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雑文ラノベ「王立魔法学校高等部の優等生」  作者: ぽっち先生/監修俺
王立魔法学校 魔剣総戦編
40/52

ジャック、レイチェルVSユリウス

「レイチェルっ!左から廻り込めっ!ユリウスをみんなから引き剥がすぞっ!」

「了解っ!」

ジャックの指示によりレイチェルはユリウスの右手に走る。そしてジャックもレイチェルほどではないが、ユリウスに対してゆっくりとその位置を変えていった。

『おーっとジャック選手、いきなり相手のリーダーとのガチンコ勝負に打って出ました!でも、本来ユリウス選手の護衛であるはずのメイファン選手は動かない。優雅に椅子に座って全体を俯瞰しています!さすがはラスボスっ!不遜です。やる気があるんでしょうかっ!』

実況のローリーが指摘したように、ユリウスは単独でジャックとレイチェルを相手にするようだった。1対2では不利なはずだが、何故かユリウスの顔は闘志に燃えていた。

「やってやるっ!俺だってやれば出来るんだっ!メイファンの護衛など必要ないんだっ!」

そんなユリウスに対して、まずはジャックの先制攻撃が決まった。


どか~んっ!


『くはっ、ジャック選手、ユリウス選手に対していきなり特大の火球攻撃です!うわっ、みなさん掲示板をご覧下さいっ!ただ今のジャック選手の攻撃魔力レベルが表示されました、なんと魔剣総戦ルール限度いっぱいのAレベルですっ!さすがは総合魔法学科筆頭っ!初めから飛ばしていますっ!』

「くっ、この程度どうって事はないっ!次はこちらからお返しだっ!くたばれジャックっ!」

『おっと、ユリウス選手。ジャック選手のAレベル攻撃を防ぎましたっ!さすがは総合魔法学科っ!親の七光りじゃない事を実力で証明していますっ!そしてすぐさま反撃に出たぁーっ!』


ぱっぱっぱっ!どんっ!


「きぁーっ!」

『はい、ユリウス選手。相対する選手がふたりな為、連携を取らせないように広範囲に衝撃魔法をばら撒きましたっ!それをレイチェル選手がまともに喰らったぁ!あっ、でもレイチェル選手も凌いだ模様ですっ!さすがはガードナー魔法工房製の防御アイテムっ!その信頼度、星五つに偽りはないっ!』

「くそっ!厄介なアイテムだな!だがいつまで持つかな?所詮はアイテムっ!魔力が切れたら只の玩具だっ!」

『あっ、今度はユリウス選手、動きが鈍ったレイチェル選手に集中して攻撃を仕掛けましたっ!おっと、それをジャック選手が割って入って防ぎますっ!だがユリウス選手の連続攻撃に反撃の動きが取れないっ!そのままずるずると後退してゆきますっ!』


どかんっ、どかんっ、どかーん!


「こなくそっ!腕を上げたじゃないか、ユリウスっ!レイチェルっ!一旦下がるぞっ!間合いを取ってから反撃する!」

「はいっ!」

「させるかっ!」

『あっ、ユリウス選手のあまりの攻撃密度にジャック選手たちが大きく後ろに下がります!ですがユリウス選手はそれを許さないっ!ジャック選手たちを追って陣営を離れていきます!ユリウスチームの選手たちは他のジャックチームを相手にしている為にこれに加勢できない!メイファン選手は相変わらず椅子に座ったままだぁーっ!』

「くそっ!俺はメイファンなんかいなくたってやれるんだっ!総合魔法学科にいるのは俺の実力なんだっ!それを証明してやるっ!」

『これはすごいっ!ユリウス選手の攻撃が止まりませんっ!こんなに連続して魔力を放出して魔力切れを起こさないのでしょうか!さすがは総合魔法学科っ!格の違いを見せ付けてくれますっ!』

「おらおらおらーっ!反撃してみろっ!ジャック・イエーガーっ!」

「おうっ、ならお言葉に甘えるぜっ!そこまで言うなら、凌ぎきって見せろよっ!いくぞっ、レイチェルっ!」

「はいっ!」

ジャックからの合図に今度はレイチェルが前衛に立ちユリウスの攻撃を防ぐ。その隙にジャックは右手に廻って攻撃に集中しているユリウスへ向けて攻撃魔法を放った。


ぼんっ、ぼんっ、ぼんっ!


