ダンジョン、それは魔窟
僕が入ったダンジョンは世間で言われるグレードとしてはCランクだ。難易度としてはそれ程高くはない。これより難易度の低いダンジョンはDとEランクしかない。その内Eランクはダンジョンの魔力を人間が取り尽して、ただの洞窟と化したものを指すランクの事だから、実質下から2番目である。
ならCより上はどうなのかと言うと、当然ながらBとAがある。昔はAが最高値でAからEの5段階がダンジョンのランク付けだった。でもそれは攻略側の能力がA以上のダンジョンを認識できていなかったからである。つまり昔は誰がやっても攻略できないダンジョンの総称がAランクだったのだ。
でも最近は攻略技術が進歩したおかげで、そんな攻略が難しいダンジョンでも探索できるようになった。そうなるとまたランク付けが発生し、Aランクの上にSランクが置かれ、そのまた上にSSランクが置かれた。今のところSSSランクという分け方は広まっていないが、攻略技術がもっと発展すればそんな名称も出てくるかも知れない。
もっともそんな上位ランクのインフレは名称の統一性としてはよろしくないのでいつかは見直されるかも知れない。でもSランクなんて相当計画的に探査しないと攻略なんかできないそうだ。ましてやSSランクなんか普通の人は近付くのさえ難しいらしい。何の対策もしないと入った途端、高濃度魔力に当てられて魔物化するなんて噂があるほどである。
さて、そんな化け物みたいなダンジョンの事は置いておこう。今の僕にはこのCランクだって十分化け物級なのだ。僕は視覚強化魔法を自身に掛け薄暗いダンジョンを奥に向かって進んでいる。でもまぁ、ここはまだ入り口付近だ。足元だって先に入った多数の人たちに踏まれて道が出来ているくらいである。
そんな道を数百メートル進むと、漸く地下への入り口が見えてきた。ご丁寧に誰かが看板まで建ててくれている。
『第1経路。難易度3』
う~んっ、折角難易度まで書いてあるけど、基準が判らないからどの程度なのかが判断できない。でも第一経路とあるからには第2、第3経路もあるのだろう。
「さて、どうするかな。普通は奥に行くほど難易度は上がるよなぁ。あのリーダーはDランク魔石は3階層は下らなくちゃ駄目だって言っていたし・・。あれってどの経路の事だったんだろう。」
僕は分岐点でしばし考える。僕の目的は魔石だ。ランクは指示されていないけど、あの糞ったれ親方を黙らせるには最低でもDランクのやつを持ち帰りたい。それがこの難易度3の経路にあるかどうかが問題だ。
いや、無い訳はないはずなのだ。ただ如何にダンジョンと言っても無尽蔵に魔石がある訳ではない。先に入った者たちが取り尽していれば高難度な場所でも魔石はない。だからダンジョンは未発見のモノに最初に突入するのが一攫千金を得るチャンスなのだ。
でも、そんなダンジョンは危険もいっぱいである。なんせ、未発見のダンジョンは危険度が判らないからね。ひょいひょい入っていって、魔物にぱくっとされては先に突入した意味がなくなる。ダンジョンとはあくまで生きて出られた者だけが富を得られるのだ。
その点、このダンジョンは発見されてからかなりの人が内部に入っている。結構な数の魔物も仕留められているはずだ。そうゆう意味ではかなり危険度は低い。しかし、だからと言ってダンジョンを甘く見ては駄目だ。魔物なんか幾らでもダンジョンの魔力で補充されるからね。魔力の波長にもよるけど、魔物の種類によっては狩った翌日には同じ数だけ補充されるらしい。全く訳が判らんよな、魔物って。
因みに魔石だって補充されるらしい。魔石とはその名の通り魔力を溜め込んだ石の事だ。ぱっと見は色の付いたガラスのようなものである。聞いた話では魔力の強さによって色が違うらしいが僕はよく知らない。僕が今まで見た魔石は青か赤だけで、どちらも魔力出力に大差はなかった。
もっともこれは日常的に使えるように出力調整が施された加工品だからだろう。多分原石とは別なのだ。そんな原石も道端に落ちている事はない。魔石とはダンジョン内の岩石中に含まれるクリスタルコアというモノを核にして、それに周囲の魔力が吸着されて魔石となるそうだ。魔石となったクリスタルコアは岩石内の圧力差によって低圧側、つまりダンジョン内に広がる空間の方へ長い年月をかけて移動して行き、めでたく壁まで到達した物を僕ら人間が壁から剥がしたり、床から拾ったりして持ち帰る。
