ジャックVSメイファン
さて、会場ではロゼッタたち魔法科同士の戦いに決着がついた事により、その事を伝える実況がローリーより観客席の生徒たちへと伝えられた。
『おーっと、両陣営の魔法科対決は双方ふたりづつギブアップとなり、ローレンツ選手が生き残った為ユリウスチームが優勢となりました。あれ?でもクラス的にはハイクラスとノーマルクラスですから、どちらかと言うとジャックチームの方が相手の戦力を削いだ事になるのでしょうか?ん~っ、これって戦術的にはユリウスチームの勝利ですが、戦略的にはジャックチームの勝利と言えるのかも知れません。あっ、でも唯一生き残ったローレンツ選手の元にジャック選手がやって来たぁーっ!これはローレンツ選手、大ピーンッチっ!』
「ちっ、間に合わなかったか・・。仕方ない、なら落穂拾いでもするか。ローレンツっ!覚悟しやがれっ!」
ロゼッタたちの状況を知り、援護に来るのが遅きに失した事を知ったジャックは残っていたローレンツに照準を合わせる。そんなジャックにローレンツはうろたえ、そんな状況になった元凶であろうメイファンを罵る。
「ジャックだと?なんだ?まさか、ユリウスが負けたのか?くそっ、メイファンは何をしていたんだっ!」
「呼んだかしら?」
「えっ?」
目の前に立っているジャックに集中していたローレンツは、突然後ろから声をかけられて思わず振り向く。そこには何故かメイファンが立っていた。
「メイファンっ!何をやっていたんだっ!ジャックを牽制するのはお前の役割だっただろうっ!」
「そうね、だからこうしてやって来たんじゃないの。あなた、ちょっと邪魔だからどいて頂戴。ぐずぐずしていると斬るわよ?」
何故か仲間であるはずのメイファンに恫喝され、ローレンツは戸惑うが、メイファンの表情が笑っていない事に気付き冗談ではない事を悟ったローレンツは慌てて後ろへと下がった。
「さて、ジャック・イエーガー。ユリウス坊ちゃんと遊んでくれてお礼を言うわ。今回の事でユリウス坊ちゃんは貴重な経験を積みました。この経験はやがてユリウス坊ちゃんを真の『漢』へと導くでしょう。なのであなたにもそれ相応のお礼をしなくてはなりません。そして、どこぞの国ではお礼は3倍返しだとか。でも私は気前がいいからそんなケチな事は言わないわ。どーんと、10倍にして返してあげる。さぁ、覚悟なさいっ!」
そう言うとメイファンは両手に短剣を持ち、ジャックに向かって突進した。
「ちっ、対剣士多重結界っ!アンド トラップっ!」
自分に向かって突進してくるメイファンに対してジャックは対剣士用の結界を幾重も張る。しかもただ張り巡らすだけでなく、そのひとつひとつにトラップを仕掛けていた。それは結界を破られた時に発動する魔法だ。今回ジャックはその魔法に『泥沼』を選択した。これによりメイファンの足元を不安定にし突撃速度を減じようとしたのである。そしてそんな結界にメイファンが突っ込んだ。しかし、結果はジャックが想像していた様にはならなかった。
「なにっ!」
ジャックが張った結界を短剣で斬り裂き突進してくるメイファンに対し、何故かジャックが仕掛けたトラップが作動しない。そう、メイファンは結界だけでなく、そこに仕組まれていたトラップまで斬ったのだ。その事にジャックは驚いた。
普通、実態の無い魔法を斬る事は出来ない。だが、熟練の剣士はこともなげにやってのける。それは凄まじい鍛錬が不可能を可能にしたものであった。
熟練の剣士に対して魔法は絶対ではない。この事により、戦いにおいて魔法使いが一番やりたくないのは実は剣士だったりする。勿論、それは駆け出しの下っ端ではなく3級や剣聖、剣豪クラスが相手の場合だ。並みの剣士ではジャッククラスの敵ではない。だが一芸を極めた者には種別の差は殆ど関係がなかった。
そもそも一般常識として形のない魔法を斬るということ自体がおかしいのだが、剣士の上位ランカーたちは事も無げに魔法を斬り裂く。天地を揺るがす天災級の環境魔法も、地上のあらゆるものを焼き尽くす爆炎魔法も対剣士用の位相空間魔法ですら剣士の上位ランカーが一振りすればたちどころに消えてしまうのだ。これぞまさしくチートっ!そしてメイファンはその域に達していた。