『おーっと、ジャック選手に対するユリウス選手の攻撃をレイチェル選手が防いでいる隙にジャック選手が反撃にでたぁ~っ!Bレベルの衝撃波がみっつ続けてユリウス選手を襲ったぞっ!これはユリウス選手も只ではすまないでしょう!・・って、あれ?あらら、これはびっくり!土ぼこりの中からユリウス選手が平然として出てきたぁーっ!』

「舐めるなよ、ジャック!Bレベル程度の攻撃で俺を倒せるなど思うなっ!」

「ふんっ、そんな事は思っていないさ。今のはちょっとしたジャブだ。本番はこれからだよっ!いけっ、レイチェル!」

「はいっ!コールドスケーティングっ!アンド、フリクション・スリップ!摩擦係数0.2!」


つるん、カチコチ。


『うわっ、今度はレイチェル選手の冷波攻撃がユリウス選手の足元に決まったぁ!しかもこれは低摩擦魔法も加味されている模様です!ここに来てユリウス選手大ピンチかっ!足元を低摩擦化されては踏ん張りが利かないはず。ユリウス選手、このままジャック選手たちからタコ殴りの集中攻撃を浴びるのでしょうかっ!』

「アトミックボンバーミニマムっ!威力100分の1!」


どか~んっ!ごぉーっ!


『でたぁーっ!爆炎系最強魔法と言われるアトミックボンバー!うわっぷ!なんとここまで爆風と熱波が伝わってきます。これって遮断障壁魔法が施されていなかったら私たちも危なかったんじゃないですか?これでも威力は100分の1に押さえられているってんですから驚きです!すごいですねぇ。あっ、ただ今のジャック選手の攻撃にイエローカードですっ!どうやら威力が制限値を越えていた模様。あらら、100分の1でもAレベル超えちゃうんですか、すごいなアトミックボンバー!さすがは爆炎系最強魔法。一度でいいから私も放ってみたいです!誰かアイテム化してくれないでしょうか!えっ、異世界ではされているの?またぁ、そんな御伽噺誰も信じませんよ。』

一体誰と話しているのかいまいち判らない解説だが、戦闘中のジャックたちには関係ない。灼熱の熱波を放つ紅蓮の炎と、もうもうと湧き上がる煙が空に舞い上がる中、視界を遮られたジャックたちは突風が煙を上空に連れ去るのをまった。だが、結果はジャックが期待していたようにはならなかった。

「やったか?」

「ジャックっ!魔力値の減衰が認められませんっ!ユリウスは耐え切りましたっ!反撃がきますっ!」

「馬鹿なっ!手加減したつもりはないぞっ!少なくとも行動の自由は奪ったはずだ!」

その時、薄くなった煙の中からジャックへ向かって突然電撃が走った。


バリバリバリっ!


「うおーっ!こなくそっ!」

不意を付いた電撃攻撃であったが、ジャックの常設防御魔法が即座に反応し電撃の直撃を防ぐ。そんなジャックにユリウスの言葉が投げつけられた。

「ジャック、貴様っ!規制値オーバーとはごめんじゃ済まさんぞっ!騎士道を重んじる俺じゃなかったら3倍にして返すところだっ!」


バリバリバリっ!


ユリウスの言葉と共に再度電撃がジャックたちへ突き刺さる。今度はレイチェルへも電撃は向かった。

「きぁーっ!」

「うわっ!ちくしょうっ、煙が濃過ぎてやつの姿が見えんっ!吹き飛ばせ!ガスト・オブ・ウインドウ!」

ジャックは魔法にて突風を起こし、邪魔な煙を吹き飛ばす。しかし、そこにユリウスの姿はなかった。

「なっ、ユリウスはどこだ?」

「こっちだよ、ジャック。この程度で敵を見失うとは貴様もまだまだだな。」

ジャックの自問に、何故かユリウスの声が答える。しかし、そこはジャックが目星をつけていた場所とは全く正反対のところだった。

「ちっ、わざわざ居場所を教えているお前に人の事がいえるかっ!喰らえっ!アトミックボンバーミニマムっ!威力150分の1!」

ジャックはまたしてもユリウスに対してアトミックボンバーを放った。だが先程のイエローカードを気にしてか、威力は抑えられている。


どか~んっ!ごぉーっ!


