対決!クラーケン!
さて、クラーケンである。クラーケンとは海にいる魔物だ。おおきいやつは三本マストの大型船さえ襲うらしい。でも今こちらに突進してくるやつはそこまで大きくはない。いや、もしかしてでかいのか?う~んっ、海って比較対象物がないから大きさを測りずらいぜっ!
でもそんな海の魔物がこちらに向かってきているのは事実だ。そして、ここには子供たちがいる。この状況は非常にまずい。よって僕とベゼルで子供たちを飛行船に連れてゆく。ジャックたちはクラーケンの足止め係だ。でもジャックはともかくロベルトたちって役に立つのか?彼らって今剣を持っていないんだけど?
「こっちへ!早くっ!」
途中からレイチェルたちも合流してみんなで飛行船へ向かって走る。でももう少しで飛行船に着くという所で、飛行船から飛び降りてきたロゼッタとすれ違った。腕には剣を抱えている。あっ、そうゆう訳ね。うんっ、連携が取れているなぁ。
ロゼッタの後に続いて飛行船の船員たちも外に出てきて係留ロープを外しに掛かる。どうやら上空に退避する気らしい。
「さぁ、急いで!魔物がこちらに進路を変えました!急いで下さい!」
搭乗口の前で士官と思しき人がとんでもない事を言ってくる。えっ、なんで?クラーケンの目的って子供たちなの?もしかしてクラーケンってロリコンなのか?えーっ、そりゃ困るよ。子供たちに怪我などさせたら院長先生に叱られてしまう。
僕は飛行船のゴンドラに飛び込むと荷物入れから例のロープを取り出し、また外に飛び出した。
「アルベール!よしなさいっ!勝ち目はありません!」
僕の意図を察したのか、レイチェルたちが声を掛ける。うんっ、まぁ、そうなんだろうけど、だからって何もしない訳にはいかないんだよ!
「僕は大丈夫です!構わず退避して下さいっ!」
うんっ、別に強がりを言っている訳じゃない。その時、その場で最良の手を打とうとしただけです。今、守るべきは子供たちだ。ならば僕のいるべき場所は、飛行船の中ではなくここなんだっ!
僕は沖合いから突進してくるクラーケン目掛けて駆け出す。タイミング的には飛行船が飛び上がる前にやつは砂浜へ達してしまう。ならば波打ち際で迎え撃ち時間を稼がなくてはならない。ロベルトたちもこちらに向かって来てはいるが、ちょっと間に合いそうもない。
でもやっぱりクラーケンってでかいんだな。近付いてくるとそのでかさが実感できたよ。さすがに飛行船と比べたら小さいが、孤児院よりでかいかも知れない。一体何を喰えばそんなにでかくなれるんだ?本当に魔物って自然の摂理に反しているよな。
「おらっ、ここから先は立ち入り禁止エリアだっ!酢ダコにされたくなかったら大人しくUターンしやがれっ!」
僕は力の限りに大声で恫喝する。でもクラーケンは突進を止めない。そりゃそうか、人の言葉が判らないはずだもんな。
なので、僕は波打ち際ぎりぎりでやつを迎え撃つ事にした。海の中はやつの天下だ。わざわざ不利なフィールドで戦う事はない。ここで足止めできればやつサイズの触手でも飛行船には届かないはずだ。
僕は手にしたロープの先を槍化して待ち構える。ロープの長さは約10メートル。やつの触手の長さもそれくらいと見た。つまり攻撃のリーチはどちらも同じだ。でもやつは触手を10本くらい持っているからな。う~んっ、ずるいぞクラーケン!正々堂々1本づつで勝負しろよ!
