ロゼッタ、ローザVSローレンツ、ライアン、ルーカス
試合開始の音花火が試合会場の上空で破裂し魔剣総戦の開始が宣言されると、ロゼッタとローザはユリウスチームの魔法部隊であるローレンツたちに狙いを定め先制のジャブを放った。勿論これは彼らの目をジャックたちから引き離す為の囮である。そしてこれはローレンツたちの作戦とも合致していたのだろう。彼らもこの誘いに乗り、同じ魔法科であるロゼッタたちを潰すべく攻撃を開始した。
「ちっ、どうやら相手も私たちと戦略は一緒のようだ。ならそれに乗ってやろうっ!ライアンとルーカスは左からローザを攻撃しろ!私はロゼッタを引き離すっ!」
「了解。」
ローレンツの指示のもと、ライアンとルーカスがローザに向かって爆炎魔法で攻撃を開始する。しかし、この攻撃は牽制だ。ローザとロゼッタの間を物理的に引き離す為の、見た目だけが派手なさほど効果のない攻撃だった。だが、如何に効果が薄いとは言ってもそこはハイクラスに所属する生徒の魔法である。位置や個数などは的確に考えられており、牽制だと判っていてもローザはじりじりと後ろへ追い立てられていった。
「なんなの、この爆炎はっ!数が多すぎるわっ!そもそも何で私の方にふたりも来るのよっ!私へのストーカー行為は止めて欲しいわっ!まぁ、そうしたくなるのは判らないでもないけどね。ああっ、美しいって罪なのね。」
本気なのか冗談なのか判らない言葉を言いつつ、ローザはロゼッタに対して次の反撃内容をメールで打診した。因みにこれは魔法による近距離相互通信を利用している為無料である。通話料0円はこの世界では常識なのであった。
<ハーイ、ロゼッタ。もうちょっと引き離したらお互い右回りで移動しましょう。そして私が左の大木の辺りに行ったらお互いの相手の背中に攻撃って段取りはいかが?>
<了解。クラスタ系を放つから巻き込まれないでね。>
<げっ、いきなりそれを出すの?ちゃんと狙ってよねっ!>
<相手はハイクラスですもの。一気に叩かないと反撃を受けるわよ。>
<あーっ、魔剣総戦のレベル制限がなかったら、広域魔法でみんなまとめて一気に片付けてやれるのにっ!>
<ローザ、それ言っちゃうと向こうも同じよ?あなた、ハイクラスのS級魔法を浴びたいの?>
<むーっ、それはごめんだわ。防御アイテムが幾らあっても足りなくなっちゃう。>
<でしょう?魔剣総戦はレベル上限を掛ける事により技術精度の向上と、戦略の機知を試す場よ。あなたも少しは中級魔法の精度を磨きなさい。広域魔法なんて滅多に使える事はないんだから。>
<あーっ、広域魔法だったらジャックにだって負ける気はしないんだけどなぁ。>
<ローザ、お喋りはお終いよ。そろそろやるわ。準備してっ!>
<はいはい、どーんとやっちゃって。私はレイチェルから貰った防御アイテムを信じて火が消えるのを待つから。でも、その後はぶっ放すわよっ!>
<なら行くわっ!>
そんなメール通信が交わされた後、互いの直線上にローレンツ、ライアン、ルーカスを配置したふたりは、反撃に転じた。
