夏のイベント、それは花火大会!
さて、季節はまだまだ夏真っ盛りである。そして波乱万丈な海水浴から帰ったお子ちゃまたちの次のお楽しみイベントは花火大会だっ!とは言っても打ち上げ日はまだ先である。
ここウエストキャナルでは8月13日に盛大な花火大会が催される。なんでも昔からの宗教的伝統らしい。この日は死んだ人の魂がこの世に里帰りしてくる日なんだそうだ。なので目印として花火を打ち上げるそうである。
でも孤児院の子供たちにとっては元の理由などどうでもよい。綺麗な花火が見られて、且つ、大手を振って夜遊びが出来る日と認識されているんだ。いや、僕はもう社会人だから、そんな事に胸を躍らせたりしないよ?でも子供たちがわくわくしているからさ。僕だけニヒルにしらっとしていては場の雰囲気を壊すじゃん。だから、もう興味はないんだけど一緒になって楽しんでいる振りをするんだ。全く年長者ってやつは苦労が絶えないよ。
あっ、今年はちょっと奮発して出店のベーコンピザにコーンをトッピングしちゃおうかなぁ。いや、焼きヌードルに豚焼きもいいな。たこ焼きはこの前の件があるからちょっと躊躇する・・。実は銀魚すくいに関しては僕はプロ級だったりする。孤児院の池にいる銀魚の殆どは僕の戦利品だ。射的やクジは今まで当たった試しがないが今年こそはイケそうな気がする!うんっ、早く花火大会の日にならないかなぁ!
そんな花火大会を待ちわびる子供たちへ、レイチェルがある提案を持ちかけた。その提案とは孤児院主催の花火大会だ!しかも当然費用はレイチェル持ちだぜっ!いや、孤児院も場所を提供するので全くのおんぶに抱っこではありません。まっ、実際には国安の牧場だけどね。でもそれがなにか?
当然レイチェルクラスのハイスペックなご令嬢が提案する花火大会は庶民が庭で楽しむようなチープなものではない。どーんっと打ち上げ100連発だ!さすがは王立魔法学校の生徒だよ。庶民とは感覚が違うね。
さて、そうは言っても今ウエストキャナルで新たに打ち上げ花火を用意できるような工房はない。みんな8月13日の花火大会に向けて大忙しだからね。そこでレイチェルは自分たちで作ろうと言ってきた。
えーっ!自分たちで作るのっ?大丈夫なのかよっ!花火って火薬なんだよ?ひとつ間違えれば大爆発するんだぜっ!
「何言っているの、アルベール。火薬の処方なんて魔法学の基本でしょう?」
うっ・・、まぁそうなんだけど、魔法中学では危ないからと言って成績上位者が代表して調合したから僕は経験していないんだよね。社会に出ても、あの親方の工房はマジックアイテム系だったので、薬や火薬などの化学系の仕事はなかったんだ。
「とゆう訳で、取り合えず材料は私の方で調達します。アルベールは子供たちと火球のデザインを考えてね。んーっ、材料は3日くらいで集まるはずだから、それまでにまとめておいて。」
「デザインですか・・。僕は自信がないなぁ。」
「いいのよ、別に学校の試験じゃないんだから。子供たちがどんな花火を打ち上げたいか聞いてまとめてくれれば、後は私たちがやるから。」
「はぁ、そうですか・・。」
うんっ、さすがは王立イーストリバー魔法学校の優等生たちだ。打ち上げ花火を調合するくらい何でもないんですね。
こうして僕は、孤児院の子供たちとどんな花火にするかを決める事となった。当然子供たちはこの話に大喜びである。
「アルベールお兄ちゃんっ!私、お花がいいっ!お空におっきなお花を咲かせるのっ!」
「うんっ、いいね。ならどんな花にしようか?」
「薔薇がいいっ!赤と白のバラーっ!」
おいおい、そこは向日葵とかにしてくれよ。どうやってあんな花弁だらけの花を表現するんだよ。本当にモノを知らないお子ちゃまは無茶な事を言いやがる。
でも僕は敢えて指摘しない。創作ってのは自由にやらなくちゃね。初めから出来そうな事だけを話し合ってもつまらない。そんな事なら出来合いのやつを真似ればいいだけだ。出来る出来ないは置いといて、まずは夢を膨らませなきゃ。だってその方が楽しいじゃないかっ!
