やっぱり、お土産は嬉しいものだね
「やぁ、がんばっているな。」
僕らが屋根の修理を終え、片付けをしていると突然後ろから声がかかった。
「あれ?ミハイルさん?戻ったんですか?」
「ああ、8月いっぱいはこっちの支部に在籍する事になった。君にはまた時々立ち会って貰う事になると思う。その時は頼むよ。」
「あっ、はい。僕は構いません。」
「さて、今日はちゃんと子供たちにお土産を持ってきたぞ。」
ミハイルのお土産という言葉に周りにいたちびっ子たちが一斉に歓声を挙げる。
「ほら、女の子たちにはお人形だ。これはイーストリバーで今一番の人気らしいぞ。男の子たちにはこっちの組み立て式の模型だ。あっ、大きい子には後で自転車が届くから今は無しだ。」
そう言ってミハイルは大きな袋から箱に入ったプレゼントをみんなに配る。はっきり言ってちびっ子たちには年越し祭以来の贈り物だ。みんな大喜びで箱をカタカタ振って中身を探っている。プレゼントとはいえ、いきなり箱を開けないのはシスターたちの躾だ。でもあまりに嬉しかったのだろう、ひとつ大事な事を忘れている。
「こらっ!ちゃんとお礼を言わなきゃ駄目だろう!」
僕の叱責にちびっ子たちは、漸く気付いたのか一斉にミハイルにお礼を言った。
「ありがとうございました!ミハイルさん!」
「ありがとう、ミハイルさん!」
「ど、どうもありがとうです・・。」
ちびっ子たちはそれぞれがミハイルの前に来て御礼を言う。中にははにかんで上手く言えない子もいたが、そんなちびっ子たちからお礼を言われミハイルも嬉しそうである。
「ありがとうございます、ミハイルさん。」
一通りちびっ子たちのお礼が済んだ後に、僕もミハイルにお礼を言う。
「うんっ、喜んで貰えてなによりだ。」
「よしっ、それじゃ片付けはもういいからシスターたちに見せておいで。」
「はーいっ!」
僕の言葉に、ちびっ子たちは我先にと貰ったお土産を手に孤児院へと入っていった。そんな後姿を見ながら僕はミハイルに話しかけた。
「お土産はありがたいですけど、高かったんじゃないですか?」
「気にするな。半分はイエーガー君からだから。あっ、その事も後で言っておいてくれよ?俺だけが手柄を独り占めしたと思われたら困るからな。」
「あはははっ、はい、判りました。」
僕がミハイルと話をしていると建物からシスターたちが出てくる。そしてミハイルにお礼を言った。
「まぁ、レンフレッドさん。この度は子供たちに素晴らしい贈り物をありがとうございます。みんなとても喜んでいますわ。」
シスターを代表してシスター・ミッシェルがミハイルにお礼を言った。
「いえ、喜んで貰えて何よりです。大きな男の子には後から自転車が届くはずです。それはシスターから渡してください。」
「まぁ、自転車ですって!そんな高い物を頂いて宜しいのですか?」
「私だけでなくイエーガー君からの分も含まれていますからお気になさらずに。」
「そうですか、シスター・ティアニアもお礼を言いたいそうですが、子供たちに捉まって出てこれません。さっ、立ち話もなんですので中にお入り下さい。」
「そうですか、では少しだけ。まだ公務中ですので挨拶だけさせて頂きます。」
「まぁ、お忙しい中おいで頂いたのですね。ささっ、それではシスター・ティアニアにお礼だけでも言わせて下さい。」
そう言ってシスター・ミッシェルはミハイルを孤児院の中へと招き入れた。僕はそれを見送り残っていた片付けをまた再開する。その後、院長先生からのお礼も済んだのか、ミハイルが外に出てきた。出口まではシスター・ミッシェルが付き添っている。
「さて、それでは私は戻るよ。あっ、忘れるところだった。イエーガー君から手紙を預かってきたんだった。」
そう言ってミハイルは僕に手紙を渡してくれた。
「ジャックさんからですか?下宿先の件かな?それにしては随分早い気もするんだけど・・。」
「まっ、読んでみたまえ。それでは失礼する。あまり張り切るなよ。怪我などしたらシスター・ティアニアが心配するぞ。」
「あっ、はい。それではまたいらして下さい。」
ミハイルを見送った後、僕はジャックからの手紙を屋根の上で読んだ。こうでもしないとちびっ子たちが遊んでくれと煩いのだ。いや、今はミハイルからのお土産に夢中で僕の事など眼中にないか?
手紙の内容は夏季休暇になったのでパーティのみんながこちらへ遊びに来てくれるという事だった。ロゼッタの家の飛行船が使えるので8月1日にはこちらに到着するとある。
げげげっ!飛行船かよっ!さすがは旧シベリウス王家に繋がるやんごとなきお姫様だな。自家用飛行船なんか持っているのか!