まぁ、元々10本ある触手を同時に使ったからといって卑怯と言うのはお門違いなのだが、そこはほら、物の言いようだよ。装備的に劣勢な側は何とかして自分に有利な方へと世論を誘導したがるものなのさ。
だがクラーケンはそんな人間側の理論などが通じる相手ではない。そもそも大きさ的にクラスが違うんだから卑怯も糞もないもんだ。
しかし、本当にでかいな。僕の足はその大きさに自然と震え上がる。手の平なんか汗でべっとりだよ。くっ、こんなに怖いのは、昔森で出会いがしらに大熊にぶち当たった時以来だぜ!あんときゃ、しょんべんちびりながら逃げたよな。でも今回は逃げる訳にはいかない!おらぁっ、掛かってこいやぁ!
と、その時である。僕の肩をポンと叩く人がいた。
「はい、立派ですよ、アルベール。でもここは私に任せなさい。」
「えっ?あっ、シスター・ミッシェル!」
そう、そこに立っていたのはシスター・ミッシェルだった。手には長剣を持っている。これは先ほどの模擬戦で使っていたような装飾品ではないな。多分飛行船に備え付けられていた本物だろう。
「子供たちは!」
「シスター・スカーレットが付いています。飛行船もあと少しで飛び上がれるそうです。ですから5分、ここで足止めしましょう。」
そう言うとシスター・ミッシェルはするりと長剣を鞘から抜き放った。真剣を手にしたシスター・ミッシェルの顔にはもはや笑みはない。そこには歴戦の戦士の顔があった。
そして次の瞬間、シスター・ミッシェルからクラーケンに向けて凄まじい威圧感を伴う気合が放たれた。横にいた僕でさえ、その見えない気合に吹き飛ばされる。いわんや、それをまともに浴びたクラーケンは、表面の皮膚を波立たせながらその突進スピードを減じていた。
うんっ、先ほどの言動は訂正します。クラーケンなんかよりシスター・ミッシェルの方がちょ~おっかないよ。
そして今、クラーケンは僕たちの前で立ち止まっている。こいつも馬鹿ではないらしい。シスター・ミッシェルの強さを感じとったのだろう。うんっ、今ならまだ間に合うぞ。見逃してやるからお家へお帰り。でないと今晩の夕食でテーブルの上にあがる事になるぞ。でもクラーケンって喰えるのか?あんまり美味そうには見えないけど?
だがクラーケンにも魔物としての意地があるのだろう。このまま退く気はないようだ。10本の触手をうねうねさせて威嚇しているよ。なんだ?タコ踊りか?もしかしてそれで許して貰おうとしているのか?でも腕先の動きがいまいちだな。そんなんじゃ、ダンス大会の予選すら通らないぜっ!
はい、僕も大概だね。さっきまであんなにビビっていたのにシスター・ミッシェルが来てくれた途端、この言い草だよ。傍から見たら虎の後ろで粋がっている狐だね。現金なもので体の震えすら止まっているよ。
その時である。漸く辿り着いたジャックたちが声を掛けてきた。
「シスター・ミッシェルっ!加勢しますっ!」
そう言うとジャックは特大の火球魔法を無詠唱でクラーケンにぶつけた。
「イカーっ!」
へっ?何今の?もしかしてクラーケンの叫び声?おいおい、ここでそんなボケが出てくるのか?お前どう見たってタコだろうっ!
ジャックの火球をまともに受けたクラーケンは何ともマヌケな叫び声を挙げて怒り出す。でも目の前にシスター・ミッシェルが陣取っているので動けないようだ。隙を見せたら忽ち斬り刻まれるのが判っているのだろう。
「ミスター・イエーガー!あなたは飛行船との間に結界を張って下さい。この化け物の相手は私がします!」
応援に駆けつけたジャックに対してシスター・ミッシェルは子供たちの防衛任務を課す。僕は一瞬、力を合わせてクラーケンに対応した方が良いのではと思ったが、さすがはシスター・ミッシェルである。どんな場合でも子供たちの安全確保が最優先なのであった。
「えっ、あっ、はい。判りました!ロベルト、レオンっ!頼んだぞ!」
「おうっ、任せなっ!ぎたんぎたんに切り刻んで市場に並べてやるぜっ!」
いや、だからロベルト。クラーケンって食べられるのか?見た目はタコだけど、そこんとこどうなのよ?