威力が抑えられているとはいえ、その派手な爆発力は傍から見ただけではその違いには気付けない。その莫大な熱量によりまたしても上昇気流が発生し、周囲の砂塵を巻き込んだ空気が渦を巻きながら荒れ狂う。そして会場の空には2本目のきのこ雲が立ち昇ったのだった。だが、そんな砂塵の中からユリウスの言葉がジャックへ向けられる。

「相変わらず派手な攻撃だな。しかし、威力に制限が掛かる試合ではアトミックボンバーと言えど他のAランク魔法と変わりはしない!この試合はゲームだっ!ルールに基づいた勝ち方ってやつがあるんだよっ!」


バリバリバリっ!


またしても姿の見えないユリウスの言葉と共に、今度は先程とは別の方向から電撃がジャックたちを襲った。

「ぐはっ!くそっ!やってくれるなユリウスっ!だが隠れて攻撃するのは騎士道に反するんじゃないのか?結局お前も口先だけだなっ!そんなんじゃ、またメイファンにからかわれるぜっ!姿を現せっ!魔力探査っ!方位全周っ!」

姿を現さないユリウスに対し、ジャックは魔力探査魔法を全周に放った。だが、その結果にジャックは戸惑う。なんとユリウスの魔力を感知出来なかったのである。レイチェルや他の選手たちの魔力は探知できたので魔法に欠陥があった訳ではない。だが、ユリウスの魔力だけが何故か感じられなかったのだ。


「馬鹿な・・、どこにいるんだユリウス?」

自信満々に放った魔力探査魔法が空振った事にジャックは狼狽する。そんなジャックにレイチェルがユリウスの居場所を示した。

「ジャックっ、上です!」

「なにっ!」

レイチェルの言葉に顔を上げたジャックは、なんと空中に浮遊しているユリウスの姿を見る。空中浮遊自体は総合魔法学科のジャックたちにとってそれ程難しい魔法ではない。だが、全周囲へ姿を晒す空中浮遊は戦闘においてあまりメリットがない。故にジャックも魔力探査を地上面だけに限定して行なっていたのだ。云わばユリウスはそんな戦闘における常識を逆手にとった事になる。


「ジャック、貴様もちょっと常識に染まっているんじゃないのか?相手が常に地面の上にいるとは限らないんだぜ?」

「ちっ、浮かれるなよっ!居場所がばれたら空中はいい的にしかならんぜっ!喰らえっ、バブル・ガトリング・ショックっ!」

ユリウスの位置を把握したジャックは、空中に浮かぶユリウスに向けて空気の塊を四方八方から連続してぶつける。バブル・ガトリング・ショックとは空気を圧縮して相手にぶつける攻撃魔法だ。だが如何に圧縮されているとはいえ、質量を殆ど感じられない空気をぶつけられても如何ほどのダメージがあるのかと思うかも知れないがそうではない。

この攻撃魔法の真髄は、相手にぶつかった後に起こる衝撃波だ。極端に圧縮された空気は、その圧縮から開放されると一気に膨張し、その膨張速度は時に音速を超える。その際に衝撃波が生じ、攻撃対象を衝撃波の泡で包み込むのだ。しかも、断熱膨張した空気は周囲の熱を奪い去る。局所的ではあるがバブル・ガトリング・ショックが弾けた場所は、一時的に絶対零度近くまで温度が下がるのだ。圧力と温度、且つ、極低温による呼吸困難を誘発するバブル・ガトリング・ショックは、生物に対してとても恐ろしい攻撃魔法と言えるであろう。