でも敢えて僕が指摘しなくても、この提案は子供たちの中で賛否が分かれた。
「お前は馬鹿だなぁ、折角花火で打ち上げるんだから、そこら辺の庭で見れる色じゃ面白くないだろう?ここは幻の青薔薇を打ち上げてみんなを驚かそうぜ!」
「青薔薇かぁ、悪くはないけど・・。あっ、黒とかどうかな?黒薔薇なんてかっこよくね?」
うん、議論するのは色の事なんだ・・。まぁ、言葉としてはどこかにそんな名の騎士さまが居るかもね。でもお前、馬鹿か?夜空に黒い薔薇なんか咲かせたって見えねぇーよっ!そもそも、黒い光なんかあるかっ!それくらいは判れよっ!
「あっ、別に色は単色に拘んなくてもいいのか。なら七色とかどうかな?虹薔薇なんてかっこよくね?」
駄目だ・・、ここの男の子たちの判断基準ってかっこいいかどうかだ。でも花火って美しさを表現するものなはずだ。そこんとこ、判ってる?後、出来れば薔薇から離れて下さい。レイチェルたちに呆れられるのは僕なんだぞ!
「ねぇ、お空に花火で絵を書けないかなぁ。」
「あっ、それいいっ!」
こいつら、花火って基本球体だって事を理解していないな?いや、もしかして子供なりの幾何学的な表現なのか?おおっ、発想の転換ってこうゆう事なのかっ!
「精霊様のお姿を書いたらみんなびっくりするんじゃないかなぁ。」
うんっ、前件撤回。こいつら、やっぱり何にも考えてないよ。頼むからもっと単純なのにしてくれ。
さて、その後何とか子供たちの思考ベクトルを誘導して、何とかなりそうな花火のデザインをまとめた。と言うか殆ど僕が修正した。こいつら本当に花火を、夜空をキャンパスにしたお絵かきと思っているよ。お兄さん、この子たちの将来が心配になって来ました。いや、僕もこの子たちくらいの時はこんなもんだったか?
しかし何だな。確か僕って最初、出来そうな事だけを話し合ってもつまらないとか言っていたな。あれれ?なんか無難にまとめてしまった僕がここにいるんだけど?くっ!僕も所詮大人の階段を登ってしまったのか・・。はぁ~、色々な事を知ってしまったが故に冒険出来なくなっているんだなぁ。大人になるってちょっとつまんないかもしれない・・。
まぁ、ぼやいてみても仕方がない。その後、僕は子供たちのデザイン案を持ってレイチェルたちへ会いに行く。花火の調合は危険だからそれなりの設備がある場所でやらなきゃ駄目なんだ。でも今はどこも大忙しだからね。結局僕らは地元の魔法中学の設備を借りた。はい、王立イーストリバー魔法学校の肩書きはここでも強力です。誰も文句を言ってきませんでした。
そんなこんなで今僕は魔法中学の化学実験室に居る。うんっ、半年振りだね。懐かしいよ。
「アルベール、この材料を3、4、3の割合で混ぜて頂戴。因みにあまり激しくかき混ぜないでね。爆発するから。」
「はい、判りました。」
レイチェルに言われて僕は花火の材料を坩堝で混ぜ混ぜする。でも爆発するのか・・。まぁ、花火を作っているんだから当然だよな。でも、どれくらいまでなら大丈夫なんだ?おっかなくて力を入れられないんだけど。
「アルベール、もっと素早くやってっ!混ぜるのが遅いと爆石と炎粉が固まっちゃうからっ!」
僕が恐るおそるかき混ぜていると、レイチェルの叱責が飛ぶ。くっ、焦っちゃ駄目だ。ここでヤケを起こすと絶対爆発する。だが、このままでは花火にならないらしい。むーっ、難しいぜっ!
でも他のみんなは僕より難しいと思われる事をこなしている。しかもなんか手際もいい。学校の実習でやっているのかも知れないけど、ちょっとくやしい。
そして全体の指示監督はレイチェルだ。さすがはガードナー魔法工房のご息女だね。人を動かすのが手馴れているよ。
「レイチェル、この花火の色だけど緑なんだよな?緑黄石とアプダミンのどっちを使うんだ?」
「あっ、それはスロー燃焼をさせるからアプダミンの方を使って頂戴。」
ほぉ、さすがにジャックは総合魔法学科の優等生なだけはある。子供たちの思いっきり解読不能な設計図を読みきっているよ。でも何故か剣術学科のロベルトとレオンもてきぱき作業しているんだよな。なんで?こいつら剣術馬鹿だったんじゃないのか?