「爆炎魔法っ!多弾頭爆縮クラスタっ!」
まずはロゼッタが、ローザを相手にして自分に背を向けているライアンとルーカスに向けてクラスタ系爆炎魔法の束を投げつける。それらはライアンとルーカスそれぞれを包み込み同期を取って一斉に爆発した。
「なっ、まずいっ!対爆シールドっ!」
自分の周りに爆炎魔法が出現するのを常時監視魔法にていち早く気付いたライアンとルーカスは、ローザへの攻撃を一旦中止し爆発に備えて自分の周りに結界を張る。そんな結界ごと、ロゼッタの放った無数の爆炎魔法の炎がふたりを包み込んだ。
その無数の爆炎はひとつひとつの威力こそ大した事はなかったが、ライアンとルーカスそれぞれを中心に置き、完全な球形を形づくる。しかもそれらは二重だった。そしてまずは内側の層が爆発し、そのコンマ何秒か後に外側の層も爆発した。その結果、最初に爆発した内側の層の圧力は外側の層で爆発した圧力に押し返され、中央にいるライアンたちに全方位から向かって収束してゆく。その二重に仕掛けられた爆発により、爆炎の中心部では数十トンの圧力が一点に集中した。ひとつひとつの爆炎の威力は小さいが、数を束ねる事により数千倍のチカラを合成する。これぞ爆縮クラスタの威力であった。
「うおーっ、耐圧防御っ!パワー マキシムっ!」
ライアンとルーカスはそれぞれがロゼッタの放った『爆炎魔法 多弾頭爆縮クラスタ』への対応に集中する。ふたりは最初、ロゼッタの攻撃をただの不意を付いた多重爆炎攻撃とたかを括っていたのが、蓋を開けたらAクラスぎりぎりの圧力攻撃だった事に漸く気付く。そして初動の遅れたふたりは己の判断ミスを悔いつつも最後の望みを掛けて己が能力いっぱいの魔力を持って、『爆炎魔法 多弾頭爆縮クラスタ』が放った数十トンの圧力に抗った。そして今回はさすがはハイクラスとふたりを褒めるべきであろう。なんとふたりは見事その圧力に耐え切ったのだ。
「がはっ、し、死ぬかと思った・・。」
「くそっ、たかがノーマルクラスと侮ったぜっ!だがハイクラスのチカラを舐めて貰っちゃ困るぜっ!」
「ルーカス、今更強がっても笑われるだけだぞ。」
「ふんっ、ならなかった事にすればいいだけだっ!一気に叩き潰してやるっ!」
ルーカスは照れ隠しなのだろうか、強い口調でロゼッタたちへの闘志を吐き出す。だが、そんな彼らの気持ちとは裏腹に今度はこちらの番とばかりに、ライアン、ルーカスの向こうからローザの声が聞こえてきた。
「はぁーい、おふたりさん。邪魔だからちょっとどいてぇ~っ!次は私の番よぉ。ローレンツっ!この前のツケを払って貰うわっ!喰らえ、幻惑イルミネーションっ!対象、ライアン アンド ルーカスっ!」
そんなローザの声に思わずふたりはローレンツへの攻撃軸線を開けてしまう。まぁ、それだけ先程の攻撃が効いていたのだろう。止めを刺されては敵わないと、ふたりは一斉に両脇に飛んで巻き添えを避けた。その空いた隙間をローザの魔法がローレンツ目掛けて駆け抜けてゆく。そしてそれはローザの次の攻撃を牽制していたローレンツにモノの見事に命中した。
どか~んっ!
