっ、掠っただけなのにすげー熱いんですけど?さすがはレーザー光線だな。魔法とは一味違うぜっ!
だけど僕は慌てない。だって、これって僕の妄想だからね。如何な光速でやってくるレーザー光線と言えど、僕に当たる訳ないじゃんっ!逆に当たったらおかしいよね?なんで自分の妄想の中でまでヤラレキャラを演じなきゃならないんだよっ!
僕は、メイファンが放った重収束レーザー光線をひょいっと交わすと、天高く跳んだ。そして、空中でくるりと一回転すると拳を前に突き出してメイファンに向かって飛び掛る。喰らえっ、メイファンっ!これぞ熱血少年漫画の定番攻撃だっ!男は拳で語るんだぜっ!
でも、そんな僕にメイファンは短剣を構えて待ち受ける。そして絶妙なタイミングにて僕の腕をなぎ払った!
「はっ!」
ぱりーん!
はははっ、甘いぜメイファンっ!僕の妄想の中では僕は『俺Tuee』なんだ!そんな短剣なんかで斬られる訳ないんだよっ!うんっ、でも刃の当たったところはすげー痛かったです。でも斬り飛ばされるよりはマシか。
はい、さすがは妄想だ。魔剣総戦にて、あのレオンが繰り出した大太刀の斬撃を耐え切ったメイファンの短剣も、僕のトンデモ理論の前では玩具の剣より強度がないよ。哀れ、僕の腕をなぎ払ったメイファンの短剣は僕の腕をちょっと痛めつけただけで、傷ひとつ付ける事もなく折れて虚しく空を舞う。
だけど僕も体勢を崩されて、残念ながらメイファンに圧し掛かる事が出来なかった。くそっ、馬乗りになってマウントを取ろうと思ったのに!そして、たまたまを装ってあちこち触っちゃおうと思ったのにっ!・・、う~んっ、僕って馬鹿?自分の妄想の中で何やっているんだか。
でも今の技というか、僕の動きってすごくない?だって20メートルは飛び上がっていたよ?魔法を使うならともかく、脚力だけであれだけ飛び上がれるやつはいな・・、あっ、ごろごろいるや・・。特に剣士系は信じられないくらい体力馬鹿だからな。時には大岩すら、すぱっと断ち切るし・・。う~んっ、お前らの剣は斬鉄剣かっ!なんで刃渡りが1メートルくらいの剣で10メートルくらいある大岩を真っ二つにできるんだよっ!長さのつじつまが合わないだろうっ!
うんっ、答えなくてもいいです。どうせ気合なんでしょう?本当に剣士って全部それで済ますよな。あっ、魔法使いも同じようなもんか・・。
さて、鍛錬馬鹿な剣士の事は取り合えず置いておこう。今は絶賛妄想中だからね。しかし、なんだな。失敗したとは言え、今の僕の技ってなんかすごくね?だってあのメイファンの短剣を折ったんだよ?ちょっと他の人に無断で真似られないように所轄官庁に登録申請しておくべきかな。えーと技の名前はどうしよう?体操なんかだと自分の名前を付けるんだっけ?う~んっ、『アルベール・スペシャル』とかどうかな。いや、全然かっこ良くないな。なんかこう、もっと中二的なキラキラした名前を付けたいね。えーと、『アルベール・ムーンサルト』とかどうだろう?でも、別段月は関係ないな。後、『サルト』ってどうゆう意味なんだろう?
あーっ、でも僕って普通の魔法使いのはずなんだけど、妄想とは言えなんでメイファン相手に体術による戦闘訓練なんかしているんだろう?いや、これって戦闘訓練といえるのか?どうみても中学生のアホ妄想なんだけど・・。一体どこで間違った?
後、幾らなんでもメイファンに言い寄られるシチュエーションはないよな。すごいな、精神年齢中学生の僕の妄想って・・。
まぁ、確かにメイファンは見た目だけなら美人だからなぁ。うんっ、見た目だけはね。きれいな薔薇にはトゲがあるんだよ。特にメイファンは飛び切り鋭いトゲがね。
でもまぁ、所詮は妄想だしな。よしっ、今度はメイファンの衣服をちょっとづつ引き裂いて僕に止めてくれと懇願させるシチュエーションを妄想してみようかな。う~んっ、あんまりそっち系の知識がない僕にどこまで再現できるが問題だがそこは妄想力で補おう。うんっ、知らないエロは情熱でカバーだぜっ!若者のエロへの情熱を甘く見るとヤケドをするぜっ!うひょ~っ、メイファンのパンツの色って何色かなぁ?あっ、ひらひらのレースとか付いてるのかな?まさか、クマさんのアップリケは付いていないよな?
その時である。楽しく妄想している僕を現実に引き戻す声が聞こえた。
「アルベール・ドレステン。中二的な悦に浸っているところを悪いけど時間よ。パーティーに遅れるからそろそろ用意して頂戴。」
「げっ、メイファン!なんであなたがここにいるんだ!」
僕が声のした方を振り向くと、そこにはメイファン・カルティアが鍵を掛けてあったはずの部屋の入り口に立っていた。えっ、なんで?どうやって入ったんだ?あっ、扉が蹴破られているよ・・。乱暴だなぁ、メイファンは。いや、それよりどうしてメイファンが僕の部屋にいるの?げっ、まさか昨日の魔剣総戦だけではやっぱり飽き足らなくなって、また僕を弄りに来たのか?げげげっ、というかなんでメイファンが僕の下宿先を知っているんだよっ!そっちの方が気がかりだぜっ!夜襲とかかけられたら怖いじゃんっ!
でもそんな僕の考えを無視してメイファンは答えてきた。
「いちゃ悪い?他のメンバーは何かと忙しそうだったので呼びに来たのよ。私は衣装とかにこだわりが無いから暇なのであなたを連れて来る役を引き受けたの。それに中学生男子の一人住まいの部屋にも興味があったし。でもちょっと期待外れだったわ。もっとカピカピになったパンツとかが散乱しているかと思ったのに、割ときれいなのね。もしかして、彼女でもいて片付けてくれているのかしら?」
メイファンは言葉に少し嫌味を込めて僕をからかって来る。くっ、彼女なんかいたなら、こんなところで妄想なんかしているかっ!後、僕は中学生じゃねぇっ!・・いや、精神的には中学生と変わんないかも知れないけどさ。
因みにメイファンが僕の部屋に来たのは魔剣総戦の打ち上げパーティーに僕をエスコートする為だそうです。うんっ、昨日みんなと別れ際に誰かが迎えに来てくれるとは聞いてはいたんだけどね。まさかメイファンが来るとは思わなかったよ。事前に聞いていたら絶対に断ったのに・・。うーっ、今日もまた弄られるんだろうか?勘弁してほしいなぁ。