「あれ?なぁレイチェル。この花火って赤色と指定されているけど、この材料だとオレンジ色になっちゃうんじゃないか?」
「えっ?あっ、本当だ。間違えいる。ごめんね、酸化第3鉄の方を使って頂戴。」
「OK。」
うんっ、レイチェルは大忙しだね。僕もがんばって自分で出来る事は自分で解決しなくては。
だが、そうは言っても判らん事は幾ら考えても答えは出ない。とは言え、レイチェルには聞きづらい。よって僕は隣にいるローザに聞く事にした。
「ねぇ、ローザさん。この指示書にある起電化するまでかき混ぜるってどうゆうことですか?」
「えっ?ああっ、それ?いいの、いいの。深く考えちゃ駄目。花火作りは手早さと気合だから。ちゃちゃっと混ぜちゃえばいいのよ。」
うんっ、どうやら僕は質問する相手を間違えたようだ。でも何故か、そんな適当なローザの調合に誰も文句を言う様子はない。う~んっ、これはもうみんな諦めているのだろうか?でも、作っているのは花火だよ?そんな適当でいいのか?危なくないのか?
僕はちょっと怖くなって少しづつローザから離れる。まぁ、1、2メートル離れたからと言ってどうなるものではないのだけれど気持ちの問題だから。でもそんなだからだろうか、ローザの作業は早い。
「はい、ロゼッタ、こっちは完成。次はどれ?」
「あら、相変わらず早いわね。えーと、次は・・。んーっ、2尺玉用かぁ。アルベール、手伝ってあげて。」
「あっ、はい。」
うんっ、ロゼッタはちらりとローザの配合し終えた材料を見ただけで何も指摘せずに次の作業の準備をする。えっ、いいの?ローザって、その材料1分くらいで仕上げていたよ?もっとちゃんと確かめた方がいいんじゃないのか?
「ジャック、これローザの配合が済んだ分。少し落ち着かせたら丸めてね。」
「おっ、相変わらずローザの配合は完璧だな。見事に混ざり合っているよ。」
ジャックが桶に入った混ぜた材料を見てローザの仕事ぶりを褒める。成程、これが天才の仕事というやつか。傍から見たら適当に見えても結果は出せるんだな。すごいな、ローザ。僕は駄目だねぇ。
「アルベール、この2尺玉は4輪だからベースを作ったら、この燃焼剤を1から4段階に分けて添加して。量は倍々でね。」
「はい、判りました。」
僕は、言われた通りに材料を混ぜ混ぜする。そして混ぜ終わったベースとなる材料を4つに分け燃焼剤を追加しようとした時、ローザから注意が飛んできた。
「あっ、アルベール!4等分じゃ駄目!外側の材料程、数を作るから倍々になるようにして。」
「あっ、そうか。そうですね。危なかった。」
そう、球体ってやつは外側になるほど表面積が増えるんだった。だから材料も外側の分ほど多く必要になる。くーっ、判っていたんだけどな。混ぜるのが終わったので気を抜いちゃったか。失敗、しっぱい。
そんなこんなで何とか花火の製作は無事終えた。まぁ、僕は材料を混ぜるのと花火玉の表面に紙を張る作業しかしていないけどね。一番難しい火薬玉の仕込みはジャックたちがやった。でもこれは別に熟練の技が必要だからではない。ジャックたちは魔法使いだからね。ちゃんと均等に火薬玉が広がる用に魔法を掛けるんだ。はははっ、さすがは魔法だ。便利だねぇ。
でも、その魔法の精度は半端ない。魔法に頼らない花火師たちは経験によって精度を担保するんだろうけど、それは魔法だって同じだ。あるアクションによって発動するように仕掛けた魔法がちゃんと働くように掛けるのはとても難しいのである。例えるなら1メートル先のゴミ箱にごみを投げ入れるようなものかな。
今、僕の例えを簡単じゃないかと思ったやつは浅はかだ。確かに簡単だろうけど1回もミスする事無く千回続けて入れろと言われたら顔から笑みが消えるはずだ。精度ってやつはそうゆうものなんだ。難しい事を1回成功させるより、簡単な事を確実に成し続ける方が結構大変なんだよ。