その時も、魔石は裸では存在せず卵形の岩石の中に存在する。だから僕たちはそれらをマジカル・エッグと呼ぶ。そしてその中に入っている魔石がどの程度のモノなのかは割ってみないと判らないらしい。だからと言って、ダンジョン内でマジカル・エッグを割ってはいけない。何故なら割った途端、エッグ内の魔石がダンジョン内に充満している魔力に反応して大暴走をするからだ。
故にマジカル・エッグは外部の然るべき処置を施した場所で割らなくてはならない。そこら辺が魔石探しの難しいところだ。大きなマジカル・エッグを見つけたからと言って意気揚々と持ち帰ったが良いが、いざ割ってみたらちっこい魔石だったなんて事はざらである。それでも人々はどこならどれくらいのランクの魔石が取れるかを経験で知っていて、それが先のリーダーのDランクとなると3階層という言葉の元となっている。
さて、僕は先ほどさらっとダンジョン内には魔力が充満しているといった。そして、そんな魔力に当てられると生き物は魔物化するとも言った。つまりダンジョンとは入るだけでも、とても危険なのである。そんなダンジョンの影響を受けないように僕も今は魔法で身を守っている。所謂対魔力中和魔法というやつだ。これは魔法中学で嫌と言うほど練習させられた。まぁ、それは僕に才能が無かった故の繰り返し練習だったのだけれど。でもそれは僕だけに限った事ではない。結構なやつらが僕と同じようなもんだったから。
対魔力中和魔法って結構相性があるらしいのだ。だから知らず知らずの内に修得してしまうやつもいれば、僕みたいに中々コツを掴めずに苦労するやつもいる。本当に魔法って才能が左右するよな。でも努力さえすれば何とかなるのも魔法だったりする。でも僕も含めて大抵のやつらは努力を嫌うからね。だから僕は今こんな状況にある訳だけど・・。
さて、いつまで考えていても仕方がない。ここは運に任せよう。そう踏ん切りを付け僕は棒を地面に立て手を離す。棒が指し示した方向は第1経路ではなく更に奥の方だった。
「もっ、もう一回やろうかな。いや、決めたんだから撤回はなしだ。でもなぁ。」
僕は自分で決めたくせに棒の結果に中々従えない。うんっ、こんなんじゃ駄目な事は判っているけど、何たって命が掛かっているからね。これくらいの優柔不断は仕方がないだろう。
「はぁ、もういいや。先に行こう・・。」
自分の優柔不断に嫌気がさした僕は棒の示した方向へ歩きだす。まだまだダンジョンは始まったばかりだとゆうのにこんなところで立ち止まって入られない。この先何があるかは判らないが、とにかく進まなければ魔石は手に入らないのだ。
だけど、そんな僕の足もたった30メートルほど進んだところで止まってしまう。そう第2経路の看板を見つけたのだ。うんっ、別に分岐点が離れていなきゃならないってルールはないけど、ちょっと近いよね。因みに第2経路の難易度は4だって。
そして今度も棒の登場だ。
「とりゃっ!」
僕は意味もなく気合を入れて棒を離す。でも気合を入れ過ぎたのか棒は絶妙なバランスを保って直立してしまった。
「あーっ、これってもしかして下か上に行けってことか?」
僕は棒の指し示すダンジョンの上を見上げた。するとどうだろう、そこには僕くらいの体格の人間がぎりぎり通れそうな穴が開いていた。
「うそっ・・。」
僕は直立したままの棒と天井の穴を交互に見比べる。
「う~んっ、自分で決めたルールだからなぁ。これが遊びだったら素直に従うんだけど、今回は仕事だからなぁ。」
僕は暫し頭を捻り考える。どうしよう?あんな穴を今まで先にダンジョンに入った人たちが見落としていたとは考えづらい。つまりあの穴はただの亀裂でその先は行き止まりと考えるのが普通だと思う。僕には時間も無いのだから興味本位で探検をしている暇はない。暇はないのだが僕は好奇心を押さえきれなかった。
「まっ、いいか。何事も経験だからな。」
僕は自分に言い訳するように声に出して如何にもな理由を自分自身に聞かせる。そして壁を登る準備を始めた。




