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雑文ラノベ「王立魔法学校高等部の優等生」  作者: ぽっち先生/監修俺
出会い編
17/52

ぷー太郎になる

結果から言うと、ダンジョンの蜘蛛清掃は国家安全対策省が手配した冒険者のみなさん方が行なってくれた。その後の調査も専門家が機械を持ち込み、僕無しで進んでいる。そこで僕は、僕にとっての一番面倒な事案を片付ける事にした。そう、親方との話し合いである。


僕が親方の工房に顔を出すと、親方はぶすっとした顔で僕を迎えた。そして開口一番嫌味を言ってくる。

「随分遅いご帰還じゃないか、アルベール。今更どの面下げて戻ってきたんだ?」

「お久しぶりです、親方。不肖アルベール、幾多の困難を何とか切り抜けて、漸くここに戻ることが出来ました。因みに案件だった魔石は持ってこれませんでした。」

今回で僕は親方とは縁を切る事にしている。だからこれくらいの物言いは当然だ。だけど孤児院と学校に迷惑が及ばないように穏便に済まさなくてはならない。でも、腹を括ったせいか、親方の一言ひとことが癇にさわるぜっ!


「あー?なんだその口の聞き方は?ちょっと見ない内に不良になりやがったな。これだから孤児院育ちは駄目なんだ。」

いやいや、人としては親方の方が数倍駄目だろう?一体どう育ったらそんな自分勝手な物の考えをするようになるんだ?


「ええっ、ですからこれ以上親方にご迷惑を掛けないよう、今日で工房をお暇しようと思います。短い間でしたがありがとうございました。」

「ほうっ、そうかい。まぁ、それならそれでいいがな。しかし、そうなるとお前がとんづらこいていた間の捜索費用やら、俺の手間とかを清算して貰わなくちゃならねぇ。そうだな、そうはいってもお前は可愛い弟子だ。だから掛かった費用の半分は俺が自腹を切る。だから銀貨7枚としておこう。」

銀貨7枚か・・、親方にしては随分安い金額を提示してきたな。まっ、それでも僕の2ケ月分の賃金より多いけどな。


「金ですか?・・まぁ仕方ないですね。仕事中のアクシデントではありましたが、ご迷惑をお掛けしたのも確かでしょう。魔石を持ち帰れなかったのも僕にも少しは責任があります。」

「けっ、口ばっかり達者になりやがって。どうせ払える訳がないんだからこの借用書にサインしな。お前は今日から半年、タダ働きだ!それで帳消しにしてやる。ありがたく思えっ!」

う~んっ、親方・・。金額が合わないんだけど?幾ら低賃金の僕だって半年も働いたら銀貨15枚は稼ぐよ?


「いえ、それには及びません。話がこじれてもつまらないので、今ここですっぱりお支払いしましょう。」

そう言って僕はローザから貰った銀貨をゆっくり親方の前に並べる。


「お前っ!いったいどこからそんな金を!」

目の前に置かれた銀貨を見て親方は驚く。まぁ、そうだよな。僕って、まだここで3ケ月しか働いていないからな。しかもその内の1ケ月分の賃金はまだ貰っていないし。


「はい、僕の事情を哀れんで下さった、とあるお屋敷のお優しいお嬢さまが恵んで下ったのです。」

うんっ、ちょっと脚色したけど概ね間違ってはいない。実際、ローザは優しいよ?


「何だとっ!お前一体どこに行っていたんだっ!」

おやおや、それって一番初めに聞く事じゃないのか?本当に駄目だな、この人は。


「その事に関してはお嬢さまへ迷惑が掛かりますのでちょっと話せません。」

「待てっ!そうなると事情が変わってくる!金があるならお前に掛かった費用は全部払って貰うぞっ!全部で銀貨20枚だっ!」

親方・・、計算があわねぇよっ!銀貨7枚の倍は14枚だっ!欲に眼が眩んでボッタクリかよっ!