しかし、幾多の衝撃波が消えた後、そこにユリウスの姿はなかった。極低温により結晶化した空気中の水分がキラキラと日の光を反射して煌いているだけである。

「なっ、バブル・ガトリング・ショックは完全にあいつを包み込んだはずだぞ?逃げられる訳がないっ!」

確実に仕留めたと思った得物が消えてしまった事に、ジャックはまたしても動揺する。そんなジャックにシリウスの声が別の場所から届いた。

「違う、違う。こっちだよ、ジャック。」

ジャックが声のする方を振り向くと、そこには何のダメージも受けていないシリウスの姿があった。

「なっ、ユリウスてめぇっ!ちょこまかとっ!今度は逃がさねぇ!ピンポイント・バリアっ!アンド エア・バキュームっ!」

ジャックは今度こそユリウスに逃げられないようにユリウスの周囲に障壁を発生させ取り囲んだ。そしてその障壁内の空気を排出する。これにより酸素を立たれ、且つ真空状況に置かれたユリウスは1分と立たずに昏睡するはずだった。だが、そんなユリウスの姿が忽然と消える。

「なにっ!馬鹿なっ!障壁を破らずに脱出する事など出来るはずがない!」

「はははっ、悪いな。本当はこっちだ。」

獲物を取り逃がし動揺するジャックに、まんまと逃げおうせたユリウスがからかうようにまた姿を晒してきた。今度はジャックの真後ろからであった。

「ユリウスっ!」

同じ総合魔法学科2年とはいえ、ジャックには総合魔法学科筆頭のプライドがあった。そんなジャックがユリウスにまるで子供のようにあしらわれている。その負の感情にジャックの精神は取り込まれようとしていた。基本、魔法は魔力を源として発動する。しかし、その魔力を操るのは精神力だ。その元となる精神力が緩いでは如何な総合魔法学科筆頭のジャックでさえ、本来のチカラを発揮できないはずである。そしてそれこそがユリウスの狙いだったのであろう。

そしてユリウスの狙い通り、ジャックの攻撃魔法は大味なやけっぱちとも言える雑なものとなってゆく。そしてジャックは既に1回イエローカードの警告を受けていた。もう一回イエローカードを受けたら失格だ。それがユリウスの狙いなのかも知れなかった。


「ユリウス・ハーウェイっ!ちょろちょろ逃げていないで掛かってこいやぁーっ!」

ジャックは真後ろに立っているユリウスの周りにこれでもかという程の数の爆炎を発生させる。ひとつひとつの威力は小さいが全てを合わせればAランク魔法を軽く凌駕する魔力である。観客席の生徒たちはそんな底を見せないジャックの魔力量に感嘆のため息をついた。

『おーっと、ジャック選手、素晴らしい連続攻撃です!ひとつひとつはBランクなれどその放たれた爆炎の数がちょっと常人場慣れしています。あれでよく魔力切れを起こさないものです!』

会場の実況がジャックの派手なパフォーマンスを称える。だがここで真に称えるべきはユリウスであろう。なんとユリウスはジャックの放った爆炎を全て防ぎきったのだ。炎と煙が消えた時、そこには一片の焦げ目さえ付いていないユリウスが立っていた。

「馬鹿な・・、あれを防ぎきったのか・・。」

唖然とするジャックにユリウスは再度挑発してきた。

「自惚れるなよジャック。お前程度の魔法使いなど世界には幾らでもいるんだ。俺はそんな上位者に頭を下げ教えを乞うた。それもこれも貴様を倒す為だっ!くたばれジャックっ!命が惜しければギブアッブしろっ!」

ユリウスの言葉が終わらない内にジャックの足元から黒い影が出現しジャックを飲み込んだ。

「くくくっ、どうだジャック。ちょっと嫌な感じだろう?その影は貴様の魔力を吸い取るんだ。まぁ、さすがに貴様の膨大な魔力を全部吸い取れはしまいが、仮に半分とて吸い取れれば貴様のアドバンテージはなくなる。並みの魔法使い程度の魔力量になった貴様など虫けら当然よっ!そうなってから後悔しても遅いぞっ!はははははっ!」