さて、そんなこんなでアミダニアン孤児院の花火大会の日がやって来た。子供たちとシスターは昼過ぎから孤児院の裏手に椅子とテーブルを出して準備している。僕らはその間に打ち上げ筒の準備だ。今日は晴れて雲ひとつない。でも上空にはマウントチャイニアから吹き降りてくる空気の流れがあるから、花火の煙もいい感じに流れるはずだ。つまり、絶好の花火日和である。さすがは院長先生だ、神さまに愛されているねぇ。
そして、夏の太陽がマウントチャイニアに隠れようとする時間には全ての準備が整い、花火大会前のパーティーが始まる。まずは院長先生の挨拶だ。
「この度は、アルベールのお友だちのご好意により、みなさんに素敵な花火大会を準備して頂けました。孤児院を代表してお礼申し上げます。」
そう言って院長先生はジャックたちに頭を下げた。他のシスターたちもそれに倣う。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!」
子供たちも声を合わせてお礼を言った。ジャックたちも面と向かってお礼を言われるのは気恥ずかしいのか、頭をかいてる。ただひとり鈍感な事にかけては定評のあるロベルトだけが得意げだ。
「おうっ、すげーやつを作ったからな!びっくりしてオネショするんじゃないぞっ!」
「えーっ、しないもーん!」
「この距離だと音もすごいからな!ぱーっと開いてすぐにどーんっ、だっ!」
「きゃー、こわーい!」
「だから下っ腹にぐっと力を込めて耐えるんだぞ。要は気合だっ!」
「気合だぁー!」
いや、ロベルト。さすがにそこまで凄くはないんじゃないのか?あんまり子供たちを煽らないで下さい。でも何故か子供たちはノリノリだな。本当にロベルトは子供の相手が上手いね。
その後、僕たちは食事をしながら暗くなるのを待った。当然話題は僕らが作った花火の事だ。
「ねぇ、アルベールお兄ちゃん。例の花火はちゃんとできた?」
「おうっ、完璧さ。院長先生たちも驚く事請け合いだぜ!」
「よかったぁ~。あれって結構難しいって言われたから心配していたの。」
「ふっ、魔法に不可能は、ほぼないのさっ!楽しみにしていろよっ!」
「うんっ!」
はい、僕は混ぜ混ぜしただけですが、子供たちの手前如何にも僕が作ったように振舞います。でも嘘は言ってない。僕もちゃっと手伝ったんだから。
「さて、それじゃそろそろ始めるか。」
食事もひと段落し、辺りがいい感じに暗くなったのを見計らって、ジャックたちは席を立ち打ち上げ場所へと向かった。
ジャックたちの打ち上げ装置は基本魔法作動だ。しかも、何やら複雑な魔法陣を使っている。だから打ち上げに関しては僕はノータッチである。ついでに言うとロベルトとレオンも同じだ。彼らは剣士だからね。
そして最初の花火の火球が夜空へ向けて駆け上る。みんながその光の軌跡を追いかけるように上を見上げた次の瞬間、大輪の花が開いた。
「わ~っ、きれ~いっ!」
「まぁ、素晴らしいですわ。」
うんっ、まずは成功だ。でも花火ってあんまり近くで見るものじゃないかも知れない。破裂音が半端ないし、近過ぎて首を思いっきり上に向けるから首も疲れるよ?でも迫力は凄いね。大きな花火はここまで輪が届きそうだ。
その後も色々な花火が立て続けに打ち上がる。子供たちは、あれは僕が考えたやつだとか、私のデザインよとか言って大はしゃぎである。うんっ、そうだろ、そうだろ。本当にお前たちのデザインには泣かされたよ。ジャックたちも頭を抱えていたからな。
でも彼らは本当に凄いな。ほぼほぼ、子供たちの案を叶えているよ。これが実力の差なのかねぇ。物事を叶えるって言うのは思いだけじゃ駄目なんだな。本当に口先だけじゃないよ、王立魔法学校の生徒ってやつらは。
そして最後に連続して十数発の花火が打ち上がる。そこには絵ではなくこんな文字が夜空に描かれていた。
シスターいつもありがとう!