「グッド。悪くない対応です。でも順番が逆だわ。普通は結界を斬られる前に足止めするのが定石です。後、発動時間も遅い。魔法使い相手ならともかく、剣士の突撃速度を甘く見ては駄目よ。」
いつの間にそこへ来たのか、突然ジャックの後ろからメイファンの声が届く。しかも内容はジャックの施した結界魔法への駄目出しであった。そんなメイファンの声にジャックは振り向きもせずに即座に対応した。
「うおーっ、スペース デスタンス マックスっ!」
幾重にも張り巡らせた結界をいとも簡単に破られ、且ついつの間にか間近かに迫られたメイファンに対し、ジャックは咄嗟にふたりの間に障壁を張る。これは通常の強度強化結界ではなく空間を伸張して距離を空ける障壁だ。剣士に対してはまず距離を空ける。それがこの世界の剣士に対する防御の定石だった。だがその対応にメイファンはまた駄目出しをした。
「バッド。何でも魔法に頼るのは魔法使いの悪い癖だわ。距離を取りたいのならちゃんと体を動かさなくちゃね。でないとこうゆう目に遭うのよっ!」
そう言うやメイファンはジャックが張った魔法障壁を一薙ぎで振り払う。だが、ジャックはメイファンが結界を斬る為の一瞬の時間を使い、魔法で自分の体を勢いよく後方に放り出し物理的な距離を確保する。但し、加減などしていられる状況ではなかったのでジャックは着地に失敗し、ごろごろと地面を転がる羽目になった。そんなジャックに対しメイファンが対応を褒めつつ物騒な事を告げる。
「マーベラスっ!良き判断です、ジャック・イエーガー。ちょっと見直しました。それでこそユリウス坊ちゃんのライバルとして相応しい。それでは仕切り直しといきましょう。言っておきますが、ルールなどに囚われていたら怪我じゃ済まないから覚悟を決めなさいね。」
かろうじて距離をとったジャックに対しメイファンは本気宣言をする。それを聞いてジャックは顔をしかめた。
「ちっ、メイファンよ。ユリウスと俺の事にあんたが出しゃばるのはユリウスが良しとしないんじゃないか?」
「勿論だわ、ジャック・イエーガー。でもこれはあなたの家と私の問題だから。ユリウス坊ちゃんは関係ないの。ふふふっ、イエーガー家に産まれた事を後悔するのね!文句があるならあなたの家の戦場魔法部隊のくそ隊長に言いなさいっ!」
そう言ってメイファンはジャックに向かって短剣を構え直した。そんなメイファンの自分に対する動機にジャックは愚痴る。
「それって俺が言わなくちゃならない事なのかなぁ。というか、それってどう考えても八つ当たりだろう?」
「何とでも言いなさい。要は私の気が晴れればいいのですっ!そもそも、あんな戦闘馬鹿を相手にしたら命が幾らあっても足りないわっ!」
ジャックはメイファンの私怨が自分ではなく、イエーガー家の生業のひとつである戦場魔法部隊に対する言いがかりである事を再確認する。確かにイエーガー家の生業のひとつである戦場魔法部隊を率いる隊長はジャックの目から見ても最強だった。ステータス的な言い方をすれば攻撃力99、守備力99、戦闘戦略力99のナインシックスと言ったところか。つまりメイファンが忌み嫌うイエーガー家の戦場魔法部隊の隊長はチカラと頭の両方が揃って最高値というレアキャラだったのだ。だからそんな稀有な相手に遺恨があったとしても真っ向から立ち向かってはまず勝つ事は出来ない。
故にメイファンが私怨の矛先を関係者であるジャックに向けて憂さを晴らそうとするのも理解できた。『触らぬ神に祟りなし』イエーガー家の戦場魔法部隊を率いる隊長はメイファンほどの実力者をもってしても近寄りがたい豪の者であったのである。
「やれやれ、とんだハズレクジを引かされたな。だが、だからと言って、はいどうぞとはいかないぜっ!」
そう言うとジャックは無詠唱で魔法を発し地面の土くれで1メートルほどの高さの土塁をメイファンとの間に築いた。これは一見メイファンの突撃に備える為の防壁に見えるがさにあらず。剣士であるメイファンの攻撃間合いから身を遠ざける目的の他に、メイファンの攻撃進路を1点に絞り込む為の奇策であった。