そう言ってユリウスは高笑いと共にその時を待つ。だが幾ら待っても影はユリウスの魔力を吸い取るのを止めようとしなかった。

「なんだ?幾らなんでも無抵抗過ぎないか?」

「うんっ、そうだな。あの影はちょっと馬鹿かもしれない。自分で吸い込んだ魔力を吐き出しながらま吸い込んでいるんだものな。あれじゃ、いつまで経っても終わらないよ。」

「あんっ、誰だ?」

ユリウスは自分の独り言に横から返事を返した相手を見る。そして相手の正体が判ると一足飛びに後ろへ飛びのいた。

「ジャック・イエーガーっ!なんで貴様がそこにいるっ!」

「いちゃ悪いか?あんな影で俺を捕まえられるなんて思っていたのかよ。ちょっとがっかりだな、ユリウス・ハーウェイ。」

『おーっと、地面から現れた影に囚われているかと思われたジャック選手が何故かユリウス選手の横にいてユリウス選手に話しかけていますっ!これはどんなマジックがあったのかっ!これは私を差し置いて状況を説明しているナレーターの自称『俺』さんに説明して貰いましょうっ!』

えっ、説明するの?いや、すいません。よく見ていませんでした。だから判りません。なので先に進みます。


「まっ、そうゆう訳なんでチェックメイトだ。地獄で後悔しろっ!」

そう言うと、ジャックは至近距離から拘束魔法の一種である『金縛り』をユリウスに叩き込んだ。だが、そんな逃げようのない距離からのこん渾身の魔法をユリウスは難なく凌いでしまった。

「ほうっ、今のそよ風は貴様がやったのか?うんっ、中々涼しい風だったよ。でもそんなもんにわざわざ魔法を使う必要はないだろう?何でも魔法で解決しようとするのは魔法使いの悪い癖だぞ?」

ジャックの魔法を凌いだユリウスはこれでもかと言う嫌味をジャックに投げ掛ける。そんなユリウスにジャックも嫌味でやり返した。

「おいおい、ユリウス。一体どんなズルをしているんだ?それって防御魔法レベルがAレベルを超えているんじゃないのか?」

今まで仕掛けた魔法を悉く無効化されたジャックは、自分の魔法性能ではなくユリウスが行使したであろう防御魔法レベルを疑う。魔剣総戦のルールでは攻撃魔法だけでなく、防御魔法も上限はAレベルと決められているのだ。だがそんなジャックの疑問ににレイチェルが答えを教えた。


「ジャックっ!そのユリウスは幻影ですっ!私たちは幻を見せられているんだわっ!ファントムミラージュの幻影と同じよっ!幻にはどんなレベルの攻撃も通用しないわっ!」

レイチェルの指摘にユリウスはやっと判ったのかというような顔をする。だが、そこにはトリックを見破られた焦りは見えない。

「あっ!成程、やられたぜっ!となるとユリウス自身は攻撃の巻き添えを受けない場所にいるはずだな。・・そこかっ!」

そう言うと、ジャックは自分の上空の何もない場所に爆炎魔法を仕掛ける。それを見ていた観客はジャックがヤケを起こしたのかと訝った。

『おーっと、ジャック選手。一体何を攻撃しているんでしょう?何もない場所へ爆炎を発生させたぁっ!あっ、いえ!何かいますっ!おーっと、炎の中からユリウス選手が出てきたぁーっ!何とユリウス選手、ジャック選手の真上にいましたぁーっ!これは気付かなかった、相当高度なステルス魔法を駆使していたのでしょうっ!さすがは総合魔法学科っ!やる事が渋いです!』

「くっ、やるなジャックっ!だが、居場所が判ったからと言って、貴様が頭を抑えられている事に変わりはないっ!喰らえ!ボゲッド・ダウンっ!」

ユリウスの魔法によりジャックの足元が泥沼化する。相手の足元を不安定化させて動きを止める魔法は色々あるがボゲッド・ダウンはもっとも効果があると言われている魔法である。水などと違い適度に粘性のある泥は、そこから抜け出そうとしても泥が足に絡みつき動きを阻む。そんな中、脱出しようともがきバランスを崩せば、体全体が泥にはまり更なる動きの邪魔をするのだ。しかもボゲッド・ダウンにて泥化した土はまるで自ら意志があるかのようにはまり込んだ相手に纏わりつき泥中に引き込もうとする。それはまるであり地獄のような恐ろしい魔法だった。


