訓練、訓練、訓練っ!
さてジャックたちとの打ち合わせの次の日は学校が休みだったので、僕らは学校の魔法試験場のひとつを借りて特訓をする事となった。そんな中、まずは一番狙われるであろう僕が集中してしごかれる。
「それじゃロベルトがメイファン役でアルベールを追いかけてくれ。レオンはそれを阻止だ。ロベルトとメイファンじゃ動きが異なるが、俺がバックアップして時々空間転移魔法をロベルトに掛けるから油断するなよ。アルベールもただ逃げ回るだけじゃなく、メイファンの動きをレオンの方に誘導しろ。2対1なら如何なメイファンとて瞬殺は出来ないはずだ。技には頭を使って対応だ。周りの状況を最大限に利用しろ。その時々だけでなく1手、2手先を読んで自分に有利になる状況を作り出せ。」
瞬殺って・・、怖い事言わないで下さい、ジャック。おしっこちびるじゃないか。後、僕はそれ程頭が良くありません。1手先だって読めるかどうか怪しいです。その事をジャックに言うと、ジャックは事もなげに答えたよ。
「ああっ、気にするな。戦いは運も関わってくる。自分を信じてやるだけの事をやるんだ。そして後は祈れ。そうすれば道は開ける。・・事もあるさ。」
祈るんかいっ!しかも絶対じゃないのかいっ!それって何てゆう宗教なんだよっ!
僕はジャックの言葉に心の中で突っ込みを入れる。まぁ、声に出して言っても状況は変わらないからな。それに僕、漫才師じゃないし・・。
そんな中、ロベルトも自分の役割に不満を漏らす。いや、役割じゃなくて小道具として渡された備品の事についてだけどね。
「ジャックよ、これって必要なのか?」
「訓練だからな。見た目を似せるのは当然だろう?」
ロベルトはローザに無理やり被らされたウイッグを指で弄りながら嫌そーな顔をして問い掛けた。それに対してジャックはさも楽しそうに答える。あーっ、ジャックはローザから何か貰ったな。そして当のローザはロベルトを玩具にできて嬉しそうだ。彼女はロベルトに被せたウイッグを梳かしながら「本当ならリボンを付けたいところよねぇ。」なんて言っている。
メイファンは人種がヒノモト系なので髪と瞳の色が黒い。そして背中まで伸びるストレートヘアだ。それを真似る為、ロベルトは黒髪のストレートウイッグを被せられたのだ。でもローザもさすがにロベルトへスカートまでは着せる気はないようだ。うっ、ちょっと想像してしまった・・。げげげーだ。
「知っているだろうが、メイファンの動きは素早い。ちょっと化け物じみていると言っても過言じゃない。だから目で追おうとするな。頭の中で想像してメイファンの先を読め。どの道、メイファンに勝てはしないんだから、ならばなるべく逃げ回って時間を稼げ。その間に他の者たちはユリウスたちを叩く。さすがにメイファンも他のやつらが全員ギブアップしたら矛を収めるだろう。」
はははっ、さすがのジャックもメイファン相手に勝つ自信はないらしい。まぁ、今回の真の名目はジャックとユリウスの戦いだ。部外者のメイファンだけが残ったとしても、ユリウスが勝ったとは誰も認めないだろう。
「よしっ、それじゃ始めるぞ!追えっ!ロベルトっ!」
「おうっ!」
ジャックの開始宣言と共にロベルトが僕目掛けて突進してくる。それを阻止すべくレオンが間に割って入った。だが次の瞬間、ロベルトの姿が消える。はい、ジャックが空間転移魔法をロベルトに掛けたのだ。
「ちっ!」
レオンはすぐさま振り向いてロベルトが出現するであろう場所に斬撃を送ろうとする。だが、その動きは途中で終わった。何故ならそこには短剣を僕の喉元に押し付けたロベルトがいたからである。
「ひゅ~っ、上手いじゃないかジャック。うんっ、メイファンの動きって確かにこんな感じだよな。」
剣を鞘に戻しながらレオンが言う。それにロベルトも追随した。
「そうだな、突撃の慣性もこんな感じでぴたりと止めやがる。あれってどうなっているんだろう。いくら体が軽いと言っても普通あの速度で突進してきたら止まらないよなぁ。ジャックはどうやったんだ?」
「あーっ、慣性に関してはあの岩にすり替えた。ロベルトも十分速かったよ。ほら、すり替えた岩があんなに動いてしまっている。」
そう言ってジャックは20メートルほど先にある重さが1トンはありそうな岩を指差した。そして、その岩と地面の接地面は確かに10センチほどずれた形跡が見て取れた。う~んっ、ロベルトの突撃ってあんな大岩をもずり動かすだけの慣性力があるのか・・。怖いね剣士の突進パワーって。
「さて、今ので判っただろうけどメイファンの突撃を防ぐのは並大抵じゃない。だからアルベールとレオンは事前にコンビネーションを話し合っておいてくれ。今のは空間転移魔法だからレオンもロベルトを阻止できなかったけど、メイファンは転移じゃなくて移動だ。導線があるはずだからルートさえ把握できればレオンも阻止できる。・・はずだよな?レオン。」
「う~んっ、自信がない・・。前にも試したんだけど掠りもしなかったんだよなぁ。」
そう、なんでもメイファンの突撃が不思議なのは、見えているのに対応出来ないところだそうだ。確かにメイファンの動きは速い。でもその動き自体は僕でも追える程度だ。だがいざ対応しようとすると間に合わない。
レオン曰く。自分としては通常の動きをしているつもりなんだけど、なぜか動きがスローモーションのように感じるんだそうだ。そしてメイファンは普通の速度で脇をすり抜けてゆく。結果、剣を送り込んだ時には既にそこにメイファンの姿はないんだって。はははっ、もしかしてメイファンって奥歯に加速装置のスイッチでも仕込んであるのかね。実はメイファンってサイボーグ戦士だったのか?
