戦場魔法部隊
「と言う事なんだが、なんか俺のいない間に面白そうな事をしてたみたいじゃないか。ズルいぞ、アルベール。ちゃんと俺も誘えよ。」
ローレンツ、まぁ、名目上はユリウス・ハーウェイからの合法的な決闘の申し込みを受け、それを僕に報せに来たジャックは開口一番、僕をからかう。いや、ジャック。ふざけている場合なのか?僕なんかの為に本当に決闘を受けるの?
「すいません、なんかローレンツさんの面子を潰しちゃったみたいで向こうも引っ込みがつかなくなったらしいです。」
うんっ、これはローリーからの情報である。彼女は僕とメイファンの対決が尻すぼみで終わったと知るや、忽ちユリウスグループ内の状況を調べ僕に教えてくれたのだ。すごいぞ、ローリー。将来は魔法使いより探偵の方が向いているんじゃないのか?
「らしいな。特にユリウスはメイファンに頭が上がらないからなぁ。多分、今回この絵を描いたのはローレンツなんだろうけど、案を出せと言ったのはメイファンだろう。彼女、何かと俺に突っかかってくるから、いい因縁付けが出来たと思っているんだろうな。」
「メイファンさんがジャックさんに?」
「ああ、なんか昔、俺の家とひと悶着あったらしい。なんでも当時慕っていた仲間が、俺の家の魔法部隊と戦闘になって行方不明になったんだとか。以来、彼女はイエーガー家を目の敵にしているんだってさ。俺としてはいい迷惑だよ。」
げーっ、そうなの?もしかして僕に対するメイファンの態度もそれが原因ですか?なんだよ、ジャック。僕、そんなに悪くないじゃんっ!
「魔法部隊ですか・・、ジャックさんの家ってそんな家業もしているんですか?」
「ああ、魔法使いって言ってもその使いどころは様々だからな。ウチはアルティナ系だからそれ程でもないんだが、バルディア系なんかは殆ど兵隊家業だよ。」
あーっ、それは聞いた事がある。所謂『戦場魔法部隊』ってやつだね。傭兵の魔法使い版だ。大抵の軍は自前で魔法使い部隊を持っているけど、平時において魔法使いが抑止力となる事はあまりない。尖がり帽子にマント姿なんてみんな見慣れているからね。やっぱり張ったりでもいいから、ごつい男たちの集団を剣や槍をガチャガチャ言わせて町に歩かせた方がみんなビビるのである。
だから通常、軍自前の魔法使い部隊は規模が小さい。これは魔法使いがあまり荒事に従事したがらず、募集しても応じる魔法使いがあまりいないせいもある。でも、その根源には戦場における魔法使いの損失率の高さがあるはずだ。
いざ戦闘状態になると現在の戦場に魔法使いは欠かせない。探索や欺瞞、障壁の構築など、一般の兵士に比べて魔法使いは大変使い勝手がいいのだ。ただ如何せん、実際の戦闘に突入すると魔法使いの損失率は高い。どちらの勢力も、まずは厄介な魔法使いを排除しようとするからだ。
この事は軍に従事する魔法使いにとっては気が滅入る事である。いざ、戦闘が始まると敵の兵士が自分を目の敵に大挙迫ってくるのだ。その恐怖たるや如何に味方の兵士たちに守られているとは言え、魔法使いたちを震え上がらせる。そして魔法とは精神の状態に左右されやすい。恐怖心に負けた魔法使いは、いつもなら発動できる魔法も使えなくなる事が多い。下手をするとその事が尾を引き、その後も魔法を使えなくなったりするのだ。そうなったらもう魔法使いとは名乗れない。魔法を使えない魔法使いなど、如何に魔法の知識があったとしても魔法使いではないからだ。
だから普通の魔法使いは軍の募集に応募しない。でも軍としては何とか使い勝手の良い魔法使いを確保したい。その解決策として、軍は高額な給与を餌にして魔法使いを誘う。その誘惑に負けた少数の魔法使いたちが軍に従事するのである。
ただ、これは一般の人たちや兵士たちから見ると魔法使いが優遇され過ぎているように見えるらしい。確かに魔法使いって兵士たちのように肉体訓練なんかしないからね。魔法だって普通は魔石を媒体とした魔力頼みと思われている。まぁ、その魔石から的確に魔力を抽出するのが難しいから、魔法使いなんて商売が成り立っているんだけど。
でも一般に出回っている魔石って、魔法使いによって調整されているから普通の人も簡単に使用できるんだけど、その事はあまり知られていない。原石の魔石なんか魔法使いだって能力の低い者には扱えきれない厄介なしろものなのだ。でもそれを知らない人たちは魔法使いって楽な商売だなぁと思ってしまうのだ。