だが、ジャックは動じなかった。ボゲッド・ダウンは当然ジャックも使える。なのでその魔法から脱出する術もちゃんと心得ていたのだ。魔法における攻撃と防御は表裏一体。自らが使える魔法に対する対処方法を知らずには、その魔法を会得したとは言えないのである。

「モイスチャー・ドライ!」

ジャックの魔法詠唱と共にジャックの周りの泥から水分が蒸発してゆき泥が固形化した。だがジャックの足元だけは逆に水分が増しているようで、ジャックは泥の中から難なく固形化した泥の上に足を引き抜いた。

「甘いぜっ、ジャックっ!そんなのはお見通しだっ!本番はこれからよっ!」

自分の仕掛けた魔法を難なく返されたにも関わらずユリウスは動じなかった。いや、こうなる事自体を予想していたのだろう。つまりこの攻撃は次に仕掛ける攻撃の前段取りだったのである。


「多重マジカルシールド アンド モイスチャー・ドライ、マキシムっ!」

ユリウスはジャックに対して結界を張った。そしてジャックが掛けた魔法と同じものを発動させる。だがその威力はジャックが掛けた魔法の非ではない。Aレベル限度いっぱいの強度でジャックの周りから水分を取り除いてゆく。水分をほぼ除去された泥は忽ち体積を減じてひび割れてゆく。そして、レンガのように硬くなっていった。そしてその威力は地面表面だけでなくジャックが立っている地中にまで及んだ。その為、ジャックが立っている場所が音を立てて陥没してゆく。ジャックはそれに対してその場から逃げようとしたがユリウスの張った結界がそれを許さない。

「ちっ、中和魔法!シールド・クリアっ!」

ジャックは結界を無効化する魔法を放ち状況を打破しようとするが、多重化された結界はジャックが中和する度に再構成されジャックを包み込む。

「くそっ、ユリウスが結界に魔力を注入し続けるから埒があかんっ!成程、これがAレベル以下に限定された戦い方かっ!」

ジャックが本気になればユリウスが構築した結界を破るのはそれほど難しくはない。だが、今回の戦いのルールでは使用できる魔力レベルがA以下と決められている。その為ジャックはユリウスが張ったAレベルの結界の根本的なところを打破できなかった。

結界自体は難なく中和できる。だが、その外側にある結界を中和している間にまたその外側に結界が再構築されてしまう。そのスピードはユリウスの魔力レベルに左右されるが、ユリウスは総合魔法学科である。総合的なチカラではジャックに及ばないものの、その魔力レベルは並みの魔法使いなど足元にも及ばないものを有しているのだ。

そんな結界の中和と再構築といういたちごっこをしている間にも、ジャックの周りからは水分が抜けてゆく。ジャックは自らの周りにシールドを張り、水分の蒸発を防いだが、陥没してコンクリートの壁のようになった周りまでは対処しなかった。そしてそれがアダとなる。

廻りを硬い土壁に囲まれたジャックは脱出口を上部に限定された。そしてユリウスはその唯一の脱出口にAレベルの結界を多重に張っている。その結界を破るにはAレベル以上の魔法と魔力を必要とした。しかし、ルールとしてそれは禁止されている。つまり、ジャックは魔剣総戦のルール上、詰んだのだ。ジャックの魔力レベルを持ってすれば、ユリウスの仕掛けている乾燥魔法など何時間でも耐えられる。しかし、魔剣総戦のルール上それは敗北であった。檻に入れられて『俺はまだ本気を出していないだけ』などと嘯いても周りから見たらただの強がりでしかない。そして、そんな態度はそれを見る者に負けを認めぬ情けない者と映るのだ。


「はははっ、ジャックっ!抜かったな!如何に貴様が強かろうとその能力を限定されては立場は同じなんだっ!そうなったら最後は知恵を駆使したものが勝つっ!ジャック・イエーガーっ!人生初の敗北を味わうがいいっ!」

ジャックの頭上でユリウスが勝ち誇ったようにジャックへ勝利宣言をする。だが、その時、ユリウスは忘れていた。自分が1対2で戦っていた事を。

ジャックに対する勝利を目前にし気持ちが高揚していたユリウスはジャック以外への警戒を殆どしていなかった。その為、彼に近付くレイチェルの影に気づかない。おかげでしこたまキツイ魔法を喰らう事になった。

「業火魔法っ!フラワー・バケッドっ!」


ぼっ、ぼっ、ぼっ、ぼっ、ぼっ!