「そうなのか?んーっ、時間系の魔法でも使っているのかなぁ。」
「どうかね、だとしても無意識だろうな。」
はい、ジャックたちは事もなげに話しているけど、時間系の魔法って超高難度だから。3級魔法使いくらいでないと扱えないから。時間系を操作できるマジックアイテムって国宝級だからっ!そんな事が出来たら、もうっ、人生左団扇の勝ち組だからねっ!
「やはりメイファンは厄介だな。いっその事、落とし穴でも仕掛けておくか?」
「あっ、それ無理。剣術科の他のやつが試した。どうやったんだか判らんが、踏み抜かなかったそうだよ。ちゃんと穴の上を通ったにも関わらず走り抜けたそうだ。足跡もちゃんと残っていたのにな。」
「かーっ、これだから達人級は嫌なんだよ。ちゃんと常識を守って欲しいよな。」
「俺の聞いた話じゃ、水の上すら駆け抜けたそうだぜ。実はメイファンって幽霊なんじゃないのかねぇ。もしくは幻影。」
「いやはや、あの若さでよくもまぁ3級剣士レベルの逸話がぽんぽん出てくるもんだ。やっぱり才能なのかな。」
「じゃねぇの。でなきゃ、カルティア宗家が養女に迎えないだろう。」
なんか、ジャックたちは僕の訓練を放り出してメイファン談議に熱中している。そんな仲間はずれになってしまった僕にレイチェルたちがおいでおいでをして来た。
「アルベール。ジャックたちは、ああなったらちょっと終わらないから、私たちは向こうで訓練しましょう。」
「あっ、はい。」
いやはや、井戸端会議はおばさんたちの特権かと思ったらそうでもないらしい。マニアックな話をさせたら男の子もおばさんたちと変わらないんだね。
その後、僕はレイチェルと組んでローザとロゼッタの魔法訓練の相手をした。まぁ、僕はマネキン役です。防御アイテムをごっそり身に付けて、ローザたちの魔法の的役をやりました。反撃はレイチェルの担当です。僕はレイチェルの指示に従ってひたすら走り回ります。その度、ローザたちの魔法が襲ってきます。うわっ、止めろ、ローザっ!そんな渾身の一撃みたいな魔法を僕に仕掛けるんじゃないっ!アイテムが防ぎきれなかったらどうするんだっ!
どか~んっ!
僕の心の制止が聞こえなかったローザは構わず僕にどでかい圧力波をぶつけて来た。しかも左右両方から挟みこむ様にである。これはレイチェルも危ないと思ったのか、咄嗟に僕を結界で覆った。
「むぎゅ~っ・・。」
はい、辛うじてアイテムとレイチェルの結界が、僕をノシイカにしようとする圧力波からぎりぎり救ってくれました。
「こら~っ!ローザっ!今のは危なかったぞっ!危うく漏らすところだったじゃないかっ!」
「あっ、ごめん。ちょっとふざけちゃった。」
「ふざけたんかいっ!」
「ローザ、今のはハイクラスが相手でも危ないかも知れないわ。だから仮に使う事になっても、もうちょっと出力を落としてね。」
「うんっ、判った。」
う~んっ、ハイクラスのやつすら潰しかねないローザの一発でどうなんだろう?なんでローザはノーマルクラスなの?あっ、自前の魔力容量がちょっと少ないって言ってたっけ。
「でも相手が固まっていたら一気に潰すにはいい方法かもね。今のって個別に4つくらい出せるの?」
「んーっ、多分無理。4つ出すのは出来なくはないけど、別々に操作するのは無理だと思う。」
「そっか、それは残念。でも確実にひとりは潰せそうだから初っ端にお見舞いしてやりましょう。」
「うんっ、判った。」
いやはや、話だけ聞いているとどこの喧嘩に出向く不良娘たちの会話だよって感じたね。でもそんな危ないもうひとりの娘が僕に仕事をするように声を掛けて来た。
「アルベール。次、私がやっていい~?」
「あっ、はい。ロゼッタさん。お手柔らかにお願いします。」
そう言うと僕はローザたちを攻撃の軸線から外すべく走り出す。ぐおーっ、あの大岩まで走りきれば僕の勝ちだっ!如何なロゼッタの攻撃魔法でもあの大岩は吹っ飛ばせないだろうっ!