メイファンの剣裁きは確かに侮れ無いものがあるが、メイファンの本当の怖さはその動きにある。時に大胆且つ無造作に近づくかと思えば、瞬く間もなく一瞬で剣の間合いに踏み込んでくる速さ。その動きを掴めぬ動作がメイファンの強さであった。つまり、メイファンを相手にするという事は、云わば見えない敵を相手にしているようなものなのである。見えているのに捉えられない。そんな幽霊のような存在がメイファンであった。
それ故にジャックは罠を張った。追えないのなら誘い込めばよい。如何なメイファンが捉えどころがないと言っても幻影のように実態がない訳ではない。向こうから罠に飛び込ませれば後は絡め取るだけだ。その罠がこの土塁である。
通常、相手との間に障害物がある場合、それを避けるか乗り越えなくては相手に近づけない。そして大抵は避けて回り込むのが定石だ。如何に高さが1メートル程度とはいえ壁を乗り越えるにはひと手間かかる。ましてや今回の防壁は魔法で作ったものだ。どんな仕掛けが隠されているか判ったものではない。故に防壁の左右どちらかを回り込んで近づかねばならない。そしてジャックはわざとメイファンから見て右の防壁側を短めに作っていた。つまりそちらから来いと誘ったのだ。
傍から見ているだけなら簡単な誘導に見えたかもしれないが、いざ戦っている身にしてみればこれは抗いがたい誘惑だ。経験の浅いものなら何の躊躇もなくそちらを選ぶであろう。戦いの場では、どうしようかなどとのんびりと考えている時間は無い。生き残る為には即断即決が必要なのであった。だが、メイファンは百戦錬磨の剛の者である。そこでジャックはメイファンの判断を狂わせる為にもう一押しした。
「さぁ、メイファンっ!どこからでもかかって来やがれっ!」
そんなジャックの闘志にメイファンが賛辞を送る。
「ナイス・ガッツ!それでこそチームリーダーです。ですが結果を伴わねばただの虚勢でしかありません。故に3分後も立っていたらあなたを認めてあげましょうっ!」
そう言うとメイファンは真っ直ぐにジャック目掛けて突進を開始した。そう、ジャックがわざと隙を作った右側ではなく、通常は誰も選ばないであろう防壁へと突っ込んだのだ。そしてその勢いのまま防壁を乗り越えようとジャンプする。そこにジャックが仕掛けていた魔法が炸裂した。
とは言っても別に爆発などはしない。ただ防壁を乗り越えようとジャンプした姿のままのメイファンがそこにいるだけだった。そう、それだけ。だがそんな時が静止したかのような現象は通常あり得ない。しかし、ジャックの魔法はそんなあり得ない状態をメイファンに施した。
『時空間伸延』
ジャックが仕掛けた魔法は空間の時間を引き延ばす超高難度な魔法であった。その空間内に飛び込んだ者は傍から見るとまるでスローモーションのように動きが遅くなる。飛び込んだ当の本人には普通の時間経過にしか感じられのだが、その外では何倍もの速度で時間が流れているのだった。そしてその時間の差は注入する魔力量に比例する。今、ジャックは持てる魔力を最大限に使用してメイファンを閉じ込めている。その量は通常の魔法使いでは到底扱えない程のものであった。
「よっしゃーっ!捕まえたぜっ!その中ではあんたは時間の流れを意識できない。だから魔法に引っかかった事も判らないだろう!そしてこちらで所定の時間が経てば、あんたはタイムカウントギブアップだっ!」
『時空間伸延』に捉えられ、空中でジャンプした姿のままのメイファンを見ながら、ジャックは思わずガッツポーズを決める。だがそんな彼に後ろから声が掛かった。
「あら、すごい。そんな複雑な魔法も扱えるんだ。さすがは大魔法使いアルティナの直系ね。でもちょっと地味だわ。私はやっぱり、もっとどかーんという方が好きだな。」
「えっ?」
突然声を掛けられてジャックは後ろを振り向く。そこには『時空間伸延』に捉えたはずのメイファンが立っていた。思わずジャックは『時空間伸延』に捉えられ、空中でジャンプした姿のままのメイファンと背後に立つメイファンを交互に見る。そして漸くある結論に達する。
「まさか・・、分身かっ!」
「ご名答っ!ふふふっ、頭の回転の速い子って好きよ。そこら辺がユリウス坊ちゃんとの差なのかしら。でも坊ちゃんも時間は掛かるけどちゃんと正しい結論は導き出すわ。だからちょっと頭がきれるからと言って、決してあなたがユリウス坊ちゃんより勝っている訳ではないから勘違いしないでね?」
「ちっ、剣士の癖して分身魔法かよっ!」