レイチェルの詠唱により空中にいるユリウスの周りにこれでもかという程の色とりどりの炎の花が咲いた。そのひとつひとつの威力は小さいものだが数が半端ない。数千、いや万を超えるであろう炎の花がまるで連続花火のようにユリウスの周りで次々と開花してゆく。しかも色の間違いは温度と魔法波長の違いを表す。故に単一の温度や波長ではないので防ぐほうも一様の防御魔法では対応できなかった。


「ぐわっ、ちくしょうっ!何なんだ、この波長の数はっ!対応が追いつかんっ!」

ユリウスは初め対炎防御で対応できるとタカを括っていたが、炎の種類の多さを前に自分の判断ミスに気付く。そして決断を迫られた。このままではやがて小さいとは言え数がある為、炎に飲み込まれてしまう。やろうと思えば中和や反発は可能だったが、それにはジャックを押さえ込んでいるシールドへの魔力注入を中止しなくてはならない。だがそれは長年叶わなかったジャックへの勝利と言う栄光を手放す事になる。もう少し、もう少しでユリウスはそれを手にする事が出来るのである。それを手にする為なら、このレイチェルの攻撃に身を焼かれるのも厭わないと言う思いがユリウスにはあった。


だが、その時ユリウスの脳裏に過去に語られたひとつの言葉が浮かびあがる。

『戦場で死ぬのは簡単な事。ですから生きて帰ってこそ本当の勝利なのです。ですが負けて尚、生き長らえるのは絶え難き苦難となるでしょう。されどそれに打ち勝ち、屈辱に耐え捲土重来を図るのが真の『おとこ』というものです。』

それは、昔、ユリウスがメイファンにやられ続けて不貞腐れ時に掛けられた言葉だった。負けるは一時の恥。恥を忍んで最後に勝つのが真の『おとこ』だと、その時ユリウスは教えられた。


「くっ!ちくしょうっ!」

その言葉を思い出し、ユリウスは苦渋の選択をする。彼はジャックに勝利するのが夢であった。その為なら命を捨てる事も厭わないと思ったこともある。だが、それをメイファンは弱者の自己満足と吐き捨てた。戦いとは勝利する事が目的である。しかし、ただ勝つだけでは駄目だと常々彼女は彼に諭していた。

「ユリウス坊ちゃん、命とは尊いもの。ですからその命の掛けどころを間違ってはいけません。プライドなど犬にでもくれてあげなさい。坊ちゃんはこの国で重責を背負うハーウェイ家の一員。その重き責任から逃れてはいけません。」


ユリウスはぎっっと唇を噛み締めると瞼を硬く閉じ自らのミスを悔いる。このままでは勝てない。ジャックを道連れにする事は出来るかも知れないが、それではチームとして魔剣総戦に勝った事にはならない。そしてその原因を作ったのは自らの慢心だった。ジャックひとりに気をとられレイチェルの存在を忘れていた。いや、本当に忘れていた訳ではない。だが侮っていたのは確かだ。たかがノーマルクラスなどどうにでも料理できると思っていたのだ。その結果がこの状況を生み出していた。つまり、ユリウスは自らのミスで自滅したのだった。


「まだだっ!まだ負けた訳じゃないっ!」

そう言ってユリウスはジャックを押さえ込んでいるシールドへの魔力注入を中止し、レイチェルの業火魔法吹き飛ばす。そして一旦その場を離れた。ジャックは取り逃がすかも知れないがまた仕切り直せばよい。その為には邪魔なレイチェルを先に片付けるべく退いたのであった。

だがその隙をジャックは見逃さない。魔力の補填がなくなったシールドを一気に突破し、ユリウスの後を追う。そして止めの魔法をユリウス目掛けて放った。

「スレイブ・チェーンっ! アンド マジックシールドっ!」

「うわっ!こなくそっ!この程度!」

ジャックの異様なまでの早さでシールドを無効化する技量を見誤ったユリウスは、あけっけなくジャックの拘束魔法に捕まってしまう。ユリウスはその魔法を無効化しようと試みるが、外しても次々新たに発生するスレイブ・チェーンに次第に抗う力を失っていった。