「うおーっ!こなくそっ!」
いきなり後ろから打ち込まれた魔法にローレンツは慌てる。しかし、彼とて全く無防備だった訳ではない。ちゃんと全周警戒魔法を自らの周りに張り巡らせていた。よってローザの放った衝撃波は警戒魔法によって呆気なく防がれてしまった。
「ちっ、この程度の魔力強度で私を倒せると思ったのかっ!ノーマルクラス風情が舐めるんじゃないっ!」
ローレンツはそう言い放つとお返しとばかりにロゼッタとローザ双方に向けて爆炎魔法を撃ち放った。だが何故かその爆炎はロゼッタたちではなく、ライアンとルーカスへと向かう。
「うわっ、ローレンツ!違うっ、俺だっ!ローザはもっと向こうだっ!」
仲間であるはずのローレンツから突然爆炎攻撃を受けたライアンとルーカスはシールドを張りながら逃げ惑う。だがローレンツはその言葉を無視した。
「ふざけるなっ!嘘をつくならもっとマシな事を言えっ!女だからと言って容赦はしないぞっ!」
「こなくそっ!ローレンツのアホがっ!ローザの幻惑魔法にまんまと引っかかっている!このままじゃ、同士討ちだ。一旦引くぞ、ルーカス!」
「判ったっ!全くローレンツは頭に血が昇ると考えなしだからな!」
状況を理解し一旦体勢を立て直そうとライアンとルーカスはその場を離れる。しかし、その後をローレンツが追った。
「逃がすかっ!ライアン、ルーカスっ!お前たちは両脇から追えっ!」
「はぁ~い、了解でぇーす!」
ローレンツの指示に何故かローザが応える。しかし、言葉とは裏腹に動こうとはしない。そんなローザにロゼッタが近寄ってきて話しかける。
「なんか、ものの見事に掛かったわね。」
「う~んっ、こんなにあっさり幻惑魔法に引っかかる人、初めて見たわ。ローレンツって馬鹿なの?」
「どうかしら?案外思い込みが激しい人なのかもね。」
「あいつ、性格が捻くれているからなぁ。まっ、国家指導委員の息子として結果を出さなきゃならない重圧は大変なプレッシャーだろうけどね。でも、それをこちらに向けられるのはごめんだわ。」
「どうする?このまま同士討ちになるのを待つ?それともローレンツに加勢して、まずはライアンとルーカスを仕留める?」
「ん~っ、どっちもどっちねぇ。ライアンたちがこのままローレンツにやられちゃうとは思えないし、かと言ってローレンツなんかと連携は取りたくないしなぁ。」
「なら、隙を見て一気に全員潰しましょう。」
「えっ、もしかして魔力を貸してくれるの?きゃっ、全力開放するのって久しぶり!」
「ローザ・・、出力は加減してよ?それにローレンツを仕留めるのは最後よ。確実に仕留めないと魔法が解けちゃうから。」
「おっけぇー。」
ロゼッタへ軽い返事を返すとローザは嬉々として広域系魔法の前段取り呪文を唱え始めた。そんなローザの肩にロゼッタが手を置く。するとロゼッタが手を触れた部分がほんわかと明るくなった。そして何やら目に見えないものがロゼッタからローザへと流れてゆく。
「ふふふっ、そうっ!これよ、これっ!あーっ、久しぶりの満杯感だわっ!いざっ、弾けろっ、私の魔法っ!ザ・リトルストリームっ!カデゴリースリーっ!でも範囲は限定っ!」
ローザの魔法詠唱によりライアンたちの周りに結界が発生する。その結界目掛けて周囲から空気が渦を巻いて流れ込んだ。そして渦は数秒後には巨大な竜巻へと変貌してゆく。
「うおーっ、まずいっ!これはローザの広域魔法だっ!吹き飛ばされるぞっ!」
「馬鹿なっ!広域魔法は使用禁止だろうっ!あいつ、とち狂ったのかっ!」
「知るかっ!どちらにせよ、会場外に吹き飛ばされたら俺たちも棄権と見なされるっ!なんとか踏ん張れっ!」
「踏ん張れったって・・、ぐわーっ、駄目だぁーっ!」