ジャックは『時空間伸延』魔法へ注入していた魔力を中止し、再度後方に現れたメイファンとの間に対剣士用の障壁を構築する。しかし、これは破られるのが判っているのでただのこけおどしだ。なので強度も最低限のものであった。そして自身はまたメイファンと距離をとるべく後ろへ飛ぶ。
そんなジャックが対メイファン用の対応をする中、魔力の注入を絶たれた『時空間伸延』魔法はあっという間に効力を失い消え失せる。それに伴いメイファンの分身も消えていった。
「さぁ、ジャック・イエーガー。戦場においては攻撃こそが最大の防御です!持てるチカラを出し切って戦いなさいっ!」
「この野郎っ!言ってくれるじゃないかっ!後で後悔するなよっ!」
メイファンの挑発にジャックは魔剣総戦のルールを無視してSクラスの爆炎魔法を繰り出す。しかもそれは指向性を持たせてある為、一旦廻りに爆発の威力が拡散しかけた後、一気にメイファンへ向けて爆発の圧力が収縮していった。その圧力集中によりメイファンの周りの炎はオレンジ色から一気に青白い色へと変わる。地面に転がる小石などはその熱によりパチパチとはぜて割れ飛んでいった。
「どうだ?やったか?」
爆発の熱エネルギーにより上昇気流が発生し砂塵が渦を巻いて舞い上がるのを見ながらジャックはじっと結果を待つ。通常なら相手を消し炭にしてしまいかねないSクラスの爆炎魔法ではあったが、相手がメイファンでは安心できない。ジャックは万が一に備えて次の攻撃魔法を準備しながら砂塵が収まるのを待った。そして次の瞬間、メイファンのいた場所で渦を巻いていた砂塵が吹き飛ぶ。その砂塵を腕で防ぎながらジャックは愚痴った。
「畜生っ!この攻撃でも駄目なのかよっ!」
吹き跳んだ砂塵の中に無傷のメイファンの姿を見てジャックは元より観客である生徒たちも呆然とする。そんな状況を実況のローリーが伝えた。
『いや~、ジャック選手の魔法はすごい威力ですねぇ。でもそれを凌いじゃうんだからメイファン選手も反則級です。いや、実際反則だよね?メイファン選手って学生じゃないもんなぁ。
あれぇ~、でもなんでジャック選手の魔法威力がAレベル判定なんでしょう?おかしいですよね?結界で囲われている会場内はめちゃくちゃですよ?今の攻撃魔法ってどう見てもSレベルでしょう?もしかして結界越しだと魔力判定が正確に判別できないんでしょうか?しょぼいな、管理委員会の魔力判定装置。
あっ、後、ジャック選手たちの戦いに圧倒されて気付きませんでしたが、ジャック選手のメイファン選手に対する攻撃の巻き添えを喰ったのでしょうか、ローレンツ選手がのびています。あはは、かっこわる~い。はい、ローレンツ選手タイムアップギブアップを審判から宣言されました。まぁ、下手にちょこまかしているよりはこの方が安全でしょうね。ちょっと、このふたりの戦いはレベルが違い過ぎます。と言うか、魔剣総戦のルール限度を超えているんじゃないかなぁ。このまま続けさせていいんでしょうか?』
ローリーの疑問はもっともであるが魔力の威力判定が規制値内な為、審判もふたりを止める名分がない。いや、下手に止めに入ったらローレンツの二の舞になりかねない。よって試合はそのまま続行された。そんな中、ジャックの攻撃を難無く耐え切ったメイファンがジャックに向かって今の攻撃について評価を下す。
「ファンタスティックっ!ジャック・イエーガー!これ程の魔力強度はあのくそ隊長でも繰り出せないかも知れません。でも、つめが甘いわ。やる時には徹底しないと。のんびり結果を待っていては反撃を喰らうわよ。そう、こんな風にっ!」
そう言うとメイファンはジャックに向かって突進した。その突進をジャックは物理的に後退して避ける。だが直線的に逃げては試合会場の隅に追い込まれる為、ジャックは右回りに大きく弧を描くように下がった。それをメイファンが歩調を合わせて追撃する。そうする内にふたりは大きく円を描くように試合会場内をぐるぐると廻る事となった。
『おーっと、ジャック選手、メイファン選手から距離をとる為後退を続けていますが、試合会場の制約から図らずもぐるぐると廻る事となったぁーっ!これってもしかしてこのまま廻り続けたら、とろーりとしたバターが出来上がって、後でスタッフみんなでおいしく頂きましたというパターンでしょうか?、いや、あれは色が黄色と黒の虎だからあのオチだったのであって、さすがにジャック選手たちではそれはないかっ!』
