選択したのは自分自身
工房を後にした僕はダンジョンまての道すがら、ダンジョン内で食べる食料を調達する。とは言っても煮れば食べられる草と、川で魚を3匹捕まえただけだ。その後は目的のダンジョンの近くまで行ける道で馬車をヒッチハイクする。
僕を乗せてくれた心優しいじいさんは、僕の勤めている工房の事をよく知っていて、可哀想な目で僕を哀れんでくれた。ダンジョンの近くで馬車を降りた時は自分の昼飯を半分僕に渡してくれたくらいだ。
「じゃあな、坊主。危ないと思ったら逃げ出せよ。死んじまったら元もないからな。」
「はい、お弁当、ありがとうございます。おじいさんも気をつけて。」
「死ぬんじゃねぇぞぉ~。」
じいさんは、そう言って馬車を進めた。そんな後姿を僕は見えなくなるまで見送る。と言ってもすぐカーブなので2分程で見えなくなったんだけどね。
「さてと、ほんじゃいくかっ!」
気合一発、僕はダンジョンのある方へ歩きだした。とは言ってもダンジョンまでは10分程である。道も整備されているから迷う事もない。道の向こうからはダンジョン帰りらしいパーティもやって来るのが見える。
「おっ、なんだ?小僧、もしかしてダンジョンに入るのか?」
パーティーのリーダー格っぽい男が僕に話しかけてきた。これは幸先がよい。是非とも機嫌を取って中の様子を聞かねばなるまい。
「はい、ちょっと社用で。ところで中の状況はどんなです?」
「はははっ、社用ときたか。ひとりだけでダンジョンに用事とは、そりゃまた、鬼畜な工房だな。」
リーダーは僕の置かれた状況をあっさり読み取った。
「はぁ、まぁそうとは思うんでけど。このダンジョンってそんなに危ないんですか?」
「あーっ、場所によるかな。坊主は何を取りに行くんだ?」
「魔石です。」
「ふーん、グレードは?」
あれ?そう言えば親方からはグレードの指定がなかったな。あれ?これは本格的に業務上死亡事故を狙っているのか?それともFクラスあたりを持って帰ったらそれをネタに賃金から差っ引くつもりなのか?う~んっ、あいつならやりかねんな。
「えーと、多分Dランクくらいかなと。」
僕は取り合えず無難なランクを口にする。いや、僕に取っては全然楽なランクではないんだけど、これくらいのランクでないとわざわざ危険を冒してダンジョンに取りに行く意味がないんだよね。
「Dか・・、となると3階層は下らなくちゃ駄目だな。坊主、ダンジョンは何回目だ?」
リーダーは僕が応えづらい事を聞いてくる。くそっ、どうしよう。ここで見栄を張ってもしょうがないかな。
「えーと、今回が2回目になります。」
「へっ?もしかして中卒の新人か?」
「はぁ・・。」
僕の返事にリーダーは目を見開き驚いているようである。くそっ、だから言いたくなかったんだ。だけどリーダーは本当に僕を心配してくれたようだ。
「悪い事は言わん、引き返せ。一体どこの工房だ。中卒の新人をひとりでダンジョンに入れるだなんて。」
「あのぉ、金金工房って言うとこなんですけど・・。」
「金金工房っ!あそこかっ!」
どうやらリーダーは僕の勤め先の工房を知っているようだった。
「坊主、なんでまたあんなところに勤めたんだ?あそこは新人殺しで有名なところなんだぞ。新人に保険を掛けて業務中の事故に見せかけて死亡保険をふんだくるんだ。よくもまぁ、親が反対しなかったな。」
親ねぇ・・、そうか、親がいれば反対してくれたのか・・。でもなぁ、いればの話なんだな。と言う事は親のいない僕は勤め先を間違ってもしょうがないのか。
「まぁ、そこら辺は色々事情があって・・。僕もこのダンジョンから帰ったら辞めるつもりなんです。」
「アホっ、帰ったらじゃねぇ。帰れない場合を考えなかったのかっ!」
うんっ、リーダーの言う事はもっともだ。でもねぇ。
「それ考えちゃうと何にも出来なくなるんで・・。」
「ちっ、ダンジョンに入るのは、今日じゃなくちゃ駄目なのか?」
「3日しか時間が貰えなかったものですから・・。」
「お前、死ぬぞ?」
「死にますか?」
「初めてのダンジョンで時間制限まであるなんて死んで来いと言っている様なもんだ。止めとけ。金金工房なんかに義理を通しても見返りはねぇよ。」
「はぁ、それは判っているつもりなんですけど・・。」
「しょうがねぇなぁ、本当なら俺たちが一緒にいってやりたいところだが、俺たちも今日中にこれを届けなくちゃならねぇ。残念だが付き合ってやれん。」
そう言いながらリーダーは腰の袋をぱんぱんと叩いた。多分中身は魔石だろう。もしくは薬剤石か。いや、今日中と言うからには期限付きのものか。となると、ダンジョンから持ち出すと劣化が始まる生命石かもしれない。
「はい、判ってます。心配して頂いてありがとうございます。でも何とかやってみます。危ないのは判っていますから駄目だと思ったら無理はしません。でも、やらずに投げ出すのも癪ですから。」
そう、確かに今の僕の状態は限りなく理不尽な状態だ。だけど、だからと言って投げ出してはこの先何も出来なくなりそうで怖いのだ。自分の出来る範囲でちまちまと物事をこなしていては成長できないと魔法中学校の先生も言っていた。まぁ、あれはこんな命に関わる事を言っていたんじゃないだろうけど、僕にとっては同じ様なもんだ。
「そうか・・、まぁ意気込みだけは買うが、それだけじゃ駄目な事もあるからな。できれば入り口で少し待ってみろ。もしかしたら他のパーティーが出てくるか、または入ろうとするかも知れん。そいつらに事情を話して連れて行って貰え。」
「はい、ありがとうございます。やってみます。」
「本当に無茶するなよ。死んじまったら元も子もないんだからな。」
そう言うとリーダーはパーティーを率いて去っていった。僕はその後姿が見えなくなるまで見送る。いいなぁ、うん、世間はやっぱり広いや。あんなクズ親方がいる一方で、あのリーダーのように見ず知らずの僕を気に掛けてくれる人もいるんだなぁ。
甘えた事を言えば一緒にダンジョンへ行って貰いたかったけど、彼らにもやるべき事があるからね。如何に命に関わる事とはいえ、その選択をしたのは僕自身だ。人のせいにしてはいけない。リーダーはちゃんと注意をしてくれた。それ以上は単にすれ違っただけの僕に対する行為としてはやり過ぎだろう。
さて、そうは言われたが多分そんなにうまく他のパーティーが来てくれるはずもない。僕は入り口で1時間だけ待った後、覚悟を決めてダンジョンへと進入した。