ライアンとルーカスは渦を巻いて立ち昇ろうとする負圧に逆らおうとするが、伏せた地面ごと吸い上げられてはなす術もない。魔法にて対応しようとしても、何故か彼らの魔法はキャンセルされてしまった。
「畜生っ!中和魔法まで織り交ぜていやがるっ!あいつ、本当にノーマルクラスなのかっ!」
「自己保有魔力量が少ないから選考で弾かれているが、あいつは全力を出すと総合魔法学科並みだって噂があるからなっ!だからと言って負けてられるかっ!合成防御で乗り切るぞっ!」
「おうっ、操作は任せたっ!好きなだけ使ってくれっ!」
ルーカスはライアンの提案に基づき、魔力を分配するべく手を伸ばす。ライアンもルーカスの手を掴もうとするが、猛烈な渦の中にあっては中々近づくのも容易ではなかった。
「こなくそっ!なんてゆう風速なんだっ!仕方ないっ、ルーカス、飛べっ!」
「へっ?」
「空中に吸い上げられた方が速度ベクトルが一致させ易いっ!上で合流するぞっ!」
「大丈夫かよ?そのまま放り出されるのは勘弁だぜ!」
「そんときゃすっぱり諦めろっ!このまましがみ付いていても惨めなだけだぞっ!」
「あーっ、確かにかっこ悪いな。仕方ない、やるかっ!ワン・ツー・スリーっ!」
ルーカスの合図によりふたりは渦に抵抗するのを止める。結果、一気に大空へと巻き上げられていった。それを見てローザが勝ち誇ったように胸を張る。
「あっ、ライアンとルーカスが飛んだ。まずは一丁上がりね。」
「まって、ローザっ!・・、あれは違うっ!わざと吸い上げられたんだわ!まずいっ、吹き飛ばしてっ、ローザ!」
「へっ?きぁーっ!」
その時、ローザは勝ったと思った相手から突然攻撃を受けた。ローザの周囲には上空にてフォーメーションを組んだライアンとルーカスから、幾重もの魔力伝達遮断魔法が展開されたのだ。
「あっ、こなくそっ!この程度の中和魔法で本気になった私の魔力を相殺できると思わないでよっ!」
廻りを結界で覆われザ・リトルストリームへの魔力注入を阻害されたローザは別ルートにて魔力の注入を再開する。そんなローザにロゼッタが小言を言う。
「ローザ、半分以上私のなんだから無駄遣いしないで頂戴。」
「使わない魔力は持っていても意味がないっ!使ってこその魔力よ!喰らえっ、ホーミング・カマイタチっ!」
ローザの詠唱により新たな魔法が発動し、シャボン玉のようなものが幾つもライアンたちを飲み込んでいる渦へと吸い込まれていく。そしてそれは忽ち渦の中を上昇しライアンたちを襲った。
「うおぉーっ!なんだ!この球状のモノはっ!うわっ、皮膚を切られたぞっ!」
「ルーカスっ!真空攻撃だ!その球に触れるんじゃないっ!」
「触れるなっていったって、向こうから纏わり付いてくるんだよっ!」
「魔力反発魔法で振り払えっ!」
「えっ、そんな事したら俺たち事吹っ飛ばされっ、がはっ!痛てぇな、このやろうっ!ええいっ、こうなりゃヤケだっ!マジック・リアクションっ!」
ルーカスの発動した魔法により、ホーミング・カマイタチは離れていった。しかし、マジック・リアクションは魔力によって操られている魔法に作用する。そして今、ルーカスたちはローザのザ・リトルストリーム魔法の真っ只中であった。当然マジック・リアクションはその魔法にも反応し、作用・反作用の法則に則り、ルーカスたちをもそこから吹き飛ばした。そしてその飛ばされた先には運悪くローレンツがいた。ローザたちを仲間と誤認しているローレンツはその事に気付かない。哀れ、ローレンツは上空から降って来たルーカスたちの下敷きになってしまった。
そんな中、ローザにより強引に魔力を引き出されたロゼッタはこめかみを押さえながらローザに文句を言う。
「あたたっ、もうローザったら加減してって言ったでしょ!」
「あはっ、ごめんなさぁ~い。」