さて、クラーケンと飛行船の間にジャックが結界を張った事により、僕らは心置きなくクラーケンと対峙出来るようになった。あと少しすれば飛行船も飛び立つはずだ。そうなったらもう僕らはやりたい放題である。そうなってから逃げ出そうとしても遅いからな!侘びを入れるなら今の内だぞっ!
うんっ、本当に僕って虎の威を借る狐だね。
「イカーっ!」
何重にも張り巡らされた僕らの防衛線にクラーケンは苛立ったようだ。例のマヌケな叫び声を挙げて10本の触手で攻撃してきた。あれぇ?でも10本全部使ったらどうやって体を支えているんだ?もしかしてまだ残っているの?
さて、強力な助っ人が4人も来た事によりスタメンを降ろされた僕は実況に回る事にした。はい、みなさんがっばって下さい。僕が臨場感溢れる実況をして差し上げます。
まずクラーケンは自分の前に立ち塞がる3人の内、一番の脅威であろうシスター・ミッシェルを攻撃すべく全ての触手を向けてきた。だがこれはフェイントだったらしい。伸びきった触手を斬ろうと駆け寄ってきたロベルトとレオンに対して、ロベルトたちからは奥になって見えない触手が襲い掛かった。
その絶妙なフェイントにロベルトたちは触手を避けられず思いっきり吹き飛ばされた。
「イカっかーっ!」
あっ、なんかクラーケンが嬉しそう。叫び声が変わったよ。でも残念だな。僕らの本命はシスター・ミッシェルだから。そんな彼女の前に触手の横を見せるだなんて、斬って下さいと言っているようなものだよ?
「はっ!」
僕の予想通りシスター・ミッシェルはクラーケンのミスを見逃さない。自分に向かってきた触手を避けながら、見事ロベルトたちを襲った触手を両断する。
「イタカっかかかーっ!」
うんっ、クラーケンは痛かったらしい。そりゃそうか、だって真っ二つだもんな。
だが10本ある内の2本を失っただけではクラーケンは怯まないようだ。残りの8本を使って全方位からシスター・ミッシェルへ襲い掛かる。だが結果はクラーケンの完敗だ。
「ふんっ!」
気合と共にシスター・ミッシェルの長剣が弧を描く。一拍後にはシスター・ミッシェルの周りには8本の触手が落ちていた。うんっ、全滅だね。でも触手のやろう、斬られたくせしてうねうねとのた打ち回っているよ。これだから単純な構造の生き物は嫌なんだ。斬られたなら速やかに画面から消えるのが時代劇の定石だぞ?あれ、でも時代劇ってなんだ?
「イガらぐにらーっ!」
おーっ、怒ってる、怒っているよ。クラーケンは、もう言葉も構っていられないくらい怒っていらっしゃいます。でも最初の言葉は『イカ』なんだな。もしかしてポリシーなのか?
だがクラーケンは魔物であった。はっきり言ってチートです。全触手を切断されたにも関わらず闘志が萎えていない。それどころか気合一発、これでもかというチートを僕たちの目の前で披露してくれた。
「イカっかーっ!」
はい、なんと切断された触手の根元から新たな触手が現れました。う~んっ、これぞまさにチート。ズルの極みだね。でもその時、後ろで状況を見ていたジャックがアドバイスをしてくれた。
「シスター・ミッシェル!クラーケンは魔物です!ただ斬っても倒せません!急所を狙って下さい!」
いや、ジャック。シスター・ミッシェルって対人間戦闘のプロだけど魔物相手の経験はそんなにないはずなんだ。だから指示は具体的に言って下さい。クラーケンの急所ってどこよ?
「判りましたっ!ところで急所ってどこっ!」
ほらね、リーダーしっかりして下さい。
「目と目の間ですっ!」
「了解!」
シスター・ミッシェルはジャックの言葉に素直に従う。でもジャック、僕も散々クラーケンをタコみたいと言っていたけど、よく見るとクラーケンって目らしきものが4つあるんだけど?どの目と目の間なの?あっ、もしかして4つ全部の中心って事なのか?