どうやら親方は、僕が銀貨を取り出した袋にまだ銀貨がたんまり入っているとみて金額を吹っかける事にしたようだ。いやはや大した強欲だ。ある意味尊敬に値するかも知れない。


「親方、銀貨20枚となると僕もお嬢さまへ説明が必要となります。親方が支払った捜索費用の受け取り証を出して貰えるんでしょうね?」

「なっ、そんなのある訳ねぇだろうっ!緊急だったんだぞっ!全部現金で払ったんだ!」

親方・・、あんた本当に経営者なのか?よくそれで今まで仕事をやってこれたな。


しかし、さすがに20枚は多過ぎだ。と言うかそんなに銀貨ないよ。ローザが渡してくれた銀貨は25枚だ。その内2枚は孤児院でシスターに渡してしまった。後は、下宿にも部屋代を払わなくちゃならないし、僕だって少しは手元にないと今後が心配だ。そこで僕は折衷案を提案する。


「それでは折衷案として親方が受け取り証書を書いて下さい。それと支払い明細がない以上、お渡し出来る金額は14枚が妥当でしょう。」

「17枚だ。これ以上はマケられん。」

僕の提案に親方は即答してくる。いやマケられないって・・。物の売り買いをしているんじゃないんだっちゅうの!


「仕方ありませんね、それでは預かっていたダンジョン装備を僕が引き取るという事で銀貨16枚で手を打ちましょう。これ以上だと、今日の話は無かった事にさせて頂くしかありません。親方が僕の捜索に使った費用に関してはお嬢さまに相談してみます。多分、後日交渉人が親方を尋ねてくるはずです。」

「こっ、交渉人だとっ!」

「ええ、お嬢さまの家には今回のような揉め事専任の担当者がいるそうです。話がまとまらなかったら相談するようにと言って頂いているんですよ。」

「くっ、一体誰なんだ、そのお嬢ちゃんとやらは・・。」

「残念ながら僕の口から身分を明かすことは出来ません。その手の話は交渉人として下さい。それでは親方。お世話になりました。」

僕はそう言ってテーブルに置いた銀貨を集め始める。こうゆうのはスピードが大事だ。相手に考える時間を与えてはいけない。ましてや親方は今、僕が集めている銀貨に目が釘付けになっている。


「わっ、判った!仕方ねぇ、16枚にしておいてやるっ!」

とうとう親方の中で結論が出たようだ。ここで下手にゴネて目の前の銀貨を失うリスクを感じとったのだろう。僕のお嬢さまブラフも効いているはずだしね。


「はい、ありがとうございます。それでは。」

僕は集めた銀貨を今度は1枚づつ積み上げてゆく。そして最後の16枚目を積む時に手を止めた。


「あっ、そうだ。親方が渡してくれた装備ですけど、全然役に立ちませんでしたよ。それを考えると銀貨1枚分は減らすのが妥当でしょう。ですからこれは返して頂きます。」

そう言って僕は、テーブルに置こうとした銀貨を親方の前にかざした後、胸のポケットへ仕舞った。

「ちっ、仕方ない。」

銀貨が1枚減ってしまった事に親方は悔しそうだが、それ以上は言ってこなかった。多分また話がぶり返して、目の前の銀貨を手に入れられなくリスクを考えたのだろう。


「それでは親方、僕はこれで失礼します。くれぐれもお体にはお気をつけ下さい。僕も経験しましたが牢屋って冷えますから。」

「あんっ?何言っているんだ?」

「いえ、何でもありません。それでは。」

僕はそう言って工房を後にした。


工房の外に出ると、そこにはジャックとミハイルが僕を待っていた。ミハイルの後ろには憲兵の制服を着たごつい男たちもいる。


「証書は書かせたか?」

「はい、この通り。」

僕は今しがた親方に書かせた、僕の捜索に掛かった費用として銀貨15枚を受け取ったという証書をミハイルに渡す。ミハイルはちらっと内容を確認した後、後ろに控えている憲兵へ号令を出した。


「よしっ、突入する!後に続けっ!」

「はっ!」

ミハイルと憲兵は手荒く工房の扉を開け放つと中へとなだれ込んだ。中からは突入に驚いた親方の声とミハイルが容疑内容を伝える声が聞こえてきた。


「我々は国家安全対策省の者だ!カネラブ・ゴツクード!貴様を詐欺の疑いで逮捕する!抵抗すると、この場で斬るぞっ!」

うひゃ~っ、こぇ~っ!さすがは国安だ。まずは捕縛、白黒を付けるのは取り調べ後だ。でも抵抗したら斬るのかよ!危ねぇなぁ!