ぐるぐると廻り続けるふたりを揶揄して実況のローリーがなんとも暢気な事を言い出す。しかし、逃げるジャックにはそんな余裕はなかった。魔法によりジャンプする距離と速度を増してはいるが、そんなジャックを追うメイファンに疲れは見えない。いや、どちらかと言うとジャックの速度に合わせてセーブしている気配すら感じられる。
「くそっ、遊んでいやがるっ!この速度ですらメイファンには余裕なのかよっ!」
ジャックは後退しつつも後ろから追って来るメイファンへ向けて爆炎や泥沼などのあらゆる魔法を施す。しかし、そのこと如くをメイファンに斬られ魔法が発動しない。そんなジャックへ向けてメイファンの最後通告が届く。
「ジャック・イエーガーっ!そろそろ時間です!このまま逃げて終わりですかっ!男なら立ち向かいなさいっ!」
「ちっ、舐めるなよ、メイファンっ!やってやらぁっ!」
メイファンの言葉を受けてジャックは立ち止まるや否や最大級の魔法陣を展開した。
「爆裂魔法!アトミックボンバー!範囲限定十分の一!」
ジャックの詠唱と共にのメイファンの上空に地獄の業火が現れる。その熱に炙られて真下にあった植栽が業火に接していないにも関わらず一瞬で灰になった。地面もこんがり焼かれてあちこちにひび割れが生じめくれあがる。これ程の火力にも関わらず観客席などに影響が及んでいないのはジャックが何かしているのだろう。そもそもこの距離であんな火球をまともに見たら失明どころか全身が黒焦げになってもおかしくない。そんな火球が猛威を振るったのは1秒ほどであったが、試合会場の上空には空気中に含まれていた水蒸気だろうか大きなきのこ雲が天に向かって昇って行く。そしてその影響で試合会場内には火災風が発生し竜巻のような突風が30秒ほど吹き荒れた。
「はぁ、はぁっ、どうだ・・、やったか?」
さすがのジャックもSS級の魔法を放つと魔力だけでなく相当体力も持っていかれるのであろう。ジャックは立っていられないのか地面に肩膝をついて、肩で息をしながらじっとメイファンのいた場所を凝視し結果を待つ。しかし、そんなジャックに対して砂煙の向こうからまたもやメイファンの駄目出しが放たれた。
「バッド、ジャック・イエーガー。威力は大したものでしたが、一度破られた魔法の上位互換では話になりません。もっと頭を使って新しい魔法を編み出さなくては観客のみなさんに飽きられますよ?」
そして次の瞬間、メイファンのいるであろう場所で渦を巻いていた砂塵が吹き飛び、中からなんのダメージも受けていないメイファンが現れた。
「馬鹿な・・、あれだけのエネルギーをしのいだのか・・。」
「魔法により具現化されたエネルギーなど、一度破ってしまえば無効化するのは容易い事。魔法使いであるあなたならそんな事は百も承知のはず。ちょっと焦りがみえましたね。」
そう言いつつメイファンはジャックの方へと歩き始めた。そしてジャックの前まで来ると短刀を動けないジャックの喉元に押し付け例の言葉で選択を迫った。
「それではジャック・イエーガー。ギブアップ?オア デス?」
「くっ・・、ギブ・・アップ・・だ。」
「ふふふっ、賢明ね。でもちょっと残念だわ。あなたの青い血で大地を染めるのも一興だったのに。」
「怖い事を言うなよ。俺は貴族じゃないから血の色は普通だ。いや、貴族だって血はちゃんと赤いぞ?」
メイファンの戯言にジャックはげんなりした顔で言い返す。
「ふふふっ、そうね。ちょっと言ってみたかっただけよ。信じている訳じゃないわ。と言うか、その事に関してはもうずっと昔に確かめているから判っているの。」
ジャックのギブアップを受け、メイファンは短刀を鞘に納めつつ危ない事を言い放つ。
「あんた、そうゆう仕事もしていたのかよ。えげつねぇなぁ。」
「ふふふっ、それは内緒よ。さて、それでは残りを片付けましょう。終わったら1杯奢ってね、ジャック・イエーガー。」
「なんで俺が・・、いや判った。俺のツケで好きなだけ飲んでくれ。」
メイファンの提案に文句を言おうとしたジャックだか、メイファンの手が腰の短剣に伸びるのを見て慌てて訂正する。そして地面にどかっと座り直してメイファンにお願いする。