しかしなんだな、みんなが来てくれるのか。たった数日しか一緒じゃなかったのに僕を仲間と思ってくれてるのか・・。うんっ、嬉しいね。しかもぶっ飛びの飛行船でだ。
飛行船の良いところは道路などのインフラが要らないところだ。だから基本的にどこにでも飛んでゆける。まぁ、風が強かったりすると係留するのに骨が折れるが、そうゆう場合は上空に退避するらしい。そしてその飛行巡航速度足るや、あんなにでかい癖に無風状態で150キロ/時も出るんだとか。上空の追い風に乗れば200キロを超える事も珍しくないらしい。
しかも操縦は2交代制で24時間飛び続けられる。つまり千キロの距離も足った7時間で移動できるのだ。最も実際には山脈とかを回避して飛んで来るので15時間ほど掛かっるらしいが、それでもびっくりな移動速度である。はっきり言って国安の転移装置より早いよ?しかも転移酔いもないし。いや、もしかしたら飛行船酔いとかあるのか?あったら嫌だなぁ。
僕は読み終えた手紙を手に、この1ケ月程の変化に思いを馳せる。それまでの僕の人生は平凡なものだった。確かに他の子たちと比べると親はいないし、魔法学校の成績だって下から数えた方が早いくらいだった。しかも就職先の親方はあんなだったし・・。でもそれでも僕は普通だと思う。僕みたいなやつらは大勢いる。別段僕だけが底辺という訳ではない。
でもそんな僕にも今回の事はかなり大きな転機だった。本来なら言葉を交わすことすらなかったであろう、王都の魔法学校の生徒たちと仲間になれた。そして彼らは僕の境遇を知っても気にもせず接してくれた。まぁ、これは彼らの育ちの良さからくるものなのかも知れない。貧乏って結構心が荒むからね。
そして本来なら中卒のしがない魔法使いで終わるはずだった僕の未来に、王立魔法学校への編入という転機が訪れた。僕はこのチャンスを逃す訳にはいかない。何としても卒業し、お金を稼げるようにならなければならない。そして院長先生に楽をして貰うのだ。
その為には人の何倍も勉強する事になるだろう。でも挫けたりしないぜ!世の中には僕より数段優秀でも家庭の事情で進学できなかったやつらも大勢いる。ちょっとした転機で幸運を掴んだ僕が泣き言なんか言ったらそいつらに笑われてしまう。だから僕はやるぜっ!沢山勉強して立派な魔法使いになってみせる!
でも勉強かぁ・・。う~んっ、授業中眠くなったらどうしよう。やっぱり鞭で打たれたりするのかな。いや、教科書の角で頭を叩かれるのかも知れない。くーっ、あれは痛いんだぜっ!もうちょっと手加減して欲しかったよ。
「アルベール!どこですかぁ!」
僕が屋根の上で今後の事に想いを馳せていると下からシスター・レベッカの声が聞こえてきた。
「あっ、ここです。シスター・レベッカ。」
「夕食の時間ですよ、降りてらっしゃい。」
「はい、今降ります。」
「今日は子供たちがはしゃいでいますから、特別にパンケーキを焼きました。早くしないとあなたの分も食べられちゃいますよ。」
えっ、それはヤバイ。シスターの焼いたパンケーキは僕も大好きだ。これだけはちびっ子たちにも譲れないぜっ!
うん、でもなんだな。僕程度のやつの悩みなんて美味しい食事で簡単に霧散してしまうんだな。まぁ、それだけ食べるという事は大事なんだろう。あっ、こら!それは僕のパンケーキだぞっ!お前はこのおこげの部分でも食べていろっ!
ふふふっ、ちびっ子たちよ、食べ物に関しては厳格な決まりがあるのだよ。それは年長者こそが全てをさらって良いのだっ!はははっ、悔しければ沢山食べて早く大きくなるんだな。あっ、こっちの葉っぱはくれてやる。好き嫌いしないで何でも食べないと大きくなれないぞ。僕を見ろ、良い例だ!あっ・・、何か自滅した。
そして翌日である。ちびっ子たちはまたまた新たな興奮に身を悶える。そう、ミハイルが言っていた大きい子たちへのお土産である自転車が届いたのだ。これには大きな子たちも大興奮である。さっそく庭で試乗会となった。でも残念ながら上手く乗れない。まっ、初めてだからな、仕方ないだろう。どれ、ここは僕がひとつ見本を見せてやろう。
「いいか、自転車はバランスが大事なんだ。歩くのとは違う事を理解しなくては駄目だ。」
うん、口ではそう言ったが実は僕も自転車に乗るのは初めてだったりする。でも大丈夫さっ!原理は理解しているんだ。自転車なんてちょろいもんだぜっ!
でも結果は散々だった。壊すかも知れないからと以後僕は乗る事を禁止させられてしまったくらいだ。あれ~?おかしいな。そもそもなんでサドルに座ったままペダルを漕げるんだ?力が掛けらんないじゃん。足に力を入れようとするとハンドルに力が掛かっちゃうよな?そうするとハンドルが曲がるじゃん。ハンドルが曲がれば自転車ってそっちに進むよな?あれ?自転車って真っ直ぐ進むのって無理なんじゃね?
駄目だ・・、自転車って物理法則に反している。こんなのを乗りこなせるのは勇者だけだ。でも何故か男の子たちは誰に教わるでもなく2、3日で乗りこなしてしまった。あれ~?僕の立場がないんですけど?