うんっ、球体状に広がる花火で仕込んだ文字を特定の方向に見えるよう合わせるのは大変難しいんだけど、子供たちの気持ちにジャックたちは魔法で応えた。そしてそれを見た院長先生たちは思わず目を見開き口元を押さえて涙する。
「おおっ、なんと言う事でしょう!」
「院長先生、見てくれた?」
「ええっ、ええ、見ましたよ。こちらこそ、ありがとうね。」
そう言って院長先生たちは子供たちを抱きしめる。シスターたちもみんな涙目だ。
はい、院長先生。あなたの子供たちはみんな良い子です。でもそれは院長先生たちのおかげです。僕からも言わせて下さい、どうもありがとう。
そんなこんなで感動のフィナーレで幕を閉じた孤児院の花火大会だったが、翌日にはウエストキャナルの花火大会があった。さすがに迫力ではこちらの方が群を抜いている。今年はなんと10万発の花火が打ち上がったそうだ。
でも多分孤児院の子供たちには、孤児院での花火大会の方が万倍も心に残ったはずである。自分たちだけの花火大会。自分たちの為だけに打ち上げられた花火。そんな独り占めという感情は大人になると卑しく感じるけど、子供の成長にとっては必要なものだと僕は思う。
孤児院の子供たちには親がいない。だから本来独占できるはずの親の愛情を得られないのだ。勿論、それに変わる愛情はシスターたちから受けている。しかし、それも孤児院の人数割りだ。僕くらいになれば理解できるだろうけど、それでは小さい子の心を満たせるものではない。
これはシスターたちの愛が薄いというのとは違う。きつい言い方をすれば子供たちの我侭である。だが子供たちの心は貪欲に且つ一途に愛情を欲する。でもこの感情を非ととってはいけない。親からの無償の愛を受けたいと思うのは子供なら当然なのだから。そしてここにいる子供たちはその愛情を『自分だけ』に注いでくれる存在がいないのである。
だから今回の孤児院での花火大会は子供たちの心にずっと残ると思うんだ。自分たちだけの、自分たちだけに向けられた特別なイベント。ここの子供たちには、多分そうゆうものが必要なんだと思う。
だからみんな、ありがとう。僕も今回の花火はきっと忘れないよ。
さて、花火大会も終わり、子供たちの夏休みも終盤を迎えようとしている。子供たちはまだまだ遊び足りないのだろうが、楽しい日々はずっとは続かない。今や子供たちは夏休みの宿題をこなすのにてんやわんやである。しかも何故かその中にロベルトたちもいるよ?いや、正確にはロベルトとローザなんだけど・・。
「んーっ、あの教授め!実技の授業で俺から1本しか取れなかったからって、こんなに課題を出しやがって!」
「だよな、この量は絶対私怨が混ざっているよ。でもまぁ、やってやれない量ではない。」
ロベルトの課題を手伝いながらレオンもロベルトの言葉に同意する。そんなレオンの慰めも今のロベルトには聞こえないらしい。課題として出された問題集の山を見て終始ぼやき続けている。確かにその量はハンパないらしい。ぼやかれているレオンも同情しているくらいだもんな。でも、そんな彼らの傍らで子供たちの宿題を見ていたロゼッタが注意する。
「何言っているの。その半分は学期末試験で赤点だったあなたの追試でしょう?本来なら再試験を受けなきゃならないところを宿題にして貰えたのだから感謝しなきゃ駄目じゃない。」
うんっ、どうやらロベルトは学期末試験の結果が芳しくなかったようだ。本来なら夏休み返上で補習になるところを課題の提出を条件に見逃して貰ったらしい。うんっ、それでこそロベルトだ。剣術馬鹿はそれくらいじゃないと駄目だよ、多分。
「大変ですね、ロベルトさん。」
社会人なので宿題のない僕は、子供たちの宿題を見てやりながらロベルトたちに労わりの声を掛ける。まぁ、言葉とは裏腹に、内心は宿題のない自分の立場をひけらかしているだけだ。ふふふっ、学生は大変だねぇ。あっ、僕も来月からは学生か。
「アルベール。あなただって来月からは王立魔法学校の生徒なのよ。特待生は学校側の成績判断基準が高いんだから、人の事をあれこれ言ってられないわよ。」
「うっ・・、はい、判ってます。がんばります・・。」
僕の卑しい内心を見透かしたかのようにロゼッタが注意してくる。
「はははっ、アルベールは大丈夫さ。普通の特待生とは違うからな。千キロ跳躍の謎が解けるまで教授たちは手放さないよ。」
ロゼッタの言葉にジャックが助け舟を出してくれる。でもジャック、それって謎が解けたら僕はお払い箱なんじゃないのか?本当に僕はモルモットだね。
と言う訳で、僕もロベルトたちと席を並べて勉強をする。あーっ、ロベルト半分僕が手伝うよ。王立魔法学校の課題ってどんなもんなの?
でも渡された課題を見て僕は落胆する。そうだった、ロベルトって剣術学科だった。なので全然判りません。何なの?この個対多における対処法の定石って?対フルプレートアーマー戦における注意点?知らんがな、そんな事は!
僕は手にした課題をそっとロベルトの方によけて、魔法中学校時代の教科書を読み返すことにした。うんっ、専門学科はそれ用の参考書じゃなきゃ駄目だね。でも、一度習っているはずなのに何故か難しいぞ?あれれ、もしかしてもう忘れているのか?う~んっ、復習って大事なんだなぁ。特に僕は途中編入だし、授業についていけるだろうか?
いやいや、弱気になっちゃ駄目だ。勉強なんかがんばれば幾らでも追い付けるさ。まっ、がんばれればだけどね。
さぁ、来月からは新学期だっ!友だち100人できるかな?いや、それはいくらなんでも多過ぎか。
-出会い編 完-