だが、当の本人は久しぶりの魔力三昧にご機嫌のようだった。そんなふたりの前にルーカスたちが上空から落下してくる。その時、突然現れた渦巻きをルーカスたちの魔法だと思い込んでいるローレンツは、幻惑魔法にてルーカスたちと思い込んでいるローザたちへ声を掛けていた。
「はははっ、中々やるじゃないかルーカス。範囲を限定すれば広域魔法でも注意程度で済むからな。だが構わんっ!イエローカード程度なら影響ない。一気にローザとロゼッタを放り出せっ!」
そんな嬉々としたローレンツの上へ、まるで狙ったかのようにルーカスたちが上空からぶつかった。哀れローレンツはぺしゃんこである。まぁ、実際は全周警戒魔法が殆どのショックを吸収していたが、本来味方であるルーカスたちからの物理的衝撃は警戒魔法もどうすれば良いのか戸惑ったのであろう。対応を躊躇している間にルーカスは潰されてしまった。
「あっ、失敗。ローレンツの幻惑が解けちゃった。」
「駄目ねぇ、ローザったら。いくらローレンツが嫌いだからって幻惑魔法を掛けた相手にショックを与えたら駄目じゃない。」
「むーっ、だってぇ。大体、あのふたりをローレンツにぶつけようなんて思っていなかったわよ。もしかして、あのふたりもローレンツが嫌いなんじゃないの?だからこのチャンスに日頃の鬱憤をぶちまけたんじゃないかなぁ。今なら試合中の事故で片付けられるし。」
「あーっ、否定できないな。ローレンツって人望がないからねぇ。」
ルーカスたちからダイビング・アタックを受けたローレンツを見て、ローザたちはそれをローレンツの日頃の行いの報いと片付けた。そんな状況を実況のローリーが観客に説明する。
『はい、先程のローザ選手の広域魔法に関して審判部よりイエローカードが出ました。現在の魔法も引き続き審議中との事です。いや~、さすがローザ選手。やりたい放題です。でもここでローレンツ選手の人望のなさが浮き彫りになったぁーっ!何故か観客のみなさん方は下敷きになったローレンツ選手を見て大喜びしています。ちょっとはしたない行為かと思いますが、ローレンツ選手、これも身から出た錆でしょう。これに懲りてちょっと身の振りを考え直してくれればいいんですか。ん~っ、それは無理かなぁ。あっ、ローレンツ選手、頭を振りながらも立ち上がりました。ちっ、無事だったか。どうやら常設防御魔法がショックを吸収していたようです。ここら辺はさすがはハイクラスと言うべきかっ!』
「くーっ、何があったんだ?あれ?お前たち何しているんだ?ローザたちはどこへ行った?」
「勘弁してくれよ、ローレンツ。あんたローザの幻惑魔法にまんまと嵌まったんだ。おかげでこっちとらいい迷惑だったぜ。」
「幻惑魔法?あっ、もしかしてあの衝撃波に被せて仕掛けてきたのか!」
「簡単なトリックなんだけどな。まっ、ここはローザの魔法強度が高かったという事にしておこう。実際、俺たちもあんたが襲ってくるまでは気付かなかったからな。」
「くっ、ノーマルクラス風情が味な真似をしてくれるじゃないかっ!」
「いや、それに引っかかったあんたはもっと駄目な気がするんだが?」
「うーっ、この借りは必ず返すぞっ!ライアン、ルーカス!フォーメーション・エックスだっ!」
「えっ、フォーメーション・エックスをやるのか?あれは威力が大き過ぎるぞっ!規定レベルを超えてしまう!」
ローレンツの攻撃に懲りてお互いを援護しあえる位置に陣取ったライアンとルーカスは、ローレンツが指示してきた攻撃手段に疑問を投げつける。
「威力を半分にすれば問題ない!その代わり時間は倍だっ!」
「うわっ、えげつない・・。」
「構うかっ!先に仕掛けてきたのは向こうだっ!」
「ころりと引っかかったのはあんただけどな。」
「うっ、うるさいっ!さっさと位置に付け!」
「はいはい。ルーカス、お前は向こうだ。右から誘い込もう。」
