王立魔法学校高等部の特待生
9月2日月曜日。今日は僕にとって特別な日である。そう、前々から準備をしていた王立イーストリバー魔法学校高等部魔法学科への編入日だっ!ついでに言うと新学期の最初の日でもある。でもさすがは王立学校と言うべきか、大講堂での始業式なんかしないのね。初日から普通に授業がありました。
それでもさすがにクラス内での紹介はあった。もっともクラスと言っても仮初めのものである。魔法学校高等部魔法学科は単位制の為、クラス全員で講義を受けるのは全教科単位のうちでも1/5くらいなのだ。
ただホームルームはクラス単位で行なう為、毎日の1時限目はクラス単位の授業になっている。つまりホームルームが終わったらそのままクラス単位の授業に突入するのだ。うんっ、合理的だね。面白くもなんともないよ。
さて、そんな訳で僕は今、魔法学科の1年E組の壇上にいる。担当の先生の名はミスター・ザウルスだ。名前が示す通り厳つい体格をした如何にも体育会系然とした先生である。そんな先生がクラスのみんなに僕を紹介した。
「全員注目っ!彼は新学期から君たちの仲間になる事になったアルベール・ドレステン君だ。ではドレステン君、挨拶したまえ。」
「はい、先生。みなさん、僕はこの度ウエストキャナルからこちらの魔法高等学校に編入して来たアルベール・ドレステンです。ただ特待生として来たので勉強のレベルは多分最低です。ですので何かと教えて頂ければ幸いです。よろしくお願いします。」
僕はそう言ってぺこりと頭を下げた。
「聞いた通りだ。彼は特待生として編入して来た。だから勉強に追い付くまでは何かと面倒を見てやってくれ。」
「・・。」
うんっ、みんなからの返事はない。でも無視している訳ではないようだ。まっ、小学校じゃないからな。いちいち返事なんかしないか。
「それでは彼の席は慣れるまでクラス委員長の隣にする。ビンセント、お前の席を譲れ。」
「はい、先生。」
ミスター・ザウルスにビンセントと呼ばれた生徒は、素直に自分の席を立ち空いている席へと移った。そして僕はビンセントが使っていた席に落ち着く。そして席に着いたなら、まずはご近所への挨拶である。僕は隣にいる先生からクラス委員長と呼ばれていた女の子に挨拶した。
「アルベール・ドレステンです、よろしくお願いします。えーっと・・。」
「ローリー・ベルリネッタよ、一応クラスの委員長を任されているわ。」
「はい、それではベルリネッタさん、改めてよろしく。」
「ローリーと呼んで頂戴。あなたの事は夏休み中から結構話題になっていたわ。あのジャックグループからの推薦なんですって?」
「話が早いですね。そんなに話題なんですか?」
「そりゃね、この学校は結構生まれの良い家系の人たちが大勢いるけど、ジャックグループはその中でも一、二を争う存在ですもの。」
うんっ、それは僕も知っている。ただ比較対象を知らないから確信はなかったけどね。
「はぁ、そうなると君もそれなりの?」
「私は例外。ただの魔法使いの家系というだけ。」
これは謙遜と取っておいた方がいいんだろうか?何たって委員長だしな。
「でもクラス委員長なんだ。」
「面倒な役を押し付けられただけよ。でも履歴としては箔が付くから受けたの。私程度だと、そんな経歴でも結構重要なのよ。」
あっ、なんか安心した。そうだよね、いくら王立イーストリバー魔法学校とはいえ、みんながみんなブルジョアジーとは限らないもんね。
「ふぅ~ん。まっ、僕もそんなもんかな。出目に関しては孤児院育ちだし。」
僕は安心した為か、ちょっとプライベートな事も話した。
「ねぇ、その辺の事は後で詳しく教えてよ。特にジャックグループとの関係とかを。」
「あっ、構わないけど・・。ジャックたちってそんなに特別なの?」
「それもまた後でね。授業が始まるわ。教科書はある?」
「あっ、はい。揃ってます。」
僕はジャックが準備してくれた教科書の束をローリーに見せる。ただ今日の授業予定を聞いていなかったので、全部持ってきたからすげー重かったぜ!