だが僕と違って素直なシスター・ミッシェルは迷わず一番近い目と目の間を狙う。しかし、斬り落としても次から次へと復活する触手に阻まれ中々クラーケン本体へ近寄れないでいた。
「シスター・ミッシェル!触手は任せてくれっ!」
あっ、やっと戻って来た。遅いよ、ロベルト。どこまで吹っ飛ばされているんだよ。
だが、ちょっと前に失態を演じたロベルトたちは、その汚名を晴らすべくクラーケンの両脇からそれぞれの触手に立ち向かっていった。それぞれが相手にしている触手は3本づつ。残りは4本だ。しかもその内の1本は目と目の間を守るように構えているので実質シスター・ミッシェルが対処しなくてはならない触手は3本である。
でもクラーケンよ、お前急所の場所を教えてないか?もしかしてお前って馬鹿?
「アルベールっ!触手は私たちが対応します!急所への攻撃は任せました!」
えっ、いいの?僕そんなに活躍していないんですけど、そんなにおいしい所を貰っていいんですか?ひゃっほーっ!これぞ石の上にも3年だっ!いや、豚に真珠だったかな?まぁいいや。アルベール!いきまーす!
僕はシスター・ミッシェルたちが触手に対応している側をすり抜けてクラーケンの急所へと駆け寄る。そんな僕へ急所を守っていた触手が伸びてきた。
「ざけんなっ!タイマンなら僕だって負けないぜっ!」
はい、ごめんなさい。実質は4対1ですね。しかも僕の相手は1本だけです。これで攻撃に失敗したら末代までの恥だな。
そんな僕目掛けて触手が伸びてくる。いや、そんな生易しい表現じゃ駄目だな。やつの体がでかいからゆっくりに見えるけど、擬音で表すとひゅんっ!て感じだよ。よくこんな触手に吹っ飛ばされてロベルトたちは戻ってこれたな。あいつら馬鹿なのか?
しかし、僕はそんな触手の攻撃をぎりぎりで交わす。おっしゃーっ!急所がガラガラだぜっ!この勝負、もらったぁ!
僕はクラーケンの急所目掛けて槍化したロープの先端を飛ばす。それは見事クラーケンの目と目の間に突き刺さった。
「クララーケーンっ!」
急所を攻撃されたクラーケンは雄叫びを挙げながら、そのぶっとい本体を身震いさせながら天に向かって伸び上がらせる。ほほうっ、急所を攻撃された時は効果音も変わるのか。中々芸が細かいじゃないか。それでこそラスボスだぜ!
僕はクラーケンの急所にめり込ませたロープの先を剣化させてクラーケンの中をぐちょんぐちょんに切り裂き始める。そしてとうとうそれらしきモノを斬り裂いた。
「ぎょぎょぎょーんっ!」
急所のコアらしきものを斬り裂かれたクラーケンはなんともマヌケな雄叫びを挙げる。だが最後のチカラを振り絞って僕ら4人をまとめてなぎ払った。まぁ、まともにぶち噛まされたのは僕だけで他の3人はひらりとかわしていたけどね。あーっ、痛てぇーっ!
だがクラーケンはやっぱりチート持ちだった。なんと急所を破壊されたにも関わらず撤退戦に突入したのだ!おいおい、なんで急所を破壊したのに動けるんだよ!それはもはやチートじゃなくてズルなんじゃないのか!
そして僕らは逃げてゆくクラーケンを浜辺で見送る。そう、僕らは正義だから敗者を追い立てる事などしないのだ。さらばクラーケン、静かに眠れ・・。
「よしっ、良くやったアルベール!クラーケンは急所をふたつ持っているからな。ひとつだけじゃ死なないんだ。だが、やつは逃げだした。今回はこれで良しとしよう。」
ジャック・・、そうゆう事はもっと早く言って下さい・・。キザな台詞を吐いちゃったじゃないですかっ!くーっ、はずかしぃ~っ!




