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雑文ラノベ「王立魔法学校高等部の優等生」  作者: ぽっち先生/監修俺
出会い編
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中卒だって人間なのに・・。

この春、僕は魔法中学を卒業した。僕の通った魔法中学は共立の学校なので、殆どの卒業生は学んだ魔法を糧にそれぞれが選んだ職業先へ下働きとして弟子入りする。勿論僕もそんな就職組だ。


僕と違い、成績の良い者たちは学校の推薦と地域からの奨学金を得て王立の魔法高校へ進学するのだけど、そんな優秀なやつらでも王立高校は大変らしい。


いや、勉強の難易度はそれ程でもないらしいんだけど、人間関係がね。やっぱり人間って人を見下すのが本能の底の方にあるらしい。そして元々王立魔法中学からそのまま進級してきたやつらは、それが顕著なんだそうだ。


うんっ、心情としては判るのよ。やっぱり高等魔法社会って競争社会だからね。それはもう、僕らレベルでは理解できない程のプレッシャーがあるそうだ。そんな圧力の捌け口が差別やイジメに向かうらしい。


でも高等魔法社会では、相当酷い場合を除いてその事にはノータッチらしい。つまり自分でなんとかしろと言う事だね。それくらい出来なきゃ生き残れないよと言う訳だ。うんっ、厳しい。魔法業界って本当に実力主義だよ。


まっ、そうは言っても、それはあくまで上を目指した場合だ。中卒の僕らには関係ない、つまり雲の上の試練である。雲の下で暮らす僕らには縁のない話だ。だが、そうは言っても僕ら中卒就職組だって辛い事など幾らでもある。そんな試練が今僕の前に降っていた。


「あーっ、アルベール。お前、ちょっとダンジョンに潜って魔石をふたつ取って来い。」

僕が弟子入りした先の親方がとんでもない事を僕に要求してくる。ダンジョンだって?あのぉ、僕まだ新人なんですけど・・。ダンジョンなんて3年の実習で1回入っただけなんですが?しかもそこだって体験学習用に整備されたダンジョンですよ?そんな僕になんて要求をするんだ、あんたはっ!


「えーっと、もしかしてひとりでですか?」

親方の返事は判っているが、僕は聞かずにはいられない問い掛けをする。


「他に誰かいるのか?あっ、お前のツテで誰か一緒に行ってくれるやつがいるならそいつと行ってもいいぞ。但し、金は払えんがな。」

うんっ、弟子入りして判った事だが、この親方は世間からの評判が大変悪い。どうやら毎年新人を採用しては使い潰しているそうだ。でも、学校としては就職先のひとつとして枠を確保したい思惑がある為、強く言えないらしい。一応、賃金に関しては中の上あたりを提示してくるので僕みたいな成績が芳しくない学生の受け皿として学校側も目を瞑っているのかも知れない。もっともそれはあくまで建前で、ここに弟子入りしてから早3ケ月。まともにその金額を貰った事はないんだけどね。


「そうですか・・、魔石がふたつとなると1週間くらい掛かると思うんですけど・・。」

「馬鹿言っちゃいけねぇな。それくらい3日で取って来いっ!木曜日には使うからな!遅れたら賃金から差っ引くぞっ!」

そう言って親方はボロいダンジョン探索装備を僕に投げて寄こす。


「装備を無くしたら自腹で弁償して貰うからな。傷が付くのも駄目だぞっ!」

うんっ、すごい言い様だ。ダンジョンに潜る装備を傷を付けずに返せってどんな無理ゲーだよ。これは本当にダメなパターンかも知れない。こいつよくもまぁ、こんなんで今まで商いをやってこれたな。外面はいいのか?顧客はこいつの性格なんか気にしないのか?値段が相場より安ければ、その元となっている従業員の労働状態なんか関係ないのか?