そんな僕の意図を察したのか、ロゼッタは進路を塞ぐようにこぶし大の石を魔法で僕にぶつけて来る。
「こなくそっ!」
僕はマジックアイテムの防御力を信じて遮二無二走る。そしてアイテムはそんな僕の期待を裏切らなかった。ちゃんと全ての石を弾き返したよ!ヒャッホー!ビバ、マジックアイテム!さすがはガードナー魔法工房製だぜ!
だがこれはロゼッタの仕掛けた罠だった。ロゼッタはわざと僕を大岩に隠れさせる為に石の威力を調整していたのだ。そして大岩の影に飛び込んで一息ついた僕を大岩ごと丸焼きにする。
「火炎魔法っ!火力中ぐらい!」
ロゼッタの詠唱と共に隠れていた大岩ごと僕はこんがりとされる。成程、動き回る相手だと照準が付けづらいから、ロゼッタはわざと大岩に誘ったのか・・。気付かなかったよ。うまいねぇ、ロゼッタは。
でもロゼッタ、これって訓練なんだから火力はもうちょっと抑えてもいいんじゃない?後、焼く時間が長いです。ロゼッタはカリカリに焼いたお肉が好きなんですか?まぁ、僕もレアよりウエルダンの方が好きだけどね。
「あちっ!熱いよロゼッタさん。もうちょっと手加減して下さいっ!」
漸く治まった火炎から僕は転げるように大岩を離れる。だって大岩はこんがりされているからすげー熱いんだもの。
「えーっ、これでも手加減したつもりなんだけど?」
僕の言葉にロゼッタは不満気味だ。なんなんだ、ジャックグループの女子たちはっ!みんなおっかな過ぎだよっ!
「アルベールぅ~、私もぶつけていい~?」
漸く息の整った僕に、今度はレイチェルが遠くから声を掛けてくる。えーっ、レイチェルって火力特化型だよね?勘弁してくれぇ~!
でもそれじゃ訓練にならないので僕はしぶしぶ了解する。
「あーっ、本当に火力調整して下さいよ!後、燃焼時間は2秒以内でお願いします!あっ、連続は駄目ですからね!」
「はーいっ、じゃあ、向こうの岩までの間ねぇ。行くわよ~っ!」
「うわっ、待って!僕が走り出してからにしてくれっ!」
だけど最後の僕の言葉はレイチェルには届かなかったようだ。いきなり僕の真後ろに火球が発生する。その圧力により僕は吹き飛ばされるように走り出した。だがその後もレイチェルの火球は僕を後押しするように連続して出現した。
「うわ~っ、レイチェルっ!連続は止めてくれぇ~!」
うんっ、火力特化型のレイチェルにとって、これくらいは連続の範疇には入らないらしい。
「ほらほらアルベール!もたもたしてると焼けちゃうぞぉ。うふっ。」
がーっ、レイチェルっ!可愛く言っても駄目だってっ!あちっ!あちぃーよ!火球を繰り出すタイミングが速過ぎるって!
そして、レイチェルの容赦のない火球攻撃を辛くも凌ぎきった僕は、ゴール地点の岩にもたれ掛って肩で息をする。そんな僕にレイチェルは心理攻撃を仕掛けてきた。
「う~んっ、残念。仕留め損なったわ。やるわね、アルベール。」
くすんっ、仕留め損なったって・・。レイチェル、僕は魔物じゃないんですけど・・。もしかして僕って弄られているの?
そんな疲れ果てて岩の袂でひっくり返っている僕に今度はジャックが声を掛けて来た。
「なんだ、アルベール。いなくなったと思ったらレイチェルたちと遊んでいたのか。」
はははっ、ジャック。あんたには、これが遊んでいるように見えるのか・・。うんっ、やっぱり出来るやつは嫌いかも知れない。冗談になってないよ、ジャック。
その後も、ジャックたちの僕へのシゴキ・・、もとい特訓は続いた。はははっ、明日も放課後に続きをやるそうです。げぇーっ、僕は『魔剣総戦』に出場する前に病院送りになりそうだよ・・。