「1時限目は魔法原理よ。そう、その教科書。」
ローリーは十数冊の本の中から1冊を指名する。げっ、僕の一番苦手な教科だよ。
魔法原理って、所謂魔法の火、水、土、風の四属性がどうやって作用するかを語る教科である。はっきり言って範囲が広過ぎて手に負えない。だからこれは修得する属性だけに絞って覚えるのが普通だ。いや、本当は一通り全部覚えた方がいいのは判るんだけどね。でも実際やってみれば判るけど、量が凄いのよ。自分が扱うひとつの属性だけでもあっぷあっぷなのに、その4倍はとてもじゃないがお腹一杯だ。
でも王立魔法学校ではさらっとではあるが、全部やるらしい・・。おかげで授業内容はチンプンカンプンでした。僕は内容を理解するのを諦めてひたすら板書に専念する。まぁ、後で復習するとしよう。しかし、半年のブランクは大きいね。暫くは猛勉強が必要かも知れない。
「大丈夫?」
1時限目の授業終了と共に机に突っ伏した僕を見て、ローリーが声を掛けてくる。
「・・、駄目かもしんない。」
「ふふふっ、初日だからって緊張していたのでしょう。慣れればもっと楽になるわ。」
いや、これって慣れの問題じゃないよ。基礎学力の問題だ。そうか・・、勉強に躓いたやつはこうやって落ちこぼれていくんだな。
さて、1時限目が終わると次は選択科目だ。僕はまだ選択科目を決めていないので、今日一日ローリーに付いて回る事にした。いやはや、王立イーストリバー魔法学校って何事も自分でこなさなきゃならないんだな。これが自主性を重んじるってやつなのか?
「私、次の選択科目は魔法歴史学なんだけど、ドレステン君はどうする?」
「あっ、連れて行ってください。迷惑じゃなかったら今日一日エスコートをお願いします。」
「そう?なら一緒に行きましょう。」
そう言うとローリーは僕を促がして教室を出た。でも何か教室に残っている生徒たちの視線を感じるな。やっぱり高校生とは言え、転校生には興味があるのか?
「みんな、あなたに興味深々だったわねぇ。」
廊下を歩きながらローリーが話し掛けてくる。えっ、そうなの?なんか紹介時から無視された感があったんだけど?
「そうですか?そうは見えなかったけど・・。」
「うんっ、ちょっと警戒もしているのよ。なんたってあなたはジャックグループですものね。下手に接近すると抜け駆けと取られるから。」
はぁ~?なんだそれ。
「抜け駆けって・・、どうゆう事?」
「言ったでしょ?ジャックグループは我が校でも一、二を争う存在だって。だから下手に近付くと派閥争いに巻き込まれるのよ。だからみんなそれを警戒して様子を見ているの。」
「派閥争い・・、そんなのがあるんだ。」
「まぁ、そこまで大事ではないんだけどね。言葉のアヤってとこかな。平たく言うと仲良しグループ間の牽制ね。各グループの中核メンバーは気にしていないんだろうけど、擦り寄っている人たちの間で勝手に騒いでいるって感じかな。」
成程、アイドルグループの信者間の軋轢みたいなものか。みんな自分のご贔屓を応援するあまり、他方を否定しちゃうんだな。
「あなたはジャックグループとみんなに認識されているからそうでもないけど、普通の転校生の場合勧誘が激しいわよ。この手の勢力争いでは数がものをいうからね。」
う~んっ、どこぞの国の国家運営組織みたいだ。あれも結局、党の教義ではなくて数で物事を決めているからな。
「となるとローリーはどっちなんです?」
話の流れからすれば、ここの生徒はいずれかのグループに所属しているはずだ。そこのところを僕はローリーに聞いてみた。
「私は日和見かな。特定のグループに付くとメリットもあるけど、デメリットもあるしね。」
「へぇ~、そうなんだ。」
「その辺の事も後で教えてあげる。結構どろどろしているから覚悟しておいてね。」
「あっ、はい・・。」
うんっ、大小の差はあれど、どこも一緒なんだな。魔法中学でもあったよ、こんな事は。