「了解。出力をミスるなよ。レッドカードを貰ったら意味がないからな。」
「くそっ、ロゼッタとローザめっ!目にものを見せてやるからなっ!」
そう言うと3人は3方にそれぞれ散って行った。
「あっ、ロゼッタ。あの3人なんか仕掛けてくるっぽいわ。」
「そうね、どうしましょう?分散してかわすか、このままふたりで集中して対応するか迷うところね。」
「うわ~っ、ローレンツの目が据わっているわ。あれは相当頭に血が昇っているわねぇ。」
「はぁ~、ハイクラスの攻撃かぁ。仕方ない、受けて立ちましょう。」
「えっ、マジ?」
「大丈夫、あなたはやれば出来る子です。魔力はあげるからがんばってね。」
「えーっ、私が相手するのぉ?嫌だなぁ。」
「ぐすぐす言わないの!ほら、来るわよっ!」
「ぬーっ、魔力防御っ!シルキー・シールドっ!パワーマキシムっ!」
「あたたたたっ、ちょっとローザっ!いきなり持っていかないでっ!」
「我慢してっ!どんな手で来るのか判らないんだから全力で跳ね返すわよっ!」
魔力を無理やり持って行かれたロゼッタは文句を言ったがローザは気にしていない。彼女の全神経は今自分たちに向かって来るローレンツたちに向けられていたのだった。
「くたばれっ、ローザっ!お前は何かと俺に突っ掛かってきて気に入らなかったんだっ!この場で目にものみせてやるっ!」
「いぃーだっ!誰があんたなんかにやられるもんですかっ!」
「その減らず口、いつまで持つかな?喰らえっ、フォーメーション・エックスっ!魔弾の調っ!」
基本、少魔力魔法を大量に発生される魔法は魔法ランクが低い。魔法ランクとはその魔法の威力の差によって区分される為、クラスタ系や分割放出系の魔法は低ランクと認識されているのだ。だが、それはあくまで一般的な魔法使いが発生させた場合である。ハイクラスの魔法使いが三人魔力を共有して発生させた魔法は、その数と持続時間が常識の域を超えていた。ひとつひとつの魔力は小さくても数が合わさればとんでもない威力を合成する事を、この時会場にいた生徒たちはまざまざと見せ付けられる事となったのだ。
しかもローレンツの発生させた魔弾の調という魔法は自立型自動対応変化魔法だった。つまり相手に合わせて一番効果的な攻撃を魔法自らが判断し能力を変化させるのである。今回はまずローザが周りに張り巡らせたシルキー・シールド、つまり障壁を打ち破る為に中和魔法となりその防御網をずたずたにしてゆく。そして一旦亀裂が入ればそこから進入し、相手を攻撃する。その攻撃方法も魔法自体が判断するというまさに撃ちっ放しが可能な便利な魔法だった。欠点と言えば、攻撃中常に魔力を注入し続けなければならない事だったが、そこはハイクラスが3人もいるのだ。まず魔力切れを起こす心配はなかった。因みにフォーメーション・エックスとはこの魔力の共用の事であって攻撃魔法の名ではない。まぁ、何にでも名前をつけて自慢したいお年頃故のイタイ名称であった。
「うおっ、すご・・。なんなのこの魔力量は?あっ、シールドが押されるっ!くっ、厭らしいわねっ、この魔法っ!まさにローレンツならではだわっ!」
「大丈夫なのローザ?私が別途に攻撃した方がいいんじゃない?」
「だめっ!今魔力の供給を止められたら一気に押し流されちゃう!」
「でも反撃しないと、ジリ貧よ?」
「くぉのーっ、ロゼッタっ!もうちょっと魔力を分けて頂戴っ!ライアンとルーカスだけは道連れにしてやるっ!」
「えっ、戦力を削ぐ意味ではローレンツの方がいいんじゃないの?」
「ローレンツなんかと共倒れなんか、絶対に嫌だぁーっ!」
「はぁ~、しょうがないわね。あんまり一気に持っていかないでよ。頭が痛くなるから。」
「そんなのは根性でなんとかしてっ!」
「・・、あなた時々ロベルトみたいな事言うのよねぇ。」