僕は心の中で様々な事に思いを馳せるが、取り合えず目の前の問題をこなさなければ前には進めない。やってらんねぇと言って職場を辞めるのは簡単だが、それでは何も解決しないのだ。これもまた社会勉強である。取り合えず半年は我慢しないとこの工房に僕を紹介した学校に迷惑が掛かるからな。こいつ僕が辞めるなんて言ったら、絶対学校に文句を言うよ。自分の事を棚に上げて僕が使えないやつだったと捲くし立てるはずだ。下手したら賠償しろとか言い出すかもしれない。


でも半年我慢すれば学校側にも顔は立つ。学校が保証する新卒者の離職保証期間は半年だ。それ以降の離職に学校は関与しない。もっとも、だからこの手の親方は半年前に何とか辞めさせようとするらしい。うんっ、本当に駄目な大人だよ。


「おらっ、とっとと出かけろ!あっ、その前に散らかした工具関係は磨いて元の場所に返して置けよ。俺はちょっと出かけるから戸締りを忘れるんじゃねぇぞ!」

行けと言ったり、別の用事を言い付けたり、本当に判らんやつだ。こいつの頭の中ってどうなっているんだろう?自分の言っている事に辻褄が合うのか?もしかしてこいつって人間の皮を被っただけの魔物なんじゃないのか?


まぁ、言いたい事は山ほどあるがここは我慢だ。僕はそれまでやっていた作業を終了し片付けを始める。まぁ、この作業は毎日やっているからそれ程時間は掛からない。ぱぱっと終わらせてダンジョンに潜る装備を点検するとしよう。


親方が寄こした装備は、はっきり言って3流品ばかりだった。そもそもダンジョンに潜るにあたり絶対必要な照明系の装備が無茶苦茶貧弱である。こんなの学校の実習でも使わなかったよ。まぁ、魔法使いである僕には探査魔法とかがあるから何とかなるが、それだって魔力が切れたら発動できない。


その他にもロープは擦り切れているし、帰り道を指し示すポインターなんかも作動が怪しいものばかりだ。当然食料袋も空っぽである。これって出るべきところに願い出れば親方は捕まるんじゃないのか?親方ってケチとかそうゆうのじゃなくて、ただ単にアホなのだろうか?これでもし僕が遭難でもしたら、どう関係各所に説明するんだろう。


もしかして、僕が勝手に行ったって言い張るのかな。ん~っ、有りえそうで怖いな。そう言えば指示書もないしな。ここまで適当だと逆に親方の運の良さを感心してしまいそうだ。こんなやり方でよくぞこれまで工房を維持してこれたものだよ。親方の腕はそんなに良いようにはみえないが、何か秘策があるのかね。


さて、不満ばかり言っていても始まらない。ダンジョンに関しては魔法使いなら、いずれは潜らなきゃならない試練だ。こればっかりは弁当と安全は自分持ちである。いや、工房の仕事で入るなら弁当くらいは工房持ちだよな?駄目だ・・、どう考えてもウチの親方は経営者失格である。


そうは言っても僕も今はここの従業員だ。しかも魔石は工房の作業に必要不可欠である。ならば採取に行くのは当然だろう。そう、他の工房でだってこれはやっている事だ。ただ安全対策とかに掛ける思いというか、費用がウチの工房と3桁くらい違うと思うんだよね。


心の中であれこれ愚痴りながらも僕は装備の確認を続ける。そして渡された装備の中に絶対なければならないモノがない事を確認する。それは魔石だ。つまり魔法の源、エネルギー源である。ダンジョン探索に行くに当たって、魔法使いが所持して行くべきもっとも重要なアイテムが装備の中になかった。


これってあれか?自分で現地調達しろと言う事なのか?まさか、忘れてたなんて事はないよな?絶対、判っていて用意していないよな?すごいぞ、親方!あんたは完璧にロクデナシ決定だよ!


中途採用の経験者ならともかく、僕って中卒の新人だよ?こんな装備じゃ下手したら、いや、かなりの確率でダンジョン内で死ぬに決まってるじゃんっ!


くっ、これはもしかして新手の業務上死亡事故詐欺なんだろうか?あの親方、僕に内緒で保険を掛けているのか?保険会社はそんな事も見抜けず手続きしているのか!


駄目だ・・、本当にこの工房は駄目だ。学校には悪いがこんな職場にいたら命が幾つあっても足りない。ダンジョンから戻ったら速攻で辞めよう。


そう、戻ってからだ。取り合えず、今回受けた仕事はこなす。でないと立場が弱くなるからな。命がけの仕事ではあるが、それくらいの意気込みは見せないと、あのロクデナシの鼻先を折れない気がする。ただ単に辞めるだけじゃ気がすまない。あいつをぎゃふんと言わせなくちゃ腹の虫が収まらないぜっ!


その後、工房内の道具箱からダンジョンに潜るにあたって代用できそうな装備を見繕い、僕は工房を後にした。

うんっ、潜る前に神さまに安全祈願をしておこう・・。

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