そして、そんな裏事情を知らない一般の兵士と魔法使いの間にはちょっとした壁が出来る。戦場においては互いの信頼が大切である。なんと言っても互いに命を預けあうのだ。だからそこに壁があるのはお互いにメリットがない。その事により過去多大な損害を出した事例は幾らでもあるそうだ。
故に今では戦場にいる『戦場魔法部隊』は殆ど傭兵である。これはもう戦場戦闘に特化した魔法使いたちである。その元締めがイエーガー家などの各魔法使い流派宗家なんだって。
魔法使いには大きく分けて12の流派がある。その各流派は大なり小なり『戦場魔法部隊』を持っており状況に応じて魔法使いを戦場へ送り込む。
そんな各流派の宗家が送り込む『戦闘魔法使い』たちは強力である。なんせそれ専門に修行を重ねたプロフェッショナルだ。精神的にも鍛えられているから、軍の募集に応募してきたちょっと魔法が使えます程度の魔法使いでは太刀打ちできない。だから最近のトレンドとして軍も自前で魔法部隊を常備せず、各流派の『戦場魔法部隊』を状況に応じて雇い入れるそうです。
うんっ、この事は知識としては知っていたけど、僕には関係ないと思っていました。だって中卒の魔法使いって普通は工房勤めだからね。高額な報酬に眼が眩んで軍の募集に応募しても、中卒はさすがに採用してくれないしさ。ましてや魔法宗家に仕えるなんて夢のまた夢だよ。彼らはエリートだからね。
だから、まさかそんな魔法宗家の関係者がこんな身近にいる事になるとは中学の時の僕には考えられなかったよ。出会いって不思議だなぁ。でも命のやり取りを稼業にするなんてすごいよな。いや、僕もダンジョンでは死に掛けたけどね。なら同じか。いや、違うかなぁ。どうなんだろう?
しかし、メイファンってまだ若そうなのに『戦場魔法部隊』相手の修羅場を経験しているのかぁ。剣士はその性質上、魔法使いより荒事に従事する場合が多いだろうけどびっくりだ。
今、世間は平和だ。最後に国同士の大規模な争いがあったのは何十年も前の事である。でもそれだって平和な時代を築こうとした強い意志から止む無く始めた事だろう。
今の平和を実現する為に過去には血が流れていた。後から考察するやつらは何を馬鹿な事をしていたんだと言うかもしれないけど、それは違う。誰だって戦いなんかしたくないはずなんだ。でもやらなきゃ前に進めないとしたら戦わなくちゃいけない。そして大規模な争いはないけど、今でも小さな紛争はある。ただ僕らの耳には情報が届いていないだけだ。
争いの無い世界を実現するのは難しい。ましてやその状態を維持するのは神ですら不可能だろう。それは歴史を紐解けば判る。人の歴史は争いの歴史だからだ。その事から目を反らしては今の平和も何れは崩れ去るのだろう。
さて、話が反れたので戻そう。今僕が直面している問題はユリウス・ハーウェイがジャック・イエーガーに申し込んできた『魔剣総戦』だ。これってもしかして僕も参加しなくちゃ駄目なのかな?僕はその事を恐るおそるジャックに聞いた。
「あのぉ、ジャックさん。もしかしてその『魔剣総戦』って僕も参加する事になっているんでしょうか?」
「えっ?ああ、そりゃな。なんせ原因は君だろう?申し入れ状にもはっきりと書いてあるぞ。千キロジャンパーとの噂があるアルベール・ドレステンの真偽を確かめるべく、ここに『魔剣総戦』の開催を申し込むってな。」
がーんっ!僕を名指しですかっ!でもなんで千キロジャンプの真偽を確かめるのに魔法と剣術の総合戦闘模擬試合をやる必要があるだぁーっ!それって完全に言いがかりだろうっ!『剣術』と『戦闘』って言葉はどこから持ってきたんだぁーっ!
だが当のジャックはやる気満々である。なんせ因縁浅からぬユリウス・ハーウェイの方から正式に勝負を申し込んできたのだ。ユリウスグループからの嫌がらせに辟易していたジャックにしてみれば正に願ってもない申し込みだったに違いない。早速今夜みんなを集めて作戦会議を開くそうだ。僕のところに来たのもそのお誘いをする為だとか。うーっ、僕は外してくれてもいいのに・・。邪魔にならないように観客として観戦したかったよ・・。
でも、申し入れ状に名前がある以上ジャックも僕を外す訳にはいかないのだろう。ローレンツもそこら辺の事は判っていて僕の名前を出してきたはずだ。くそーっ、ローレンツめっ!試合になったら真っ先に仕留めてやる!ボコボコのタコ殴りにしてやるからなっ!覚悟しておけよっ!
う~んっ、本当に出来るだろうか?実はローレンツって結構強いのか?そう言やぁ、ローレンツが馬鹿な事は知っているんだけど魔法の実力は知らないや。あっ、そう言えばあいつって腐ってもAクラスだったな。あらら、これはまずいかも知れない。