スレイブ・チェーンは魔力を使った身体拘束具である。これは拘束した相手の魔力をも縛り付ける。よってこれに囚われた相手は本来の魔力が発動できない。ジャックはさらに魔力を封じ込める魔法をユリウスに掛け、彼の魔力を完全に封印した。これは一見便利な魔法に見えるが、魔力の拘束には相手以上の魔力が必要となる。故に魔力が劣る者が上位者にこの魔法を掛けても簡単に外されてしまうのだ。スレイブ・チェーンによる拘束はユリウスに対して優位な魔力量を有するジャックだからこそ出来る力技だった。


「ユリウスっ!負けを認めろっ!このまま拘束し続けてもタイムカウントでギブアップは成立するんだ!」

ジャックが尚ももがき続けるユリウスに向かって降伏勧告をする。魔剣総戦では発動させる能力に上限値を設けている為、仕掛ける方と防ぐ方の魔力が拮抗しやすい。その為選手間でお互い魔力放出し合うサドンデスとなり易かった。そのような事態を回避する為、防御側は、攻撃してくる魔力に応じた対応制限時間が課せられていた。その時間内に攻撃を回避仕切れなければ審判権限で防御側はギブアップを宣告されるのだ。

そして今回ジャックが仕掛けているAレベル魔法のタイムアップ時間は1分である。戦闘において1分は凄まじく長い時間だ。ましてやグループ戦ならば紺着状態に陥った場合、バックアップが介入してくる。だが、今回ユリウスを援護するはずのメイファンはユリウスのピンチを知りつつ何故か動かない。じっと戦いの推移を眺めるだけで指一本動かそうとしなかった。但し、その見つめる瞳は鋭い。ユリウスとジャック、双方の動きも技量も全て見透かすかのようにふたりの戦いをその瞳は写し込んでいた。


そしてとうとうユリウスは観念する。タイムカウントギブアップは一見仲間への時間稼ぎのようにも取れるが、魔剣総戦は生徒の実力把握が主旨である。単なる勝ち負けだけを決める試合ではない。ぶざまな方法で勝ったとしても、そこに栄光はない。己がチカラを出し切り、正々堂々と勝利してこその栄冠だった。


「ぎっ、ギブアップだ・・。」

噛み締めるようにユリウスは自分の負けを宣言した。それを受け審判がユリウスの敗北を宣言する。

『おーっと、ユリウス選手。ギブアッブを宣言しましたっ!これはびっくりです。日頃の因縁により少しでも時間稼ぎをするかと思われたユリウス選手ですが、魔剣総戦の主旨に則り潔く負けを認めた模様です!』

場内の実況がユリウスの敗北を観客に告げる。それを受け、観客席からはほーっという驚きの声が沸きあがった。


「よしっ、レイチェル!俺はロベルトを援護に向かう。お前はロゼッタたちに合流しろっ!」

「了解!」

ユリウスに勝利したふたりはそれぞれ別々に仲間の援護へ向かう。後にはスレイブ・チェーンを外されてひとり地面に座り込むユリウスだけが残された。


だが、そんな負けを認めたユリウスの側に、いつ来たのかメイファンが立っていた。そして優しくユリウスに話しかける。

「ユリウス坊ちゃん、強くなりましたね。自ら負けを認められるのは真の男となった証です。そしてその悔しさは更なる高みへと、あなたが這い上がる為の原動力となるでしょう。ですが、戦場では次はありません。負けたらそれまでです。ですからみな、そうならないよう鍛錬を重ねるのです。今回ユリウス坊ちゃんは負けました。ですが生きています。それはチャンスを得たという事。だから今回の負けを糧に更なる鍛錬をなさい。あなたはそれが出来る『おとこ』です。」

ユリウスにそう言うとメイファンはロベルトの援護に向かったジャックの後を追った。その後姿を見ながら、ひとり後に残されたユリウスは、拳を握り締めてただただ悔し涙を零さぬよう堪えるのであった。


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