しかし、僕に対しては傲慢な親方も、さすがに国家権力には文句は言えないようだ。2分も経たずに憲兵に手錠を掛けられて外に出てきた。そして外で様子を伺っていた僕を見ると腹の底から悔しそうな声を上げる。


「アルベール、てめぇ。嵌めやがったな!」

「親方、残念ですが差し入れは出来ません。もう、あなたとは縁が切れましたから。」

「くそっ、覚えていろよっ!この借りは必ず返すからなっ!」

親方は定番の捨て台詞を僕に吐きつけると、憲兵に小突かれながら国安の護送馬車に押し込まれ連行されて行く。僕はそれをジャックと見送った。


「いやはや、何とも自分よがりで業突張りなやつだな。ああいう輩は執念深いぞ。気をつけろよ。」

「ですよねぇ~。」

ジャックの言葉に僕も同意する。でもまぁ、さすがに直ぐには出てこれないだろう。魔法ギルドだって親方の登録は抹消するはずだ。そうなるともう親方はこの町では暮らせない。魔法関係以外の仕事に就くなら大丈夫かも知れないけど、この手の噂はあっという間に広がるからね。


「その件に関してはあまり心配する事も無いだろう。こちらの魔法ギルドにも確認したが、あいつはそうとう強引な商売をしていたらしい。叩けば幾らでも埃が出るはずだ。」

僕らの話しを聞きとめたのか、証拠物件の押収を指示し終えたミハイルが言葉を掛けてきた。


「ガサ入れは終わりですか?ミハイルさん。」

「ああ、後は地元の担当者が引き継ぐ。君に証言を求める事も無いだろう。」

「そうですか、ありがとうございます。お手数をお掛けしました。」

「まぁ、私が出張るにはちょっと小物だったが、あのダンジョンに君を送り込んだ張本人だからな。私が追っている事件と全く関わりが無いとは断言できん。」


そう、ミハイルは別に僕の為に親方を拘留した訳ではない。ミハイルが受け持っている案件に、もしかしたら親方が関わっているかも知れないと踏んで捕縛したのだ。つまり僕の件はそのついでに過ぎない。


「後、銀貨は証拠物品として地元の国安が暫く預かる事になる。」

「あっ、はい。構いません。少しは手元に残してありますから大丈夫です。」

「そうか、では引き上げるとしよう。」

「はい、よろしかったら昼飯を奢らせてください。この先に懇意にしている食堂があるんです。結構美味しいですよ。」

「そうか、では食べてから戻るか。しかし、私の払いは自腹にして貰う。被疑者から便宜を図られる訳にはいかないからな。」

「あはははっ、そう言えばそうですね。すいません、思慮が足りませんでした。」

「気にするな、私の立場では自分を律する事が大切なのだ。故に時には相手の善意を無下にしなくてはならない場合もある。」

「大変なんですね。」

「まぁな。しかし、それが権力を行使するものの務めだ。」

そう言うとミハイルは、工房の中で作業をしている憲兵たちに挨拶をし僕らと一緒に歩きだした。


しかしなんだ、持つべきものはお金持ちの知り合いと権力持ちだね。僕ひとりではこうまでスムーズに事が運ばなかっただろう。うんっ、未来とは別に自分で切り開かなくてもいいみたいだよ。腕っ節だけがチカラじゃないんだな。悪を懲らしめるのはやっぱり権力だよ。でもまぁ、自分がその立場になったら正しくチカラを行使出来るかと考えると悩んでしまうな。人って弱いからね。その点、ミハイルは大したものだ。僕もいつかはあんな風になりたいものである。


しかし、その前に解決しなくてはならない問題がある。工房を晴れて円満退社?した僕は、こうしてぷー太郎になった。あっ、ぷー太郎って意味が判んない?無職って言う事だよ。でも僕は住む場所も失うはずだからニートとは名乗れないな。住所不定、無職。うん、社会人として一番下のランキングだ。かっ、かっこ悪過ぎる・・。だから何とかして早く次の職場を見つけなければならないのだ。


う~んっ、レイチェルの工房でまた雇って貰えないかなぁ。でもウエストキャナルを離れるのもなんだしなぁ。いや、贅沢は言ってられんな。とにかく、どうにかして職に就かねば。働かざる者、喰うべからずだからな。

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