「アルベールは1年生なんだから泣かさないでくれよ。レオンは・・、まぁあんたの判断に任せるよ。」
「アルベール・ドレステンね。あの子なんだか変わっているわ。なんか私たちとは異質な感じがする。」
「はははっ、気のせいさ。あいつはどこにでもいる普通の魔法使いだ。」
「ふふふっ、嘘が下手ね、ジャック・イエーガー。でもその優しさに免じて今回は見逃しましょう。でもユリウス坊ちゃんの前に立ち塞がるようなら容赦はしないからちゃんと手綱を持っていなさいな。」
意味深なメイファンの言葉にジャックはどう返したらいいのか判らずただ黙っている。そんなふたりの状況を実況のローリーが観客に説明を始めた。
『おーっ、なんとジャック選手ギプアップですっ!これでメイファン選手、ロベルト選手に続いてジャックチームから二つ目のギブアップを勝ち取りましたっ!こうなるとジャックチームはレオン選手とアルベール選手しか駒がありませんっ!あっ、レイチェル選手もいるか。でもメイファン選手はレイチェル選手を全く無視しています。果たして今回の魔剣総戦はどうなるのでしょうかっ!』
ローリーの実況の中、メイファンはレオンたちへ向かって歩きだす。だが、途中で伸びているローレンツを見つけて思いっきり蹴飛ばした。
「がはっ、げほげほっ!がっ、な、なんだ?」
「ローレンツ、あなた何しているの?試合を放り出して昼寝とはいいご身分ね。」
気を失っていたところを叩き起こされたローレンツは状況を直ぐには読み取れなかったが、メイファンの嫌味にはすぐさま反応した。
「なっ、なにを言うんだ。私はちゃんとローザとロゼッタを潰したぞ!仕事はこなしてるっ!試合の流れが芳しくないのはあんたが予定通り動かないからだろうっ!」
「ローレンツ・モルデラン・・、戦場では計画通りいかない事など当たり前なのよ。それを見越して何十にも策を巡らせるのが参謀の役目でしょう?今回あなたの役目はユリウス坊ちゃんを勝利に導く事。その目的を忘れて自分の役割はこなしているなんてどの口が言うの?まぁ、今回はユリウス坊ちゃんもいい経験となったから許してあげるけど二度目はないわよ。肝に銘じておきなさい。」
そう言うとメイファンは腰の短剣を一気に抜き取りローレンツに向かって一閃する。そして短剣を鞘に戻した時にはローレンツの前髪が綺麗に真一文字になくなっていた。
「ひっ、ひぇ~っ!」
前髪を切られ前髪だけおかっぱ頭になったローレンツは地面に尻をつけたままバタバタと後ろに退く。そんなローレンツにメイファンは恫喝の言葉が届く。
「ローレンツ。ユリウス坊ちゃんの威を笠にあれこれするのは構わないけど、やり過ぎた場合のツケはあなた自身が払う事になる事をこれからは肝に念じなさい。宮使いなら主の事を優先するのが忠臣と言うものよ。あなたの立場は全てユリウス坊ちゃんがあっての事です。その事を忘れないように。じぁね。」
「くっ・・。判った・・。」
ローレンツはそんなメイファンの言葉にしぶしぶといった風に答えた。だが胸の中ではこの借りは必ず返すと誓っていた。しかし、メイファンはそんなローレンツの意図を見抜きながらも、別段気にする様子も無く次の獲物を狩るべくその場を立ち去っていった。そしてその光景を実況のローリーがまたまた観客に説明した。
『おっと、ローレンツ選手、メイファン選手に何やら釘を刺された模様です。でもローレンツですからねぇ、これで大人しくなるとは思えないんですれど?絶対、ほとぼりが冷めたらまたあれこれやり出す筈です。みなさんも気をつけてくださいね。』
何やらすごい言われようだが、ローリーの注意喚起に何故か観客席の生徒たちが頷いている。まぁローレンツはそうゆうキャラなのだろう。これはある意味、学園生活におけるキーパーソンなのかも知れない。まぁ、悪い方の意味でだが・・。
『はい、それではこれにてジャックVSメイファン戦の実況を終了いたします。次のレオンVSメイファンおまけで僕編では、当事者であるアルベールに進行説明を譲りましょう。ナレーションの自称『俺』さんもありがとうございました。』
あっ、はい、どうも・・。えっ?もしかして俺の出番終わりですか?くぅ~ん、さみしいなぁ。