「電撃魔法っ!ライジング・びりびりーっ!」
ローザはシルキー・シールドと平行して新たな攻撃魔法をライアンたちに放った。だが、その為に若干シルキー・シールドへの魔力供給が滞る。その隙をローレンツの発生させた魔弾の調は見逃さなかった。あっという間にシルキー・シールドを突破し、ローザたちに襲い掛かる。
「きゃーっ!つめたぁーいっ!うわっ、凍り始めたっ!わっ、わっ、わっ!ヒーティング・ブロアーっ!」
自立型攻撃魔法である『魔弾の調』はローザたちへの攻撃方法に凍結という選択をした。しかもまずは相手をびしゃびしゃにしてから凍らせるという念の入り様である。確かにローザが言ったようにかなり魔法を唱えた者の性格に影響を受ける魔法なのだろう。
だが、そんな魔法で凍りつげにされまいとローザたちが抵抗している間に、ローザの放った電撃魔法はフォーメーションを組んでいる為、動けずにいたライアンとルーカスにものの見事に命中する。ふたりとも防衛魔法で防御をしていたが、如何せん、魔力の殆どをローレンツに回していた為、防ぎきる事が出来なかった。
「ぐわっ、しっ、しびれるっ!」
「うわっ、駄目だ!指の筋肉が麻痺してローレンツを握っていられないっ!」
ふたりは何とか魔力の供給を続けようとローレンツを掴んでいようと努力するが、当のローレンツはとんでもない事を言う。
「うわっ、離せっ!俺まで巻き込むなっ!」
ローザの我侭で直撃されなかったローレンツは、しかし仲間の懸命な魔力供給の努力を無下にする。その言葉を聞いてふたりは抵抗するのを諦めてしまった。そしてローレンツから手を離したふたりはそのまま地面にへたり込んでしまう。だが体内に溜まったびりびり魔法が地面をアースとして逃げて行く度にその部位が痺れる。その痺れに堪らず体を動かすと、また新たなびりびりが大地に逃げ、大地と接触した箇所が痺れるという悪循環を溜まったびりびりが無くなるまでふたりは繰り返したのであった。
しかし、そんな状況はローザたちも同じだった。次々に襲ってくる『魔弾の調』に対して、一緒にいては不利とロゼッタが離れると、魔力の貯蓄量の少ないローザは忽ち魔力を使い尽くす。ロゼッタもそれは同じようなものでローザに無理やり魔力を持っていかれた為、魔力ブレーカーのようなものが落ち上手く魔法を操る事が出来なくなっていた。
「あっ、もう駄目・・。魔力がきれちゃった・・。審判さぁ~ん!ローザ・グリムス、ギブアップしまぁ~す!」
「う~んっ、同じく、ロゼッタ・ストローンもギブアップですぅ~。」
体の半分近くを氷付けにされたふたりは、喋れる内にとギブアップ宣言をする。それに反応し、『魔弾の調』は攻撃を中止し、素の魔力へと姿を変え消えいった。これは魔剣総戦ではギブアップした者を攻撃するのは規則違反な為、予めローレンツが魔法に組み込んでおいたロジックだ。詠唱者の下を離れ自己判断で動く自立魔法ならではの安全対策と言えるだろう。
こうして魔法使い同士の魔法合戦はローザたちジャックチームのギブアップにより幕を閉じた。しかし、ユリウスチームも無傷ではなかった。
「う~んっ、駄目だ、ローレンツ。俺もギブアップする・・。体が痺れていう事をきかん。」
「くそぉ~っ、なんつう電撃強度なんだよっ!あれで限度内なのか?すまんが俺も動けん。ギブアップだ。」
ローザの電撃魔法をまともに喰らったライアンとルーカスが相次いでギブアップ宣言をする。
「くそっ、抜かったぜ。ノーマルクラスの魔法科ふたりに対してハイクラスを同数持っていかれたら割が合わんっ!」
ローザたちに勝利をしたものの、ふたりの仲間を道連れにされひとり取り残されたローレンツはその結果に愚痴る。だがそんな彼に向かってジャックの影が近づいて来ている事をローレンツはまだ知らなかった。




